蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第82番 蚊帳の外

「相手は立花寺か・・・」

 桐仁がアゴに手を添えて呟く。3位決定戦の相手は国宝『圧切長谷部』と国宝候補『五月雨江』

を擁する福岡代表、立花寺高校と決まった。

「春の覇者相手か、望むところ!」

 陽川がぱしっ、と手を合わせて気合を入れる。彼は準決勝で出番が無かっただけに意気上がる、

せめてメダルだけでも持って帰る、と。

 

「けど、今の大将戦、なんかあっけなかったッスね。」

 そう漏らしたのは幸田だ。たしかに、と頷く一同。立花寺の大将、黒田は確かに頭から

ぶちかますタイプだが、引きやいなしにそうそうは落ちない足腰と追い足を持っているはずだ。

だが先の一戦、宮城青葉の大将、砂野の叩き込みにいともあっさり落ちていた。

 

「さすがに疲労もあるんじゃね?あの沙田と一番取ったばかりだし。」

「そうね、だとすればそこが攻略のカギになるかも・・・」

 沼田の意見に千鶴子が同意する。黒田はこの後、個人戦の3位決定戦も控えている。相手の

状況によっては個人戦は出場しない可能性もある。あえて出るなら変化にはもう付いてこれない

かもしれない。

 

 だが、ダチ高の面々のそんな意見に対し、蛍と柚子香だけは違う見解を持っていた。

彼は試合直前に心の古傷をえぐられ、自分の相撲を見失ってしまったのだ、と。

だがそれはあえて口にはしない。敗北を喫し、立花寺の春夏連覇を落としてしまった彼が

この後の試合でどう変わるのか、あるいは変わらないのか、それは分からない。

 

「先鋒・大峰、2陣・幸田、中堅・松本、副将・陽川、そして大将は三ツ橋で行く!」

 その桐仁の言葉に一同が驚く。

「辻先輩、出ないんッスか?、これが最後の公式戦ですよ!?」

その柳沢の質問に、自分の背中をとんとんと叩いて返す桐仁。

 

「先の白楼戦で背中を痛めてな・・・酷くは無いんだが、体の捻りが効かない。」

 準決勝のバトンムフ戦、桐仁は相手の掛け投げに乗っかって潰そうとしたが、逆にそこから

土俵下に放り落とされた。したたかに打ち付けた背中は赤く腫れあがり、その痛みは

彼の相撲の真骨頂である体のキレを生み出せなくなっていた。

 

「思い出作りに興味は無い。あくまで実力優先、それがダチ高のスタイルだ。そうだろ部長?」

 蛍の方を向いて同意を求める桐仁。そう、2年前の全国優勝後に再スタートを切ったその時から

ずっと貫いてきたチームのスタイル。それが部内での競争を生み、お互いを押し上げて来たのだ。

 

 だが、話を振られた蛍は軽く頷いただけで、誰とも顔を合わせようとはしなかった。

ただ、チームの皆はそれが蛍の覚悟とプレッシャーにあると思い込んで気にしなかった、

大将なら国宝『圧切長谷部』黒田と対戦する可能性が高い、先ほどに続いて国宝との連戦が

我らが部長をしてプレッシャーを感じているのか、という見解しか無かった。

 

 -三ツ橋蛍、貴方はなんで相撲を取っているの-

 

 柚子香に、そして自分自身に問われ、答えが見つからない。

いくら勝とうと2年前の記録が消えることは無い、なのに何故、自分は相撲を取っている?

同じような闇を抱え、その具体的な答えを持つ黒田でさえ、たった今、その困難さを目の前で

見せつけられたばかりだ。

 

全国優勝チームで公式戦全敗。

相撲を続ける限りついて回る記録。

相撲を止めても思い出として記憶に刺さる棘-

 

 

「クロ、切り替えろ。これから3位決定戦、相手はあの大太刀だ!」

 黒田の背中をぱんぱんと叩いて励ます伴。黒田は先の敗戦以来、下を向いたまま一言も発さない。

彼はひたすら心中で自分を責め続ける。睨み出しで負けたあの日の事、草薙の顔を見て冷静さを失い

チームを敗北に追いやってしまった事、どこまで愚かな男なんだ、俺は・・・

 

「まぁ、お前は気楽に取ればええよ、俺達で決めてやるけん。」

「確か三ツ橋やっけ?相撲取りたいつっとったやんか、大将で来るかもしれんぞ。」

 

 仲間の励ましが逆に黒田の心を抉る。自分のせいでかつて廃部寸前にまで部を追い込み、

今また彼らの夢を潰した、彼はむしろ罰せられるのを望んでいた。

それも叶わぬ願い、彼らの周りにいるのは気骨ある九州男児、どうして団体の負けを

黒田一人に押し付けたり出来ようか。

 

 後悔と自己嫌悪、そしてより遠くなった草薙の背中。高校横綱の夢は既に潰え、

自分に今一度のチャンスを与えてくれた皆の期待を裏切った。

こんな自分が、どうして顔を上げて相撲を取れる-

 

 

 土俵では個人戦準決勝の第二試合、鳥取白楼の舟木と福井一条谷付属の朝倉の一番が行われていた。

参加選手の中でもかなりの小兵ながら、引き技や出し投げを駆使してここまで来た朝倉だが

舟木のそのスピードについには捕まり土俵を割らされる。

 三ツ橋蛍と共に大会を沸かせた小兵力士、国宝候補『吉光』こと朝倉も、ついに力尽きる。

 

 -続きまして、団体戦の3位決定戦を行います。東、千葉県代表、大太刀高校。

  西 福岡県代表、立花寺高校-

 

 両校のメンバーが入場し、土俵の東西に陣取る。いよいよメダルを賭けた最後の戦い。

 

 -先鋒戦。東、大峰。西、近久!-

 

 先鋒同士が土俵に上がる、両者ともチーム内屈指の攻撃型選手。体格もほぼ互角で

激しい攻防が予想される一番だ。

 

 -はっきよい-

 ぶちかまし、突き合い、押し合い、がぶり寄る両者に会場が沸く。激しい呼吸と汗を玉と

散らせながら、両者の死に物狂いの攻防が土俵に咲く。

 

 -2陣戦。東、幸田。西、武藤-

 

 手足が長く、懐が深い武藤に対し、幸田はひたすら頭を付け、何度もいなされながら食らいつき

その体力の限り追い続ける。武藤も懸命に残し、躱し、凌ぐ。その長い相撲に会場が沸く。

 

 -中堅戦。東、松本。西、戎原-

 

 背が低く体重の有る戎原、ダチ高の赤池に似たタイプの激しい攻めや揺さぶりに対し、

今までの受けの相撲で吸収してきた攻めや返し、滝沢のような勝負勘で受けて立つ松本。

激しい技術戦に、大相撲のスカウトが唸り、目の肥えた相撲ファンが歓声を上げる。

 

 -副将戦。東、陽川。西、伴-

 

 国宝候補『五月雨江』こと伴と、国宝候補『村正』を破った鉈、陽川の対決。

共に大相撲に進むと志す両者の死闘は、決勝に劣らぬ熱い戦いであると、誰もの記憶に

刻まれる。

 

 

 -両チームの大将は、その熱狂の『外』にいた-

 

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