機動戦隊アイアンサーガ ~外伝if「remember you」~   作:今野一正

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存在理由
7話


 雲一つない空。燦々と降り注ぐ真昼の太陽が一軒の民家を照らしていた。小窓から差し込んだ光が工作机の上で動く少女の白い手を照らす。机の上にはカッターマットが敷かれており、工作用の工具と大小様々なプラスチックの欠片が散乱していた。

 少女は手の甲で汗を拭うと視界に入った紅碧色の前髪を分けた。ふと、少女の視線が前を向く。そこにはBMを模した一体のプラスチックモデルが立っており、その風貌はパッケージのイラストからかけ離れた姿をしていた。藤色の頭部パーツが少女のことをじっと見つめる。

「もうちょっと待っててね。今あなたの武器を作ってるから」

 そういって机の上からパーツの一つをつまみ上げると右手に持っていた棒状のパーツに取り付けた。

少女は武器の形を入念に確認すると取手をプラスチックモデルの右手に持たせた。

「……完成!」

 少女が両手で小さな機体を持ち上げる。白い小さなボディが光を反射して輝いた。

 今度は机の上に機体を立たせる。足を持つと少女も自身の体を机に這わせた。機体と少女の目が合い少女は微笑みながら床に散乱したランナーの上で地面に着かない足をゆらゆらと揺らした。

 突然、玄関のドアが勢いよく開く。少女は驚いて椅子の上で飛び上がると白いワンピースをはためかせ、玄関の方へと走った。

 部屋を出て右を向く。玄関には彼女と似た髪色をした一人の少女が立っており、膝は傷だらけで、腕の中には自身の身の丈ほどある巨大なヘリコプターのラジコンが抱えられていた。

「お姉ちゃん!?」

「モデルで遊んでるときに転んだだけ、大したことないわ。それよりあそこの絆創膏持ってきてくれる?」

 少女に姉と呼ばれた子供は自分の状態を気にする様子もなく淡々と答えた。

「持ってくるからまず家の中入って!」

「ここでやるからいいわよ、それに中に入ったら家を汚しちゃうじゃない」

「いいから入る!」

 少女の剣幕に圧された姉が渋々靴を脱ぐのを見てから急ぎ足で少女は救急箱を取りに行った。

 

「このくらい自分でできるのに、ティリーはお節介やきね」

 白いワンピースの少女『ティリー』の持つ消毒綿が膝の傷口に当たる。傷口が沁みて少女の体が小さく震えた。呆れた様なため息を吐きワンピースの肩紐がずり落ちる。

「お姉ちゃんは処置の仕方が雑なの! いつも消毒もなしに絆創膏張ろうとするんだから」

「このくらいの傷、放っておいてもそのうち治るわよ」

「……もし将来、お姉ちゃんが会社を立ち上げたとしても私絶対入らない」

 呆れ果てた表情の妹に姉は「大げさだなぁ」と呟くと工作机に目をやる。机の中心に立つ一台のプラスチックモデルを見つけると首を傾げた。

「あら? あれは何?」

 手際よく絆創膏を張り付けたティリーが姉の質問に満足げに笑う。工作机に駆け寄り彼女は自分の機体を両手で持つと姉に見せ、嬉しそうに口の端を持ち上げた。

「私が作ったのよ。かっこいいでしょう?」

 妹の柔らかい笑顔を見て姉もまた笑みをこぼす。

「この機体、ベースはフレンチナイトかしら? 随分と手を加えたわね」

 少女は首を縦に大きく振って頷くと姉の手元に置いた。

「これは私の専用機! 機体コンセプトはどんな敵も撃ち貫く最強の狙撃手(スナイパー)!」

「狙撃手か……いいじゃない。それで名前はもう決まってるの?」

 名前を尋ねられた瞬間、少女の眉間に皴が寄り始める。腕を組み少女は体を揺らしながら「うんうん」と唸った。

「もしかして考えてなかったとか?」

 姉の質問にティリーは首を横に振る。

「ずっと考えてはいるんだけど、中々良いのが思い浮かばなくて……お姉ちゃんの『Spilornis』みたいにかっこいい名前みたいに、何かいい名前はない?」

 ティリーが姉の足元にあるヘリコプターのラジコンを見つめる。

「かっこいい名前かぁ。狙撃手……」

 姉の視線が壁へ向かう。そこに立てかけられた鹿の剥製。昔に父が友人と鹿狩りに行った際に仕留めたものらしい。不意に少女の頭の中にある名前が浮かんだ。

「ディアストーカー、なんてどうかしら?」

鹿狩り(ディアストーカー)?」

「そう、RHINEの鹿狩りは決して獲物を逃さない。最強の狙撃手を名乗るにはピッタリでしょ?」

 姉が考えた名前を舌の上で転がし、その言葉を飲み込むと目を輝かせた。

「ディアストーカー、いい名前!」

 少女は名を与えられた自分の機体を持ち上げて太陽にかざす。姉は妹の後ろ姿を見つめると静かに微笑んだ。

 

 ――朧げに意識が戻った時、視界は炎に包まれていた。ついさっきまで新年を祝うために賑わっていた町は悲鳴と恐怖に包まれ鉄の巨人達が建物を蹂躙しながら町の中を闊歩している。自分の体が誰かに背負われていることに気が付くことはできたが朦朧とした意識と焼けた喉では彼女は自分の声を発することは叶わない。それでも彼女が誰の背中におぶさっているのかはすぐに分かった。

 自分の後ろで巨大な何かが崩れ落ちる音を聞こえる。

「パパ……ママ……」

 少女が好きだった気丈な姉の声は悲しみと恐怖でうわずり枯れていた。少女を背負っていた姉の体が重力に圧し戻される。

「ティリー……」

 妹の名を呼ぶ姉の声が少女の耳に届いた。

(お姉ちゃん、こんなボロボロなのに私の名前を呼んでくれてる)

 少女は悔いた、声を掛けることすらできない己の弱さを。少女は嘆いた、家族を守ることのできない自らの非力を。

「誰か」

(誰か)

 それでも今は縋るしかなかった。大切な人を救うために。

「誰か……」

(助けて……!)

「お願いです……私の――」

 枯れた声と薄れる意識で二人は願った。

「妹を助けてください!」

(お姉ちゃんを助けて!)

 雪と灰が舞い散る炎の街で少女たちの叫びが木霊した。

 

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