個性『固めて転がして』   作:ドンファン

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戦闘シーンを何度も書いては消したりしてはこれでいいのか?と自問自答しながらまた消したりと四苦八苦していました。
なかなかどうして難しいですね…


No.2

「おかえりなさーい!何処行ってたの二人とも?」

 

髪や髭から炎を噴き出すヒーローの活躍を映したテレビを見ている王子、黒霧の姿が見えてすぐにそちらに振り向く。

 

「何処でもいいだろ、ガキだって黒霧におねだりして勝手に何処にでも行ってるじゃねーか」

霧から姿を現しながら反論する弔、珍しく身体の何処にも彼のトレードマークとも言える手を付けておらず、普段なら顔には必ずつけている手でさえ外してラフな格好だった。

その素顔には、またヒーロー番組を見ていたのかと怒りに染まっていた。

お世辞にも健康そうとは言えず、唇はひび割れ、目が落ち窪んではいるが血走っている。

 

「個性の勉強の時は黒霧さんにお願いしてもいいよって先生が言ってたもんね」

べーっと舌を出して弔を挑発する。

「弔は勉強してるの?いつも部屋でゲームばかりしてお外にも出てないじゃない」

「あァ!?何だったらテメェの身体で個性のお勉強とやらをやってもいいんだぞガキが」

弔が口角泡を飛ばしながら王子に詰め寄ろうとするが、人の形に収束した黒霧が取り成す。

「落ち着いて下さい死柄木弔。まずは持ち帰った情報を精査する方が先なのでは?」

「そうだ、ガキと遊んでる時間はない。マスコミを使った陽動は上手くいったし才能あるな俺は」

機嫌をなおし黒霧からブリーフケースを奪い取り、中にある書類を取り出し読み始める。

 

その姿を見て黒霧は一息吐き、王子に向き直る。

「星野王子、貴方はもう少し慎みというものを学ばないといけません」

まだ習っていない言葉に首を傾げる王子。

「相手に向かって舌を出したりしてはいけません。と言う事です」

「はーい黒霧さん」

 

先生やドクターから教育を任され、ここ数ヶ月は本当に溜息をつく機会が増えてしまった。

死柄木弔と星野王子、何故この二人は反りが合わないのだろうか…顔を突き合わせれば言い合いが始まりずっと気を揉んでいる。

「それで何処行ってたの?お土産とかある?」

「お土産はありませんよ王子。我々が成すべき事の為に雄英高校へ潜入していたのです」

「何を勝手にベラベラ喋ってるんだ黒霧」

書類を読み終えた弔が黒霧に向かって叱咤する。

「まさかこのガキを使うつもりなのか?喧しいだけで邪魔になるのは目に見えてるだろ」

「しかし彼の個性は一対多を為せる力があり、上手くいけばオールマイトすらも―」

「だとしてもだ。こんなガキの力を借りるのか?俺の脳無さえ居れば…対平和の象徴さえ居ればなんとでもなる」

静かに怒りを顕にする弔、話が見えず置いてきぼりな王子を指差して続ける。

「毎日毎日…今だってヒーローが出ているテレビを見て、これでヒーローが目の前に居たらサインでもせがみ立てに行きそうなもんだろ」

 

 

「えー?サインいらないよ。ヒーローが居るのなら本人が欲しいな、固めて星にして飾りたい」

 

 

その発言に二人は王子を見やる、同時に向いた視線に首を傾げる。

「だってサインより本人のがレアだし、オールマイトのサインなんて何処でも売ってるよ」

「でもエンデヴァーのサインだったらレアかも?でも本人のが欲しいよなー」

 

少しの間置いて弔が腹をよじって笑い出す、黒霧は王子の発言をよく飲み込めていないようだ。

「はははっ!自分で何を言ってるか分かってるのか?少し前にも自然がどうこうとか意味の分からない事を言っていたが、頭がおかしいのかお前は」

やっと笑いも収まり、思考を深めていく。

「はー…殺すじゃなくて飾るか、悪くないな」

 

雄英高校に出掛ける前、先生からオールマイトは弱体化していると連絡があった。

にやりと不敵な笑みを浮かべ、先程見ていた書類に書かれていたカリキュラムを思い出す。

「弱って動けないオールマイトの前に生徒の首を並べたらどんな反応するだろうな」

いかなる時でもスマイルを崩さないオールマイトがどんな表情をするか弔は知りたかった。

平和の象徴を物理的に精神的にも圧し折る事が出来れば、このヒーロー飽和社会はもっとマシになろうだろう、と。

 

「黒霧、頭数を揃える必要がある…チンピラ共を呼ぶぞ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

それから数日後、死柄木弔の呼びかけによって郊外にある廃工場の中に様々な敵が集められた。

異形化の個性か巨大な身体を持つ者、その身体自体が武具や銃器になっている者、各々の個性に応じた得物を持つ者。

姿や思想は違うが彼らの待ち人はただ一人、その時を待つ。

 

 

幾重にも重なったパレットの上に黒い影が広がり、全身の至る所に手を身に着けた死柄木弔が彼らの前に姿を現す、その隣に脳無の姿も見て取れる。

「ついに決行の時だ。我々敵連合が平和の象徴を殺し、この社会を打ち砕く時だ」

 

「お前達には露払いをして貰いたい、オールマイトを殺すのは俺たち…三人がやる」

弔が周りを見渡し雄々しく宣言をする、その姿にチンピラ達が思わずといった様子で歓声を上げる。

「お前達を個性に適した場所へと送る。USJと言って様々な状況…火災水害等の事故現場と山岳や家屋が倒壊したものが設備としてある巨大なドームだ」

「そこに雄英の生徒達を送り込む、お前達はそこで待ち受け生徒を始末し中央にある噴水まで持ってこい。お前らの個性はこっちで把握している、指示通りに行動しろ」

弔が口早に説明する、チンピラ達がざわめきだし緩慢に動き出す。

「無駄口は叩かず段取り良く動け、お前達はもう路地裏に打ち捨てられていたチンピラじゃない、敵連合に所属した(ヴィラン)だ。俺達で平和の象徴をぶっ殺すんだ」

弔がチンピラ達を鼓舞する、その言葉に意気込む者、武者震いを起こす者、元々つるんでいた者同士だったのか小声で話し出す者もいる。

 

 

 

「あまり煽っては焦れ込みすぎる者が出ます、この辺りで」

そう耳打ちしてくる黒霧。

「どうせ有象無象だ、腰が引けて逃げるよりは功を焦って自爆でも何でもしてもらった方が良い」

隣に居る脳無を横目にチンピラ共への辛辣な評価を口にする。

「それよりもあのガキはなんで居ないんだ?さっき四人って言いかけたぞ…あんだけデカい事ほざいたんだ、やれませんとか言わせないぞ」

 

「それがですね…王子なんですが」

黒霧が言い淀む。

「私や弔も専用のコスチューム持ってるのになんで僕のは無いんだ!と駄々をこねていまして…BARで先生が説得中です」

私のはコスチュームではなく私服なんですがね、と言葉が続いていたが弔には耳に入ってこなかった。

 

「…―ッのガキ!」

怒りに震えて上手く口が動かず、首元をガリガリと掻きむしる。

「分かっています死柄木弔。プラン通りに彼らと王子を運び準備させてすぐに戻りますので」

言うやいなや人の形が崩れ霧となり姿を消す黒霧、残された弔が怒りのままに独りごちる。

「あのクソガキ…ちゃんと敵してるのかと思ったら言うに事欠いてコスチュームだと?」

「オールマイトが終わったら次はあのガキをぶっ殺してやる…平和の象徴が居なくなれば用済みで先生も納得してくれるだろ」

 

 

◇◇◇

 

 

「次回にはちゃんと用意してあげるから。もちろんオーダーメイドだよ それでも駄目かい?」

先生の説得は芳しくないようだ、とバーに戻った黒霧は思う。

ドクターがモニターには映らない位置から声を掛ける。

「弔に"お父さん達"が居るのがお気に召さんようじゃの」

「彼にも特別な衣装を拵えてやらんといかんのう、気持ちを盛り上げて貰わんといかん個性じゃし」

 

「王子、いつもの服装…そのフード付きのトレーナーは嫌いなのですか?お気に入りで何着も持ってるではありませんか」

黒霧が説得に加わると先生とドクターは彼のコスチュームをどうするかで話し合い始めたようだ。

 

「この服好きだけど…せっかく敵連合って名前付けてみんなで一緒に行動するんだよ?」

王子が不満そうな顔で黒霧の方にバーカウンターの椅子を回転させる。

「一体感って言うかさ?特別感みたいな?お揃いのTシャツ着るとか手編みのマフラーを皆で付けるとかさ」

黒霧は王子が言わんとする所が何となく分かってきた、思い出にしたいのだ…敵連合が発足したという今日この日を。

「Tシャツは個性によっては着れない方も居るでしょうし、マフラーは暖かい今の時分には貴方も付けたがらないでしょう」

そう言いながらカウンターの内戸棚を開ける、そこから取り出されるは大きめの赤いスカーフ。

「私の私物ではありますがこれを差し上げます。他の方々の為にお揃いのTシャツなどはいらないでしょう?」

そう言いながら王子の首元にスカーフを動くとはためくように巻いていく。

「パーティの主役が輝けばいいのですから」

スカーフをまじまじと見つめ、勢いよく顔をあげる王子。

「黒霧さんの?いいの?ほんとに?ありがとー!」

口早にお礼を言いながら黒霧に抱きつこうとして…転送される。

 

「それではいってまいります先生、ドクター」

そして自身をワープさせていく黒霧、モニター越しに見守るAFO。

「ああ頑張っておいで。弔にも伝えておいておくれ」

 

 

 

王子が転送された先はUSJの内部、倒壊ゾーンと呼ばれ様々な建築物が乱雑に折り重なっている。

「黒霧さんのバカー!顔打ったじゃない!」

倒壊ゾーンに集められたチンピラ達が急にワープしてきて怒っている王子を前に戸惑っている。

「黒霧さん?このガキが生徒ですか?まだ予定時間にゃ早いと思いますが」

「彼は雄英の生徒ではありませんよ。我々の…隠し玉と言った所です」

影が集まり人の形となるとチンピラ達が慄く、やはり敵連合の代表的な人達の個性は凄いと

「彼の個性はやや悠長でしてね、少々準備が必要なのです。さあ王子ここら一帯にある瓦礫を使い大きな球体を作りなさい」

そう王子に指示する黒霧、おでこをさすりながら恨みがましい視線には気がついていない。

「私は弔達を運ぶ準備をしなければなりません。ここに居る皆さんには迷惑を掛けないように固めて下さいよ」

一方的に言いつけ黒霧は去っていく…

 

ぷりぷり怒っている王子を遠巻きに見守るチンピラ達、どうしたらいいのか子供の扱いなぞ勝手が分からないが彼も(なかま)ならば声ぐらいは掛けないといけない。

「あー…準備しろって言われたろ?お前みたいなガキが何するか知らないが指示通りに動こうや?な?」

カメレオンを彷彿とさせる風貌の男が王子に近づき肩を叩く、それが合図となってか王子が飛ぶように立ち上がる。

「感謝のハグをなんだと思ってるんだ黒霧さんめ!スカーフくれたお礼もう言ってあげない!」

 

言うやいなや王子はボールを取り出し、壁に向かって目一杯の力で投げつける。

その急な行動にチンピラ達は驚はするものの子供の八つ当たりだと一笑に付す。

歪なボールだった為にイレギュラーバウンドを繰り返すがチンピラ達に当たりはしなかった。

何度か跳ね返ったボールを片足で止め、王子が部屋の中をドリブルで駆けだし― 部屋から飛び出した。

 

何だったんだあのガキは、本当に敵なのか?これから大仕事が待ってると言うのに気が抜ける…

倒壊ゾーンに居る誰もがガキの奇行に目を奪われ、そこに着いた時にはあった細々とした瓦礫が無くなり部屋が綺麗になってる事には気が付かなった。

 

 

 

「クソッタレめ!あの靄モブ野郎!」

「何処だここは!?散らしてとか何とか言ってやがったがアイツの個性か!?」

そうこうしていると黒い霧のゲートが開かれ金髪と赤髪の子供が出てきた。

コスチュームを着ている所を見ると、この子供達こそが雄英の生徒なのだろう。

さっきまでガキに迷惑させられていたんだ、目の前のガキにその鬱憤をぶつけてやるか…

そう思い、各々個性を発現しながらその二人に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全部か、弱ぇな」

異形化個性の男の顔面とマスクを付けた男の顔面を同時に爆破しながら金髪の生徒、爆豪勝己が周りを見渡しながら言葉を零す。

「っし!早く皆を助けに行こうぜ!俺らがここに居る事からして皆USJ内にいるだろうし!攻撃手段の少ねぇ奴等が心配だ」

マスク姿の敵を己の硬化した拳で打ち据えた赤髪の生徒、切島鋭児郎が気絶した敵を投げ捨て爆豪に返事をする。

 

 

そんな二人を部屋の天井に隅にへばり付き隙が出来るのをひたすら待っている者が居た。

個性カメレオン…擬態を使い、隠れ潜み獲物を背中に突き立てるその瞬間を狙っている。

あの二人は強い、他の連中には悪いが囮になってもらうしかなかった。

既に部屋には動く者はなく、あの二人は顔を合わせ話し始めた。

 

ペチャクチャダベりやがって!その油断が…

背後からナイフで一突きにしてやろう、そう思いナイフを振り上げ忍び寄ったが背中を向けていた子供、爆豪に振り向く事もなく避けられ頭に手を置かれた。

マズい!そう思うまもなく爆破される、襲ってくる衝撃にさっきまで居たガキを思い出す。

隠し玉だが何だか知らないがここら周辺にはもうアイツしか居ない筈だ、あんなガキでもこの状況を打開してくれるなら何でもいい。

「あのガキ何処に…」

 

 

 

 

 

「俺等に充てられたのがこんな三下なら大概大丈夫だろ」

隠れていたモブを爆破しこれ以上ここに居ても意味がない、さっさとあのワープゲート野郎を抑えねばならない。

しかし、あのガキ?ここには俺と赤髪しか居ない筈、他に誰か巻き込まれでもしたのか?

周囲を見渡し残った敵も他の生徒も居ない事を確認し…―感じる違和感。

「つーか、そんな冷静な感じだっけ?おめぇ…」

目の前の赤髪が考え事の最中にふざけた事を抜かしてくる。

「俺はいつでも冷静だクソ髪野郎!!」

ああそっちだと言い、ホッとため息を吐いている、何なんだコイツは。

「…ここはパンフに書いてあった倒壊ゾーンで間違いないよな?」

赤髪に確認の意味で尋ねる。

「バスん中でパンフ読んでたのかよ、ちゃんとしてるな」

「テメェらがバスの中でずっとくっちゃべってるのが悪いんだろうが!」

前もってリサーチするのは当然だろうが!何なんだコイツ等は!

「ああ悪かった、それでどうした?確かにここは倒壊ゾーンな筈だな、あちこち壊れてやがるし」

お手上げとばかりにクソ髪が手を上げて話を戻してくる。

「USJ…雄英はヌルくない筈だ、対人訓練の時の施設もそうだった」

あの時の事は今でも癪に障るが、戦った時の事や他の連中が使っていた施設を思い出す。

リアリティのある建物、朽ち果てた配管に老朽化した機械設備。

それとなく見回す、フロアの中だけでなく廊下の方にも敵が横たわっている。

爆破の加減をし、建物には被害を出さないように戦った…倒壊ゾーンならば衝撃でビルや家屋が倒れてもおかしくはない。

それだけに威力を考慮しつつ敵だけを念入りにぶっ殺した。

そう、だからこのビルには俺の爆破で壊れた所はない。

なのにこのビルはあちこち壊れ、窓は割れ天井にも穴が空いているのに瓦礫一つ落ちていない(・・・・・・・・・・)

 

「一体なんの話だよ」

不思議そうに首を傾げる赤髪…確かに今気にする事ではないな。

「何でもねぇ…じゃあな行っちまえ」

「待て待て、ダチを信じる…!男らしいぜ爆豪!ノったよおめェに!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「♪~♪~」

鼻歌混じりでボールを転がしている王子、少し前まで憤っていた事なんてすっかり忘れ、大きくする事が楽しくて仕方ない。

倒壊ゾーンで集めた瓦礫を順調に固めて転がして徐々に大きな瓦礫を巻き込み始めている。

最初はボールを足でドリブルして転がしていたが今では腕で押し込んでいる。

その大きさ直径で3メートル、バスケットゴールの高さに届かんばかりだ。

 

少しづつ大きく綺麗な球体になっていく様を満足そうに眺める、もっと幼かった頃に夢中になっていた黒光りする泥団子制作のそれに近い。

「そーいやオールマイトが来るとか言ってたっけ」

不意に止まり、やるべき事を思い出した。

倒壊し真っ二つに折れているビルを固めるまで大きくしよう!などと勝手に目標を決めていたが、そんな事をしていては弔や黒霧に怒られてしまう。

 

「すっかり忘れてたなーまずいなぁ…まだ間に合うかな?」

何処だっけ、とボールを転がしながら視野を広げる…見えた、噴水の方だ。

敵連合の皆も居るけど寝っ転がってる…オールマイトにやられちゃったのかな?

オールマイト強いからねー、そんなのほほんとした感想を思いながら転がしていると黒霧さんが金髪のヒーローに抑え込まれている姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷…凄いなぁ最近の子供は…恥ずかしくなってくるぜ敵連合…!」

黒霧を押さえられ、苛立ちを隠せない弔は凍って動けない脳無に奪還の指令を出そうとして…取りやめた。

「脳無、爆発小僧を…さっさと起き上がってオールマイトを始末しろ」

 

黒霧のワープゲートの中で半身を轟焦凍の個性半冷半燃で凍らされた脳無が動き出す。

右半身が凍ったままだが立ち上がる、無理に動き出した為に身体の至る所が崩れ落ちるが意に介さない。

崩れ落ちた矢先、残った身体から異様な速度で盛り上がる骨や肉、筋肉組織で覆われる身体。

数秒もしないうちに脳無の身体は五体満足になった。

警戒したオールマイトが前に出る

「皆下がれ!!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか!?」

「別にそれだけとは言ってないだろう。これは超再生だな」

それを聞き得意げに語りだす弔。

「脳無はお前の100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

「それとオールマイト、実はもう一人居るんだ…お前に対抗する為に集められたヤツが」

 

 

 

 

それは灰色の塊だった。

遠くからゴロゴロと音をたてながら一直線にこっちに向かってくる。

それに気づいた轟焦凍が個性を発動し氷塊を出したが大岩が方向転換し…飛んだ。

近づけば近づく程にその球体の正体は見て取れた。

ほぼコンクリート片で出来ており、至る所に補強材の鉄筋を覗かせておりビルの窓枠などもある。

そんな塊が弾力を持つゴムボールの様に跳ね、着地する。

そんな異質な物体が地面に着地したと思ったらその場で急速に縦回転し始める、その場からは動かないが回転数だけが上がり続け…爆豪と黒霧の方へ解き放たれた。

 

「…いかん!!」

オールマイトが出せる最大速度で爆豪に近寄り生徒達の方へ飛ばす、そしてオールマイトを狙ってきた脳無を迎撃する。

脳無との瞬間の攻防。

その戦いを制したのはオールマイトであったが、転がってきた大岩の対処を見誤った。

 

「DETROIT SMASH!!」

彼は自分の力に自信があった。

平和の象徴として全ての悪意をその拳で粉砕してきたという自負が、この程度の障害物なら砕けると。

しかし彼の目論見通りにはいかなかった。

大岩が砕ける所か拳を振り抜いたと言うのに一切の衝撃も発生せず、それどころか殴った自分自身が拳を突き出したままの姿勢で大岩と転がりだしたのだ。

「why!?」

ショック吸収と呼ばれてた敵、脳無を殴った時にさえ感じた手応えが大岩相手には何一つ感じる事がなかった。

そのまま転がり続ける…何度も身体が地面に激突するが、どういう事か身体には一切の痛みも衝撃もない。

初めての出来事に為す術もなく転がり、噴水の側でゆっくりと止まった。

 

 

「黒霧さん大丈夫?なんか捕まってたねー黒霧さんなのにねー」

ボールの影から王子がひょっこり顔を出し声を掛ける。

「あ、もう大丈夫!私が来た!」

大きく胸を張り腰に手を当てる、オールマイトの真似だろうか。

「そうだオールマイト!生マイト何処かな!?」

マイペースな王子に弔の苛立ちが募っていく。

「クソガキ!今まで何処ほっつき歩いてやがった約束の時間と全然違うじゃねーか!」

「またガキって言った、なんかクソがついてもっとダメな感じになってる」

 

「死柄木弔!王子!話をしてる場合ではありません!脳無を止めて下さい!」

普段冷静な黒霧が大きな声で二人を諌める。

「あァ?予定とは違うがやっとラスボスが罠に掛かって―」

 

これからボーナスゲームだろ、そう言おうとして…脳無がオールマイトに殴りかかり固まった。

遅かった、と隣で呟く黒霧、更に攻撃をしようとする脳無だが身体を少し揺らすしか出来ないようだ。

 

「あー…固まっちゃったねえ」

そう言うと近づいてオールマイトの顔と脳無の拳の接地点をペチペチ叩く。

「しょ、少年!これは君がやったのかい!?」

大きな拳が顔に張り付いてしまい王子を見る事が出来ないオールマイトだが、近くに居る少年が個性の持ち主であろう事はすぐに理解出来た。

「そうだよオールマイト!うわー本当に髪の毛なんだ、ずっと角か何かだと思ってた…あれ?よく見るとコスチューム着てない!レアだね!」

塊にくっついたオールマイトの髪の毛を無遠慮に握ったりYシャツを触りながら嬉しそうにしている。

 

苛立ちを抑えきれない弔は首を両手でガリガリと掻き毟る。

「おいクソガキ。脳無だけ解放しろ、雄英の生徒を始末して貰うんだから」

その言葉にオールマイトは焦る、自分が動けない今あの脳無を止められる者は居ない。

いや居たとしても生徒を危険に晒す訳にはいかない、何とか脱出を試みようとするも足を少し動かせるぐらいだ。

普段なら少しでも動かせるなら個性の力で何とかなるがOFA(ワン・フォー・オール)が発揮されない…これも少年の個性なのか?

それに個性を発現出来ないのなら何故自分はトゥルーフォームにならないのか?

疑問が疑問を呼ぶが今はそれどころではない、なんとしてもこの場を打開せねば…ッ!

「えー?無理だよ弔。そんな器用な事出来ないし、もし剥がれてもオールマイトも一緒に剥がれるよ?」

脳無が生徒達を襲うと言う惨事は少年の発言から実現し得ないとホッとするも問題は解決していないのだ。

「それにせっかくオールマイトくっついたんだからさ!このまま持って帰ろうよ!」

まさか自分自身が拉致の対象になるとは思いも寄らなかったオールマイト。

 

「王子、申し訳ありませんがそれは出来ません…貴方の個性は私も固まってしまいますので」

謝辞を述べる黒霧の隣で苛立ちが頂点に達した死柄木弔が自分の手でオールマイトを始末しようと手を伸ばす。

「―ッ!?いけません弔!」

既の所でワープゲートを使う黒霧、弔の手は近くの噴水を粉砕するだけに終わった。

 

「何すんだ黒霧ィ!」

「落ち着いて下さい死柄木弔、王子の個性は我々の個性の発動よりイニシアチブがあるのです」

説明しつつも球体に近づく弔の間に割って入り、押し留める。

 

 

 

 

それを生徒達が指を咥えて見ている訳がなかった。

爆豪が爆破で飛びかかり、轟は氷で牽制をする。

「どうやらそのクソ球体は触れなきゃいいんだろ!」

中距離を保ったまま爆破を浴びせる爆豪、それに合わせる様に氷の壁を出しボールの退路を塞ぐ轟。

「まずはオールマイトの解放だ、爆豪その子供を狙え」

「命令してんじゃねえ!そんな事は言われんでも分かってんだよ!」

激昂しながらも的確に王子を狙う爆豪、慌ててボールを動かし始める。

「寒いし熱い!凄い個性だね!でもヒーローネーム知らないな、もしかして雄英高校の生徒なの?ヒーローの卵だ!」

口早に相手を褒めながらボールを壁にしつつ後退する王子、氷壁が道を塞ぐが大きさがマズかった。

 

球体によって氷が砕かれ、その破片が球体に幾重にも重なり固まり更に大きくなるボール。

それを見た爆豪が叫ぶ。

「クソ紅白!相手に塩を送ってんじゃねーぞ!」

「塩じゃない氷だ」

「ンな事言ってんじゃねーよ!クソがッ!」

怒り散らした爆豪が勢いそのままに飛び上がり、空中から連続して爆破していく。

「テメェはモヤモブとクソ手野郎に行け!モヤは胴体が弱点!手はクソ球体と同じで触らなきゃ何とでもなる!」

噴水を砕いた瞬間を見逃していなかった爆豪が相手の個性を分析する。

 

確かにこのまま氷で相手するには不利だ、左を使えば球体に巻き込まれる事なく追い込む事が―

いや、左は使わないと決めたんだ。

「相性差があるな…爆豪、球体は任せるぞ」

「ほざけ!もともとこんなヤツ俺一人で十分だ!」

 

 

 

 

「ああああああぁあああぁあああ!!」

身体中を掻き毟りながら弔が苛立ちのままに声を発する。

仲間のガキも!(ヒーロー)のガキも!これだからガキは!

「落ち着いて下さい死柄木弔 確かに脳無は動けませんが残っているのは所詮生徒達」

そう言いながら目の前の赤い髪の少年の攻撃をいなしながら生徒達の前に立ち塞がる。

「…そうだな、そうだよな。平和の象徴の前にガキの首を並べるんだった…その後オールマイトを殺す」

血走った目を顔に張り付いた手の隙間から子供達に向ける。

目の前に立つのは赤い髪と緑の髪の二人だけだ、確かに脳無は強いが元々ガキなんぞ俺の手でも何とでもなる。

「やるぞ黒霧クリアして帰ろう」

気を取り直し黒霧に指示をするが…それは氷の壁で分断された。

 

「てめぇらの攻撃はさっき見た。もやに手を突っ込んで触ってくるんだろ?」

轟焦凍が更に氷を出し、分断と同時に攻撃に転じる。

「轟くん!球体の個性の方に向かったんじゃ?」

緑髪の生徒、緑谷出久が驚いたように振り返る。

「ああ、だが爆豪が一人で十分とか言ってたんでな」

「かっちゃんなら確かにあの球体の個性に優位だオールマイトや怪人すらも身動き取れなくさせる程の個性なら安易に近づいてはいけないし直接の攻撃は愚策だから爆破で追い詰めればいいでもあの球体はオールマイトがDETROITSMASHを放っても壊れる事なく動いていたからあの球体もショック吸収の個性を持ってる可能性が?それに触れる物をくっつけてしまう個性は峰田くんのくっつくボールと似ている様で違う峰田くんのボールは粘着性を持ちあくまでそれそのものにだけ影響するがあの球体のくっつき方はくっつけた物が更に他の物を吸着させる様になってる?そうだとしたら―」

「おい緑谷怖ェし目の前の敵に集中しろって」

切島がブツブツ言い出した緑谷にツッコミを入れる。

「ご、ごめん!でもあの球体は危険だよ!ここがドームで良かったかも知れない。もし野外だったら大変な事になってたかも」

「話はあとだ。敵の危険性を問うより捕まえてしまえばいい」

轟が更に氷を出し牽制するが黒霧には避けられ、弔には崩壊させられる。

「俺が手の方を止める、近づくと危険だからな。お前ら二人はあっちのモヤを頼む」

「う、うん!モヤの弱点はかっちゃんが暴いた!僕らの打撃でもうまく胴体に当たれば何とかなる筈!」

緑谷の言葉を聞き切島が硬化した拳を打ち付けて気合を入れる。

「っし!やるぞ!オールマイトだけに頼ってちゃいけねぇ!俺等もやるんだ!」

 

いざ!と駆け出そうとした所に爆風が届く、爆豪が空から爆撃をしてはいるが大きな球体がこっちに迫ってきている。

「爆豪、球体はそっちで何とかすると言ってただろ」

轟が球体にではなく地面を凍らせ時間を稼ごうとするが速度が落ちる事はなかった。

「うるせェ!噴水やら倒れてるモブ敵を取り込んでから更に大きくなりやがってガキが見えねェんだよ!」

上空から様々な角度で狙っているのにこちらの居場所が分かっているのか、ボールの影から一切姿を爆豪に晒す事はなかった。

だからと言って地面ごと爆破すると土砂すら取り込まれると考え、大規模な攻撃は控えていた。

倒壊ゾーンがやけに綺麗だった理由はコイツか、今更ながら少し前の疑問が解決したがそれどころではない。

 

 

「黒霧さーん!助けてー!」

爆破に追われながらボールを転がしてこちらに向かってくる王子、それのおかげで分断していた氷壁が壊れ、弔と黒霧が合流する。

「よくやりました王子、反撃と行きましょうか」

弔の側に立ちワープゲートを広げ―そこに銃弾の雨が襲い、弔が負傷する。

「っ!!!なんだ!?」

急いでボールの影に避難する弔と黒霧。

 

 

 

 

「1-Aクラス委員長飯田天哉!!ただいま戻りました!!」

USJの入り口に大勢のヒーロー達が現れる、雄英高校きっての教師陣。

その教師のひとり、テンガロンハットを被りドレッドヘアーと外套をなびかせガスマスクで顔を覆ったカウボーイ姿の教師、スナイプが特殊な形状をしているリボルバーで狙撃する。

その射撃はUSJの入り口からだと言うのに噴水のあったセントラル広場は勿論のこと、遠く離れた山岳ゾーンの敵にまで及ぶ。

彼の個性はホーミング、銃弾が届くのであればどんなに遠くても命中させる事が出来る。

 

 

その教師陣のシルエットが弔の目に映り、観念したかの様にため息を吐く。

「あーあ、来ちゃったな…ゲームオーバーだ。クソガキお前が時間に遅れたからだぞ」

「えー?僕のせいなの?ところで弔、腕とか撃たれてなかった?痛くないの?」

「痛えに決まってるだろ、はぁ…帰って出直すか黒霧…」

黒霧がワープゲートを広げようとするとその霧が吸い込まれ始める。

「僕だ…!」

背中をやられ、うずくまっていた13号が片手をこちらに向けて個性であるブラックホールを使用している。

「霧が引っ張られる…!」

 

そんな攻防の最中、13号に向かって直径5メートルは超えた巨大な球体が迫る。

「それ持って帰れないんだってさ、だからあげるよ」

そう言い残し霧の中へ消えていく王子、主が居なくなった球体はゆるりとした速度で転がる。

「くっ!」

外側には敵とはいえ人が、その内側にはオールマイトが居る!個性を止めゆっくりと迫る球体に巻き込まれる13号。

「っ!13号先生!」

切島や緑谷達の声も虚しく、轢かれてくっついてしまう。

しかし押し手が居ないからか、そこで止まる。

 

自由になった霧の中に弔が姿を消す。

「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」

怨嗟の言葉を残し、霧が消滅する。

 

 

 

 

 

敵の主犯格であった者達は消え、戦場であったセントラル広場は静けさを取り戻した。

 

ただひとつ

巨大で不気味な球体を残して―

 

 

 

 

 

 

 




逆に考えるんだ、戦闘シーンを短くすればいいんじゃないか、と言う事でオールマイト登場より更に遅い登場にしました。

途中、冗長な場面もあり無駄に長いだけな感じになってしまいましたが、今後の展開を考えると黒霧との思い出のアイテムが必要になりましたのでねじこみました。
轟くんが虫の居所が悪かったら今回のサイズ感では王子はドンマイコール貰っててもおかしくなかったですね。

追記:鼻歌を削除
配信☓でした。猛省しております。
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