続くか続かないかは作者次第   作:安宅時雨

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つづきました。
前回はノクチル編兼プロローグ。今回はアンティーカ編。
読みにくかったらごめんね。ごめんってだけ。


変調

Pが目を覚ますと、見慣れた事務所の天井が目に映った。体を起こすと、額からタオルが落ちる。少し湿ったそれには○○病院の文字。Pがそれを拾って首を傾げていると、パタパタと足音が聞こえてくる。

 

「あ…プロデューサーさん…起こしちゃいましたか…?」

「ああ、霧子だったのか。大丈夫、霧子のせいで起きたとかじゃないからさ。えっと…」

 

ボーッとしていた頭が冴えてくる。たしかあの後は…

 

「霧子、ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「はい…なんでしょう?」

「ノクチルって、わかるか?」

「ノクチル…ですか?すみません、私には…」

「そっか。悪いな、変なこと聞いて」

「いえ…」

 

 

 

(たしかあの後、疲れているだろうから事務所で休むよう結華に言われたんだった。事務所のソファーで少し寝ることにして、結華にはアンティーカのダンスレッスンに行ってもらったんだっけ…)

 

霧子がノクチルの存在を知らない。つまり、さっきの出来事は夢ではないということだろう。いつだったか自分がアイドルになる夢なんてのも見たことがあったが、今回に関してはそういうわけでもなさそうだった。

 

ノクチルが存在しない世界。パラレルワールド、とかいう類いのものだろうか。他人に言えば「お前は何を言っているんだ」と言われそうだが、とにかくPはそう判断するしかなかった。

一度睡眠を取ったのもあって、少し冷静になることができたP。小さい頃はこんな状況を想像したりして楽しんでいたが、いざ実際になるとたまったものではない。

 

「霧子がここにいるってことは、アンティーカのレッスンは終わったのか?」

「少し前に…。結華ちゃんがプロデューサーさんは熱中症気味なんじゃないかって言ってたので、わたしだけ先にプロデューサーさんのお世話をしに来たんです」

「そうか。わざわざありがとうな」

 

ということは、他の4人は後片付けをしている、ということだろう。普段から手際良くこなしているから、霧子がいなくてもそう遅くなることはないだろう。

 

「ふふ、今日は摩美々ちゃんがエンツォさんとモンドさんのお話をしてくれて、とても楽しかったです♪」

「そんなに楽しかったのか。どんな話だったんだ?」

 

ニコニコしながら話す霧子に、Pは少し救われたように感じる。

 

「エンツォさんとモンドさんが互いに見つめあって、ずぅーっと動かなくて…それを聞いた咲耶さんが、『まるで運命の相手と出会ったみたいだ』って…」

「運命の相手…」

 

思えば、透をスカウトできたのはそれこそ運命だったのかもしれないとPは考える。あの時、あのバス停に行ってなければ。もしくは、バスに乗り遅れていなければ、透とは一度も会わずじまいだったかもしれない。

 

「……なら」

 

ノクチルが存在しない。それはつまり、Pがあのバス停に行っていない、またはバスに乗れていたということになるのか。Pが透と会うことはなく、透がアイドルになっていなければ円香と会うこともない。2人がアイドルでなければ、小糸も雛奈とも会わないままになる。

 

「いや、仮にそうだとして、どうして今こうなってる?ここがパラレルワールドであるなら、なぜこの世界に俺は来てしまった…?」

「プロデューサーさん…?」

 

霧子が不思議そうにPを見ている。考えている内容をそのまま口に出していたことに気づいたPは、笑って取り繕った。

 

「いや、はは、なんでもない。すまない、急に独り言なんて」

「……やっぱり、もう少し休んだ方が…」

 

と、ガチャっという音がし、部屋の扉が開いた。

 

「あれ、Pたん起きてたの?まったく、三峰たちのために頑張ってくれるのはありがたいけどさ、それで体調崩したら元も子もないでしょ?」

「結華の言う通りだよ、プロデューサー。貴方はもっと自分を大切にするべきだよ。マンガや小説とは訳が違うんだからね」

「…結華、咲耶。今日は早いなぁ。遅くなることはないと思ってたけど、もう片付けが終わったのか」

 

軽口で返すが、結華と咲耶が心配そうに見ているのに気づく。自分の予想以上に2人に心配をかけてしまったのだと感じ、Pはとても申し訳なく思った。

 

「本当にすまない。でも、俺はもう大丈夫だからさ。今度からは気をつけるよ」

「何かあったら、すぐにわたしたちに言ってくださいね…。看病は得意ですから…」

「はは、そうだった」

 

二度目の扉が開く音が聞こえ、今度は摩美々がやってくる。どうやらレッスン室の鍵を持ってきてくれたようだ。

 

「鍵、返しに来ましたぁ。しっかり掃除しておいたんで、ツルツルすぎて滑っちゃうかもしれないですねー」

「それは困るなぁ…」

 

摩美々から鍵を受け取り、デスクにしまう。摩美々が最後に持ってくるのは珍しい。いつもは恋鐘か霧子が持ってくるのに。霧子は今回は例外として、なぜ––––––

 

「じゃあ、今日は三峰からレッスンの報告をさせていただきます!」

「え?いや、待ってくれ!」

 

とっさに、話を遮ってしまった。

 

「待ってくれ。まだ恋鐘が来てないだろう?」

 

悪い予感がした。

 

「コガネ…というのは、小さなお金と書く小金のことかい?」

「プロデューサー、仕事じゃなくてレッスンなんだからお給料はないでしょー?」

「な、にを…」

 

……何を、言ってるんだ。

 

「まあまあ、Pたんちょーっとお疲れっぽいからさ!その話は一旦置いといて!で、今回のダンスレッスンは、前回のターンの復習から始めたんだけど…」

 

………何を、そのまま進めようとしているんだ。

 

「きっちり練習しましたから、みんな上手になってました…」

 

…………おかしいだろう、こんなの。

 

「みんなっていうか、一番上手になってたの霧子じゃーん」

 

……………………なあ。

 

「そうだね。霧子はいつもコツを掴むのが早い。私も見習わなければいけないね」

 

待てって…言ってるだろ…?

 

「結華、咲耶、摩美々、霧子。みんな––––––」

「プロデューサー?どうかした?」

 

 

「……月岡恋鐘を覚えてないのか…?」

 

かすれた声で、ほとんど聞こえないような声で、Pは言った。

 

 

 

「あー。恋鐘ちゃんのこと?」

 

 

「っ、結華!やっぱり覚えて…」

 

 

 

 

恋鐘、『ちゃん』?

 

「月岡恋鐘って言えばー、1年くらい前に961プロでデビューしたアイドルだったよねー?」

「うん…写真集の売れ行きがすごくて、いま大人気だってテレビでも言ってたから…」

「水着のキャンペーンガールをしていたのを覚えているよ。可愛らしいキュートな子だと思って、記憶に残ってるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

ノクチルが存在しない世界、ではない。ノクチルが存在せず、月岡恋鐘が283プロに入らなかった世界。恋鐘はオーディションに1年近くも落ち続けることなく、別の事務所に先にスカウトされてアイドルとなった世界。

アンティーカのメンバーは、全員で4人。そこに恋鐘はいない。

 

「……すまない、レッスンの報告はまた後にしてくれないか」

「えっ?」

「しばらく、1人にさせてくれ」

 

よろよろとふらつきながら、Pは事務所を出る。

嘲笑うかのように、世界はいつもと変わらない姿を見せつけてきた。お前が異常なんだ、どうかしているのはお前なんだと言われているように感じ、Pは目に見える全てのものが嫌になってしまった。首を垂れて、目を瞑り、うずくまってしまう。

 

 

「もう、俺はダメだ…何もわからない、どうすればいいかもわからない…」

 

だが、その時。Pは急に頬を両手で挟み込むように掴まれ、顔をグイッと上げさせられる。

 

「『ダメだとか、わからないとか、そんなこと言うのは簡単だけどさ。そうやって目を瞑って、それで何か変わると思うか?』」

 

「え…」

 

「プロデューサーさん、貴方が言ったんですよ?アイドルを諦めようとした私に」

 

 

 

 

 

 

Pに話しかける、その声の主は––––––

 

 

 




後片付けが遅くなるどころか早かったのは、恋鐘がおらず、ドジることで生まれるロスタイムがなかったから。(そんな毎日ドジってるわけじゃないだろ!いい加減にしろ!)
しかし家事が得意でドジっ娘属性って…難しいキャラだなあ。

前回の構成と同じく、ラストに出てきたアイドルが所属するユニットが次回のメインです。
暇な人は当ててみてください。当たったら浅倉透が「やるじゃん」って言ってくれます。あなたのことを忘れてなければの話ですが。
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