機動戦隊アイアンサーガ ~外伝if「remember you」~   作:今野一正

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3話

「アルト! ねえアルトってば!」

 どのくらいその場に立ちつくしていたのだろうか。シャロの声でアルトは意識を取り戻した。

「あっ……シャロ?」

 固まっていた筋肉が徐々に動きを取り戻し、掠れた声で少女の名を呼ぶ。

「さっき急に飛び出したと思ったら今度はここに立ち止まって、なにかあったの?」

 アルトはさっきまで女性のいた場所を見つめる。そこに人の姿は無く、蜃気楼が揺らめいていた。

「なんでもない、昔の知り合いに似ていたから追いかけただけだよ」

 アルトは首を横に振り、少女に微笑みかける。シャロはアルトの顔を弱々しく見つめたがすぐに笑顔を見せた。

「そっか! アルトがそう言うなら信じるよ。それよりそろそろ合同ミーティングの時間だから急ご!」

 先に走り出したシャロを追いかけてアルトも歩きだす。しかし彼の脳裏からあの姿が消えることは無かった。

 

 密集したテントの中央、そこの開けた場所がミーティングの会場だった。シャロとアルトがそこに着く頃には多くの参加者達が空間を埋め尽くすように並んでいた。

「二人とも、こっち!」

 群衆の中から声がする。その声の位置を辿るとピョンピョンとウサギのように跳ねる曦夜が参加者の群れの中にいた。

 曦夜の声に先導されながら二人は人の波を掻き分ける。

「何やってたのよアンタら、いきなりテントから飛び出して」

 彼女のそばまでやって来ると曦夜が口を尖らせた。

「昔の女にでも会ったかい?」

 そう尋ねてきたのは先程の争いを鎮めためたカルシェンだった。

「カルシェンさん、一緒にいたんですね」

 カルシェンはアルトの言葉に「あぁ」と応えると小さくウィンクをしてみせた。

「それで、彼女とはどういう仲なんだ?」

 アルトとカルシェンの視線が交わる。しばらくその状態で見つめ合った後、アルトは首を横に振った。

「ただの人違いでしたよ」

「……そうか、随分な美人だったんで紹介してもらおうかと思ったんだがなぁ」

 そう言って彼はやれやれと首を横に振った。

「あの手の女は大抵ロクな女じゃないね」

 がしがしと自分の髪の毛を掻きむしるフリーズがカルシェンの後ろからやってくる。

「ああいうヤツは関わった人間を全て不幸にする。そのクセ自分だけは飄々と生き残るからタチが悪い」

「まるで死神さ」そう言って彼女は欠伸を漏らす。

「なんだいお嬢、あのコの可愛さに妬いたかい?」

「オンナのカンってやつさ。それとカルシェン、今後背中に気を付けな」

(死神……)

 その言葉のおさまりの良さにアルトの頭の中で二文字の単語が反芻する。そのイメージは鋼鉄の巨人となってアルトの背筋に悪寒を走らせた。

「アルト、顔色悪いけど大丈夫?」

 シャロがアルトの顔を覗き込む。

「うん、平気だよ」

 シャロの顔に笑って見せる。頬を垂れた一筋の汗は砂漠の熱に滲み出ただけだろう。

 不意に周囲の喧騒が止む。その場にいた全員の視線がある一点に集中した。

 木箱でできた簡素なステージの壇上に一人の男性がいる。

 小綺麗に整えられたワインレッドの燕尾服がここにいる誰よりもその男の格式が高いことを示していた。

「それでは、ミーティングの方を始めさせていただきます」

 男がマイク越しに声を張る。

「まず初めに自己紹介を。私は今回の依頼人で商人のエドワード・カーターと申します。皆様、本日は御集まりいただき誠にありがとうございます」

 エドワードと名乗った男が深々と頭を下げた。数秒の後、エドワードはもう一度顔を上げ再び喋りはじめた。

「既に依頼書の内容にも書いてあるかと思いますが、最近このあたりでは敗残したテロ組織が徒党を組み、付近の村々を襲っているのです! そのせいで村人達は食料はおろかまともに眠る場所すらありません! 私はこの惨状に憤慨しその組織を壊滅させるため、皆さんの募集をかけたのです!」

 彼は拳を胸の前で握りしめ大声量の演説を行う。それを一人の声が遮った。

「なぁエドワードさんよ」

 集団の中から声が響く。エドワードは自分の演説を中断し声の方に向き直った。

「はい、なんでしょうか?」

 声の主は先程テレサに銃を向け、醜態をさらした男だった。

「大変素晴らしい演説はありがたいんだがな、俺達が聞きたかったのはそんなことじゃあねぇんだ。金だよ、報酬の二百万! あれは本当なのかよ?」

 その男の言葉に群衆のあちこちから声が上がり始める。

「そうだ! 俺達はそれが目当てで集まったんだ!」

「ちゃんと二百万払ってくれんだろうな!?」

 騒ぎは次第に大きくなり、収集が付かないほどに膨れ上がった。

「ハッ、どいつもこいつも意地汚ねぇサルだな」

 フリーズが尖った犬歯を見せながら騒ぎを嘲笑する。

 止まない質問と罵声が降りかかる。彼はたじろぎもせず、徐にスタンドにかかっていたマイクを取り外した。

「御静粛に!」

 男の覇気のこもった声が砂漠に響き渡る。その一言に数十もの声がピタリと止んだ。

「私とて商人の端くれ、物事を円滑に進めるのに最も都合が良いのがお金だということは百も承知しています。皆様がこの莫大な報酬に不信感を抱くのも当然でしょう。しかしご安心ください、成功報酬の二百万Gに嘘偽りは一切ありません! そしてこれは今回のミッションを達成した方全員にお渡しさせていただきます!」

 その言葉に今後は全員がどよめく。

「達成者全員に二百万!?」

「正気かアイツ?」

「ちゃんと金が貰えるならなんだっていいさ!」

 動揺と歓喜、二つの感情が会場に立ち込める。

「私の覚悟、これで伝わったでしょうか?」

 エドワードは男と視線を合わせる。

「へっ、金さえ払ってくれるならこっちも文句はねえよ」

 男は冷や汗を浮かべながら言葉を返した。

 すっかり静まり返った群衆を見渡し、エドワードは再び喋りはじめた。

「皆様にも納得していただいたようなのでここから本作戦の概要を説明させていただきます。」

 彼の背後に黒板とチョークという前時代的な道具が置かれる。その黒板にチョークを走らせながらエドワードは説明を始めた。

「今回の作戦の目標はここから西に向かった場所にある残党組織の拠点、ここの壊滅が本作戦の達成条件となります。敵の具体的な数は不明ですが様々な勢力がまとまっているはずなので大規模と思っていただきたい」

 エドワードは黒板を巧みに使い、必要な情報を提供していく。

 参加者は彼の作戦を茫然と立ち聞いていた。

「なお、この作戦は長距離の移動、および変則的な戦闘が予想されるため、一定間隔で中継キャンプを設営します。ここでは弾薬や食料の補給、戦闘不能になったパイロットの受け入れを行います」

 「なにか質問は?」と訊ねるが全員が呆気にとられ言葉は返っててこなかった。

「では作戦の開始は一時間後、目的地への移動手段は各人にお任せいたします。皆様、ご武運を」

 そう言ってエドワードは壇上を降りてテントの中に消えた。

 一瞬、場が静まり返ると今度は慌ただしく一斉に動き出した。意気揚々と機体の下に向かう者、今から賞金の使い道を考え笑みを抑えられない者。多種多様に別れた彼らの目は一様に鋭くギラついた光を宿していた。

「さて、俺達も行くかね」

 カルシェンがその場から離れようとする。

「あら、あなた達は一緒にいかないの?」

 曦夜が首を傾げる。

「ぞろぞろと何人も引き連れて歩いてたら敵の的にしてくださいって言ってるようなモンだろうが」

 スゴみのあるフリーズの声に曦夜が小動物のように跳ねた。

「そ、それもそうね」

 曦夜は強がりながら彼女の言葉に納得する。

「ま、敵同士ってわけでもないんだ。君たちがピンチに陥ったら俺達が助けに行くよ」

 そう言って二人は駐機場に向けて歩いて行った。

「それじゃ、私たちも行こうか」

「うん」

 シャロの言葉にアルトは頷く。アルトは曦夜を見ると声をかけた。

「曦夜、君はどうする? 僕らと一緒に来るかい?」

 「はぁ!?」という声はシャロから出た声だった。

「なんでコイツも一緒に!?」

 アルトはこめかみを掻く。

「なんでって、さすがに一人じゃ危ないだろ。だから――」

「結構よ」

 曦夜がアルトの言葉を遮る。彼女が首を横に振った。

「さっきもあの傭兵が言ってたでしょ? 集団で固まりすぎるとかえって敵に狙われやすくなるって」

「それは、そうだけど……」

 アルトが言葉を濁す。

「それに私は元々一人でやるスタイルなの。慣れないことやってヘマしたくないしね」

 そう言って彼女もこの場から去って行った。

「なんだよアイツ! せっかくアルトが善意で誘ったって言うのに! 行こ!」

 頬を膨らませながらシャロがアルトの手を引く。

「行くから引っ張るなって!」

 シャロに手を引かれながらアルトは周囲に目を凝らす。しかしそこに彼探した人物の姿は見当たらなかった。

 

 壇上を降りたエドワードはテントの入り口をくぐる。

 愚かな人間ほどわかりやすい報酬を提示すればそこに真っ先に飛び込む。しかし愚かゆえに無意味な問答をしなければいけないのは非常に手間だ。

 彼は額に浮かんだ汗を拭いながらそんな感情を短い溜め息に乗せた。

「やっぱ金持ちは言葉を捏ね繰り回すのが上手いねぇ……」

 嘲笑するような男の声がテントの陰から聞こえる。彼の顔からはさっきの紳士さが消え去り、侮蔑するような瞳が陰に向けられた。

「なんだ、貴様も来ていたのか」

 陰に向かって彼は言葉を投げる。影は「ケッケ」と耳障りな笑い声をあげた。

「そんな顔で睨まないでくれよ旦那、アンタの邪魔はしねぇし任された仕事はするよ」

「そうでなくては困る。でなければ私があの女を参加者側で雇った意味がないからな」

 エドワードはそう言いながらテントの奥に歩いて行く。しかし彼は一瞬立ち止まるともう一度陰の方を睨んだ。

「失望させてくれるなよ、『流砂』の傭兵……」

 それだけ言い残すと彼は今度こそテントの奥に消えた。

「はいはい」

 雑な返事の後、ゆっくりと陰の中から影が現れる。

 影は喉を鳴らして小さく笑った後、鋭い双眸を光らせた。

「待ってろよテレサ、テメエは俺が殺しに行くからな……」

 

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