機動戦隊アイアンサーガ ~外伝if「remember you」~   作:今野一正

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6.5話

――ダガーとの戦闘から二時間後。

 激しい戦闘の音が遠ざかり、砂漠を吹き抜ける寒風が膝を抱え込む少女の真っ赤な髪を微かに撫でる。その表情はどこか浮かない顔をしていた。

 そんな彼女の目の前に一杯のマグカップが差し出される。少女の視線が弱々しく腕の先を辿った。

「ハーブティーよ。飲みなさい」

 㬢夜が差し出した湯気の立つマグカップを一瞥してシャロは顔を俯かせた。

「……いらない」

 㬢夜は小さく息を吐き出すと彼女のマグカップを地面に置いて自分のハーブティーに口を付ける。香草の華やかな香りが㬢夜の鼻孔をくすぐり、乾いた彼女の喉を潤した。

熱い吐息を吐き出した㬢夜は目の前でうずくまる少女の姿を見る。

「いつまでそうしているつもり?」

 苛立ちの篭ったその言葉にも相手は一切の反応を見せない。㬢夜は呆れた様にため息を吐き出すと地面に腰を下ろした。沈黙が二人の間に漂う。

「戻らなきゃ……!」

 徐に立ち上がるシャロ。彼女はおぼつかない足取りで自分の機体の方へと歩き出した。

「ちょっと、戻るってどこに行く気よ!?」

 慌てて㬢夜も立ち上がり、少女の肩を掴む。

「離せ! 戻ってアルトを助けに行くんだ!」

 振り払おうとシャロの体が暴れる。

「ちょっと! 少しは落ち着きなさいよ!」

 進もうとするシャロと引き留める㬢夜。二人は揉み合い、互いの顔が向かい合った。

 『ポタリ』と㬢夜の腕に水滴が落ちる。濡れた少女の目には涙が溜まり、自身の髪よりも赤らんだ頬には一筋の涙の跡が残っていた。じわりと少女の瞼に涙が溜まる。

「シャロ……」

 ゆっくりとシャロの腕から力が抜けていく。

「アタシ、アルトのこと見捨てちゃった……」

 㬢夜もまた彼女の肩から腕を下ろした。

「アタシがもっと強くて、アルトの隣で一緒に戦えるだけの力があれば……」

 次第にまた少女の顔が俯いていく。

「いつもアイツばっか無茶な目にあわせて、それなのにアタシは、アタシは……」

 ポタリと少女の足元に涙が零れる。少女の小さな握りこぶしが震えていた。風が吹けば消え入りそうな声で少女は呟く。

「アタシ……アイツの主人失格だ」

 その姿を何も言わず見つめていた㬢夜は一度視線を彼女から外すと呼吸を整え、再度目の前を向き直った。

「……シャロ」

 自分の名前を呼ぶ声にシャロは顔を上げる。㬢夜の鼻先が視界に入った瞬間、彼女の頬に痛みが走った。

 九十度変わる景色。空気の破裂音が辺りに響き、宙に舞った帽子が音を立てずに砂の上へと落下した。

 最初、痛みの正体に気が付けなかったシャロだったが㬢夜の震えた右手を見て自分が頬を叩かれたことに気が付いた。今度は胸倉を両手で勢いよく掴まれ視界全体が少女の顔で覆われる。その表情に含まれた感情の大半を怒りが占めていることは誰が見ても明らかだろう。まだ涙が残るシャロの瞳を㬢夜が睨みつける。

「何を弱気になってる! こういう時にこそアンタが相棒のことを誰よりも信じなきゃいけないんでしょうが! アイツは自分から私たちを逃がすことを提案した。だったら少なくとも生きて再会する自信があるってことでしょ! それともなに? アイツは自分の相棒にあれだけの大見栄きっておきながら生き残れないほど弱いやつなの!?」

 畳み掛けるように叫ぶ㬢夜。彼の名前が出た瞬間シャロの肩が小さく揺れる。それを見た㬢夜はシャロから手を離すとわざとらしく息を吐き出した。

「まっ、所詮はアンタみたいなちんちくりんが選んだへっぽこパイロット。遅かれ早かれどこかで野垂れ死んでたわよ」

 言い終えた瞬間、彼女の襟に少女の細腕が伸びる。まだ涙の残る濡れた瞳が㬢夜を力強く見つめていた。

「アルトは、弱くなんてない!」

 鼻先が擦れるほどの近さで見つめ合う二人。㬢夜はシャロの顔を真っ直ぐに見つめ返す。

「だったら、弱気になってないで信じなさいよ。あんたの従者でしょうが」

 㬢夜の言葉にシャロが「はッ」となる。掴む力も弱まっていき最後には掴んでいたその手も離れた。

「もしかしてアタシのこと気遣って……」

「勘違いしてんじゃないわよ。アンタがそんなだとこっちまで調子が狂うってだけ」

 今日一番大きなため息を吐き出して㬢夜はシャロに背中を向ける。

「今夜は疲れた。もう寝るから何かあるまで絶対起こすんじゃないわよ」

 そう言って彼女は自分の機体まで歩き出した。

「待って、㬢夜」

 その後ろ姿をシャロが呼び止める。

「ありがとう」

 一瞬足を止めるが、すぐにまた歩き始める㬢夜。しかししばらく歩いてから彼女はもう一度だけ足を止めた。

「ハーブティー。ちゃんと飲みなさいよ」

 そういって今度こそ彼女は機体の方へと歩いて行った。

 シャロはその後ろ姿を最後まで見送ると足元に置いてあったマグカップを拾い上げ中身を啜る。時間が経って冷めた筈のそれは少女の心をわずかに温かくした。

 静けさの戻った砂漠で少女は星空を見上げる。幾億という星の中で少女は青い星と並ぶように光る赤い星を見つける。少女は決意するように、願うようにその星に向けて呟いた。

「アタシは死なないよ。だからアルトも……」

 しばらく星を見つめていたシャロはハーブティーを飲み干すと落ちた帽子に付いた埃を払い被り直す。そして自身も機体の中へと戻っていく。

 帽子に阻まれて見えなくなった夜空で青い星が彼女の言葉に呼応するように一瞬、強く輝いた。

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