ファンキル学園IF Beautiful Garden of Eden 作:宿木ミル
ピサールと一緒に夏祭りを楽しんだ次の日の朝。
私は、いつものように朝食を用意した。
自分に負荷をかけてしまうような手間がかかるような食べ物ではなく、気軽に用意出来そうなものを使い、手短にやるべきことは済ませる。
新しい一日が始まる。
誕生日を迎えたからといって、何かが変わるわけではない。いつも通りの私がいるだけだ。ただ、それでも心機一転はできるだろうと思っていた。
「おはよう、ミストルティン」
「おはようございます。ピサールさん」
目覚めてきた彼女に挨拶を交わす。
もう少し、フレンドリーに接してもいいかもしれないと思いながら。
「それなりではありますが、朝食は用意しておきました」
「嬉しいかも」
同じテーブルで一緒に朝の時間を楽しむ。
ピサールに対して、呼び捨てにしていいかどうか、私は頭の中で悩んでいた。
ピサールさんではなく、ピサールと呼ぶ。ちょっと馴れ馴れしいか。彼女なら、別にどんな呼び方でもいいとは言ってきそうだけれども。
「どうしたの? 考え事?」
当の彼女から、私の様子が指摘された。
「少し、距離を詰めるべきか考えてました」
「もっと大胆になるとか」
「そういうことはしません」
「お風呂場とか、ベッドで密接になるとか?」
「はしたないです」
「たまにはいいじゃない?」
「……考えておきます」
彼女からは、いつもからかわれてばかりだ。
けれどもこのくすぐったい感覚は嫌いじゃない。
新しい私の日常のひとつとして受け入れられている。
「あっ、今日、ひとつやっておきたいことがあるの」
「なんですか」
首を傾げて聞いてみる。
「昨日準備できなかったケーキ、今日作って食べたいの」
「……わざわざ、作らなくても大丈夫ですよ?」
「食べたいからいいの。それに冷たいケーキなら、喜んで作るからね?」
「では、お言葉に甘えます」
マイペースだけれども、やりたいこととやるべきことはきっちりやる。それがピサールらしいペースのように思えた。
私は私なりに、彼女に対して甘えたい。暴走してしまいがちな感情を彼女は抑えてくれるのだ。
「……少しだけ、意地の悪い質問をしてみてもいいですか?」
朝食を食べ終わったころ。
なんとなく、聞いてみたいことがあった。
「どういう質問?」
「難しく考えたりしないで答えてみてほしいのですが……」
意を決して、問いかける。
「ピサールは、私のことを評価しますか?」
そう、わざと昔の私らしいことを言ってみた。
評価のことばかり考えていた私。
そして、捨てられることを恐れていた私のことを少しだけ客観的に見てみたくて。
そう、質問してみた。
数秒悩んだあと、ピサールは質問に答えてくれた。
「生真面目なミストルティンみたいに考えるなら……頑張りすぎてたのは評価しないかも」
「そうなんですか?」
手でばってんをしながら、ピサールがそう言ってきた。
結構厳しめな評価だ。
「ただ、私と一緒に頑張ろうとして色々考えて一生懸命になってたミストルティンは……百点満点の評価かも?」
「……いい加減ですね」
百点満点といいながら、ピサールがまるを手で作る。
私はそれを見て、少しだけ笑ってしまった。
なんていうか、採点基準か彼女なのもあって、適当さを感じる。
だけど悪い気はしなかった。なんだか、彼女が彼女の目で私を見てくれていたことを感じたから。
「完璧なんて、ありえないからね」
「誰しも、できないことがあると」
「うん。ミストルティンだって、私が完璧だったらこんなに好きになってないでしょ?」
「……好きになってるとは言ってませんが」
「でも、一緒にいていいとは思ってる」
「そうですね。ピサールさんは怠惰な部分もあってこそのピサールさんです」
「じゃあ、いっぱいサボってもいい?」
「……流石にサボりすぎたら指摘しますよ?」
「う~ん……それなりに頑張る」
失敗することは誰しもある。
欠点だって誰にでもある。
大切なのは、失敗したらそこで終わりと思うのではなく、失敗して、その後に頑張るような気持ちだろう。
お互いのことを受け止めて、理解しあって、やれる限りを頑張る。
私にできることはまだ少ないかもしれない。
ピサールにできることが多いかどうかも、わからない。
完璧になろうとするのではなく、一生懸命やれることをやっていきたい。この生活で、そう思えるようになった。
評価されなければ必要ないなんていう自分は、もういない。
私のことをしっかり見てくれるピサールと一緒なら、きっとこれからも頑張れる。
そんな気がする。
「ケーキ作りの時間は確保しておきましょうか?」
「じゃあ、アクセサリー作りを早めに切り上げるのは?」
「いいですね、そうしましょう」
「わかった」
『公平な愛』があった『楽園』からは追放された。
けれども、公平に私を見つめてくれる人がいる場所へとたどり着くことができた。
これが、どういう意味を持つのかは、まだまだわからないことが多い。
だけれども、この穏やかな時間が流れる今の空間の方が、私にとってずっと楽園のように思えた。
美しい庭園にいるような感覚。
私と彼女だけの、優しい楽園。
ずっと、大切にしていきたい。ただ、そう思った。