8月某日、夏の暑〜い日。営業帰りのPは1人、コンビニに寄っていた。アイスか何かをかじらなければ絶対に熱中症で倒れる予感がしたからだ。
内容を見ずに適当に1つアイスを引っ掴み、レジに通す。
「あぁーっとぉざっしたぁ〜」
やる気のかけらも感じられない店員にはさっさと別れを告げ、購入した『ガチガチ君』なるアイスを食べる。行儀悪いとかはこの際無視し、道端でガチガチ君にかぶりつく。夏限定のギョーザ味らしく、かじった途端にニンニクの独特な味が感じられた。
「これ不味いな…」
苦言を呈するPだったが、買ったのは自分自身。ゆえに、責任を持って食べ切らねばならないのも自分自身である。
「ん?あれは…」
Pは少し先に歩いている、四つの影に気づく。最近我が283プロに入ったばかりのアイドル、浅倉透、樋口円香、福丸小糸、市川雛奈だ。ガチガチ君をさっさと食べ切り、早歩きで4人に近づいていく。
「おう。お疲れ様」
「え?………はあ」
透はなんだか素っ気ない返事をし、こちらに振り向く。すると、サッと円香がPと透の間に割って入り、Pを睨みつけた。
「…何か用ですか?」
「ああいや、別に何かあるわけじゃないんだけど…」
「そうですか、では。みんな、行くよ」
円香は相変わらずのようだとPは心の中で1人ごちる。どうにか言ってくれないかと小糸の方に目を向けると、ビクッとして円香の後ろに隠れてしまった。Pは少しショックを受けた。
「えぇ…小糸まで…。そんな信用なかったかな俺?なあ、雛奈」
「え…」
雛奈までもが固まる。正直雛奈までそんな反応をするとは思わず、Pはショックうんぬんよりも単純に驚いてしまう。いつもの雛奈なら、『やは〜♡プロデューサー!』と明るい調子で言うはずだ。
「おいおい、みんなして今日はどうしたんだよ」
小糸と雛奈が後ずさる。例えるなら、未知の生物に出会った小動物のように。
「えっと、すみません…わたし、どこかでお会いしてましたか…?」
「なんで雛奈たちの名前知ってるの〜?」
「……え?」
時が、止まった。いや、実際に止まったわけではない。しかし少なくとも、Pの脳は一瞬思考を停止していた。
「…ちょっと待て。いくらなんでも酷すぎるぞ。誰だ、こんなことを思いついたのは」
「近寄らないで。警察呼びますよ」
円香が冷たく言い放つ。Pは混乱し、円香の後ろにいる透に話しかける。
「なあ、透…これはどういうことなんだ…?なにが起こってる…?」
「…私の名前も知ってるんだ…どこで知ったの?私の名前」
「浅倉、こんな危ない人と話そうとしないで。みんな、走るよ!」
「う、うん!」
透たちは逃げるように走っていった。Pは訳もわからず立ち尽くす。
(…なんだなんだ、本当になんだ!?透たちのあの顔は演技には見えない。俺をまるで初対面の人を相手するみたいに…それも、不審者を相手するみたいな…。いや、そもそも…)
「あれ?Pたん?」
不意に声が聞こえ、Pは長考にふけりかけていたのを断ち切られる。
パッと顔を上げると、そこには283プロのアイドルの1人・三峰結華がPの顔を覗き込んでいた。
「ゆい、か…結華。三峰結華」
「はいはーい、あなたの担当アイドル三峰結華だよー、っなんてね。どしたの?こんなところに突っ立って」
「っ、結華ぁ!」
Pは思わず、結華の肩を両腕で掴む。驚いた結華は一歩後ずさり、Pの腕を振り払ってしまう。
「え…結華…?」
「っぁ…ごめんごめん!急に掴まれちゃって、つい、ね」
「いや、すまない。俺も取り乱してしまって…。ごめんな、痛かっただろう」
「ううん、気にしないで!」
「……、」
「…………、」
微妙な空気が流れる。お互いにどう切り出そうか迷って、上手く口が回らない状態だ。
「そっ、そういえばさ!さっきの三峰の質問、なんだけど…」
「あ、ああ。どうして突っ立ってたのか…だっけ。そう、それがだな、聞いてくれよ!さっきここでノクチルのみんなに会ったんだけど、透も円香も小糸も雛奈も、みんな俺にどうして名前を知ってるだとか言ってきて、それで…」
「ちょ、ちょっとストーップ!一気に話しすぎ!落ち着いて、順序よく話して、ね?」
「す、すまん!…えっと、簡単にいうとだな」
深呼吸をして、一度心を落ち着ける。Pが話すのを待って、結華はPの顔を真っ直ぐ見ていた。
「透たちが、まるでその、俺を知らないみたいに扱ってくるんだ。俺、どうすればいいかわからなくて…」
「…えーっと、ごめん、Pたん。一つ質問があるんだけど」
「なんだ?」
「透って、誰のことかな?」
8月某日。Pにとってはこれがまだ始まりでしかないことを、P自身はまだ知らない。