機動戦隊アイアンサーガ ~外伝if「remember you」~ 作:今野一正
1話
シーギガントの端、チャバ砂漠。
地上を焼き焦がす太陽と地平線の果てまで続く広大な砂漠。その地獄を絵に描いたような場所を二機のアイアンヘッドが砂埃を立てて進んでいた。
「あぁ! 関節に砂が入ったぁぁ!」
橙色の機体アイアンヘッドSを駆る少女の悲鳴にも似た絶叫が響く。
「ちゃんと防砂処理をしたはずなのに!」
その隣から青色のアイアンヘッドLGが現れた。
「昨日寝ぼけた状態で機体の整備なんかするから……」
「まったくシャロは……」と少年の声がノイズ交じりの声がスピーカーから響く。
「出発まで時間なかったんだから仕方ないじゃん!」
少女は隣のアイアンへッドLGに向かって怒鳴りつけた。
「そう言うアルトはどうなのよ! しっかり防砂処理してあるの?」
「アルト」と呼ばれた少年は自分の計器を確認し、異常が無いことを確認するとシャロに向かって喋りかけた。
「こっちは問題なし。砂嵐の中にでも入らない限りは大丈夫だと思う」
彼がそう言うと「ぐぬぬ……」という声がスピーカー越しに聞こえてきた。
「それで、目的地まではどのくらいなんだ?」
アルトの質問にシャロが応える
「地図だとあともう少しで拠点キャンプにつくはずなんだけどな」
「了解」
アルトはフットペダルを踏み込み、機体を前進させながら二日前の出来事を思い出した。
二日前
荒々しい騒ぎ声と立ち込める酒と料理の匂い。「酒場バビロン」は今日も戦士達が集う憩いの場だった。
「バーベキューセットとビール、お待たせしました!」
この酒場のウェートレス「ハヤ」が巨大な皿とビールを持って男たちの前に置く。
ライン連邦出身の彼女はここに来て間もないものの、必死さに満ちた笑顔と煽情的なバニー姿で瞬く間にこの店の人気者になった。
「ハヤちゃん今日も似合ってるね!」
彼女の風貌に鼻を伸ばした男が新しく持ってきたビールを受けとる。
「ありがとうございます!」
男の真意を知らない彼女は天真爛漫な笑顔で礼を述べてカウンターに戻って行った。
「女将さん、七番テーブル出してきました!」
カウンターの前で料理の盛りつけを行っていた女性がハヤを見る。ブロンドの髪が耳から垂れ、耳にかけた金色のリングが揺れた。
「ありがとう、ハヤ。戻って早々悪いのだけれど、十番テーブルまでこれ運んでくれないかしら?」
彼女の名は「ヴァネッサ」酒場バビロンを経営する優美なる主人。この酒場に来る人間のほとんどは彼女目当てにやってきていると言っても過言ではない。彼女は傭兵や賞金ハンターなどの良き理解者であり、母でもある。寂れた傭兵たちは彼女の妖艶な魅力に今日も溺れるのだろう。
「はい! 行ってきます!」
銀色のトレイに乗った料理を受け取ったハヤがカウンターを出ていく。賞金ハンターのアルトは彼女の持つ料理を恨めしそうな目で追った。
「腹減ったな」
カウンターにアルトは突伏す。獣の唸り声のような音が腹の辺りから聞こえてくるのを彼は自分の耳で聞いた。
「大丈夫? 坊や」
優しい声に顔を上げるとヴァネッサが自分の事を見つめているのに気が付いた。
「あ、いや、気にしないで」
彼はその場から起き上がると顔を赤くしながら両手を振るが、腹の獣はどうにも素直らしい。
グルグルと呻きを上げた自分の腹に彼は更に顔が赤く染まる。
「ご飯、食べてないの?」
ヴァネッサから心配そうな声が出る。アルトはその言葉に小さく項垂れた。
「ここ最近、ロクな依頼をこなしてないからそろそろ金が……」
そう言って彼は財布を逆さに振って見せる。しかしそこから出てくるものは何も無かった。
「あらあら、それは大変。ちょっと待っててね」
そう言ってヴァネッサはカウンターの下に潜ると一枚の皿を差し出した。
「余りもので良かったら食べて」
そこに乗っていたのは食欲をそそる色鮮やかなサンドイッチだった。
「俺に? でも、いいの……?」
アルトは皿と彼女の顔を交互に見る。
「今回はサービス。だからまた来て頂戴ね」
そう言ってヴァネッサは小さくウィンクをしてみせた。
「ありがとう!」
アルトは言うと同時にサンドイッチを頬張った。
「……美味しい!」
パン、レタス、トマト、ハム。様々な食材が彼の味覚を刺激する。
「こんな美味しいサンドイッチ食べたのは初めてだよ! ありがとう」
そう言いながら彼はもう一口を頬張る。それを見てヴァネッサはクスクスと笑った。
「それは良かったわ。次来た時にはもっと美味しいものをご馳走させてね?」
彼女はアルトを優しく見つめるとカウンターの奥に戻って行った。
「美味しかった……次はどっちにしようかな」
さらに残ったサンドイッチを見る。残っているのはタマゴサンドとカツサンドの二つ。
「迷うな……」
彼の右手が右と左を交互に行き交う。
「よし、ここはカツサンドに――」
「アルトー、いくつか依頼探してきたよー」
店の奥から彼を呼ぶ声が聞こえてくる。
赤色の髪を揺らしながらシャロが依頼の束を抱えてやってきた。
「あれ? なにその美味しそうなサンドイッチ」
シャロがアルトの目の前にある皿を見る。
「あぁ、これはさっき女将さんから貰ったサンドイッチ」
「なにそれズルい! 私にもよこせ!」
そう言って彼女は素早い手つきで彼の皿からカツサンドを奪い取った。
「あっ……」
アルトが何かを言うよりも早く、カツサンドは一口に彼女の胃袋の中へと消える。
「美味しかったぁ!」
満面の笑みを浮かべる少女、その目の前でアルトは人生で五番目くらいの絶望を負った。
「俺の、カツサンド……」
再び彼の顔が項垂れる。
「でもまだ俺にはタマゴサンドがあ……る?」
伸ばした手の先にタマゴサンドは無かった。
「んー! こっちも美味しい!」
シャロの頬に卵の欠片付いていた。
「それで、どんな依頼持ってきたんだよ?」
未だに不貞腐れた顔のアルトがシャロの持ってきた依頼書に目を通す。
悪党退治から失せ者探し。賞金ハンターの依頼は多岐にわたる。もちろんその難易度に応じて報酬額というのもは当然変わってくる。
「なんかないかなぁ、割のいい仕事……」
シャロが小さく溜め息を吐き出す。
「そんなのそう簡単に見つかるわけないだろ」
アルトは依頼書にパラパラと目を通すがめぼしい依頼は見つかりそうにない。
「ねぇアルト、これなんかどう?」
シャロが差し出した一枚の依頼をアルトは見つめる。
「チャバ砂漠に潜伏するテロ組織の残党狩り?」
「そう! それに見てよこの報酬額!」
少女が報酬金額を指差す。アルトはその額を目で追った。
「報酬額が、二百万!?」
アルトは依頼書の馬鹿げた報酬額に目を見張る。見間違いかと思い二、三度確認するがその数字に偽りは無かった。
「二百万って、これだけあれば三人分の機体の整備代を差し引いてもお釣りがくるぞ……」
「ねぇ、これ受けようよ! これだけのお金があればこれからの生活が楽になる!」
シャロはうずうずと体を震わせている。
「ちょっと待ってシャロ、でもこれ変だよ。残党狩りをするだけでこんな大金が入って来るなんて普通ありえる?」
アルトは怪訝そうに依頼書を睨んだ。
「なんか、裏がありそうな気がするよこれ」
アルトの意見にシャロが口を尖らせた。
「じゃあアルトはお金が欲しくないの?」
「お金はそりゃ欲しいさ。でもこれは……」
言い淀むアルトにしびれを切らしたシャロが彼の手から依頼書を奪い取った。
「ねえアルト、それにここを見て」
依頼書の概要欄をシャロが指差す。アルトはその文章を読み上げた。
『このまま彼らを野放しにしておけば、近隣の村に略奪などの大きな被害をもたらすかもしれない。だから一人でも多くの力を貸してほしい』
文章を読み終わりシャロの顔を見る。その細められた瞳からは怒りと、悲しみが入り混じった感情が読み取れた。
「……行くだけ行ってみようよ。もしそれで危険だとわかったらすぐ逃げる。これでどう?」
アルトは目を閉じて小さく溜め息を吐き出す。こうなると彼女は意地でも意見を曲げないことをアルトは既に理解していた。
「わかったよ、行こう」
その言葉でシャロの顔に明かりが灯る。
「ありがとう! アルト!」
そう言って彼女はアルトの手を取った。
「それで、それはいつまでに集合するんだ?」
シャロが依頼書を見る。
「えっと、集合は二日後だね」
「二日後!?」
あまりの驚きにアルトの声が若干裏返った。
「ここからチャバ砂漠までどれだけあると思ってるんだよ! 急いで機体の整備するぞ!」
アルトとシャロは慌てて酒場のドアをくぐって出ていった。
「また来てね~」
ヴァネッサの優しい声が彼らの背中に向けて送られた。