蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第7番 春の終わり

 大会は進む。

 

 2回戦以降、桐仁は控えに回り、一年生3人と蛍が戦う。千鶴子が調べてきた対戦相手との

相性を考えた上でのオーダーは見事に当たり、順調にトーナメントを勝ち上がっていく。

結果、午前の部を終えた所で、ベスト4進出を決めたのだった。

 

「へぇ、ダチ高も勝ち上がってきてるのか、やるなぁ。」

昼休み、トーナメントの結果表を見ながら、石神高校相撲部、沙田美月はそう呟く。

 優勝候補の筆頭である石神は、ここまで全試合3-0の圧倒的な内容で勝ち上がってきた。

主将の間宮、3年の巨漢市橋、そして沙田こと国宝『三日月宗近』。

 その圧倒的な戦力をここまで目の当たりにしてきたならば、彼らが今年の優勝候補筆頭、

いやむしろ代表は確実であることを確信せざるをえないだろう。

「まぁ、どこが来ようが問題ない、勝つのは俺達石高だ。そうだろ?」

間宮がそう返す。昨年のインターハイで屈辱の県予選敗退を喫して以来、彼らは

『歴代最強の石高』を目指したチーム作りをしてきた。そしてそれはこの春で早くも

開花しようとしていた。

 

 ただ、沙田は少し退屈だった。去年までライバルだった鬼丸はもういない、そして全国でも

昨年敗れた天王寺、昨年の高校横綱の久世、青森の雄の野地。『国宝』と呼ばれた連中は

もういない。彼らは沙田と刃を交わす事無く大相撲に進んでしまった。

 彼らを追いかけて、大相撲に進む道もあっただろう。しかし彼は前主将の金森との約束があった。

「最低でもあと2年、石高相撲部に尽くせ」

 

 それは沙田に相撲を続けさせるための方便ではあったのだが、彼はそれに従った。

ライバル不在のこの県予選、この先の対戦に思いを馳せる。

「国宝『鬼切』か、楽しませてくれよ・・・」

 

 彼は忘れていた。かつて鬼丸に敗れた後の感情を。

 

 -ライバルなんて、いらない-

 

 

 午後の部、いよいよ準決勝。ここからは土俵を1面にして行われる。

 

第一試合 石神-川人

第二試合 大太刀-柏実業

 

 第一試合の両チームが東西に陣取る。控え席からそれを見やる大太刀相撲部。

「よく見とけよ。あれが国宝『三日月』だ、俺たちが全国に行く上で、避けては通れない相手だ。」

桐仁が一年にそう解説する。そして覚悟を決める、それはここまで休ませてもらった

自分の仕事だ、と。

 昼休みを挟んで、体力は十分に回復している。そのための呼吸法も研究して

ベストコンディションで戦いに臨む態勢は整っている。そう、1番だけなら俺は

誰にも負けない、あの三日月にだって・・・

 

「東、間宮君の勝ち!」

 先鋒戦は石高の圧勝だった。間宮はまさに山の如く相手の攻撃を受け止めて、

焦らず騒がずにゆっくりと相手を寄り切る。

「うわぁ・・・アレにもどうやって勝つんですか?」

柚子香が驚愕の声を上げる。まるで迫りくる山に土俵から追い出されるような相撲に

それでも蛍は、そこからの勝ち筋を思考錯誤していく。

 

「西、桜本君の勝ち!」

 そんな彼らの思考を、行司の声が中断する。中堅戦は桜本の絶妙の引き技に、市橋が

思わず土俵に手を付く。今日初めての石神高校の黒星。

と、蛍は忘れていた顔を思い出す。土俵にも、控え席にもいないあの顔を。

「あれ・・・荒木さんが居ない?」

それを聞いたレイナが観客席の一端を差し、言う。

「ほら、あそこ。なんか調子落としてるって聞いたわよ。」

目をやれば確かに目立つバリアートの坊主頭が、他の石高応援団と共に観客席にいる。

つまり彼はこの春の大会、選手はおろか補欠にも選ばれなかったという事になる。

「ケガでもしたのかな?」

いぶかしがる蛍を桐仁が制する。

「余計なことは考えなくていい、お前は間宮攻略だけを考えろ。」

そう言って土俵を凝視する桐仁。三日月がいる以上、石神が勝つのは間違いない。

荒木がいようがいまいが、石高が初黒星を上げようがどうでもいい、そう思っていた。

 

「東。石神、沙田君。西。川人、大河内君。」

 

 呼び出しを受け、ふたりが土俵に上がる。両校の補欠部員がそれぞれ観客席から応援を飛ばす。

だが、どこか楽観的な石神応援団の声に対し、川人高校の応援は悲壮な、祈るような響きがあった。

 それも無理なき事。このふたりは昨年2度対戦しているが、いずれも沙田が残酷なまでの

強さで圧倒していたのだから。

 得意のおっつけと円を描く出し投げ、その純白のマワシにはこの大会でもここまで誰も

触れる事すら敵わなかった。

 

「はっきよい!」

両者が立つ。そして大河内の手が、沙田のマワシに触れることは無かった・・・想像とは違う形で。

 

「なっ!?」

大河内が頭を付け、右手の掌で沙田のハズ(脇)を捕らえ、沙田の右下手を許しながらもその手を閂(かんぬき)で決め、投げを打たせずに押す。

「マワシが取れないなら、取らずに勝つまでだ!取る事にこだわって惨敗した去年の僕とは違う!」

 

 大河内 学

 昨年のインターハイ団体戦。彼は大将として沙田と対戦した。既にチームの敗北は決していたが

1年生の自分をレギュラーとして使い続けてくれた先輩たちの為にも、せめて一矢報いようとの

決意を持って臨んだ土俵、だがその結果は残酷だった。その傷は彼の心に深く刺さった棘となり

彼を苛み続けていた。個人戦の県代表になっても、全国で1勝を挙げても、その痛みは消えない、

 

 消す方法はただ一つ、復讐(リベンジ)

 

 以来彼はこの9か月余り、『三日月を倒すための相撲』をひたすら追い求めた。

マワシにこだわらず、かつ沙田が喫した数少ない敗戦をヒントにして、ひたすらその戦法を

磨いてきたのだ、全てはこの日の為に!

 

「土俵際!」

石高応援団から悲鳴が上がる。あの沙田が手も無く土俵際に詰められて反撃できない。

「(嫌なことを思い出させてくれるね、大河内君!)」

右ハズに左の閂。それは昨年沙田が春の全国で天王寺に敗れた型。右下手のヒジを極められ

そこからの小手投げ『六ツ胴斬り』で仕留められた記憶が蘇る。

「(だが甘い!僕がそれを克服してないと思うのかい!)」

右の下手出し投げは打てない。もしその瞬間に小手投げが来たら、最悪右手を折られてしまう。

ならば逆にその小手投げを待つ!それがあの敗戦を振り払うために編み出した戦法!

 

「ふんっ!」

ついに放たれる大河内の小手投げ。沙田はその瞬間、投げた先に回り込もうとその体を飛ばす。

彼の足さばきは、投げを打つ先に回り込むだけの機動力を持つ、その瞬間、沙田の体が崩れる。

「なっ!?」

小手投げはフェイント、その瞬間ハズに当てた右手を深々と差し込み、沙田の動く方向の逆に

すくい投げを打つ。沙田が回り込もうとしたことも織り込み済みで、完全に逆を取る。

 

 -呼び戻し『荒沸(あらにえ)』-

 

 波打つように回転する両者。そして沙田は半回転し、背中から土俵に落ちる。

会場を静寂が包む。

 

「西、大河内君の勝ち!」

 

 爆発する川人応援団、大河内自身も雄叫びを上げ、涙を流す。屈辱と悔しさをバネに

自分に課してきた日々が、ついに実を結んだのだ。

 

 呆然自失する会場の中、川人の歓喜だけが響き渡る。審判に注意された大河内は頭を下げ

一礼して土俵を降り、チームメイトにもみくちゃにされる。

 

 一方の沙田は呆然としたまま土俵を降り、よろめく。間宮に支えられ、青い顔をして

自陣に下がっていく。

 桐仁もまたパニックだった。ここで石神が負けるなんて!練りに練ってきた戦法もオーダーも

この瞬間、全てご破算になってしまった。どうする、どうメンバーを組み替える?

今からどうやって川人対策を練る?どうやって部員たちのモチベーションを鼓舞する・・・?

 

 

 

「以上、3-0で『柏実業』の勝ち!」

 

 それ以前の問題だった。元々強豪で、かつ相手に対応した相撲を取れるほどの基礎技術を持つ

柏実業。彼らはここまでの大太刀の試合をマネージャーが事細かく研究し、対策を練ってきた。

 対する大太刀はこの試合を楽観視しすぎていたのだ。決勝で戦うであろう石神を意識するあまり

目の前の準決勝の相手に気が向いてなかった、そこへきて石神の敗北による動揺、

残念ながら大太刀は、戦う前から柏実業に負けていたのだ。

 

 決勝は2-1で川人が制す。昨年代表の石神も、昨年インターハイ王者の大太刀も

全国へのキップを得ることは出来なかった。

 

 こうして、彼らの春は終わりを告げる。




荒沸(あらにえ)は、河内國平作の名刀「國平製之」の光文様。


まぁ大河内君を国宝認定はしませんけどw
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