蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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短めでちまちま更新、ちょいワケありです。


第83番 蛍丸と三ツ橋蛍

 -大将戦。東、三ツ橋。西、黒田!-

 

 土俵に上がる蛍に、仲間の声援は、観客の歓声は、耳に入っていない。

彼の目前にいるのは、暗い闇の中に浮かび上がるもう一人の自分。

 

(なぁ、君はどうして相撲を取っているんだい?)

 そう問うのは三ツ橋蛍。華奢な体にベビーフェイスを乗せた、かつての自分。

手には楽器、フルートを持ち、周囲には多数の顔のない吹奏楽部の女子達。

 

(いくら相撲を取っても、もう過去は消せないんだよ、無意味じゃないか。)

 その通りだ。記録とは非情なもの、初勝利を挙げた時も喜びは沸かなかった。

だけどあの時は、このまま勝ち続ければきっと、いつか覆せると思っていた。

 

(無駄だよ。だって・・・分かってるんだろう?僕のやってるのは姑息な相撲なんだから)

 変化。真っ向勝負が醍醐味の相撲にあって、逃げ回り、楽に勝利を得ようとする姑息な手。

相手がこれまで培ってきた努力や研鑽を使わせずに終わらせる無情な戦法。

 

 -互いに、礼-

 

(ほら、相手を見てみなよ。彼は過去に失敗したけど、真っ向からの『相撲』で頑張ってる)

 黒田篤。彼もまた2年前に消せない屈辱を味わった。だが彼はその屈辱に常に真っ向から

立ち向かい、今や『国宝』とまで呼ばれるように成った。

そして将来、かつての借りを返すべく大相撲に進むだろう、そう言った明確な目標もある。

 

(だけど、僕はそうじゃない。明確な目標も、過去の返済も出来ない。それ以前に胸を張って

『相撲取り』と言える存在になれるとすら思っていない、そうだろ?)

 小さな体、足りない膂力、いくら『技』を磨いても、『心』を鍛えても、所詮は上辺だけだ。

根本的な『体』の無い自分に、力士としての将来は見えない。

 

(なぁ『蛍丸』。そんな呼ばれ方しても嬉しくないだろ?分不相応だって分かってるくせに。)

 目の前の蛍の隣に荒木が現れ、うむ、と頷いて消える。

将来の横綱候補、自分が?この相撲で?無い無い。どこの世界にそんな横綱がいるんだよ。

 

 -手をついて-

 

(まぁ、よく頑張ったじゃないか、ここまで。もういいだろ?)

 初勝利も挙げた、部長としてチームを全国まで引っ張ってきた。鬼丸の背中を追い、

桐仁に変化を教わって、新たに入って来た後輩たちに刺激を受け、諸岡顧問に様々な

駆け引きを教わり、幾多のライバル達と戦い、満足のいく勝利も収めることが出来た。

 

 だけど

 

(そうだよ、それでもまだ忘れられないだろう、全国優勝したチームでの公式戦全敗。)

 あぶら子、という言葉がある、小さい子供が鬼ごっこやかくれんぼをする際、まだ特に

幼い子が、負けても仕方ないと鬼になるのを免除され、手加減される存在。

 2年前の自分がまさにそうだった。小さいから、非力だから、初心者だから、誰も彼の

敗北を責めなかった、どれだけ負けても、いくら足を引っ張っても。

 

(そりゃ悔しいよね。負け数に数えられ、戦力外通知を受けてるのに、試合には出られる。)

 悔しくないわけがない、忘れられるわけがない、どんなにみっともなくても勝利を求め

それも結局は叶わず、みっともなさだけを全国にさらしたあの過去を。

 

(どうして、そうなったかわかるかい?『蛍丸』。なに、簡単なことだよ。だってお前・・・)

 

 

 

 -はっきよい-

 

 蛍が、黒田が、頭からぶちかましで激突する。

 

 -ガッツゥ・・・ン-

 

 一方が押し勝ち、もう一方がのけ反る、明らかに体の大きな側が!

「真っ向から・・・打ち勝った!?」

 桐仁が驚愕の表情で声を出す、会場もそのあまりの光景におおおっ!とどよめく。

 

「なっ・・・?」

 弾かれながら驚く黒田。確かに自分は立ち合い、相手の変化を警戒してややセーブして

突っ込んだ。だがまさか正面から跳ね返されるとは。

 自分はそこまで弱かったのか、いや、弱くなったのか?先の団体準決勝で自分を見失った事が

自分を弱くしてしまったのか?

 

 一度弾き合った両者が再びぶつかる。今度は流石に蛍の方が飛ばされる、変化も『蛍火の如し』も

使うことなく。

「マズい、モロに食った!」

大峰が思わず叫ぶ。ぶちかましの軌道をずらす事すらせず、国宝『圧切長谷部』の突進を

まともに食らったのだから無理もない。

 

 一撃で土俵際まで飛ばされた蛍は、額を赤く染めながらも顔を上げ、らんらんとした眼で

黒田を睨む。

 その顔を見た黒田が一瞬目を疑う。この小兵の力士がかつての自分と重なって見えたから。

そう、2年前のあの試合の後、ポプラの木に頭をぶつけ続けて来た自分と蛍丸が重なって見える。

自分を罰するため、ひたすら前に出続けたあの時の自分と同じだ!

 

 3度激突する両者。今度は両者弾ける、五分だ。

その一因として、黒田が蛍の自虐ともいえる執念に気圧された感じは否めない。

 だがダチ高の面々はその光景に、戦慄と寒気を覚えざるを得ない。

「おいおい、どうしたんだよ部長!」

「無茶するな、回り込め、翻弄しろ!」

 

 その声は、やはり蛍には届いていなかった。

 

「うおぉぉっ!」

 4度目の激突。黒田にももう迷いはない、この相手は決して引かない、変化しない。ならば

自分も全力で押し切るまでだ!

 

 -ドガァッ-

 

 上半身ごとのけ反らされる蛍。血しぶきが舞い、再び足が俵にかかる。

だが次の瞬間には顔を戻し、再び目の前の相手を睨めつける。

 黒田ではない、もう一人の自分、三ツ橋蛍を。

立ち合いの瞬間に彼の発した言葉、それをなんとしても否定するために!

 

 

 

(だってお前・・・相撲好きじゃないだろ)

 




ここまであえて触れなかった『お約束』のテーマ。
火の丸が佑真には聞いたけど、さすがに蛍には聞けなかった『相撲は好きか?』の言葉。
これにいかなる答えを出すか、それが本作のメインテーマです。
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