機動戦隊アイアンサーガ ~外伝if「remember you」~   作:今野一正

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4話

 闇夜の砂漠は眩い紅蓮に染まっていた。燃え盛る炎が辺り一面を覆い、散っていく火の粉は空へと舞い上がる。宙に漂った火の粉の一片が青い装甲を微かに焼いた。

 少年はそれに気が付くことすらなく、震え、血走った瞳で上空のソレを見つめる。それは彼にとってまるで夢のような光景であり、悪夢以外の何者でもなかった。

「どうして、お前がここに……!?」

 眼前に佇むダガーへと問いかけるも応えは返ってこない。代わりにダガーは左手に持ったレーザー砲をアルト達に向けて構えた。

「アルトッ! 避けて!」

 シャロの叫びにアルトはその場から反射的に飛び去る。次の瞬間、彼が先程までいた場所が爆炎と共に爆ぜた。その光景にアルトの額を冷たい汗が流れる。

 一撃で仕留められない事を悟ったダガーは主砲を収めると今度は盾に内蔵されたガトリングを掃射し始める。

「皆、散開しろ!」

 アルトの指示で三機がそれぞれ別の方角に散っていく。アルトは無数のガトリングが巻き上げた砂埃を巧みに使い、敵の攻撃を間一髪のところで躱しながら相手の注意を引く。

「これでも喰らえ!」

 ダガーの側面に回り込んだシャロのアイアンヘッドSが両肩に積まれた二連装キャノンを放つ。ダガーはわずかに上体を後ろに反らすとそれをいとも容易く躱した。

「避けた!?」

 当たると確信したはずの攻撃が通らないことに驚きの感情を露わにするシャロ。

「だったらこれで!」

 上空から急襲したブロードソードの砲塔からビームが相手の頭部目がけて撃ち出される。しかしダガーは首をわずかに右に傾けると、閃光はその横を過ぎ去り地面を抉った。

「なんで当たんないの!」

 舌打ち交じりに曦夜が声を荒げる。

 アルトは砂塵を薙ぎ払い、再度武器を構える。

「シャロ! 二人でかかるぞ!」

「うん!」

 アルトの言葉にシャロが頷く。アルトとシャロの弾幕が十字砲火を作る。ダガーはその弾丸の雨の中を踊るように鮮やかな動きで避けていく。

「ちょっとは当たりなさいよ!」

 曦夜のブロードソードが加わり、攻撃の手が増える。しかしそれでもまだダガーの装甲には傷一つ付けることはできていない。

「いい加減当たれ!」

 痺れを切らしたシャロのアイアンヘッドがマトックを持ち、ダガーに向けて走り出す。地面を踏み鳴らし眼前の敵に踏み込むシャロ。上空へと飛び上がり敵の背後で右手の得物を振り上げる。その瞬間、不意にアルトはダガーの無防備さに違和感を覚えた。

「行くなシャロ! これは罠だ!」

 咄嗟にアルトは叫ぶ。暗闇の中でダガーの青い瞳が標的を捉えるのはそれと同時だった。

 空中で身動きの取れなくなったアイアンヘッドの胴体にダガーの強靭な右足から繰り出されたソバットが命中する。鋼鉄のぶつかる鈍い音と火花が散り、アイアンヘッドが砂漠の上を転がった。

「きゃあぁぁ!」

 コクピットが揺さぶられシャロの悲鳴が機内に響く。今まで滞空を続けていたダガーが徐々に高度を下げ、その足を地面の上に乗せた。足元に倒れた機体を見下ろすダガー。その右手に握られたライフルは銃口を敵に向け、淡い光を収束させていく。

「くッ……!」

 逃げ場を失ったシャロは瞳を強く閉じる。

 光の収束が限界に達しエネルギーが放出されようとした直前、ダガーの目の前を何かが通り過ぎ、地面に突き刺さった。全員の視線がそこに注がれる。そこに刺さっていたのは一本の巨大な槍。飛んできた方向へ振り向こうと瞬間、ダガーの体が巨大な衝撃に襲われた。

 ライフルの引き金から指が外れ、狙いの逸れたビームが砂漠を焼き切り、夜空を彼方まで裂く。

 ダガーの体にぶつかったのはアルトの駆るアイアンヘッドLGだった。

「やめろぉぉ!」

 アイアンヘッドの全力の体当たりにダガーの体が弾き飛ばされ宙を舞う。しかしすぐに姿勢を立て直すとダガーは地面へとしなやかに着地した。アルトも突き刺さったランスガンを拾い上げると敵にその切っ先を向ける。

「大丈夫か!? シャロ!」

「問題ない! 少し装甲が傷付いただけ」

 アルトは安堵のため息を吐くとモニターに映った敵の姿を見つめ、もう一度後方のシャロと㬢夜を見た。

 目の前の敵に向き直り、武器を構え直す。

(このままじゃいずれやられる。どこかで逃げる隙を見つけないと……)

『……お前は、誰の命も背負えない』

 突破口を探していた最中、突如彼の自身の背後から耳元へ囁くような声が響く。

「……ッ!」

 血の海に横たわる少女の姿が呼び起され、少年の背中に悪寒が走る。呼吸が狂い徐々に荒くなり、視界がぐらぐらと揺らぎ始める。

「これからどうするの、アルト!」

 無線から聞こえる少女の声。少年は無理矢理に呼吸を整え、奥歯を強く噛み締めた。

「……逃げろ、二人とも」

 彼の言葉を聞き取った二人の動揺が無線越しに伝わる。

「どうしたのよ急に!?」

 困惑する曦夜。アルトは目の前の敵を睨んだまま言葉を続ける。

「俺たちが束になってもこいつには勝てない。だからせめて、俺がこいつを引き留める!」

「引き留めるって……三人で勝てないならあんた一人で勝てるわけないでしょ!」

「そうだよアルト! だったらせめて三人で――」

「それじゃあ、みんな死んでしまう!」

 シャロの言葉を遮り、アルトが叫ぶ。荒くなった呼吸を落ち着けて彼は言葉を切り出す。

「あのパイロットは超一流だ。全員で逃げたってすぐに全滅してしまう。だったらせめて俺がここで、アイツをくい止める!」

「だったらその役目は私が……!」

「――ダメだ!」

 今まで二人が聞いたことがない程の声量でアルトは声を叫ぶ。

「これは、俺の問題なんだ……」

 その言葉の後、三人のコクピットが静まり返る。重苦しい静寂を最初に崩したのはシャロだった。

「……死なないって、約束できる?」

「シャロ!」

 驚きを隠しきれない㬢夜の声。シャロは小さなため息を吐き出すとアルトのアイアンヘッドLGを見た。

「従者のことを信じるのも主の役目だからね」

「……ありがとう、シャロ」

「約束、ちゃんと守りなさいよ」

 少女の言葉に少年は操縦桿を握りしめるとわずかに口元を持ち上げた。

「あぁ!」

 話がまとまったのを見計らったかのようにダガーが武器を手に構える。それと同時にアルト達三人も行動を開始した。

「二人とも、逃げて!」

 ブロードソードとアイアンヘッドSが全身を反転させ、敵から遠ざかっていく。それに気が付いたダガーは二機に向けて追尾式のミサイルを向けた。しかしその目の前にアイアンヘッドLGが現れ、ランスガンを突き出す。ダガーは射撃を中断すると自分との間に盾を挟んだ。鋼と鋼が激突し耳障りな音を立てて火花が散る。ダガーとアイアンヘッドLGが互いのメインカメラを睨み合った。

「お前を、ここから先には行かせない!」

 アイアンヘッドの膂力に耐え切れずダガーが背後に飛び退く。それと同時にガトリング

を放ち、追撃を防ぐためにアルトの足を止める。

「クソッ!」

 敵の射撃を盾で防ぎ、アルトもその場から抜け出して射撃を行う。二つの青が月下に照らされ、火炎に彩られた砂漠の上を走り抜けていく。

 背面のスラスターで宙を駆けるダガーの後をアイアンヘッドLGが走って追いかける。

 徐々に離れていく距離。定めた狙いは悉く外れ彼の撃ちだした砲弾はダガーの足元で勢いを失う。

「なんて速さだ、これじゃ追いつけない!」

 直後、ダガーが転身しバルカンを向けた。

「ヤバい!」

 即座に機体を右に傾ける。さっきまで頭部のあった個所を緑の閃光が高速で過ぎ去っていく。コクピット内に被弾のアラートが鳴る。どうやらさっきの攻撃が頭を少し掠めたらしい。

 ダガーはガトリングを打ち続けながらアルトへと迫ってくる。

「そっちがその気なら!」

 アルトは自分を襲う弾に当たらないよう、姿勢を低くしながら敵との距離を詰めていく。

 互いが近づくにつれて光弾がアイアンヘッドの装甲を削り取っていく。アラートメッセージが止まず鳴り響き、自身の危険を主に伝える。

「保ってくれよ、アイアンヘッド……!」

 アルトは愛機の操縦桿を強く握りしめるとアクセルペダルを全力で踏み込んだ。アイアンヘッドLGのエンジンが限界まで回転し、BMサイズで考えれば小さなその体は大地を揺るがすほどに激しい一歩を踏み込んだ。縮まっていく彼我の距離、真正面から走っていく二機の間隔が触れ合いそうになる限界にまで達した瞬間、アルトは急ブレーキを踏んで機体を後ろに勢いよく倒した。次の瞬間、コクピットがあったはずの場所に電磁クロスボウの矢が飛び出し、虚空を貫いていった。

 全力疾走の勢いを殺さずに砂を掻き分けてスライディングの姿勢をとるアイアンヘッドLG。空を飛んでいたことにより生まれた小さな空間にアルトは滑り込むと敵のコクピット部分でランスガンを構えた。

「これで、どうだぁぁ!」

 弾倉に残っていた鉄球をすれ違いざまに一発残らず全て叩き込む。

 硬いもの同士がぶつかり、どちらかが潰れる音が立て続けに戦場を震わす。ダガーはあまりの衝撃の強さに上空に打ち上げられ、地面に落下すると周囲に砂埃を巻き上げた。

 砂で汚れ切ったアイアンヘッドLGがゆっくりと大地に起き上がる。

「はぁ、はぁ……」

 アルトは荒い呼吸を繰り返しながら機体の損傷状態を確認した。さっきの無茶な操縦のせいで各関節部が悲鳴を上げている。詳細状況を確認してアルトは安堵の息を吐いた。

「……戦闘さえしなければ、何とかシャロ達のところに戻れるか」

 そう呟き戦場を一刻も早く離れようとした瞬間、アルトの背筋を凍り付くような不快感が襲った。直後、後方から攻撃のアラートが響く。

 無意識に体が操縦桿を握り直し咄嗟の回避行動に移る。何かが砂埃の中を突き破って現れる。アイアンヘッドLGの右腕肩関節にそれにぶつかり、機体の腕ごともぎ取って地面を転がった。

 右腕をもぎ取ったもの、それは表面が凹凸(・・)()歪んだ(・・・)()だった。

 震える体で砂埃の立ち込める場所を見つめるアルト。徐々に晴れていく砂煙、その中で真紅の光が不気味に揺れた。

 一陣の風が吹き、ベールを解くように砂埃が消える。傷一つないダガーがその場には立っていた。

「嘘、だろ……」

 ――防がれた。

 死力を尽くした攻撃が全て。

 その事実は次第に体の奥に染み込み、少年の思考を曇らせる。

 ダガーは射撃用の武器を全てしまうと一振りのダガーナイフを構える。そしてアルトの下へと走り出した。

 生存本能が無理矢理にアルトの意識を現実に引き戻す。

 機体を後ろに仰け反らせ、最初の一撃を寸でのところで躱す。続いて繰り出される二撃目。一歩後ろに引かせてアルトはそれを回避した。三撃目に繰り出された突きを躱すと残された左手で殴り掛かる。

「あぁあぁぁ!」

 言葉ですらない叫びと共に放たれる拳。ダガーはそれを空いていたもう片方の手であっさりと掴んだ。ダガーの腕に力が籠る。アイアンヘッドLGの装甲にダガーの指が食いこむ。ギリギリと音を立てながら腕が引っ張られ、関節部が露わになる。ダガーは自身の右手を勢いよく後ろに引くと残された最後の腕をいとも簡単に引き千切った。

 痛みに悶え苦しむ愛機の悲鳴がコクピットでアルトの耳を(つんざ)く。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 収縮を繰り返す瞳孔。視界が赤く染まって見えるのは、そこらじゅうで鳴り響くアラートか、あまりの動揺に充血した目か、それとも目の前で自分を恨めしそうに眺める彼の紅い輝きか。

 文字通り打つ手の無くなったアルトの体は震え、もはや操縦桿に触れることさえできていない。

 鉄クズと化したアイアンヘッドの左手を地面に落とすと、ダガーは得物を逆手に持ち替える。ナイフの切先がコクピットに狙いを定める。直後、青い剛腕が横に薙いだ。

――バギィン!

 アイアンヘッドLGの膝関節が限界を迎え、機体が膝から崩れ落ちる。それにより狙いの外れたナイフはギャリギャリと鉄を抉り取り、アイアンヘッドの頭部を吹き飛ばした。

 アルトの体が外気に晒される。血のような深紅に燃えるバイザーが少年の光を失った青い瞳と重なった。ダガーが逆手に持ったままのナイフを両手で握りこむ。

 決して運命は変わらない。たとえ一度の偶然で命が長らえたとしても、運命から逃れることは叶わない。

『お前は独りで死ぬべきなんだ』

 耳の奥でそう、誰かに言われた気がした。

 ダガーの腕が自分の頭上に持ち上がっていく。その長い腕が限界まで天に掲げられた瞬間、その刃は眼下の敵に振り下ろされた。

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