蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第97番 進化の形

「おいおい2連敗とか勘弁しろよ。」

「何やってんだよ、あんなチビ相手に。」

 恒例の成田大・流星大相撲部、春の対抗戦が行われている成田大学の屋外土俵で、成田の面々が

頭を抱えてそう嘆く。

 

 何しろこの対抗戦、ここ数年はもう成田の全勝が恒例になっていて、そろそろ中止にしても

いいんじゃない?との声も上がっていたほどだ。

成田は千葉の中ではわりと強豪校なほうで、同好会に毛が生えた程度の流星との試合で

得るものはあまりなかったハズなんだが・・・

 

「焔、お見事。」

「続けよ、蛍丸!」

 土俵から降りた葉山焔が蛍と拳を合わせる。その横では先鋒戦を制した下山倫平も笑顔を見せる。

ついに試合のメンバーに選ばれるようになった彼らの大学相撲デビュー戦、2年生三羽ガラスが

そろって勝利を飾れるかは最後の蛍に託された。

 

 -東、三ツ橋。西、奥山-

 

 193cm118kgの奥山は土俵に上がると同時に、先に上がっていた蛍を見下ろす。

「主将から聞いてるぜ、お前、国宝候補『蛍丸』とか呼ばれてたらしいなぁ。」

指関節を鳴らしながら首をひねって笑みを見せる、言葉には出さねど明らかに

『こんなどチビがか?』と舐めてかかった態度。

対峙する蛍は無言のまま、薄く笑って蹲踞の姿勢に入る。フゥゥ、と呼吸を整え、全身の力を

ひとつに纏める。

 

 -はっきよい-

 

 両者がぶちかましで激突する。その瞬間、蛍は身をひるがえすと、円を描いて横に回り込み

相手の横ミツをつかみ、そのまま寄りに出る。

「(ほう・・・『蛍火の如し』進化してるな。)」

 そう感心したのは成田大の主将、市橋だ。かつて石高時代に自分が対戦し、敗れたその技の

より効果的な進化に感心する。

 

 蛍が目指した『怪我をしない相撲』にはいくつかの決め事がある。

そのひとつは『体を開かない』事。人間の体は丸まる分には際限が無いが、逆に反り返るには

限度がある。反り切られれば関節を壊すことになる、かつての鬼丸のヒジのように。

 常に体を内に軽く曲げ、丸まった外から攻撃を受けいなす。この『蛍火の如し』も

かつての横っ飛びから、当たった瞬間の変化と同時に体を丸く使い弧を描く動きに進化している。

 

「くっ!こ、こいつ・・・」

 一気に押し込まれる奥山、その体からは想像出来ない膂力に焦りを見せる。

蛍の決め事の二つ目、常に全身の力の連動を意識する事。手足や上半身と下半身がバラバラだと

どうしても無理な体勢になりやすくなり、結果ケガのリスクも高まる。

 寄りや吊りはもちろん、投げや突っ張り、変化に至るまでつねに全身運動を意識することで

ケガを防ぐのみならず、その威力も格段に高めることに成功していた。

 

 土俵際、奥山は打っちゃりに出る。が、蛍は素早く足を滑らせて重心を残し腰を割る。

相手の足掻きに振り回されながらも、しっかりと土俵に体を残す。

 決め事の三つ目、それは下半身の関節の柔らかさを磨く事と、常にすり足を忘れない事。

相撲取りのケガで多いのがヒザと足首の関節だ。特に足首、ひねったり足首を立てた状態て

体重をかけられると間違いなく壊れる。足の裏を土俵に吸いつかせる『すり足』を

常に意識し、土俵上に自分の足跡で筆線を描くことを意識していた。

 

 なすすべなく土俵を割る奥山。成田の『またかよ』という嘆きが聞こえる中、蛍は相手の

奥山に少しだけ感心していた。

 決め事の四つ目、決して無理な足掻きはしない事。相手にスキがあれば別だが、万全の体勢から

決めに来た技は無理に返そうとしても逆転にはまず繋がらない、ましてここのように土俵が

高く盛られているなら尚更、無駄に足掻いて転落すれば大怪我にもなりかねないだろう。

 

 勝ち名乗りを受け、土俵を降りる蛍。焔と倫平にガッツポーズを見せ、次の先輩方に勝利を託す。

この対抗戦は7人制で、4勝すれば勝利を確定させることが出来るのだ。

 

 で、3連勝の4連敗というお約束の結果で対抗戦は終わった。

 

「いやぁ、なんか強くなったっていうか、力強くなったなぁ、力感があるよ。」

 試合後の合同稽古で市橋は蛍をそう評する。かつてはひらひらと飛び回り、捕らえどころが

なかった印象だったが、今はしっかりと地に足を付けつつ、なおかつ高速で動く印象。

「あれだな、去年のアマ横綱『備前長船』を思い出すよ。」

 鳥取白楼の舟木、昨年高校横綱を取り、そして全日本選手権でも優勝してみせた男。

幕下付け出しの資格を引っ提げて角界デビューして以来、早くも十両上位まで駆け上がっている。

 元々『体』の出来上がっている舟木が何でもできる相撲を目指したのに対し、変化をはじめ

何でもやる相撲を目指した蛍が『ケガをしない相撲』を取り入れた結果、同じような所に

行きついたようだ。

 

 この日以来、彼ら3人は流星大の選手の座を不動のものとした。

各校の対抗戦でも勝利を重ね、関東のアマチュア大会でも勝利を収めてみせる。

とはいえ、この手の大会は団体戦がほとんどなこともあり、さすがに表彰台には縁が無かった。

 

 やはり本番は秋に行われる全国学生選手権、そして冬の全日本選手権だろう。

個人戦で活躍すれば大相撲の付け出し資格すら習得できるその大会は、全ての学生相撲力士の

目指すべき頂である。

 

 焔も倫平も全国の強豪たちと同様、その日の為に力を蓄え続ける。

そんな中、蛍は自分とは決して交わらない、ある力士が気になっていた。

 

 大相撲力士、鬼丸国綱。

以前会ってからの彼は破竹の快進撃を続けていた。幕下優勝、十両準優勝、十両優勝と勝ちを並べ

ついに幕内への復帰を果たしてみせる。

 だが、それは蛍の知っている彼の相撲ではなく、蛍が目指している相撲でも無かった。

どこか余裕が無く力任せ、暴力的で己の身をも顧みない危険な相撲。四股名の示す通り、

まるで鬼のような無謀ともいえる相撲に身を任せていた。

 

「(あれじゃあ、また怪我するんじゃないか・・・?)」

 そんな不安が拭えない。元々幕内にいた鬼丸にとって、幕下や十両ならその相撲でも

通用するだろう。しかし今の幕内には国宝がひしめいている状態、今の彼の相撲で

無事で済むとはどうしても思えない。自分が『怪我をしない相撲』を目指してきたから、尚更に。

 

 そんな心配は杞憂であると言わんばかりに鬼丸の快進撃は続く。初夏の名古屋場所、

初日から一気の7連勝で健在ぶりを見せつけていた。

 部室のTVでその様を眺めながら、やっぱり火ノ丸さんはどこかデキが違うんだな、と

心配事を肩から降ろす。彼は彼、僕は僕だ、と。

 

 だが、そのTVに移ったテロップを見て、蛍の全身に電撃が走った。

 

 ”八日目取組、鬼丸(西前頭十三枚目)-鬼切(東十両二枚目)”

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