機動戦隊アイアンサーガ ~外伝if「remember you」~   作:今野一正

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memory and fire
1話


――ヤツらは「戦場の背景」だと思え。もう考えるな。

――死んだヤツらはただの「死亡報告の数値」として処理しろ。

――すべての命を背負い込むような真似はやめろ。

『……一人でもいい。生きて、俺にその命を背負わせてくれ……!』

――行って、お前自身の生き方を考えろ!

『俺は決めたんだ! 俺は、俺のやり方で生きてやると!』

 鉄と血と、紅く燃え盛る炎。記憶の中で揺らめき、その炎は少年の心を灼く。

 

 暗いコクピットでネオンのように計器が明滅する。

「……隊長」

 赫々と燃えながら遠くへと流れていく走馬灯にアルトは一人呟いた。

「ん? なにか言った?」

 シャロの声でアルトは我に返る。彼は俯かせていた顔を上げた。

「いや、何も言ってないよ」

 顔も見えない相手に首を振り、アルトは自分の音声を切ると重い溜め息を吐き出す。

 作戦が開始されてから一時間、彼の心は濃い霧に覆われていた。何度も甦るあの日の出来事。記憶の奥底から浮かび上がっては霧散し、その度に彼の心は更に曇る。

 この砂漠の熱に当てられたのか、それとも因縁めいた出会いが自分の心を曇らせるのか、それを確かめる術を少年は持ち合わせていなかった。

「そこそこ進んだはずだけど、敵の気配が全然ないね」

シャロのアイアンヘッドSが首を左右に振って索敵する。アルトも周囲を調べるが依然として風が静かに巻き上げた砂以外、この枯れた世界に動きはなかった。

「それは多分、順調に進んでるってことだよ」

 アルトは固まった肩の筋肉をほぐしながらマイクに向けて話しかける。

「なるほど、つまりシャロ様のルート作成は完璧だったということね!」

 少女の得意げな笑い声がスピーカーを通してアルトの耳に入ってきた。 

「まぁ、それはそれとして……」

 シャロが眉を顰め頭上を見上げる。

「なんであんたまで一緒にいるのよ! 松ぼっくり!」

曦夜の駆る戦闘用飛行機、ブロードソードが二人を見下ろすように上空を飛んでいた。

「アンタさっきカッコつけていなくなったクセに、なに全く同じルート来てるんだよ!」

 シャロの口ぶりに腹を立てたのか、無線越しに曦夜の声が聞こえてくる。

「うるさい! アンタらが私のルートと被ってたんでしょうが!」

 アルトはさっきとはまた別の意味でため息を吐き出した。

 かれこれ三十分はこの二人の不毛なやりとりは続いている。最初の方は仲裁に入っていたアルトだったが段々とその無意味さに気が付き、途中からは口をだすことすらしなくなっていた。

「なにがこうもあの二人の仲を悪くさせるんだ……?」

 アルトはスピーカーから流れて来る二人の声から意識を離すとレーダーを起動し、周囲を注意深く見渡した。

 いくら順調に進んでいるとはいえ、警戒は怠れない。まして相方がこの有様では彼がより神経をとがらせるほかなかった。

ジットリと重たい汗が頬を伝う。安物の冷暖房ではどれだけ温度を調節してもできることには限界がある。

 首筋を伝った汗を腕で拭う。ひたすらに熱を溜め込むコクピットの中はさながら蒸し器のようで、その中に入った彼はいわば蒸し上がるのを待つだけの饅頭と言えるだろう。

「だからなんで松ぼっくりはいつもアタシに絡んでくるのさ!」

「なんでって、アンタは私のライバルだからに決まってるでしょ!」

 絶えず二人のいがみ合いが聞こえてくる。彼女達の声を聞いているだけで室温が一度か二度高くなっているように彼は感じた。

(まだ続いてたのか……)

 アルトがいい加減に二人をなだめようとマイクのスイッチを入れた瞬間……

 ――ドンッ!

 三人のすぐ後方に着弾音と巨大な砂の柱が上がった。

 すぐさま三機はその場から離れると再び集合し、互いの背中を庇いながら武器を構える。

「アルト! 索敵!」

 先程まで喧嘩をしていたとは思えないほど冷静な声でシャロはアルトに指示を送った。

「もうやってる!」

 シャロの言葉が届くよりも前にアルトはレーダーを起動し最大範囲で熱源を探す。明滅するレーダーに三つの紅点が映し出された。

「見つけた! 十一時の方向!」

 アイアンヘッドLGの緑色のカメラアイが砂漠の小さな砂丘を睨む。他の二人も彼と同じ方角を見つめる。

 砂丘の上に四機のフェネックが彼等を見下ろしながら立っていた。

 数瞬の睨み合い、その直後フェネックが動き出した。

「来る……!」

 機関銃を放ちながら砂丘を駆け下りる三機の機体。三人は再びその場から散開した。

 一機のフェネックがアルトの後を追いかける。

「こっちに来たか!」

 アルトはランスガンを後方に向けて照準を合わせると弾丸を放つ。黒鉄の鉄球が黄色の装甲とぶつかり合い、火花を散らしながらその巨躯をよろめかせた。

 その一瞬を見逃さなかったアルトはすかさず機体を百八十度回転させ、ランスガンを構えて突進した。

 フェネックの機関銃が彼に向かって浴びせられる。アルトは姿勢を低くすると左右に動く。無数の弾丸は青い軌道を空虚に貫くだけで彼の装甲が傷つくことは無い。

 次第に狭まる両者の距離、アイアンヘッドの射程に入った瞬間、アルトは砂を蹴り上げて飛び上がった。

 黄色の機体の真上に丸い影、その右手に持った得物の切先が獲物の姿を捉えた。

アイアンヘッドの体が重力に従い、敵めがけて落下する。

「はあぁぁ!」

 落下の勢いのままランスガンを敵の背部に突き刺す。一本の巨大な槍がフェネックの装甲を突き破り、機体の動きを完全に停止させた。

 荒くなった呼吸を整え、突き刺さった武器を引き抜く。

「捕まえれば敵の情報くらい聞き出せるかもしれないな」

アルトはコクピットハッチに手を触れると接触通信を開いた。

「おい、フェネックのパイロット聞こえるか?」

 中のパイロットに向かって呼びかけるが返事は返ってこない。何度か同じように声をかけるが結果は変わらなかった。アルトは面倒臭そうに自分の額を掻く。

「機体をこじ開けるしかないか」

 アイアンヘッドの指が機体のハッチを掴む。扉を開こうとした瞬間、アルトは違和感に気が付いた。

「敵の機体温度が上昇してる!?」

 この状態での温度上昇、そこから導き出される答えを彼は一つしか知らなかった。

 ――自爆

 その答えが脳裏をよぎった瞬間、彼の機体はその場を飛び退き左手の盾を正面に構える。それとほぼ同時にフェネックが爆散し、周囲の大気を轟音と共に震わせた。アルトは構えた盾を下ろし、立ち上る黒煙を見つめる。

「ただのA級機体が自爆だなんて……」

 彼がかつて搭乗していたダガーシリーズはその厳重な情報秘匿のためからA級機体でありながら機内に自爆装置が設けられ、徹底的に情報が隠匿される。

「でもこのフェネックは一般に流通しているものと変わらない、武装やパーツだってどこにでもある普通のものだ。なのになぜ……?」

 アルトはしばらくこの状況に困惑していたがすぐに頭を切り替えてシャロ達の下へ機体を走らせた。

 アルトが機体を走らせ続けると橙色のBMと一機の飛行機が彼の目に映った。アルトはその二機の下に合流する。

「シャロ! 曦夜! 無事か!?」

「こっちは大丈夫。二機は私達で倒したよ。アルトは怪我とかしてない?」

「こっちも大丈夫だ。それより二機? じゃあ残りの一機は……」

 次の瞬間、彼らの下に弾丸が降り注いだ。

「何!?」

 射撃された方角を振り返る。一機の軍曹がマシンガンをこちらに向けていた。

「新手!? でも一機だけなら!」

 シャロが武器を構える。

「馬鹿! 少しは周りを見なさいよ!」

 それを曦夜が慌てて止めた。シャロが周囲を見渡す。

「な、なんなのこの数……!」

 軍曹、チュートン、オデュッセウス、ヘルキャット。アルト達は大量のBMに囲まれていた。

「きっと逃した一機が仲間を呼んだんだ!」

「各企業の主力機体ばかりじゃない! 本当にコイツ等テロリストの残党なの?」

 敵の武装が彼らを包囲する。

「逃げないと!」

 シャロの声はこの状況に困惑し、震えている。

「こんな状況でどうやって逃げるのよ!」

 オデュッセウスが懐から剣を引き抜く。他の敵も彼らに向けて武装を構えた。

「二人とも、来るぞ!」

 ランスガンを構えるアルト。オデュッセウスが右手を掲げ一歩を踏みこもうとした瞬間、黄色の閃光がその体を貫いた。

 機体がその動きを止める。制御を失った機体は後ろに倒れ込み、轟音と共に爆散した。

 

「……一機目」

 暗いコクピットの中で静かにロックオンマーカーが動く。『撃墜確認』のシステム音声が遅れてやってきた。

 

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