ファンキル学園IF Beautiful Garden of Eden 作:宿木ミル
焼きそばを購入したのち、私はラムネを買う為に動いた。
飲み物の屋台は、そこまで距離が離れていなかったのもあって、ラムネそのものはすぐに購入することができた。
冷たい氷水にずっと浸されていたのもあって、ラムネは触れているだけでひんやりする。
飲み物を打っていた人は男の人で、青い髪をしていて、彼も片方の目が隠れていた。少年といった風貌だった。
友達みたいな人に今日は誕生日だから、この後いっぱい奢ってやるみたいなことを言われて困っていた様子ではあったけれども、そんなに悪い様子ではなかった。
どうしてそういうことをしてるんだという言葉に対して、彼はこのように言葉を返していた。
『変わりたいから、誕生日にやれる限りのことはやってみたい』
……似たようなことを考えたりする人というのは、結構多いのかもしれない。内心、思った。それも、誕生日が同じだっていうのだから面白い。
今日、これで同じ誕生日だった人が、3人になったということになる。不思議な縁を感じる。彼のこれからがいいものになることを心の中で祈り、私はその場を離れていった。購入した二つのラムネを携えながら。
私の買うべきものを一通り買い終わったので、ピサールと決めた集合場所まで移動することにした。
そんなに人がいない、大きめな広場の片隅だ。
周囲に外灯みたいなものがあまりないのもあって、若干薄暗いものの、これくらいがちょうどいい。ベンチもあるけれど、そんなに灯りがないのもあってか、人が寄り付かない。
目印になる大きな木が私の後ろに存在感を発揮している。
ここなら問題ない。ちょうどいい場所だ。
しばらく、木陰付近のベンチでのんびりする。
別に、時間厳守を気にしているわけではないので、心静かに待つことができる。
ゆったりと、落ち着いていく。
「少し待った?」
数分くらいの時間が経ったのち、ピサールが集合場所にやってきた。
フランクフルトと焼きイカを用意している。
「待っていませんよ」
そう言いながら、ピサールを隣に座らせる。
これから夕食になる。
「なにか、トラブルみたいなことはありましたか?」
「トラブルはなかったけど、ちょっとだけ悪いことしちゃったかも?」
買ってきたものを確認しながら、雑談していく。
「列でも乱入したんですか」
「そんなことはしないって、そういうトラブル面倒だし~」
「では、なんですか」
フランクフルトを貰いながら、聞いてみる。
ピサールも同様にフランクフルトを手にした。
「これ、大きいのちょうだいって言ったら、店員さんが挙動不審になっちゃって大変だったなぁ~って」
わざとらしい態度を取りながら、ピサールはフランクフルトに口を付けた。
「……少し、いやらしいことをしている実感はないですか?」
そんなピサールから目を逸らしながら、私も口にしてみる。
……味そのものは普通に美味しい。しっかりとした焼き加減で、食べ応えがある。
「ん~ちょっとは自覚してるかも?」
「はしたないって思ったりは」
「逆にそう思ってる方がそうだって思わない?」
「それは少し論点をすり替えています」
「そう?」
「意識させる方もさせる方です」
誤解を招く言い方のせいで勘違いが発生する。
私も似たような体験をしたのもあって、ピサールにからかわれた相手はちょっと気の毒のように思えた。
味を楽しみながら、行儀が悪くならないように、彼女に反論する。
「暑いから脱いじゃいたいって言ったりするのは~?」
「行動しながらだと、あまりよろしくないように思えます」
「じゃあ、はだけさせちゃうのは」
「やめた方がいいと思います」
あらぬ事態になるのは避けたい。
それこそめんどくさい事態になる。
冗談交じりにそういっていたみたいで、適当に返事をして彼女はそれ以上、はしたないことで話を展開することはなかった。
「ミストルティンは何か面白いこととかあったの?」
焼きイカに手を付けるタイミングで、彼女が話を持ち出してきた。
「同じ誕生日の方と二人くらい遭遇した話くらいならできますが」
「面白い偶然?」
「心からそう思ってます」
ここまで偶然が重なると、必然にように思えるくらいには驚いてはいた。
それに、その内の一人は、ピサールと出会う前にばったりあった、私に似た人である。
「……似た容姿の方と出会うことについてピサールさんはどう思いますか?」
「ドッペルゲンガーだったら、命の危険っぽいけど」
「そうでないとしたら」
「色々話したくなっちゃうかも」
「やはり、そうですか」
そうなるのが私だけでないと聞いて安心した。
ピサールと一緒に焼きイカを味わう。
しっかりと味が付いているイカの味は噛み応えがあって、美味しい。
「まさか、似たような人と会ったの?」
「そうです」
「健気そうで」
「はい」
「真面目で」
「真面目そうでした」
「ちょっと毒があるような」
「……毒はなさそうです」
「うーん、片方の目が隠れてる」
「あってます」
「ですますって感じで話してたり」
「してました」
「なるほどね、そっくりさん」
「園芸関係が好きだというのも補足しておきます」
「ミストルティンも好きなの?」
「最近はあまり触れていませんでしたが、好きな部類ではあります」
「そうなんだ」
行儀が悪くならないように気を付けながら、会話に花を咲かせる。
こうして特徴を並べてみると、やっぱり他人のように思えないくらい似ていた。
彼女は私ほど毒を吐いたりはしないと思うけれども。
「人の振り見て我が振り直せた?」
「その言葉通りになっているかはわかりませんが、彼女との出会いが影響を与えてくれたのは間違いではないと思います」
「ん~ちょっと妬いちゃうかも」
「……ピサールさんはピサールさんですよ。私なりにではありますが、出会ったことによる変化は受け入れていますし、嬉しいと思ってます」
全ての出会いに意味があった。そう思っている。
だから、何かが劣っているなんてそんなことは考えていなかった。
園芸をしているミストルティンとの出会いで得た変化もあれば、ピサールとの生活で変わっていったこともある。そのどちらも大切なものだ。
だから少しだけ気恥ずかしいけれども、しっかりと言葉にした。
「……デレるなんて珍しいかも?」
「あまり、直接好意を伝えるのが得意ではないので」
「どうして?」
「はしたないじゃないですか」
これ以上は言葉を繋げないで焼きイカを完食した。
まだお腹は余裕がある。
安心して、焼きそばも食べられそうだ。
「こうして、他人と一緒に夏祭りに出かけることになるなんて、想像もしていませんでした」
「私もミストルティンとこうやって仲良くなれるなんて思ってなかったかも」
「偶然ですね。私も同じことを思っていました」
「やっぱり?」
「以前の私では、考えられなかったことばかりです」
ピサールと一緒に、焼きそばを味わっていく。
しっかりとしたソースの味と、こってりとした具材の味が伝わってくる。夏らしい味が口の中全体に広がっていく。
「こうした雑談をしながら食事を一緒することも、内職を協力し合ったりすることも、私生活を一緒にすることも……全部、今までと違ってました」
「でも、ミストルティンは一緒にいるよね」
「……不思議な縁です。もしかしたら、途中で駄目になっていた私もいるかもしれないのに、こうしてピサールさんと一緒にいる。……本当に、不思議なめぐり逢い」
これまでの雑談とは違って、少しだけ静かな雰囲気になっていた。
それでも、嫌な感じはしない。
静寂の中に、どこか暖かい心地よさを感じる。
「ミストルティンは、わたしと出会えてよかった?」
ゆったりとした雰囲気ではなく、はっきりとした態度でピサールがそう尋ねてきた。
その答えは、決まっていた。
「会えてよかったと思ってます。……会えなかったらどうなっていたか、もう想像できないです」
寄り添ってくれた彼女と出会って私は変わることができた。
私という存在を見てくれた彼女に出会えたから、こうして前向きになれた。
このひと時も、出会いも、全て大切なもの。
そう、心から思っていた。
「そっか。安心した」
微笑んで、彼女がそう返答した。
食べ終わるのもほとんど一緒のタイミングだった。
それぞれ食べ終わった容器を片付けて、食後のラムネを手渡す。
「……こうして、誕生日を祝ってくれているということそのものも、嬉しいですから」
「嬉しすぎて、死んじゃいそう?」
「そこまでは……」
そう言いかけて、満更でもない表現なことに気が付いた。
もしかしたら、そう言ってしまうかもしれない。そう思えてしまったのだ。
「……言ってしまうかもしれません」
「誕生日に死んじゃうは駄目だからね?」
「わかってます、物のたとえですから……」
こうやって祝ってもらえてるだけでも感無量。
だから、ここで終わってもいいと思えてしまうこともあった。
「これからも、楽しいことは続いていくの」
「根拠はあるんですか?」
「ないよ?」
「……では、どうしてそう思ったんですか?」
「気持ちがどんよりするような空間じゃなければ、美味しい果実だっていっぱい成るでしょ?」
「だから、ですか」
「うん、これからは面倒じゃないって思えるようなことがいっぱい起きるはず」
ちょっとだけいい加減な理屈だ。
けれども、それが逆に彼女らしいと思えた。
「明日に向かって頑張ればいいんですね」
「でも、頑張りすぎちゃ駄目」
「……適度にサボると」
「そういうこと」
無理をしないで、頑張る。
時に面倒だと言葉を発してもいい。
彼女に影響されながら、私なりに成長していきたいと思った。
「あっ、そろそろ花火が上がるみたい」
ピサールが指で、花火を追いかける。
数秒したのちに、色鮮やかな花火が空を覆った。
綺麗な光景に、私は心を奪われる。
「綺麗だよね」
「えぇ、こうして誕生日に見られてよかったと思います」
静かな時間に、心を打つような花火の音が鳴り響く。
夏の空を、こうして誰かと見ることはなかった。
ピサールと一緒に生活するまでは。
「あっ、ひとつ言い忘れてたことがあった」
遠くを見つめられるようになったのは彼女のお陰だ。
色んなことに関心を持てるようになったことも、色んなことも。
「ミストルティン、お誕生日おめでとう」
私を、私だけを見つめてくれる瞳。
私を支えてくれる掌。
ピサールと出会うことができて、私は変わることができた。
「……ありがとうございます」
だから、私は私が持っているいっぱいの感情を持って返答した。
ありがとう、と。
8月25日。
私は、今日という誕生日を、これから忘れることはないだろう。
心から、そう思えた。