渡辺曜と浮気した話 作:人体列車
結局あの後誘われる様に僕は曜に着いてきた。
カフェを提案したのだが、一蹴されて結局、曜の家。
バスの中で曜は僕の腕にしがみつき、抱きしめ頭を預け揺られていた。
えへへと楽しそうに笑う彼女を無為に振りほどく程が出来なかった。
やはり、僕は中々のクズで甘いのかもしれない。
その後部屋へと通された僕は、すっかり自分の場所かのように何回も来ている曜の部屋を手持ち無沙汰から見回した。
そこには女の子らしく可愛いぬいぐるみ等が置いてある。
僕も千歌からぬいぐるみ貰ったなぁ。
と感傷に浸っていると飲み物をお盆に乗せた曜が扉を開けて戻ってくる。
そして僕はその持ってきてくれたジュースを1口飲み、切り出した
「それじゃあ、話そうか。」
「もう本題に入るの?せっかく2人きりなんだから………」
曜は人差し指で僕の胸を優しくなぞり、いつもの元気な曜とは似合わぬ大人の色香を纏いながら
「しちゃう?」
耳元で囁く。ゾワッとくるものがあるが、表情は崩さない様にして、指を掴んで離させた。
「今日はそんな事しに来た訳じゃない。」
「千歌ちゃんから私の物になる気になった?」
「だから、僕は………」
相変わらずに人の話を聞かない。
「千歌ちゃんの事が好き、だからでしょ?でも、もし千歌ちゃんが貴方の事を盗聴とか盗撮してたとしたら?」
僕は自分の耳を疑った。
千歌が僕の事を盗聴?
信じられない。
「心当たりない?例えば何も言わずに遠くに言ったのにばったりと会った、とか。」
僕は振り返る様に考え込む。
最近だと、本屋に行った時か。
いや、でも、あれは千歌が内緒でお菓子買いに言った訳で……
「心当たりあるんだね。そう、千歌ちゃんは貴方に発信機盗聴器を付けて監視してるの。」
「なんでそうだと言いきれる。」
動揺を隠せずに絞り出すように返す。
「やっぱり幼馴染だからさ分かるんだよ。千歌ちゃんと私は似ている。目的の為なら手段は選ばないし、好きな人は管理したい。私と千歌ちゃんの違いはただ貴方の恋人かそうじゃないか。そして、貴方とシちゃったかどうか。私の方が1歩先だね。勿論、春ちゃんの事も私はいっぱい分かるよ。好きなタイプ、貴方の弱い所、誘いを断りきれなくて受けちゃう優しさ。こんな風になっても私の事を大切に思ってくれる甘さ。」
ぎゅっと僕を抱きしめた。
「ね?そうなんでしょ?千歌ちゃん。」
後ろの扉に向けてまるでそこにいるかのように喋りかける曜。
「入ってきてもいいよ。」
そう言うと後ろの扉からガチャとドアノブを回す音が聞こえた。
後ろを振り向くな。そう言っている気がする。
頭が痛い。もう振り向いたら元に戻れないぞと警告をするかのように。
しかし、確認もしたい。嘘だと思いたい
好奇心に駆られゆっくりと後ろを振り向くとそこには千歌がいた。
「もぅ、酷いよ曜ちゃん!バラしちゃうなんて!!!」
「千歌………?」
「曜ちゃんは早く春くんから離れてね。私の春くんだから。」
「えぇー、やだよ。私が春ちゃんと先にシたんだから私が彼女でしょ。ね?春ちゃん。」
誰かに問われた様だが、そんな事は僕には聞こえてすら無かった。
茫然自失。僕はまさしくそんな状態だった。
目は焦点が定まらず視界は激しく動く。
頭は理解をしたくないと拒み真っ白に。
目の前の物すら霞んで見えずただいるだけ。
「ち………か……」
やっと絞り出して出した声は掠れ、震えている。声になっているかどうかも怪しいくらいのか細い声。
「えへへ、彼女だもん。ちゃんと変な虫が付かないように監視するのも彼女の役目だもんね!」
否定をせずにむしろ肯定の意を示し、当たり前かのように話す彼女からはいつもの明るさ、優しさ、温かさなんてものは一切感じることが出来ない。
ただ執着心独占欲が目に黒く現れている。
「だから、曜ちゃんとシちゃってるの聞いてて耐えるの大変だったんだよ~!いつか春くんに言って止めさせようと耐えた千歌偉いと思わない!?褒めて!!」
頭を差し出してくる千歌を撫でることもせずにただ僕はその頭を見つめていた。
「ほら、千歌ちゃんはそんな事をしてたんだよ?それに比べて私は貴方を監視するわけでも盗聴をする訳でもなく貴方を自由にしてる。春ちゃんの願いは何でも私が叶えてあげる。」
再びぎゅっと抱きしめられる。
「私の、曜ちゃんの物になっちゃいな。千歌ちゃん何か捨ててさ。」
僕の中で何かがグラッと揺らいだ
「曜ちゃん離れてよ!そういうのは千歌の役目なの!」
「え~でも千歌ちゃんは盗聴したりするんでしょ~そんな人と付き合うのは怖いよ。私はそんな事はしないもん。怖いね~春ちゃん」
「人の彼氏を寝とる様な事をしてる人には言われたくないな~。もし春くんと付き合っても他の人と浮気するんじゃないの~?」
「しないよぉ。私、一途だし。」
「信用性がないよね。脅してシちゃったのも良くないと思うし。」
「え~?でも最後は春ちゃん結構乗り気みたいだったけど?」
「聴いたけどそんな事無かったけどなぁ~」
いつもの様な感じで会話をしている2人だが、後ろに鋭く尖ったナイフを隠し、傷つけ合う光景を僕はただ見ている事しか出来なかった。
そして、段々頭の整理がついて来た僕は、決心が付いた。これを終わりにする決心、その為に冷たく突き放す様に言った。
「僕、もう帰るね。曜、もう千歌が知っているならこの関係は終わりだ。やめよう。もう君にはあまり近寄らないことにするよ。」
曜は大きく目を見開き、その瞳を震わせ始めた。
「いや………いや………いやぁ!!!」
涙で顔が崩れるのも厭わずに大きな声を上げ泣く曜。
「そして千歌、話があるんだ。」
そう言って僕は泣き叫ぶ曜を横目に家を出た。
クズは、クズなりにこれには決着を付けないといけないのだから。
◆
そして、千歌と僕の家に戻った。
千歌は曜との関係が消えて嬉しいのか笑顔で座っている。
「それで、春くん話って何?」
僕は、持ってきたお茶で十分に口を湿らせ、切り出した。
「僕達別れよう。」
「え………?」
理解が出来ない様子の千歌。
そして、だんだん分かってきたのか目が潤み始め、ぽつりと床に一滴、二滴と滴り落ちる。
「嫌だよ!いやだ!絶対にやだ!」
「僕は、千歌の事はまだ好きだよ。あんなことされてても僕は好きだ。でも……僕はクズだからさ。君の隣に立つ資格は無いんだ。」
「千歌の事……まだ好きなら別れる必要ないじゃん!曜ちゃんとあんな事をして気に病んでるなら私も盗聴盗撮してたもん…!一緒だもん!」
「ごめんね、これが僕なりの決着の付け方なんだ。」
僕は2人から逃げるという結論を出した。
もっといい方法があるのかもしれない。2人を泣かせること無く、笑いあって仲良く過ごせる方法。
でも、僕にはこれがお似合いだと思った。
2人を泣かせて僕だけ逃げて。そんな自分勝手で最低の方法。
これ以上彼女達の輝きを僕のせいで曇らせる訳にはいかない。
もっとAqoursとして輝いていて欲しい。
「なら、最後に彼女としてお願いを一つだけしてもいい?」
涙ぐんだ目を擦りながら今までの様に話しかけてくる。
千歌の赤く腫れた目が僕には深く突き刺さる。
「うん、いいよ。」
「最後に私にキス、して。」
「それなら。」
優しく千歌の唇にキスをした。
甘くそして幸せな別れのキス
そして、離れようとした。
「ごめんね。やっぱりキスじゃ満足出来ない。」
そのまま押し倒される。
その後は、僕はただ人形の様にいるだけでされるがままであった。
一方的に蹂躙されるだけの行為。
身体は何故か動かない。恐怖からか、驚きからか。それとも……僕も望んでいて拒めなかったのか。
ずっと彼女が
「ごめんね。ごめんね」
と謝りながらしていたのも原因かもしれない。
太陽は監視者、月は管理者、2つはただ芽吹くのを待つ様に見守っている
次回、最終回の予定
シュレディンガーの千歌っち
実際に確認するまで千歌が盗聴してるかしてないか分からない状態