蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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今回の話はフィクションだらけです、本気にしないでください。


第89番 盛り上げていこう!

「おーい大峰。そのラインもうちょい右だ・・・そう、そこ!」

 体育館の館内、桐仁が図面を見ながら指示し、配置の為の紐を大峰がマスキングテープで固定する。

「対角合ってるー?」

「5センチこっちが長いッス、ちょい右にズラしますよー。」

蛍と松本が50m級の巻き尺を使って、マット土俵を敷く位置を細かく決める。

「長机とパイプ椅子、どこに並べますー?」

「審査員席は中央だ、2面の土俵の真ん中に頼む。」

「あーこっちもひとつ、入場受付の入り口に。アンケート用紙もこっち持ってきて!」

 

 あわただしく動き、会場の設営にいそしむダチ高相撲部男子部員と、見知らぬ他校の生徒や父兄。

関東某県の中学校の体育館、今日ここはインターハイ女子相撲全国大会の舞台となる。

試合を控えた女子選手たちを支えるため、彼らはボランティアとして早朝から汗を流す。

 

 女子相撲は、一言で言えば人気が無い。

 

 太った男が裸で取っ組み合う、というイメージが強いこの競技に積極的に取り組む

女子が少ないのは当然ではあるが、加えてプロ制度も無く、オリンピック種目にも採用されない

ましてや花形ともいえる大相撲の土俵は『女人禁制』の封建的な制度。これで女子に人気が

出るほうが不思議だろう。

 

 事実、女子相撲がインターハイに正式採用されたのはわずか3年前の事、まだまだ競技人口の

少ないこの種目の会場に充てられたのは、決して広くなく交通の便も良くない地元の

中学校の体育館。当然ながら県営や市営の体育館や武道場は他の競技が盛況使用中だ。

 

 運営も人手を回して貰えず、参加選手の身内がボランティアに駆り出されて設営している状態。

女子相撲協会の役員たちの指揮の元、ダチ高の面々も出場する仲間に、少しでもいい環境で

戦ってもらおうと皆頑張っている。

 

 

 会場の外、各県代表のプラカードを持った生徒の所に各々集合する女子選手たち。

柚子香も小林も、プラカードを掲げる九十九里高の池西檸檬のもとに集まっている・・・でも。

「なんか、人数少なくないですか?」

 各県代表は1階級に付き2人、4階級あるから各県で8人、合計400人弱はいるはずなんだが

どうもそれより人がいない、県によってはプラカードの所に誰もいないトコすらある。

もう集合時間過ぎてるというのに、だ。

 

「言ったでしょ、同志が欲しいって。」

 はぁ、とため息をついて檸檬が返す。そう、確か夏合宿の時、彼女たち九十九里女子相撲部は

そう言ってダチ高女子相撲部員を快く受け入れてくれた、県予選でライバルとなる自分たちを。

「千葉は相当マシな方なの。県によっては参加校が1校だけで県予選が校内対抗戦だったり、

酷い所になると階級によっては参加者ゼロだったりね。」

 確かに、千葉では1階級に2~30人はいたはずだ。予選無しで全国に来れる選手もいるとは、

それがいい事なのか悪い事なのかは選手次第なんだろうけど。

 

「もっと酷い話だと、代表になっても来ない人もいるらしいから。」

 佐倉女子の代表、水須がそう続ける。なんでも学校側から遠征の部費が出ずに涙をのむ選手や

柔道やレスリングと掛け持ちで選手を務めているが、どちらも代表になったので相撲の方を

辞退する生徒までいるそうな。

 

「はぁ、とんでもないスポーツを始めちゃったなぁ・・・」

 思わずため息を漏らす柚子香に、檸檬が笑顔でこう返す。

「何言ってんの、もし将来女子相撲が人気出たら、あたしたち第一人者よ。

『初代女子横綱』とか『第一回世界大会金メダリスト』とか呼ばれたくない?」

「ふむ・・・それは悪くないかも。」

アゴに手を当ててそう呟く柚子香。人気が無いなら自分たちで盛り上げていく、か。

それも確かに面白いかもしれない。

 

「宣誓、私たちは女子相撲の未来のため、清く美しい大和撫子として、国技にきらめく汗を流し、

全力で戦い抜くことを誓います!選手代表、愛媛古田高校3年、宮本 蜜柑(みやもと みかん)!」

 昨年度軽中量級優勝者の宮本が、会場に響く美しい声で選手宣誓をする。柚子香や檸檬と

同じ階級、そして檸檬が昨年準決勝で敗北を喫した相手。

 

 ダチ高の男子の面々はその宣誓を聞いて、思わずパンフレットを確認する。すだちとか

カボスとかの名前の選手がいないかなぁ、と。

 

 そして大会が始まる。人気のない競技とはいえさすがに全国はハイレベルだ、キレる技と

女子特有のしなやかな動きは、男子の相撲とはまた違った競技の様相を呈する。

 

 小林は3回戦で福島県代表の小川に敗れた。小川は怪力の小林に持ち上げられても慌てず騒がず

空中で鮮やかに体を切り返して残すと、その勢いを逆に利用して小林を土俵外に引っ張り出す。

 ああーっ!と天を仰ぐダチ高の面々、だが小林本人は息を切らせながらも、実力を出し切った

自分に納得していた。女子にはあんな相撲もあるのね、と感心しながら。

 

 一方の柚子香は順調に勝ち進んでいく。相撲の基本に忠実なその前さばき、腰の割り方、

投げの技術、そしてつい先日、国技館で見た男子たちの戦いの熱をそのまま引き継いだ戦いに、

小さな会場を大いに沸かせた。

 

 -軽中量級準決勝!東、宮本。西、池西!-

 

 昨年準決勝の再現、事実上の決勝戦とまで目された両者の一戦。足技で攻める池西と

卓越したバランス感覚で凌いでくる宮本の戦いを見て、目の肥えた観客たちが関心する。

「うまいな・・・単にバランスがいいだけじゃない。相手に寄りかかった状態でうまく体重を預け

体力の消耗を抑えながら相手を押し込んでいく・・・すごく相撲慣れしてるぞ!」

 桐仁がそう評するほど、昨年の覇者、宮本の強さは際立っていた。あの池西が全く

体勢有利になれずに押されていく。

 

「だが、池西選手も『アレ』狙ってますね!」

 幸田がそう続ける。そう、彼女には取って置きの技がある。ここまでの足技もその伏線の為だろう、

あとはどこで出すか、そのチャンスは果たして訪れるのか。

 

 頭を付けて動きが止まる両者。差し手争いに入ると、宮本は池西の左手を右手で掴むと

すかさず『腕捻り』に持っていき、大きく体が流れた相手を一気に押し込んでいく!

 池西はここで足を飛ばす、押されながら相手の右足に、そして左足に足技を刷り込む。

 

「(出るっ!)」

 その技を知る千葉県の選手が、応援団が、同時に心で叫ぶ。と同時に池西は体を後ろに飛ばし

宮本の肩に手を添えて、相手を強烈に、真下に押し付ける。

 

 -叩き込み『三角落とし(トライアングルストライク)!』-

 

 両足を引いて前進していた宮本に、この叩き込みを残す術は無かった・・・はずだ!

 

 -バシィッ!!-

 

「え、ええっ!?」

「なっ!」

「うそ・・・だろ?」

 四つん這いの体勢になっている宮本、しかしその両手は地面に付いていなかった。

なんと叩いた池西の両足首を掴んで耐え凌いでいる、執念が土俵に落ちることを拒む!

「やぁーーーっ!」

 そのまま池西の足首を引っ張って、相手を後ろに押し倒す宮本。池西も懸命にこらえ

相手の頭を押さえつけて地に付かせようと最後の抵抗をする。

 そのままなだれをうって倒れる両者、会場が静寂に包まれ、審判の判定に注目が集まる。

 

 -裾取りで東、宮本の勝ち!-

 

 歓声に包まれる会場。歓喜する者、天を仰ぐ者、見事な攻防に拍手する者。

「・・・男子じゃ絶対ねぇな、あの攻防も決着も。」

「皮肉だな。『逃げ』の叩き込みなら足を掴まれることは無かった。」

 必殺の叩き込みであるがゆえに体が逃げていなかった、足が躱せていなかった、

そしてそれを逃さず掴んで耐え凌いだ宮本の執念が、この逆転劇を呼んだのだ。

 

 池西檸檬がぼろぼろと涙をこぼし、しゃくり上げながら礼をする。今日のこの日の為に

磨いてきた必殺技、それがあと薄皮一枚の差で決まらなかった。悔しい、悔しい!悔しいっ!!

土俵を降り、チームメイトに寄りかかって無念の涙を流す檸檬。

 

 その横で柚子香は深呼吸する。あの技をまさか耐え凌ぐ選手がいるとは、やっぱり相撲は凄い。

この世界、女子相撲にはまだまだ自分の知らない技が、攻防が、名勝負がある。

そして自分もまたその世界の最前線にいる!その自負に力が漲る。さぁ、次は私の番だ。

 

 大太刀高校で学んできた相撲を、私の2年間の集大成を、今こそ見せる時!

 

 -準決勝第二試合。東、岐阜代表、中瀬。西、千葉代表、堀!-




ちなみに女子相撲は、今現在もインターハイの種目にはありません。
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