個性『固めて転がして』   作:ドンファン

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投稿しようとしたらいつの間にかログアウトされていて、本文が消えて慌てました。
テキストにバックアップ取っておいて良かったな、と思う今日此頃です。

追記
少し描写を増やしました。
後書きにて説明を増やしました。


No.7

「良かった!イレイザーヘッドさん!ちょっと待って!」

 

 

火災が広がりつつある森へと駆けるイレイザーヘッド。

呼び止める声が頭上から聞こえる…上を向くと木々の合間から個性によって巨大化したMt.レディが姿を表す。

その大きな手は片方は優しく包むように、もう片方は握りしめて誰かを輸送している様だ。

「怪我人と民間人の保護、それと敵の拘束をその首の布でちゃちゃっとお願いします」

 

怪我人…その姿を見てイレイザーヘッドの険しい顔がより一層険しくなる、緑谷出久だ。

「おい…」

「先生大変なんです!敵の目的はたぶん―いえ、明確に僕ら生徒を狙っています!それだけじゃなくって!とりあえず僕マンダレイに伝えなきゃいけない事があって…洸汰くんをお願いします!水の個性を持ってます!守ってあげて下さい!」

「おいって…落ち着け、こんな状況だからこそ頭を冷やせ」

レディから降ろされ、今にも駆け出しそうなデクを窘める。

「戦闘と怪我とでハイになってるな?…洸汰くんと敵は預かるがお前も来い、その怪我では足手まといだ」

「まだ動けます!僕は―」

「それ以上何か言うのなら除籍処分とする…自身を顧みろ、何が出来ると言うんだ?」

食い下がるデクに冷徹に言い放つ。

「合理的じゃない、伝える事があるのなら…Mt.レディ頼めるか?」

 

マスキュラーを握ったままのレディへと視線を向ける―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本気ですか!まだ仮免も取ってないんですよね!?」

「やむを得ないだろう生存率の話だ。それに既に緑谷が戦闘をしてしまってる、後で処分を受けるのは俺だけでいい」

伝言の内容にレディは狼狽する、生徒に戦闘を許可するなんて余りにも突拍子もない話だ。

 

 

「ここで議論するだけ時間の無駄だ、合理的じゃない」

もう話す事はないとばかりに拘束した敵を引きずり施設へと歩きだすイレイザーヘッド。

「Mt.レディ!マンダレイは洸汰くんの居場所が分からずに心配してました、無事を伝えて下さい!それと敵が言ってました、狙いはかっちゃん…爆豪勝己と!」

自分の怪我も顧みずに必死に頼み込むデク、その横で心配そうに見ている洸汰。

そんな二人を励ますようにウィンクしながら軽口を叩く。

 

「こんな状況じゃワイプシも損害請求はしてこないだろうし、派手にやっちゃうから!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あーんもう近い!アイテム拾わせて!!」

(此奴…我のキャットコンバットを読んだ動きを…ッ!)

敵連合のマグネとプッシーキャッツの虎が激しい拳の応酬を繰り広げる。

互いに肉体派であり、オカマとオナベ…負ける訳にはいかない戦いがここにある。

 

 

そしてすぐ側でもう一つ戦いが行われている。

スピナーとマンダレイ…こちらの戦いは打って変わって消極的だ。

スピナーが数多の刃物が一つとなったスーパーナイフソードを振るい、マンダレイがそれを避ける。

個性テレパスで何度か意識を逸らそうとするがその分だけ攻撃が激しくなっていく。

「全くしつこいわね!」

「しつこいのはお前だニセモノ!とっととシュクセーされちまえっ!」

大きく後ろへと跳躍するマンダレイ、それを好機とみてスピナーが得物を振って飛び掛かり―

 

 

マンダレイの頭上を大きな足が通り過ぎ、スーパーナイフソードを粉砕する。

「あっぶな!ベテランの先輩足蹴にする所だったわ」

軽口を叩きながらマンダレイを踏まない様に後方へと下がる。

「ピクシーボブなら心は18歳って反論してる所ね、助かったわレディ!」

頼もしい新人の登場に余裕が出来、軽口を返す。

 

 

「マンダレイさん伝言がいくつかあるわ、まずは洸汰くんなんだけど―」

 

 

 

 

 

「さっきの派手な音はこの巨娘のせいね!?マスキュラーったら負けるだけじゃなくて情報まで漏らしちゃって!ダメな男、世話が焼けちゃうわ!でもダメンズも嫌いじゃないわよ!」

虎の攻撃をいなし、素早くスピナーの側へと駆け出す。

「スピナー!この場で男がアナタしか居ないの、使わせて貰うわね!」

言うが早いがマグネの個性"磁力"をスピナーに付与する。

「な、何をするんだ!?マグネやめろ!」

その個性の範囲内の者は男がS極、女がN極の磁力を発する様になる。

 

 

「くっつけるのは何も王子ちゃんだけの専売特許って訳じゃないのよ!」

磁力で地中に含まれていた砂鉄がスピナーやマンダレイの身体に付着し始め、二人が磁力によってぶつかり合う。

「うぐぐ…!引き剥がせないっ!なんでこんな奴と抱き合わないといけないのよ!」

「離れろ不潔尻軽女め!マグネ!俺をどうしたいんだ!?」

 

 

「マンダレイさん敵と抱き合うなんて都会だったらキタコレですよ」

向かい合って抱き合う形で地面を転がる二人を茶化す。

「貴様っ!そのトカゲとは仲間ではないのか!?仲間を道具に使うとは何たる外道よ!」

すぐに助けに入りたいがマグネの磁力の強さは既に学習済み、それ故に近づく事が出来ないで居る。

 

「勿論仲間よ!だからこそ信じてるんじゃない、成し遂げてくれるって!」

じりじりと虎と間合いを取りながら、少しづつではあるがレディの方へと向かうマグネ。

「俺をトカゲと呼ぶんじゃない!俺はてめえら生臭ヒーローとメガネ君を粛清しなきゃいけねぇんだ!」

「意味分からない!それと耳元で怒鳴らないでくれない!?」

トカゲと呼ばれた事に激昂したスピナーがマンダレイと抱き合ったままに叫ぶ。

 

 

「入った、左に飛んでスピナー!」

半径4.5m。それが彼女の個性の範囲、そしてその範囲の中にあるMt.レディの両足へと磁力を付加する。

何の事か分からないが信じてると言われては飛ぶしかないと腹をくくるスピナー。

その瞬間マンダレイとの磁力が解け、自由になったスピナーが身体をバネの様に弾ませる。

その跳躍はスピナーが思った以上の速度でMt.レディの足元へと引き寄せられ―両足が閉じる。

「!?潰れる!」

迫る両足を見てしまい思わず目を閉じて身構える。

あわや潰される…と思われたスピナーへの磁力を解除し、今度は弾かれる様に足が開いていく。

 

「あー!?虎さん!避けて避けて!」

「ぬおおおおおっ!?」

磁力によって勝手に動き出した足にバランスを崩され、突然の事で個性解除が出来ずに虎を下敷きに倒れてしまう。

 

「やったわ!スピナー逃げるわよ早く立ちなさい!」

「に、逃げるのか!?俺はまだステインの意思を、彼の夢を―」

「気持ちは分かるけどあんな大きい相手私達じゃどうにもならないわ!殿に任せましょ!」

まだ立ち上がりきっていないスピナーのマフラーを掴み全速力で走り出すマグネ。

 

「っ待ちなさい!」

逃すまいと起き上がったマンダレイだが磁力を付与され倒れたレディと反発し、真横へと吹っ飛ぶ。

「そこはまだ範囲内よ!追撃は勘弁してあげるわ、チャオ!」

捨て台詞を残し、二人は森へと走り去る。

 

 

 

「虎さん!大丈夫ですか!?咄嗟に腕はついたんですが、その、胸が大きくて」

全身で潰す事だけは回避したものの、結局はその巨体故の胸で押しつぶしてしまった。

心配してそっと状態を起こしたが地面には虎は居なかった。

「うむ、大事無い。しかしレディ、受け身の一つぐらいは覚えておいた方がいいぞ」

虎の個性"軟体"その身体は靭やかに、そして薄く平らにも出来る。

 

そんな個性を使い、レディの胸の谷間からにゅるりと出てくる。

「な、な、なんて所から出てきてるんですか虎さん!」

「ぬうう、逃げられてしまったか。敵があの二人組だけではあるまい、早く皆を救い出せねば」

逃げ出したであろう方向を睨みつけ、次なる行動を考える様に腕を組む虎、だが場所が悪い。

「ぬう、じゃないですよ!早くどいて下さいって!セクハラですよ!」

 

 

「二人とも何してんのよ…」

茂みへと飛ばされたマンダレイが身体に小枝やらが引っかかったまま戻ってくる。

「虎はピクシーボブを連れて一度マタタビに戻って、それとMt.レディ貴方の力が借りたい…肩に乗せてもらえるかしら」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お茶子ちゃん腕大丈夫?」

茂みからの奇襲を受け、左腕を切られてしまった麗日お茶子を庇う様に前に出る蛙吹梅雨。

「ん!んー…浅い少ない!」

切りつけてきたナイフを眺め、何やらよく分からない言動をする―敵。

「急に切りかかって来るなんて酷いじゃない、何なのあなた」

 

「トガです!二人ともカァイイねぇ!麗日さんと蛙吹さん」

意外にも素直に名を名乗り、そして名字を言い当てられ動揺する二人。

情報が割られているこの状況は不利だと刹那に判断する。

「それとお茶子お姉ちゃん!王子くんがあなたの事欲しいって言ってました、でも今回は一位の人が狙いなので諦めてがっかりしてました。一緒に敵連合に来ませんか?」

 

 

 

お茶子はその言葉に以前モールで出会った男の子の事を思い出す。

人懐っこくて、笑顔が可愛くて、自分の事を心配してくれた…テロリストの少年を。

あの後、警察の事情聴取で判明した事だが保須市に現れた個性犯と同一人物であり、その経緯を聞き―戦慄した。

 

彼の個性…仮名"塊"

根津校長曰く。その個性を放置すれば全てを巻き込み、世界すら滅ぼしかねないと言う。

その類稀なる個性が敵の手にあり、そして行使された。

車両35台、信号機等の公共物7基を巻き込み転がり、エンデヴァーによって食い止められたが――死者18名、重軽傷を含めると被害は60余名に及ぶ。

そんな事件を起こしておきながら、あの時の彼は笑顔を向けてきた。

目の前の彼女もマスクで口元を隠しているものの、王子同様に笑顔なのだろう。

「それとも私が貴女になれば王子くんは満足してくれるかな?」

肩の機械の一部を取り外し、襲いかかってくる。

 

「お茶子ちゃん」

個性"蛙"の梅雨が長く強靭な舌で負傷したお茶子を投げ飛ばす。

「施設へ走って。戦闘許可は倒せじゃなくて身を守れって事よ、相澤先生はそういう人よ」

「梅雨ちゃんも!」

 

「もちろん私も…つっ!」

屈んで反動をつけ跳ぼうした矢先、お茶子を投げる為に伸ばした舌を切りつけられる。

「梅雨ちゃん…梅雨ちゃん梅雨ちゃんっ!カァイイ呼び方です、私もそう呼ぶね」

「やめて、そう呼んで欲しいのはお友達になりたい人だけなの」

跳躍し草むらへと飛び込むがトガが持つ装置を投擲され、木に髪が縫い留められてしまう。

「やーじゃあ私もお友達ね!やったあ!」

縫い止めた梅雨へと駆け寄り急接近する。

「血ィ出てるねお友達の梅雨ちゃん!カァイイねぇ血って私大好きだよ」

 

「梅雨ちゃんから離れて!」

拘束してるトガへと飛びかかり、反撃されるも身につけた格闘術で返り討ちにする。

「梅雨ちゃんベロで手!拘束!出来る!?痛い!?」

「凄いわお茶子ちゃん…ベロは少し待って」

舌を器用に使い、トガが放った装置を取り外そうとしている。

 

その間、力で取り押さえようとして―

「お茶子ちゃん…貴女も素敵、私と同じ匂いがする。好きな人が居ますよね」

地面に抑え込まれた時にマスクが外れ、こちらを横目に見てくる。

「そしてその人みたくなりたいって思ってますよね、わかるんです乙女だもん」

(何言ってるの……この人…)

誰も知らない筈の心情をさも当然の様に語りだす敵、余りにも突拍子もない発言に心が騒ぐ。

「好きな人と同じになりたいよね当然だよね同じもの身につけちゃったりするよね、でもだんだん満足出来なくなっちゃうよねその人そのものになりたくなっちゃうよねしょうがないよね貴女の好みはどんな人?王子くんはお茶子ちゃんの事好きみたいだよ?私は血の香りがする人が好きです」

恍惚とした表情で一気に語りだすトガ、友達との語らいに嬉しさが溢れんばかりだ。

 

「だから最後はいつも切り刻むの、ねえお茶子ちゃん楽しいねえ!恋バナ楽しいねえ!」

発言に気を取られ、注射器の様な装置を太ももに刺されてしまう。

「お茶子ちゃん!?」

未だ拘束が解けない梅雨がお茶子の心配をする。

その時、近くの藪から幾人のクラスメイトが姿を表す。

「麗日!?」

「障子ちゃん!皆…!」

 

その声に反応してしてしまったお茶子がトガへの抑え込みが緩んでしまい逃げ出される。

「人が増えたので殺されるのは嫌だからバイバイ!」

去り際に振り返り、お茶子へと話しかける。

「そうそうお茶子ちゃん、王子くんも来てますので会ってあげてください」

 

あの子も来ている。

いつ?何処から?もっと情報が欲しい、その為にも逃す訳には―

「危ないわどんな個性持ってるかも分からないわ!」

駆け出そうとするお茶子を拘束が解けた梅雨が制止する。

 

 

「何だ今の女…」

轟焦凍が逃げ去った女への率直な感想を零す。

「敵よクレイジーよ」

「麗日、蛙吹、怪我をしてる様だが立ち止まってる場合ではない。爆豪を護衛しつつ施設へと向かうぞ」

障子目蔵が二人を気遣うつつも前進を促す。

「…ん?」

「爆豪ちゃんを護衛?」

やってきた三人…障子、轟、そしてB組の円場の姿しかない。

 

「その爆豪ちゃんはどこにいるの?」

来た道を振り返る。

この非常時に油断する人間なんている筈がなかった。

それでも爆豪と常闇の姿は―ない。

 

 

 

 

「俺のマジックで貰っちゃったよ、こいつ等はヒーロー側に居るべきじゃない…もっと輝ける舞台へ俺達が連れて行くよ」

 

樹上から男の声が聞こえる。

その声が聞こえるまで姿はおろか気配さえ感じさせずに…

「何者だ貴様!」

障子が円場を背負い直し、男へと向き直す。

「通りすがりのエンターテイナーさ、頭に元が付くけどな」

羽飾りの付いたシルクハットに顔を隠す為の仮面だけでなく、頭部をすっぽり覆うフェイスマスクまで身につける念の入れよう。

ロングコートにステッキを持つといった一昔前のマジシャン、といった風体であった。

 

「どけ!」

轟が障子へ忠告しつつ極大の氷をぶつける。

「おぉっと!悪いね、俺ァ逃げ足と欺く事だけが取り柄でよ」

軽口を叩きながらもアクロバットな跳躍で難なく氷を捌く。

「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!予定通りにこの通信後五分以内に回収地点へ向かえ!」

そう宣言した男は木々を滑る様に飛び移り、逃走を図る。

「させねえ!絶対に逃がすな!!」

轟が吠える。

あらん限りの力を使って更に氷を生み出し、身体に霜がつき始めているがお構いなしだ。

 

「君たちヒーローは諦めるという事を知らない、候補生すらね…だからグランドフィナーレを用意してあるんだ」

自称エンターテイナーが氷を回避しながら空中で器用にお辞儀をする。

「お待たせラストダンサー!一人きりのカーテンコールだけど見事に勤め上げてくれよ!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「そろそろ通報のあった地点だ、夜間の為に地表と黒煙の視認性が悪い。煙に巻かれて山に激突なんてしたら暫くはヒーローの代わりに俺達がニュースのトップになるな」

空中消火が主となるスーパータンカー仕様C130の機長がスクランブル発進のせいか緊張している副操縦士に発破をかける。

「やめて下さいよ縁起でもない。そうならない為に嫌って程訓練したんですから…」

少しナイーブになっていたが、くだらない冗談を愚痴で返すぐらいには立ち直った様だ。と機長が軽く笑む。

「前方一時方向、山向こうに黒煙発見…進入方向を間違えたな、次回は迂回出来るルートへフライトプラン変更を―」

機長が管制塔へと連絡を入れ次回からのルートを打診してるその時。

 

山が動き出した。

 

「機長!?前方のや、山が!山が!」

「VR!操縦桿を引け!」

消火剤をつめた機体は重く、思うように上昇はしないものの動き出した何かとの接触は避けられた。

「なんですかあれは!?」

「…通報には敵が起こした火災だという事だ、もしかしたらあの山は敵の個性かも知れないな」

副操縦士が慌てふためいているが、冷静に眼下を睨む機長。

「まずいな、あんなのが居るんじゃ消火活動なんて出来やしないぞ…頼むぜヒーローさんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…飛行機行っちゃう飛行機」

山と呼ばれたそれは、その殆どが原生林で構成された球体―王子の個性だった。

「やっとコンプレスさんから連絡来たけど、もう眠いよねー…」

誰が聞くでもない愚痴を一人零しながらのんびりと転がす。

開けた所にある施設、マタタビ荘に向かえと言われたがそこに行くまでずっと木しかない景色に飽きてきている。

大きな欠伸をしながら、やっと山を超えて施設が見える位置へと辿り着いた。

火災だったり割れた崖だったりと敵連合が好き勝手に暴れたであろう痕跡が目立つ。

 

「なんでみんなと来たのに一緒に居られないんだろ、コピーだからって扱いがぞんざいなんじゃないのー」

寂しさや疎外感を感じつつ目標へと転がす。

モチベーションが上がらないのか、はたまた眠いだけか、その速度は非常にゆっくりとしている。

「僕は今頃先生の所か。いいなー新しい脳無、荼毘みたいに専用の子貰えたりしてるのかなー」

自分で自分を羨んでいると、急に脳内に誰かからの声が聞こえる…とても不思議な感覚に目が冴える。

 

『敵連合のプリンスくんね?君に興味があるの、よかったらお話しない?』

「誰?まあ暇だったしお話してもいいよー」

『それとごめんなさいね。この声は一方通行だから返事されても返せないの、だから今から言う場所へと来て欲しいな』

一方的にまくし立ててくる声に眠気はなくなったものの、面倒くささを感じ目標へと速度を上げる。

「終わったらそっちに行くよーって聞こえてないんだっけ?」

 

急に速度を上げた為か謎の声が慌てた様子で語りかけてくる。

『ちょ!ちょっと待って!麗日お茶子!お茶子ちゃんが居るよ!』

足を止め、聞こえる声に耳をそばだてる。

「お茶子お姉ちゃん!?やった!お姉ちゃんの個性使って…木ばっかりだなー木製だけに木星とかになるのかなアハハ」

お姉ちゃんが居るのならばあの時の約束を果たして貰おうと思ったものの…この塊はつまらない。

どうしようか逡巡し、それでもやって貰おう。そう決めて声が言っていた場所へと向かう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

時は少し遡り、シルクハットの男を追う場面。

追いかける生徒達を見つけたMt.レディとマンダレイ―その時、背後から大きな地響きが聞こえる。

「な、何よあれ…私よりデカいのが動いてる…」

振り返り、自分より高い遮蔽物が無い為に全体像が見えてしまった。

山の向こうから非常にゆっくりとした速度で施設を踏み潰さんと迫りくる球体。

今から急げば施設が潰される前には辿り着けるだろうが―足元を確認する余裕はない。

施設付近はまだ見つかっていない生徒がいるかも知れない、そんな中走って潰すような事があってはならない。

「Mt.レディ!マンダレイ!あの個性の持ち主を知っています!」

足元にいつの間にか居た生徒、麗日お茶子が届くように大きな声で呼びかける。

「知ってるってどーゆー事!?私よりデカい個性なんて見た事もないわよ!」

縮小しお茶子へと詰め寄るレディとマンダレイだが、さらなる報告に頭を悩ます。

 

「常闇と爆豪が拐われました…っ!」

「くそっ…俺が居ながら」

障子と轟が絞り出す様な声で現状を報告する。

(どうする!?どっちを優先し対処すべきか…っ!)

マンダレイが悩んでるとお茶子が皆に提案してくる。

「っ!私とマンダレイさんならあの球体を足止め出来ます!皆は誘拐犯を追って下さい!」

 

 

「迷ってる場合じゃない…あんたらの担任なら合理的じゃないって言うでしょうね、行くわよ三人とも!」

両手に轟と障子、そして肩に蛙吹を乗せたMt.レディが誘拐犯へと走り出す。

「サッと行ってサクッと奪い返して!そんであのデカいのをぶっ飛ばして…あんの鼠の校長ここまで見通して私に打診したの!?絶対に報酬上乗せしてやる!」

怒りとも恨みとも取れる言葉を遺して走り去るレディを見送る二人。

「さあやるわよ!あんだけ啖呵切ったんだから期待してるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫りくる球体。

森を不自然に固めたそれは、もう大きさを推しか計ることが出来ない。

「そ、その威勢よく言ったはいいものの…近づいて来るのを見るととんでもない迫力で…ははは」

お茶子が震える声で返事をする。

施設から逸れ、狙い通りに誘導出来たが…対面するとあまりの大きさに現実感が無くなる。

「円場くんは置いてきてあげれば良かったかな、この状況なら地面で寝かせても文句言わなかったでしょうし」

静かな寝息を立てる円場を背負いながら、しまった…と顔を顰めるマンダレイ。

「これからどうするの?私達でどうこう出来る相手じゃないわよ」

 

「…お話して時間稼ぎです、Mt.レディが来るまで」

「まあそうなるわよね、でも聞く耳を持たずにこっちに来られたらどうするの?」

引きつった笑いではあるがお茶子がマンダレイに微笑む。

「そこは大丈夫です…彼、プリンスくんはとても敵とは思えない子ですから」

 

ついに球体が目前へと辿り着く。

その大きさで月明かりが遮られ、辺り一帯に丸い影を落とす。

「お茶子お姉ちゃん!久しぶりだね!そっちのお姉ちゃんは…わかった!ワイプシのマンダレイだ!」

そんな暗い場所に似つかわしくない陽気な声が降ってくる。

球体の上から少年が落下してくる、あの高さなら普通無事では済まないのだろうが…衝撃も何もなくスーパーヒーロー着地を披露する。

「じゃーん!どう?かっこいいでしょー!僕だけ塊に乗ったり降りたり出来るんだ!」

これだけ近いと上を見ても天辺まで見る事は出来ない、それだけの高さを飛ぶ事が出来る…彼の個性がそうさせるのか?

それにしても凄い格好だ、横に伸びた頭や四角い顔…二つの意味で面食らう。

 

「っ!だいぶ規格外の子供みたいね…雄英を襲ったとかいう脳無って奴かしら」

「分かりません、でも脳無だとするのなら…いくつか説明出来ない部分もあります」

こそこそと話し合う二人に警戒心も無く話しかけてくる。

「何の話してるの?そいやさっきの声ってマンダレイでしょ!確か個性テレパスだったよね!テレパスしてみて!」

そう言いながら耳を塞いでワクワクした顔でマンダレイを見ている。

『…この距離ならテレパスじゃなくてもいいじゃない、普通にお話しましょ』

「凄い!頭の中に聞こえる!耳塞いでも聞こえるんだ!」

満面の笑みを浮かべてはテレパスは他にどんな事は出来るの?と聞いてくる。

 

「プリンスくん何だか凄い格好してるね、その服はどうしたのかな?」

お茶子が余りにも奇抜な服につっこみを入れたくて仕方なかった。

「これ?いいでしょー!先生が作ってくれたんだ!デザインは僕だよ!」

コスチュームに関わる事を延々と自慢を続けている間にマンダレイに耳打ちする。

「こんな感じで幼いと言いますか、敵としての意識と言うものを持ってないんですよ」

「…もしかして襲撃犯の事とかも喋ってくれるかも知れないわね」

 

子供を利用するのは気が引けるがそんな事を言ってる場合ではない、少しでも情報が手に入ればそれだけ対策も取りやすくなる。

「今日一緒に来た人達の事教えてくれるかな?」

マンダレイの目が鋭く輝く、猫の瞳が如く。

「そうそう一緒に来たんだけどさ!ずっと一人だったんだよ!酷いよねー!みんなは仲良く一緒に行動してるのに僕だけ遠くからスタートだよ?コードネームつけてもらったのは嬉しかったけどさー」

聞きたい事は一切話さずに取り留めのない話を続け、適当な相槌を打つも頬をひくつかせるマンダレイ。

 

『ほんとに子供なのねこの子…何で敵連合に居るのかしら。私が聞くよりお茶子ちゃんのが適任かも、聞いてみてくれない?』

テレパスでお茶子へと話しかける。

お茶子も聞いてみたいと思っていたのか視線を合わせ大きく頷く。

「そいやプリンスくんはなんで敵連合に居るの?…まず敵連合って分かる?」

言葉を選びながら尋ねる、もしかしたら騙されているだけかも―

「?なんでって家だからだよ?お出かけしたら敵連合(うち)に帰るなんて当たり前じゃない」

 

帰属意識がある…洗脳の類か、もしかしたらもっと幼い頃から教育されていたのか。

まだ止められるかも知れない!ヒーローが保護すれば彼を救えるのかも!

そう思いお茶子は王子へと更に追求する。

誰しも踏んではいけない地雷があるとも知れずに。

 

「じゃあ何でこんな事してるのか聞いていい?ほら、こんなに大きなの転がしたら危ない(・・・)よ?」

 

その発言を境に王子の雰囲気が変わる。

「…お茶子お姉ちゃんも大人たちと同じ事言うんだ、もういいよお姉ちゃんの個性使ってよ」

 

その余りの変貌ぶりにマンダレイが円場を放り出し確保へと動くが、王子には届かない。

そのまま転がり出した塊に巻き込まれてしまう。

「マンダレイさん!」

咄嗟に声を掛けたがこのままでは次は自分の番―

急に腕を捕まれ地面へと引っ張り倒される。

何事か!と身構えるよりも早く、下に居た円場硬成が個性"空気凝固"を使う。

彼の個性は呼気を固定化し、見えない障壁を作り出すと言うもの。

強度に難があるが倒れている二人に張られた障壁の上を球体が転がってゆく。

 

 

「ゲホ…し、正直ダメかと思った…」。

「円場くん!意識戻ったんやね!」

「派手に地面に叩きつけられたな、身体中が痛ェ…だけどそのおかげで目が覚めたぜ」

目覚めてすぐに潰されそうになってるのは予想外過ぎるが、と呼吸を整えながら立ち上がる。

「麗日、何がどうなってるか説明が欲しいけどそんな余裕ねえな」

まだ意識が朦朧としているが何とか立ち上がり通り過ぎた塊を見ると球体が逆回転を始め戻ってくる。余りの大きさに横に避ける事も出来ない。

「また固めてみるけど…ダメでも俺を恨むなよ!」

大きく息を吸い―別の巨大な影が二人を覆う。

 

 

 

「キャニオンカノン!」

迫る球体へと巨大な人影が飛び掛かる。

その蹴りは崖を砕き、ビルをも両断するが…球体は壊れなかった。

弾ける様に塊が木々を巻き散らかし、少しだけ跳ねて後退する。

レディの方は無事では済まず、大きく吹っ飛ばされる。

「けろ!あれは…っ!」

レディの肩にくっついていた蛙吹が空中で翻弄されているマンダレイを見つけ、咄嗟に飛び降り舌を巻きつける。

しかし塊が通った後、そこは草木一本も生えてない状態でありこのままでは落下は免れない。

 

「梅雨ちゃん!こっち!」

お茶子の声に反応しマンダレイごと舌を伸ばし、浮いてきたお茶子の個性"無重力"で速度を落とし軟着陸出来た。

「助かったわ二人とも…お茶子ちゃん大丈夫?」

「く、訓練の成果が出て…オロロロロ」

感謝を述べるマンダレイだが、心配が上回るお茶子の容体。

乙女が見せるべきでは…男でも見せるべきではない物が口から止めどなく溢れる。

 

「蛙吹さんだけ来たの?他の皆は?…あの二人は?」

お茶子の背中をさすりながらマンダレイが尋ねる。

「レディが走っても私なら振り落とされないから一緒に来たの、他の皆は後から来るわ…常闇ちゃんと爆豪ちゃんは…」

あまり表情をださない蛙吹の顔が曇る。

「ごめんなさい、本当は私達プロヒーローがやらなきゃいけない事なのにね…」

 

もう一人のプロヒーローが今も塊へと吶喊している。

倒れては立ち上がりまた倒れては、と何度もそれを繰り返す。

白かったタイツは全身が汚れ、打ち付けたのか鼻血を出してはいるものの闘志は失っていない。

「どうした!掛かってきなさいよ!」

声は勇ましいが既に足にきている様でファイティングポーズのまま動けていない。

だが彼女の奮闘により塊は今やMt.レディと同じ上背となり、周囲には固められていた木々が散乱している。

レディが動けないと分かるとその塊も停止し、天辺に王子が現れる。

「マウントレディ!僕大ファンなんだ!だから君が欲しいな!君が居ればもっと素敵なものになると思うんだ!」

突然に敵からの告白に呆気にとられるヒーロー達。

「いくら私が人気があって美人でも子供に手を出したら犯罪になんのよ!」

鼻血を拭いながらドヤ顔でMt.レディが答える。

 

(そこまでは言ってない気がする!)

心の中でお茶子がツッコミを入れていたら巨大な塊がいまさら重力を思い出したかの様に崩れ始める。

「ハァハァ…デカいだけあって移動が早すぎる、よく時間を稼いでくれたレディ」

「イレイザーヘッド先生!」

全速力で走ってきたようで肩で息をしながらも個性を発動し髪が逆立っている。

「目立つ格好で天辺に居てくれたのは僥倖だな、付近に居る者は離れろ!崩れるぞ!」

個性"抹消"彼の視線に射抜かれた者の個性を止める。但し発動型や変形型に限る。

その言葉がきっかけになったのか木々が雪崩となって周囲へと襲いかかる。

 

たまったものじゃないのは天辺に居た王子だ。

何故か個性が解け、不安定となった塊の上で何とかバランスを取ろうとするがどうにかなるものではない。

「えー!?何でボール無くなっちゃったの!?あー…落ちるかなこれは」

諦めにも近い感情でマスクの表情も穏やかになる。

自由落下に身を任せて、短い走馬灯が脳裏をよぎった時―巨大な掌が彼を救い出す。

「何諦めてんのよ!こんだけ暴れておいてお仕置き無しとか許さないからね!」

Mt.レディが怒りの形相で転がってくる木々を掻き分け、怪我を押してでも王子を助ける。

 

大きな手で包まれる―その感覚にとても懐かしい気持ちが溢れてくる。

(いつかどこかでこんな事があったような…よく覚えていない…ううん、もしかしたらこれが初めてなのかも知れない)

非常時だと言うのに王子は安らぎを覚えてしまう、優しくも厳しい誰かを思い出して。

「…ママ?」

「誰がママよ!まだ結婚もしてないってのに」

 

先程の告白と言い、突拍子もない発言ばかり言い出す敵に思わず後ずさってしまい―足元に転がっていた木を踏んで後ろへ転んでしまう。

掴んだ腕を胸元に引き寄せ何とか衝撃を与えない様にしようとするも、コピーの王子にはそれだけで致命傷だった。

地響きをあげて倒れる、慌てて手元を見るが謎のドロッとした液体だけが残されていた。

「キャー!つ、潰しちゃった!?そんなに強く握ってないわよ!?」

「よく見ろ本物なら赤い血液の筈だろ、それに原型が無くとも身体は残されてる…くそっ厄介な個性だ」

慌てふためくMt.レディを宥める様に説明をするイレイザーヘッド。

 

「レディは例の塊に巻き込まれた人が居ないか木の片付けを頼む。生徒達は密集して施設へと向かう、警戒を怠るなよ」

その場に居る全員へそう伝え、周辺の被害を見る。

施設からここまでの原生林は見る影もなく地表が現れており、一部は火災で焼け落ちている。

遠くから幾多の緊急車両がサイレンを鳴らして近づいてきているのが聞こえ、空では既に飛行機隊が空中消火を試みている。

 

 

夜明けはまだ遠い―

 

 




いつも以上に書き散らかしています。
自力のなさがひしひしと…時間が欲しいですね。
まあ時間があってもその分書き散らかすのに使ってしまうのでしょうが。

追記
作中でももっと説明すべき王子の個性ですが、なかなか触れる事が出来ずに申し訳ありません。

塊がある状態で王子が出来る事(No.7の時点
王子ジャンプ・塊の大きさ問わずにその天辺へと飛ぶ、また塊から地面へとダメージを負う事なく落下出来る。
王子ダッシュ・その場から動かずに塊を回転させ急発進する。
王子ターン・素早く回り込み速度を落とさず方向を変える。
王子ルック・ゲーム中では三人称視点から一人称視点に変更ですが逆にして、パッシブ化しております。


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