個性『固めて転がして』   作:ドンファン

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色々な用事とイベントが重なって忙しくやっていました。
今後の展開も詰めていたので遅れてしまいました。
あらすじでこの辺りの出来事が五行もないとか当時の自分は一体何を考えていたのか…


No.6

「なるほどね。自分と自分が殺し合う様を見て気が触れちまったと…」

 

とある寂れたBARの一室。

そこには二人の男―義欄と頭から紙袋を被った陰鬱な雰囲気の男しか居ない筈だが、話し声は三人の様にも聞こえる。

「で?その頭は?過呼吸か?」

紙袋の男に向かって義欄が問いかける。

「包んでないと裂けるんだ」「裂けやしねぇよ!」

紙袋の男が自分で言い放った言葉を即座に否定する。

「俺の出した分身はある程度ダメージを受けると消える。そうだな…成人男性だと大体骨折くらいのダメージだ、俺は不安なんだ」「安心するぜ」

彼が語った過去と今の発言で大凡ではあるが義欄は理解した…この男の性分を。

「自分たちで窃盗や強盗を重ね、指名手配と…使い方によっちゃ国を堕とせる個性だ…そんな奴が転落人生とはね」

煙草を懐から出し、愛用の拳銃型ライターで火をつける。

「終わった人間はどうしたらいい」

前も見えない紙袋が今の彼を表しているのか、先の見えない現状を嘆く様に尋ねる。

「信頼される事だ」

煙草を吹かしながら事も無げに言い放つ義欄。

「誰に」

自分でさえ信頼出来ないのに一体誰から信頼される様になると言うのか…そう思っていた。

「仲間にさ…近頃元気な集団が居てな、お前なら必ず必要とされる。大丈夫だ似たような人間は案外沢山居るし、それに―」

煙草のケースを差し出し、紙袋の男に分け与える。

「お前だけじゃないんだぜ、国を傾ける個性なんざ…そこら辺に転がってるもんさ」

 

 

 

 

 

「彼は分倍河原仁(ぶばいがわらじん)。下り坂を転がり落ちてる真っ只中のイカした男さ。彼の個性"二倍"はこれからを見据えるなら重宝すると思うぜ?」

敵連合のBARに顔を出した義欄が隣りにいる防寒用のフルフェイスマスクを紹介する。

「で?顔を隠したままのご挨拶か?醜いとか怪我を晒したくないとかなら、俺達は気にしない」

素顔のままの弔が部屋の隅で斜に構えた態度で見ている荼毘を一瞥してマスクを脱ぐ様に促す。

 

「ずっと素顔ってのは一身上の都合で無理!」「問題ないぜ!」

ほんの少しだがマスクを脱ぎ、顔を晒す。

「俺は分倍河原仁…トゥワイスだ!よろしく頼む!」「頼んじゃいねーよ!」

短く刈り込まれた金髪は逆立ち、額に傷はあるものの精悍な顔立ちである。

言い終わる前にマスクをつけ、大きく息を吐く。

「あー…別につけっぱなしでも問題はない、一度顔を見たかっただけだ」

察した弔がこれ以上彼の素顔を…精神的な問題を詮索するのを止めた。

 

「僕は王子!マスクかっこいいね!それってコスチューム?僕のもそろそろ届くって先生が言っててね楽しみなんだ!」

馴れ馴れしく近寄り、出してもいない手を勝手に握手しだす王子にたじろぐトゥワイス。

「なんだこの子供は!?」「宜しくな!」

「あー王子くん自分だけズルいです、私はトガヒミコって言います!」

「そうだ!歓迎会やろうよ!ヒミコお姉ちゃんと荼毘の時出来なかったし!」

 

弔と出掛けてから以前の様な明るさが帰ってきた王子。

それだけではない。弔にも大きな変化があり、黒霧としては順調に事が運んでいる状況は芳しく思う。

「王子、貴方は何かと理由を見つけてはパーティがしたいだけですね?」

そう一言添えると、はにかんだ笑顔で黒霧を上目遣いをする王子。

 

敵連合(ここ)ならやっていけるだろう…)

王子とトガヒミコがトゥワイスに詰め寄り、賑やかに自己紹介をしてる姿に義欄がかすかな笑みを浮かべる。

「何でもいいが手数料は頼むよ黒霧さん、トゥワイスだけじゃねえ…もっと色々と連れて来るからさ」

今ビッグネームと交渉中なんだ、と黒霧に語りかける―

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「やーっと来たにゃん」

 

のろのろと森から出てくる生徒達を見てピクシーボブが間延びした声で迎える。

山間にあるワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのホーム、マタタビ荘の前で5人の男女が首を長くして生徒達の到着を待っていた。

「お昼抜くまでもなかったねえ」

朝の9時半から行われた抜き打ち訓練である魔獣の森踏破は既に午後の5時を過ぎ、太陽が山へと沈もうとしていた。

 

「何が三時間ですか…」「腹減った…死ぬ」

生徒である瀬呂範太と切島鋭児郎が口々に不平を鳴らす。

「悪いね、私達ならって意味なのアレ」

プッシーキャッツの一人、マンダレイが悪びれもせずに笑顔で言い放つ。

「実力差自慢の為か…」

肩で息をする砂藤力道がぼやくと一人のヒーローが生徒の前に出て仁王立ちになる。

 

「ま、私なら3時間どころか30分も掛からないけどね!」

綺羅びやかな金髪、目元だけを覆うマスクと一体になった一対の角がその金髪から覗かせる。

身体のラインがくっきりと浮かび上がるピチピチの白のタイツの上から紫のコスチュームやブーツを身に着けた女性ヒーローMt.レディがドヤ顔で決める。

 

「Mt.レディ!デビューからまだ2年も経ってないけど怒涛の活躍と熱烈なファンからの需要で人気が鰻登り!その個性"巨大化"は都市部では二車線以上の幅が必要だけど圧倒的な大きさで敵に立ち塞がる姿は頼もしさも相まってよく写真に撮られてネットを賑わしている!巨大な身体から繰り出す必殺技のキャニオンカノンが売りのビッグなヒーロー!」

疲れ果て、服も泥だらけになっている緑谷出久の顔が輝き、現れたヒーローをのべつ幕無しに説明をする。

その説明にクラスメイト達は慄いてる一人を除いていつもの事かと傍観している。

 

「あら?よく知ってるわね、君のような子がうちに職場体験(きて)くれれば良かったのに」

緑谷の説明に気を良くしたMt.レディが更なるドヤ笑顔になって調子に乗る。

「違ぇよ緑谷…お前はあれの本性知らないだけだよ」

緑谷の後ろから峰田実がこそっと耳打ちするが、その姿をレディに見咎められ萎縮する。

 

「Mt.レディ、その辺で…全員バスから荷物を降ろせ、部屋に置いたら食堂にて夕食その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ、さァ早くしろ」

担任の相澤消太が場をとりなし移動を促す。

「ごめんなさいイレイザーヘッドさん、今は相澤センセの方が良いのかしら?」

「どちらでも結構です…ミッドナイトと確執があるのは知っていますが、根津校長直々の仕事として合理的に割り切って頂きたい」

踵を返し建物へと去っていく相澤。

「何だか面倒そうな性格ね…生徒の世話もしないとだし、コネの為とは言え雄英の仕事受けるんじゃなかったかなぁ」

緑谷がマンダレイの甥っ子に陰嚢を殴られ悶絶する姿をのんびりと眺めながらそんな感想を漏らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄英高校最高だわ!いやワイプシに感謝すべきかしらね?」

食事の前にMt.レディが一人でマタタビ荘にある露天風呂を満喫していた。

「ホームに温泉を作るなんて贅沢よね…マンダレイもピクシーボブも肌綺麗だったし、私も戻って温泉付き事務所を開く…でも地元だとチャート上がらないだろうし…むむむ」

そう考えていると脱衣場から生徒達がやってくる。

 

「夕餉の席でお見かけをいたしませんでしたが先にお風呂を頂いていたのですね」

自分と同じか…いや、それ以上あるやも知れぬサイズの持ち主から声が掛かる、高校一年であの発育はまさに暴力。

他の生徒もそれを理解しているのか、視線の先がみな一緒だ。

「えぇとクリエティだっけ?まだ名前全員覚えてないのよ」

「はい!クリエティ…八百万百と申します。一線で活躍をなさってるMt.レディさん…良かったらお話を聞かせて頂けませんか?」

ヒーロー名で呼ばれ嬉しかったのか、プリプリと全身で喜びをアピールしている…これがヒーローとなったら手強いライバルになりそうね、とレディは揺れる胸元を見て戦慄する。

 

身体を洗い、掛け湯を済ました女生徒達がレディを囲む様に温泉に入ってくる。

「若手の中でもガンガン活躍してるレディさん、とても尊敬してます。良かったら人気のとり方とか教えて貰えます?」

耳たぶが個性でジャックになっている少女、耳郎響香が控えめに聞いてくる。

「人気ねえ…と、その前にあなた達が来たって事は―」

レディが男性用の露天風呂を隔てる壁に向かって声を張り上げる。

「グレープジュース!分かってんでしょうね!?」

壁の向こうで盛大に誰かが転ぶ音が聞こえる…

「返事は!」「ハイ!」

間髪入れずに返事を返してくる峰田実(グレープジュース)に女生徒達がざわめく…

 

「人気のとり方より峰田の扱い方教えて貰えますか?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「なんで!?なんでなのさ!意味分からないし先生も間が悪すぎだよ!」

 

敵連合のBARは今までとは違う賑わいを見せていた。

トゥワイスを始めとした、個性豊かな仲間がやってきた。

そして襲撃決行となり、各々の為に作られた専用のコスチュームが黒霧の手によって運ばれて来たのだ。

入りたての者にはただのガスマスクや拳銃等の既製品とも取れる物が、中にはただ顔を隠すだけの仮面しか渡されていない者もいた。

予てからコスチュームを熱望し、今か今かと待っていた王子についに専用のコスチュームが届いたのだ。

皆でのお出かけも楽しみにしていた―その矢先に。

 

「王子…盛り上がってる所心苦しいのですが、貴方は先生からの呼び出しがあって林間学校には行けませんよ」

円筒形の何かに抱きつき、喜びのあまり頬擦りしていた王子におずおずと黒霧が告げる。

最初は何を言っているか飲み込めず固まっていたが、少しづつ理解して…絶叫ともとれる発言へと繋がる。

 

 

「何でも新しい脳無の為に力を貸して欲しいとの事で…そこでトゥワイスの個性で王子を二倍にして頂き、コピーを襲撃に向かわせると相成りました」

その言葉を聞き、勢いよく弔の方を振り向く王子。

「今回の襲撃はずっとお前に黒霧をつけさせる訳にはいかない…いざとなったら一人で逃げ切る事が出来るか?いや出来ない」

王子が何か言いたそうな視線を無視してつらつらと述べる。

「何より先生の要請だ、良くして貰ったろ?たまには恩返ししてこい」

先生、と言われるとぐうの音も出ない…コスチュームも今しがた貰ったばかりだ。

「採寸するから早くコスチューム着てくれ!」「ゆっくりでいいぜ!」

腕に付いた巻き尺を伸ばしながらトゥワイスが囃す。

 

 

 

「裏のデザイナー・開発者が設計したにしては…だいぶ見た目に寄ってる気もするけどね、性能は大丈夫なのかな」

支給されたガスマスクを被り、詰襟学生服姿の少年と言っても差し支えない人物―マスタードが自衛用の拳銃の感触を確かめながら王子を見ている。

「その長い筒は何なのさ?僕のボンベとは違うみたいだけど」

王子が抱えてるライトグリーンの円筒を見ても何の用途のコスチュームなのか検討もつかない。

 

「これマスクなのさ!なんか色々機能がついてるみたいだけどそれは知らない!」

マスクと言い放った異物を水平にして丁度真ん中にあった窪みに頭を突っ込ませる王子。

抱きしめていた為よく見えていなかったが四角い顔と一本のアンテナがついていた。

王子が頭を入れた途端にその顔が生きているかの様に動き出す。

その瞳は瞬きし、喋る度に口が動く…かなりデフォルメされた顔だ。

 

「何だよその面白フェイスは!イカスぜ!」「クソダセェ!」

全身をピッチリとしたタイツで身を包んだトゥワイスが笑い転げる。

「ンだよ、俺なんかマントと仮面だけだぜ?それでいいからくれよ王子」

カウンターで酒を瓶のまま呷るように飲んでいた大男―血狂いマスキュラーが欲しくもないコスチュームを強請る。

 

「あげる訳ないじゃん!マスキュラーももっと早くお願いしておけばよかったのに、ちなみにどんなコスチュームがいいの?」

取られまいと残りのコスチュームも急いで身につけながら返事をする王子。

「あー…特に要望はねぇな?俺は義眼(コイツ)がありゃいいし」

私物である義眼のいくつかをポケットから出してカウンターに並べる。

「うわー綺麗な目がいっぱいだね!いいな!欲しいな!」

全てを身に着けた王子がカウンター席によじ登りマスキュラーの義眼を眺める。

「ハハハ!やらねぇよ!そのヘンテコマスクと交換とか言い出すなよ…うっわマスクもスゲェが服もスゲェなそれ」

その服はマスクと同じライトグリーンで前も後ろもなく、ボタンもジッパーすらない…つるんとした末広がりな寸胴鍋を思わせる。

腰から下は紫のレギンスで凄まじい色合いであった。

 

「良いなあ…王子くんのコスチューム可愛いです」

トガヒミコが自分用のコスチュームを見なかった事にしたいのか、収納ケースをそっと閉じながらため息を吐く。

「カワイイヤッター!」「え?可愛いのかこれ」

手早く採寸を終わらせたトゥワイスがジロジロと王子を眺める。

 

「何だいみんなしてさ!ヒミコお姉ちゃんだけだね!僕のセンスについてこられるのは!」

四角い顔の表情が怒った顔のようなものに表示を変える、おそらくマスクの中の表情と連動しているのだろう。

「そうだトゥワイス、試しに僕を出してみてよ!こーゆーのは第三者の目っていうのが大事なんでしょ?」

「誰が見ても同じだっての!」「任せろ!」

即座に個性を発動させるトゥワイス。

腕から出た流動体が形を成し、色が付き…もう一人のコスチュームを着た王子が現れた。

 

「へー!これが僕!うーんコスチュームカッコいい!」

「もちろん僕だからね!(きみ)もよく似合ってるよ!」

「えへへーありがとう!」

 

王子と王子がお互いに褒め合い、称え合う…そんな光景を見て、今まで沈黙していた荼毘が遂に口を開く。

「何だこれは?地獄か?トゥワイスお前の個性は地獄を作り出す能力か?」

 

辟易した顔でこの騒ぎを眺めていた弔が号令を出す。

「時間だ…開闢行動隊」

室内の空気が変わる。

「王子以外は派手な事はしなくていい…今回はあくまで狼煙だ、虚に塗れた英雄たちが地に堕ちる―その輝かしい未来の為のな」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あれぇおかしいなァ!優秀なハズのA組から赤点が五人も!?B組は一人だけだったのに!?おっかしいなァ!!」

部屋に入ってきたA組の面々を見て物間寧人が自身も補習の身ではあるが、スーサイド煽りを炸裂させる。

「ほんと面白いわこの子。あ、これA組の分ね」

プリントを今来た生徒達に配布しながら物間の精神性を素直に感心しているレディ。

「いやいや、あれは病気かなんかですよレディさん」

「昨日も全く同じ煽りしてたぞ…」

プリントを受け取りながら瀬呂と切島がレディの感想に噛み付く。

 

イレイザーヘッドとブラドキングが今日の補習の内容を相談していると―プッシーキャッツ・マンダレイの個性"テレパス"が全員の脳内に響く。

『皆!敵二名襲来!他にも複数いる可能性有り!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても決して交戦せずに撤退を!!』

テレパスを受信し、Mt.レディを見るイレイザーヘッド。

だが彼女もまた動揺を隠せない様子…シロか?

「ブラドここを頼んだ、俺は生徒の保護に出る…Mt.レディは一緒に来てくれ!」

即座に走り出し屋外へと出たイレイザーヘッドが見た光景は…満天の星空を隠すような黒煙と燃え広がる火災。

 

 

「心配が先に立ったかイレイザーヘッド…邪魔はよしてくれよプロヒーロー、用があるのはお前らじゃない」

急に横から声をかけられ―青い火炎がイレイザーヘッドを飲み込むかの様に襲いくる。

咄嗟に2階の手摺に特殊合金を縫い込んだ布を絡ませ回避する。

「まァ…プロだもんな」

奇襲を躱されるのも当然、といった面持ちの荼毘が二発目の火炎を繰り出そうとして―

「出ねえよ」

手摺を利用して軒先で静止し、個性"抹消"を発動しながら荼毘へと襲いかかる。

空中で繰り出される捕縛からの打撃、そして抑え込みの流れる様な一連のアクションにレディは感心する。

(個性を消すだけの後方支援だと思ったら…やるじゃない、流石は雄英の先生って事ね)

 

遠くから何かしらを破砕する音が響く、それと同時に何人かの生徒達が現れイレイザーヘッドの気がそれてしまう。

一瞬の隙をつき逃げ出そうとする荼毘だが未だに拘束され個性で睨まれたままだ。

「流石に雄英の教師を務めるだけあるよ、なあヒーロー…」

拘束している布を引っ張ると…荼毘の身体が裂ける。

「生徒が大事か?守りきれるといいな…また会おうぜ」

身体が崩壊し大地へと崩れ落ちる。

(さっきの発火が個性じゃないのか!?)

困惑するイレイザーを横目に少し広くなってる玄関先へと躍り出るレディ。

「イレイザーヘッドさん!私が出ます!」

巨大化したレディがその上背で周囲を確認する。

見えるは火災と…火災とは違う煙、そして砕かれる崖…音の元凶はあれか。

「まず崖に向かい交戦してる敵を倒し、その後に破壊消火を!」

即座に駆け出すレディ。

彼女の本気の速度は時速200kmを優に超え、その巨体から生み出される風圧は周囲への被害が出る程だ。

「まだ生徒が何処に居るか分からん!森を移動する時は細心の注意を払うんだMt.レディ!」

一歩毎に速度が増していくレディに向って大声で注意喚起をするイレイザーヘッド、何とか声が届き速度が緩まる。

 

「な、なんだよあの女…映えしか気にしないんじゃないのかよ」

職場体験に行った峰田が彼女の即断即決を見て、普段とは違いすぎる雰囲気に恐れをなす。

「若いとは言え彼女もプロヒーローだ、成すべき事は分かってる…性格に難ありだがな」

火災に向って走り出すイレイザーヘッド。

「お前らは中に入ってブラドの指示に従え、すぐに戻る」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(やっぱり交戦していた!)

拳だけでいくつもクレーターを作り出している敵…あの緑髪は確かデク、マンダレイの甥の洸汰くんを背負って逃げ回っている。

速度を上げて更に近づく、不自然に両腕が垂れ下がり身体中に怪我負っている…それでもやれる事をやろうとする姿勢は流石雄英の生徒だ。

「人命救助が最優先!よくやったわデク!」

敵の意識をこちらに向ける為に叫ぶ、その巨体から発せられる声に木々が揺れる。

 

「なんだ!?ありゃあ…プロヒーローじゃねえか!ホント何処にでも現れやがるなヒーローって奴ァよ!」

大男の敵がこちらを意識した、思惑通りだ。

「知ってるぜテメェ!Mt.レディだな!?俺と同じで色々ぶっ壊してるヒーローさんよォ!」

筋繊維が身体を覆う様に肥大化していく、あの個性は手配書にあった血狂いマスキュラー!

 

「一緒にされても困るわね!アンタがマスキュラーならぶっ飛ばしてビルボードを駆け上がる階段にしてやるわ!」

「ほざけ!そんだけデカいならさぞかし血が流れてるんだよな!血ィ見せろや!」

 

更に加速し飛び上がる―

「キャニオンカノン!」

今までとは比べ物にならない程の破壊音、崖が峡谷(キャニオン)へと変わる。

「ワイプシの私有地とか言ってたわね…国有地じゃなくて良かったわほんと」

土地の心配をしてしまう程の威力が出てしまった、やはり広くて走れる環境のが―

 

「破壊力はあるが…思った通りデカいだけだな、動きがなっちゃいねぇよ」

壊れた崖の上から声が掛かる、そこには無傷のマスキュラーがこちらを見下ろしていた。

「個性におんぶにだっこってか?そんだけデカいと誰も抱っこ出来ないだろうけどよ!」

嘲笑いながら筋肉を肥大化させていく。

「悪いがこちらは速さもあるんだよ!」

崖から飛び出しこちらの顔を狙ってくるが―

 

「バッカじゃないの?個性におんぶにだっこ?当然じゃない今日日格闘技なんて流行らないわよ」

個性解除、その瞬間身体は普段の162cmまで縮小する。

「速さがご自慢らしいけど飛んだらダメでしょ、自由に飛べる個性でもないのに」

拳を突き上げる様に構え、タイミングを図り―個性を使う。

2062cmのサイズまで膨れ上がる身体、そして拳がマスキュラーの身体に突き刺さる。

そして上空に吹き飛んでいくマスキュラーをジャンプして掴み、地面に叩きつける。

 

「それにしても顔狙うなんてサイテーね、大事な商売道具なのよ!」

 

 

 

 

土埃がはれ、筋肉達磨だったマスキュラーが人の形で横たわっている。

身動き一つしないその姿にデクは違う意味の心配をしてしまう。

「この程度で死ぬほど軟じゃないわ…無事でもないでしょうけどね、拘束する物持ってない?」

巨大化を解いたレディがデクの側に寄ってくる。

「す、す、すいません持ってないです!た、助けて頂きありがとうございます!」

慌てて頭を下げてお礼を言うが、負傷した両手も垂れ下がってしまう。

よく見ると腕だけじゃない、裂傷や打撲など身体の至る所が傷つけられている。

 

「…身体を張って洸汰くんを守ったんだから、もっとシャンとしなさい」

そう言って顔を上げるよう促すレディ。

「私達はヒーローなのよ?どんな時でも映える様にしなきゃ」

ウィンクしながら決めポーズを取るレディ。

 

この日、二人のヒーローが出水洸汰の心を打った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

同時刻

 

「本当に彼らのみで大丈夫でしょうか?」

王子をAFOの元へと送り届けた黒霧がカウンター席に座って一枚の写真を見ている弔に話掛ける。

「俺の出る幕じゃない、ゲームが変わったんだ」

黒霧の方へと向き直し、言葉を続ける。

「今まではRPGでさ、装備だけ万端でレベル1のままラスボスに挑んでいた…やるべきはSLGだったんだよ。俺はプレイヤーであるべきで使えるコマを使って格上を切り崩していく…王子はさしずめマップ兵器かな」

近づいてくる黒霧に身振り手振りを交えて語りだす。

「その為にはまず超人社会にヒビを入れる。開闢行動隊の奴等は成功しても失敗してもいい…そこに来たって事実がヒーローを脅かす」

 

「捨てゴマですか…」

弔の発言に黒霧が相槌を打つ。

「バカ言え!俺がそんな薄情者に見えるか?奴等の強さは本物だよ。向いてる方向はバラバラだが頼れる仲間さ…ルールで雁字搦めの社会、抑圧されてんのはこっちだけじゃない」

黒霧から視線を外し、手元の写真を見やる―そこには体育祭で一位を取ったにも関わらず拘束され、口枷まで付けられた爆豪勝己の姿があった。

 

 

「彼らの成功を願っているよ」

 




Mt.レディの活躍ばかりでタイトルに偽り有りですね。
次回は頑張って転がしてくれると思います、申し訳ありません。

現在のデクくんですが、そこまで強化されていません。
USJ襲撃時のオールマイトが見せたPlusUltraが発生してませんのでマスキュラー本気戦の時は逃げ回っていました。
でもレディが居なくとも土壇場で解決しちゃいそうですねデクくん。
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