蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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わりと作者も楽しみにしていた、蛍のチャラ男回。


第98番 とある女子大生達の休日

「ねぇねぇ、あとドコに行く?」

「んー、名古屋城もいいけど、熱田神宮も押さえておきたいわねぇ。」

「栄も行きたい!あそこ行かずして何が名古屋よ。」

 

 流山市内のチケットショップにて4人の女子大生がパンフ片手にあーでもないこーでもないと

喧々諤々状態。中でもリーダー格の香山夏美は特にハイテンションで計画を練っている。

 流山星稜大学女子ソフトテニス部の2年生である彼女たち、と言っても部活にはほぼ顔を出さず

もっぱらバイトで小金を稼いでは、仲のいいこの4人でツルんで遊び回っている。

 

 とある女性誌に掲載された名古屋スィーツを見た彼女たちは、早速ツアーを計画し、

名古屋旅行のプランを詰めるべくこうしてショップでダベっているのだ。

 が、どうもスケジュールが開くというか、ややヒマを持て余すことになりそうで、空き時間の

有効な使い方に頭を悩ませている。手帳にタイムスケジュールを書き込みながら、

夏海はうーん、と頭を掻く。

 

 と、その時チケットショップに一人の男性が、やや早足で駆けこんできた。

彼女たち全員が知っている、ちょっと気になっていた男性の顔。

「すいません、明日の大相撲名古屋場所のツアーか、当日券のチケットまだ取れますか?」

 彼女たちなど目に入らない様子でカウンターの受付嬢にそう詰め寄る。嬢はパソコンを

操作して確認すると、彼、三ツ橋蛍にこう返した。

「大丈夫ですよ、日帰りのツアーも、会場の当日券もまだ空きがあります。」

 

「あーっ!蛍ちゃんじゃーん。」

「ホントだ、慌ててどーしたの?」

 そう声をかけられて蛍はあれ?と彼女らの方を向く。知ってる顔に張り詰めていた顔を

落ち着かせる。

「テニス部のみんなだよね、君達も旅行?」

「うん、名古屋スィーツ食べに。蛍ちゃんは?」

「僕は明日の大相撲。見たい一番があってね。」

 

 彼女らは蛍と2~3度、合コンで顔を合わせていた。最初は相撲部となんて

気が進まなかったのだが、先輩たちの誘いとあれば断るわけにもいかず、

しぶしぶ同席したのだが・・・

 てっきりデブ君の群れと思いきや、シュッとした人もいるじゃない、と蛍や焔にすり寄って

思いのほか楽しい時間を過ごせていた。が、ここ半年ばかり相撲部との合コンはご無沙汰

していたので、蛍と顔を合わせるのは久しぶりだった。

 

「じゃあ、蛍ちゃんも名古屋に?」

「やった、一緒に回ろうよ。」

 せっかくの旅行なのに女だけで行くのは味気ない、と蛍に声をかける彼女たち。

が、受付嬢の冷徹な一言がその可能性を潰す。

「残念ですが、明日の名古屋行き新幹線チケットはもう満席でして・・・」

 彼女たちは朝一番に新幹線で行く予定だったが、名古屋場所ツアーのチケットは

昼前出発のバスツアーだ。

 

「そうだ、だったら名古屋で合流しない?」

「そーそー、相撲なんてちょっと見ればいいじゃない、私たちとデートしよ~。」

 食いつく女子大生たちに、蛍はそうだねぇとしばし考え込む。じゃあお目当ての

一番を見たら回ろうか、と返されて盛り上がる一同。

 

「でもお目当てって、そんなに見たい試合があるの?」

「うん、僕の高校時代のチームメイト同士の一番なんだ。」

 言って蛍はスマホを操作し、鬼丸と鬼切の画像を読み込んで彼女たちに見せる。

「うわーっ!なにこれカッコいいーっ!」

「ホントに相撲取り?めっちゃシュッとしてんじゃん。」

「この二人が裸で抱き合って・・・私、行く!」

「私も見るー!受付さん私も相撲の当日券、この人の隣で!」

「私も私も!」

 

 抜群の食い付きだった。蛍にしてみれば少しでも多くの人に相撲に興味を

持ってもらえればという思いもある。元々女子の扱いに慣れているだけに、4人まとめてなら

かえって迫られることも無いのをよく知っていた。

 

 

 かくして翌日、彼女らの名古屋ツアーがスタートした。

 

 名古屋に到着し、お目当てのスィーツを堪能した後、名古屋城を観光して栄でショッピング。

3時に蛍のツアー組と合流なので、やや足早に回る事になる。

 彼のお目当ての試合はなんでもマクウチの最初の方の試合なので、その後の最後の試合までは

時間が空くらしい。ツアーバスの集合時間までは蛍と近場を回れそうだ。

 彼女たちが愛知県体育館に到着すると同時にツアーのバスが到着。無事蛍と合流を

果たした彼女たちは、早速館内に入場する。

 

 場内はちょうど十両の取組が終わった所だった。東西から幕内力士の土俵入りが披露され、

その後横綱、刃皇が堂々の雲竜型を披露する。

「あの前掛け奇麗ねー、いくらするのかしら。」

「化粧まわしは寄贈されるんだよ、価格にしたら7ケタ行くかもね。」

「あれが横綱?へー、意外と恰好いいじゃん。」

「今、無敵の横綱だからね。やっぱ迫力が違うよ。」

 蛍は彼女たちの質問に逐一答え、時には解説を加えて彼女たちを接待する。こういうのを

面倒くさいと思わず笑顔で出来るのがある意味蛍の凄い所だろう。これをモテない男が見たら

さぞ虫の好かないチャラ男に見えるに違いない。

 

 -ひが~しぃ~、おにぃまるぃぅ~。にぃ~しぃ~、おにぃ~きりぃ~-

「さて、お目当ての一番だ。」

 土俵に上がる両力士を見て女性陣が色めき立つ。相撲取りとは思えぬそのスリムな

顔つきに、チョンマゲの鬼丸とざんばら頭の鬼切の姿は、まるで時代劇の俳優が

対峙してるかに見えた。

 

 しかもフンドシ一丁のほぼ全裸で、である。

普段は相撲部に見学に行くほどの勇気は持てない、男の裸目当てで行ってると思われたくないから。

だが大相撲の世界では大勢の観客にその姿を晒すのが当たり前、TV中継までしてるその世界は

彼女たちにとって未知の役得の世界だ、こんな格好いい選手がいるのなら。

 

「さすがに気合入ってるなぁ、二人とも・・・」

 思わずそうこぼす蛍。彼のみが知っている事だが、桐仁にとってはいわばこの一番こそが

相撲人生の終着点ともいえる。かつて自分と袂を分かった男が、わずか2年でその舞台に

辿り着いたことに感慨深さを感じずにはいられなかった。

 

 時間一杯、平蜘蛛型仕切りで対峙する両者に会場がどぉっ!と沸き、女性陣は何事?と驚く。

蛍はスマホのカメラを向けながら「本気の本気だよ」と解説を入れる。

彼は心の中で、火ノ丸に、桐仁にエールを送る、頑張れ!

 

 -はっきよい-

 その激しい相撲に女性陣は言葉も無い、立ち合い腕を取り、折らんばかりにねじる鬼切、

それを凌いで、まるでボクシングの様に相手を殴りつける鬼丸。先ほど時代劇の俳優などと

思った彼らだが、今は本気で戦国時代の果し合いを見てる気分で血の気が引く思いがする。

 イケメン同士の抱き着き合いなどと邪な期待をしていた彼女たちは、その激しさ、相撲と言う

競技の厳しさを目の当たりにする。

 

 決着は早かった。土俵際で網打ちを放った鬼切を、鬼丸は力づくで投げ返し、土俵下に放り出す。

元、高校のチームメイトのその容赦のない決着に会場内が騒然としていた。鬼丸は土俵から

鬼切を見下ろして何か言葉をかけている。

 

 蛍は、火ノ丸が桐仁に何を言ったのか、何となくわかった気がした。

「・・・これが一番良かったのかもな、桐仁にとっては。」

もし桐仁が火ノ丸に勝てば、彼が人生をかけて追い続けた目標が達成されてしまう。

そしてそれはまだまだ若い桐仁にとって、決して幸せなことではないだろう。

「火ノ丸さんに勝ったらやめちゃいそうだもんな、依存しすぎなんだよ、アイツは。」

 

 感慨深く嘆くその蛍の姿を見て、女性陣はある意味感心し、ある意味納得する。

今の激しい戦いを見ても何ら臆せず恐れず、冷静に見つめるこの人物もまた

あの世界に生きる男子なのだ、と。

 

 が、彼女たちもさるもの、それで引くほど女子力が低いわけではない。シュッとした

男は好きだが、強い男が嫌いなわけではない。むしろ女顔の蛍の内面の芯に彼女たちは

より惹きつけられた。

「ねーねー、本当に蛍ちゃんあの2人と同じ相撲部だったの?超強いじゃん。」

 今までと別の目の輝きを湛えて夏海がそう話しかける。蛍は今の一番をスマホで

五條佑真に送信しつつ返す。

「だったら相撲部見に来てよ、僕だって国宝『蛍丸』とか呼ばれて-」

『ながら』の返事だけに、肝心なことには気付いてないままで。

 

「じゃあ、行こうか。」

 そう言って席を立つ蛍。ここに来るまでは結びの一番まで見ていきたかった気はあるが、

彼女たちとの約束もあるし、それ以上に今の感動を他の取組で薄めたくないという思いが

強かった。これからも頑張れ、桐人!

 

 席を立ち、蛍の後に続く4人の女子大生。しかしその空気は今までのものと若干の変化が

見られた。このイイ男をなんとかゲットできないものか、そんな空気を4人ともが纏っている。

皆顔は笑っているが、内面では今までの友達をライバルとして意識していた。

 

「わ!」

 突然立ち止まる蛍に夏海がぶつかり、声を上げる。もう、どうしたの?

 

「う、うぁ・・・い、いやあの・・・これは」

 固まったまま真っ青な顔で立ち尽くす蛍。その前には自分たちと同じくらいの歳の女の子が

にっこり笑って、しかし全く笑ってない目で佇んでいた。

 

「おひさー、蛍。女の子引き連れてモテモテっすねぇ。」

 おかっぱ頭にしゃれっ気の無いワンピースに身を包んだその少女を前にして、蛍は小刻みに

震えていた。夏海たちもただ事じゃない、とその少女に対峙する。

 

「ちょっと、何よアンタ、蛍ちゃんに何の用?」

 つっかかる夏海を蛍があわわわわ、という顔でとどめようとする。

「あ、僕の後輩で・・・女子相撲の選手の堀柚子香・・・さん。」

「はじめましてー、みなさん♪」

 笑って4人に声をかける柚子香。なにこいつ馴れ馴れしい、と対抗意識を燃やす4人だが・・・

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

 彼女たちも今の今まで格闘技、相撲を目の当たりにしてきたばかりだ。戦う者の持つ

独特の圧に気付かないほど鈍感ではない。その勘が告げている。

 

 こいつ化け物だ、勝ち目はない、逃げろ、と。

 

「じゃ、じゃあ蛍、私たちはホテルで一泊だからこれで、気をつけてねー。」

「また大学でー、じゃっ。」

 そそくさと逃走する女子大生4人。後に残された、いや見捨てられた蛍は逃げ場のない

館内の通路で絶望感を噛みしめていた。

 

 

 翌、月曜日。稽古の最中に倫平や焔に問われる蛍。

「なんだよ、今日はずいぶん気合入ってねぇじゃねぇか、どした?」

「ダチ高の仲間の一番見て来たんだろ?気合い入りまくりだと思ってたのに。」

そんな問いに顔をうなだれて、蛍はぼそりと返す。

 

「・・・いやもう、色々と、疲れて・・・」




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