個性『固めて転がして』   作:ドンファン

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せめて週一で更新したかった…
そういえば塊魂アンコールのプレオーダーが始まりましたね(ダイレクトマーケティング


No.8

都内にある神野区の寂れた裏通り。

空きビルが連なり街の中心部から然程離れておらず、人通りは疎らである。

夜ともなると街灯の灯りしかなく、聞こえる繁華街の喧騒も何処か遠くの出来事のようだ。

打ち捨てられ、手入れもされてない為に草むした廃倉庫…そこは脳無格納庫と化していた。

その最奥に諸悪の根源、最古最悪の敵―AFOが幾つもの管を身体から生やし、鎮座している。

 

「先生、王子を連れて参りました」

乱雑に積まれた荷物を避ける様に黒い霧が室内に発生する。

暗く、広くはないその室内に場違いな明るい声が響く。

「せんせー!こうして顔合わせるの久しぶりだね!怪我の具合どう?からだ大丈夫?」

全身をライトグリーンのコスチュームで固め、赤いスカーフをつけた王子が霧からぴょこんと現れる。

「ははは!僕に顔は無いよ王子、身体の調子は一進一退って所さ」

大きめのリクライニングチェアが回転し、AFOが王子へと振り向く…その顔は瞳も鼻も耳さえも無く、大きく開かれた口だけであった。

「おや?その首のスカーフはコスチュームにはなかったよね?」

「来る前に僕と(コピー)を見分ける為につけたのさ!アイデンティティだね!」

最近トゥワイスから覚えた英語をドヤ顔で言い、見せびらかす様にスカーフをはためかせる。

 

「この場合インディヴィジュアリティの方が正しいと思いますよ王子、それでは先生行ってまいります」

「ああ…開闢行動隊の成果、楽しみにしているよ」

AFOと挨拶を終え、そのまま姿を消す黒霧に何か言いたそうな顔をした…何かを言い出す王子。

「んもー!じゃあそのインディ?って方でいいよ!黒霧さんのいじわる!」

消えた黒霧にむかって舌を出して…すぐに引っ込める。何か思う所があったようだ。

 

「急に呼び出してすまないね、楽しみにしていた林間学校だと言うのに」

「確かにあっちの僕が羨ましいけど…先生が僕にお願いなんて初めてじゃない?いつもお願い聞いてもらってるし、今度がこっちの番だよね」

少し悩んだ素振りであったが笑顔を向ける、その笑顔が頼もしくも恐ろしいものだとAFOは思う。

 

(君に掛かれば僕も固められてしまうんだろうね…僕にも好意を向けてくれるなんてね)

マスク越しではあるが頭を撫でると笑顔が更に溶ける、四角い顔ではもう描写出来ないようだ。

「わざわざ来て貰ったのは君の個性の事でね…おいで脳無」

その声に応じて暗がりから巨大で猟犬の様なシルエットが姿を表す。

その身体は黒、そして体毛はなく大きな顎には口枷がついており…背中から大きな腕が何本も生えていた。

「わぁー!ワンちゃんみたいな脳無だね!なになに!?ネホヒャンみたいに僕専用の脳無!?」

やってきた脳無へと駆け寄ると尻尾を振り回し、口からは涎が止めどなく垂れ流れる。

 

「君にあげたい所だけどまだ試作段階なんだよ…他の脳無の様に様々な個性を組み合わせたんだけど"王子の個性"だけがどうにも発揮してくれなくてね?その為に色々と工夫して身体とか作ったんだけど、これじゃどうにもならないと思って君を呼んだのさ」

AFOは自分でも試しにボールを出現させようとしたが…出来なかった。

個性の全体像は掴んではいるし出来る事もやれる事も分かっているが、(ボール)を出現させる事は叶わずに終わった。

(発動にも条件あるとはね、実に複雑でユニークな個性だよ)

「僕の個性も持ってるの!?凄いや先生!ワンちゃんと一緒に散歩に行きたいなあ!」

流石は個性の大先生!とばかりに尊敬の眼差しを向ける。

「そこでだ王子…君が先生となって脳無に個性の使い方を教えてあげてくれないかな?」

そう言われて顔が輝き出す…比喩ではなく本当に発光し始める、マスクの顔表示システムの賜物である。

「僕が先生…!頑張るよ!って言ってもそんなにやる事ないと思うんだけどね」

伏せている犬脳無の背中を撫でながらのんびりと答える、生えていた腕は引っ込められた様だ。

 

 

 

「ボールを出す時はね、思いをありったけを出すんだ!大事なのは気持ちだよ!」

根性論とも感情論ともとれる言葉を握りこぶしと共に語りかける。

一切説明になっていない発言ではあるが、王子の言葉に反応し尻尾を千切れんばかりに振り回し…大きな球体が目の前に現れた。

その球体は王子の身長より高く、表面は凹凸がなく滑らかで赤と白のマーブル模様だった。

「よーしよし!簡単に出来たじゃないか!流石は僕の生徒だね!」

犬脳無へと抱きつき頭も背中も撫でまわす。

もっと撫でて欲しいのかお腹を見せてきて、それに答えるように更に撫で回す王子。

 

喜びを分かち合う一人と一匹を眺めながらAFOは静かに背凭れに身体を預ける。

(気持ちか…彼の個性からして気持ちの具現化と言っても過言でない、忘れていた訳じゃないけど…今の僕には分かっていても使えそうにないな)

長年OFA(ワンフォーオール)と戦い続け…オールマイトとの死闘を経て、表舞台から去った自分はもう枯れてしまっているんだなと自嘲を込めて一息つく。

 

「にしても大きなボールだねー…僕のより大きいや」

撫でるのが一区切り付いたのか、改めて自分の個性を見ている様だ。

「…もしかして王子、君もこれぐらいは出せるんじゃないのかい?」

少し前から黒霧が言っていた、王子の立ち上がりの遅さについての提言。

対処療法としてドクターが提案した風船製造マシーンで幾つも風船を作り、最初期の核へと纏わせると言った方法が取られていた。

今回の林間学校でもコピーの王子に持たせている筈だが…

 

「ほんとだ、大きいのだせるね!知らなかったなー」

ちょっとした気づきでその問題も解決された。

「先生と生徒と言うのは一方的に教えるだけではなく、互いに学び、薫陶を受けるものさ」

さっきの僕みたいにね、と心の中で付け加える。

「まだまだやる事は多い、少しばかり手伝って貰うよ王子」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「っ!?ここは何処だ…この光は…個性の対策はされていると言う事か」

投光器がいくつも設置され、その中央に居る人物へと煌々と照らしている。

意識を取り戻した少年―常闇踏陰。

開闢行動隊が一人、シルクハットのエンターテイナーMr.コンプレスが彼の強さを見初め、独断で拉致したのだ。

その強さたるやムーンフィッシュを意に介さず一蹴し、森の一部をその豪腕で削り取った。

 

彼の個性"黒影(ダークシャドウ)"

自身の影が実体化し、意思持って自由自在に動く―そう、この個性には意思がある。

暗闇であればある程にその影の力は歯止めがかかる事なく強化される。

逆に言えばその個性の性質上、光に滅法弱く無力化は安易だった。

 

「これがコンプレスが言っていた子か、見た目も異形化の個性ならば二重個性の持ち主と言う事になるね」

投光器の向こうから近寄ってくる声が聞こえるが眩しくて姿は視認出来ない。

「…何者だ」

「僕はAFO、君たち若者には知名度が低いかな?」

「敵連合の手の者か…っ!」

目を細めるもその姿はやはり見えない。

「まあそんな所だよ。実を言うと君はイレギュラーでね?処遇をどうしようか考え、僕にお鉢が回ってきたんだ」

常闇が意識を失う前の事を思い出す、テレパスで言われてたのは爆豪が狙いだと。

「爆豪はどうした?殿を務めていた俺を拉致しても仕方あるまい」

「勿論爆豪君にも来てもらっているよ、僕の所じゃなくて他で説得中さ」

 

「説得?…口説き落として敵にでも寝返らせようとでも言うのか」

そう言葉にし、一笑に付す。

「貴様らはあの男の事を理解していない、確かに粗野で粗暴な振る舞いをするが…その心には正義を宿している」

説得しているのならば無事であろう…クラスメイトの安否を知り、次はこの状況を脱する方法を模索する。

「そうかも知れないね。だけど考え、実行し、それで失敗したとしても次を考える。そのプロセスが大事なんだ」

失敗すら織り込み済みとでも言うのか、気軽く話しかけてくる。

「少々お喋りが過ぎたね、最近よくお喋りする子と一緒に居たから僕までそうなってしまったかな」

一歩、また一歩と近づいて来ている様だ。

「それじゃあ僕の用事も片付けてしまおうか」

投光器を避けて迫りくる、常闇に男の影が落ち―

 

黒影(ダークシャドウ)!」

個性を発動した筈だが…(ダークシャドウ)の返事はない。

「ふむ?ダークシャドウ?…なるほど、この個性には意思があるのか。複雑な個性、そしてその異形化の個性と言い…個性特異点は遠くないようだね」

「何を言っている!?貴様っ!俺に何をした!?」

個性が使えなくなり、眼の前に居る仮面の男が自身の個性を言い当てる。

考えたくもないが―いや、そんな事が出来ると言うのか。

照らされ続けたせいか、脳裏を過ぎった予感からか全身から汗が吹き出る。

 

そして告げられる、考えうる最悪の―

「すまないね、君の個性は貰ったよ…ああ異形化(そっち)はいらないや」

 

常闇に背を向けて立ち去る、残った本人には興味もないと言わんばかりだ。

「ナンダ!?誰ダ!?フミカゲハドウシタ!?」

「始めまして黒影くん、君に提案があるんだけど聞いてくれるかな?」

AFOを名乗った男は自分の個性を使い、現れた黒影と話始める…自我はそのままの様だが自由には動けない様だ。

「待てっ!黒影を返せ!黒影!」

「フミカゲ!ナンデ俺達ガ離レテルンダ!?フミカゲ!」

「何も今生の別れと言う訳じゃない、近いうちにまた出会えるさ…僕との出会いは君の福音となる筈だよ」

黒影に言い含めながら歩き去る…少しだけ常闇の方を見やり―

「もう光はいらないね…消しておくよ。久しぶりに一人になれるんだ、寛いでいるといいよ」

消灯され、男の気配も消えた。

 

 

一人残された常闇、廃倉庫に静寂が訪れる。

幼い頃から共にしていた黒影の気配が無くなり呆然とする。

「俺は…俺はどうすれば…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…良い判断だよ死柄木弔」

モニターの向こうでは敵連合を前にして爆豪が啖呵を切っていた。

「やっぱりダメかー、フミカゲの言ってたとおりだね」

AFOの座っているチェアの背凭れから顔出してモニターを見ていた王子が画面の向こうに居る皆に話しかけた。

しかしその言葉に反応したのは弔達ではなく、爆豪だった。

「もう一人は知らねェが…その声聞き覚えがあるぞ、USJン時のクソ球転がしてたガキだな?鳥頭をどうした!?」

「鳥さんなら寝てるよ?先生が念の為に残しておこうって」

一緒に捕まっていたが姿が見えなくなったクラスメイトの所在を聞きだそうとしたが間に立っている弔がそれを許さない。

「黒霧、コンプレスまた眠らせてしまっておけ」

「ここまで人の話聞か―」

 

突然モニターの電源が落ち、大きな破砕音が聞こえる。

「あれ?停電?もっと見てたかったなー…先生知ってる?体育祭のカツキって凄かったんだよ!」

ただでさえ暗い廃倉庫の中、モニターの明かりが消え光源がなくなったというのに意に介さずお喋りは止まらない。

「どうやら来客の様だ。それも大勢とは夜分に不躾だね…王子、着替えておいで」

 

 

 

 

 

 

 

「うえぇ~これが脳無、キモいけどさっさと拘束しないと…ちょっと移動式牢(メイデン)まだぁ!?」

「新人、そっちの瓦礫の下の脳無も頼む。移動式牢が来るまではこちらで拘束しよう」

倉庫の壁をぶち抜き、突入したヒーローMt.レディとベストジーニストが周辺に散らばった脳無達を手早く拘束していく。

 

「ツクヨミよ!ラグドールよ!返事をするのだ!!」

「拐かされた生徒とチームメイトか!息はあるようだな…もう一人の生徒もここに居るかも知れん」

プッシーキャッツの虎とギャングオルカが行方不明になっていた人物を見つけはしたものの様子がおかしい。

「しかし様子が…!何をされたのだ、二人とも!」

一切の着衣はなく、意識がはっきりせず呼びかけにも答えない二人。

 

「すまない虎、前々から良い個性だと……丁度良いから…貰う事にしたんだ」

物陰から声が聞こえる。

明かりは点いておらず、街灯と月明かりだけでは倉庫を見通すには厳しい。

「常闇くんは僕の発案じゃないけど…彼も良いね、とても有意義な実験が出来たよ」

 

「止まれ、動くな…連合の者か」

ギャングオルカが前に躍り出て暗がりに居る人物へと警告する。

「こんな身体になってからストックも随分と減ってしまってね…」

警告されたがその人物は歩みを止めない、一歩また一歩と近づいて―

着ていた背広が動き出し、締付け拘束される。

 

ベストジーニストの個性"ファイバーマスター"

繊維を操る個性で自分が着ている服も離れた相手の服ですら自由に操る。

「ジーニストさん!拘束します!」

Mt.レディが巨大な手を伸ばし、暗がりに潜む人物を掴もうとする。

「いいぞ新人、敵には何もさせるな」

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、荒れ狂う爆風によって廃倉庫の一角は消し飛んだ。

壁も床も地面さえ抉れ、連なるビルをも吹き飛ばした。

「せっかく弔が自身で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」

圧倒的な破壊をもたらしたその人物、AFOが空中に制止しながら呟く。

 

「先生浮いてる!凄いや!空も飛べたんだね!」

着替えが終わった王子が壊れていない倉庫から顔を出して近づいてくる。

「そうだ王子、実験中の脳無を連れてきてくれないか?」

「はーい!」

その場に似つかわしくない明るく元気な返事が辺りに響く。

 

「さて…やるか」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あー!オールマイトだ!あれ?みんなも居る?いつの間に来たんだろ」

先生に言いつけられ、奥に居た二体の脳無を連れて戻ってみると倉庫は更に破壊され、見る影もない。

「黒霧さん寝ながら個性出してる!お行儀悪いんじゃないの―ん?」

のんびり観戦していたら視界の隅で動く人影を見つける。

「街の人かな?丁度いいや!ワンちゃんの初お披露目だ!」

 

 

 

 

 

「だめだぞ…緑谷くん…!」

「違うんだよ、あるんだよ!決して戦闘にはならない、僕らもこの場から去れる!それでもかっちゃんを救け出せる方法が!」

変装を施した5人。緑谷、轟、飯田、切島、八百万が顔を付き合わせ相談をしている。

詳細を詰めているせいか、周囲への警戒が薄い…それが仇となった。

 

「誰かと思ったらA組の人だー!体育祭見てたよ、みんなトーナメント出てたよね!」

「―っ!?」

急に大声が聞こえ、全員がそっちを見ると…何とも言えない服装の人物、王子がこちらを指差して立っていた。

「所でかっちゃんって誰?」

首を傾げ尋ねてくるが轟が素早く、そして最小限に氷で王子を包み無力化する。

「ドクターの言ってた通りだ!全然冷たくないや!でも身動き取れないから意味ないじゃん!」

氷漬けになっているにも関わらずその内側から声が聞こえる。

「な、何者ですの!?」

「そんな事はどうでもいい、見つかっちまったぞ!」

「っ!やるしかねェ!緑谷!飯田!」

慌てる八百万と切島を横目に轟が叫ぶ、しかしその声に答えたのは二人ではなく―

 

「何ヲヤルツモリダカ知ラナイガ…見知ッタ顔ダカラトイッテ見逃ス訳ニハイカナイナ」

一人の大柄な脳無が王子の後ろから姿を露わにする。

その姿は今まで見てきた脳無とは違い、露出した脳も瞳もない黒一色で塗り固められていた。

「の、脳無…」

八百万がその威圧感に気圧され、後ずさる。

「そ、その声はまさかそんな…黒影くん!?」

緑谷が顔に絶望の色を浮かべながら叫ぶ、もし本当にこの声が黒影だとすると常闇は脳無へと改造されてしまったのではないかと。

「…彼奴(フミカゲ)トハ袂ヲ分カッタ、ココニ居ル俺ハ黒影ジャネェ、俺ノ名ハ―シュバルツ」

 

そう言い終わると拳を振り上げ―凍っている王子を殴った。

「いったいって!もっと優しく助ける方法あったんじゃないの!?」

氷の拘束から抜け出せたものの四角い顔を赤く表示させ、ぷりぷりと怒った顔になるが脳無―シュバルツは何処吹く風だ。

「知ランナ、助ケテモラッタダケ感謝スルンダナ」

文句を言う王子を一瞥しながら緑谷達へと迫る。

 

「そんな!?常闇くんはどうしたの!?君だって一緒になってヒーローを目指してたじゃないか!」

「相変ワラズ煩イ男ダ。ヒーローハフミカゲノ目標デアッテ俺ノデハナイ…俺ニハ夢サエ見ル事ヲ許サレナカッタ」

緑谷がまくし立てるがシュバルツは平然と言い放つ。

「最初ハ戸惑ッタガ、良イ物ダナ…自分ノ足デ立ツノハ」

穏やか声ではあるが向ける殺意は抑えきれていない、振り上げた拳が緑谷達を襲う。

「っ!あぶねぇ!」

咄嗟に切島が間に入り個性"硬化"を使い盾となるが、勢いまでは殺せずに壊れていた壁が更に壊れて―

「なっ!?赤髪!?デクもだと!」

「君たち…マジかよ!」

爆豪とオールマイトがその姿を見て、悲鳴にも似た声をあげる。

 

「……なんで雄英の生徒がここに?」

「そんな事言ってる場合じゃねえだろ!増援が来たって事だぞ!どうすんだ!?」

いきなりの事で呆ける弔にスピナーが指示を仰ぐ。

「王子も居るし新しい脳無も居る…問題ない、こっちのやる事は変わらない―爆豪だ」

冷静にその場を見極め、指示は変わらない事を全員に伝える。

「くっ!何で居るのか知らねェが囮になって死ね!クソナード!」

 

 

 

 

「わぁー!オールマイト!久しぶりだね!前はダメだったけど今度は持って帰りたいな!」

「もしかしてあの時の少年!?凄いコスだね、ヒーロー志望なら(そっち)に居るべきじゃないよ!」

ボールを転がしながらオールマイトへと突進していく王子へと声をかける。

「ヒーローでもいいよ!みんな固めて仲良くお星さまにしたいだけだからね!」

あの個性に巻き込まれたらマズい!そう判断したオールマイトはやむなくAFOに背を向けて必殺技を放つ。

「NewHampshireSmash!」

拳で生み出した爆風で王子を、自分自身をも吹き飛ばしAFOへと飛び掛かるが―

 

「なんだいそれは、無様な飛び方だね」

空気の塊にその背中を撃ち抜かれ、地面へと落下する。

「先代の志村菜々は普通に飛んでいたのに、君は飛べないのかい?」

「穢れた口で…お師匠の名を出すな!!」

怒りを露わにしながら立ち上がる。

厳しい顔つきが更に険しくなっているのが手に取るように分かり、更に言葉を重ねる。

「理想ばかり追う身の程知らない哀れな女だった、実にみっともない死に様…どこから話そうか」

「―貴様っ!」

 

「待て!俊典!乗るんじゃねえ!」

今にも飛びかからんばかりの形相になったオールマイトへと待ったを掛ける声がする。

いつの間にか現れた空を飛ぶ老人、ヒーローグラントリノ。

現れたと同時に敵連合の数名をノックダウンさせる程の腕前を持っていた。

「グラントリノ!」

「緑谷!てめぇ後でお説教だからな!分かってんのか!俊典もだぞ!」

「はいィ!すいません!」

「わ、私もですか?」

師弟揃って情けない声を出す。

 

「やれやれ痴話喧嘩は自宅でやって貰えないか?」

周りへと視線を移すと…立っているのは弔、トガ、シュバルツと遠くへと飛ばされた王子。

ヒーローは最初にやられたプロ4人以外全員まだ立っている。

「こちらが不利と言った所かな…シュバルツ、王子に伝言頼むよ」

「ケッ!ソーユー契約ダカラ従ッテヤルガ、何デ俺ガアンナガキヲ…」

 

「待ってよ!黒影くん!君は一体どうしちゃったんだ!」

「何だと?おいクソデク、あの黒いのは鳥頭の個性なのか?」

緑谷達全員を相手しても止める事が出来ず、AFOとの合流を許してしまった。

「う、うん。あの声は…あの巨大な腕での攻撃は黒影くんのものだった」

「ならあのクソ影は俺が相手をする!てめぇらは転がってるモブ敵でも捕まえておけ!」

 

 

 

 

 

 

 

「はー…オールマイトの拳ってあんな事出来たんだー!拳で天候変えるんだし当然かな!」

遠くへと転がされ地面で仰向けになりながらもオールマイトへの尊敬が止まらない。

「オールマイトと先生が一緒になったら素敵なのになー…こっそり後ろから固めちゃおうかな?」

むくりと起き上がりながらそんな事を呟いていたら目の前にシュバルツが立っていた。

「王子、伝言ダ…アノ犬ヲ出セトヨ」

「ワンちゃん?もう命令は出してるよ?そのうち戻ってく―」

 

王子の言葉が終わる前に強い爆風が二人を襲う。

「あん時は逃したがもう逃さねェぞクソ塊のガキがよ!」

凶悪な顔した爆豪が二人へと腕を突き出しなおも爆破を浴びせる。

その連続した爆破の中から巨大な手が伸びるがそれを回避する。

「爆豪…貴様ニハ借リガアッタナ!フミカゲハヤラレタガ今ノ俺ハ違ウ!」

「へっ、御主人様が変わって随分デカい口を叩く様になったじゃねーか!」

「違ウ!コノ身体コソガ俺ナノダ!手モ!足モ!全テガ自分ノ意思デ動カシテイル!」

黒い身体大きく膨れ上がる。

豪腕を振るい、叩きつけ、薙ぎ払うが―全て避けられてしまう。

「どうせその身体だって借りもんだろが!動きが単調で寝てても避けられるぜ!ほらほらどうした!あんよが上手なんだろ!?」

的確に回避し、爆破を繰り出してくるがダメージはない…閃光も効かない。

光を克服したシュバルツにとって爆豪の爆破も轟の炎も恐れる必要はなくなったが―

(何故ダ!?何故攻撃ガ当タラナイ!?)

焦りがさらなる焦りを呼び、攻撃が大振りになり余計当たらなくなっていくが気が付かない。

「バカが!今までは鳥頭が全て段取りを考えてくれていたから出来たんだよ!お前一人じゃ何も出来ないに決まってるだろ!さっさと土下座でもして鳥頭に帰んな!」

一際強い爆風がシュバルツを襲う、身体にも影にもダメージは無いが瓦礫にぶつかり動かなくなってしまう。

(ソウ―ナノカ?俺一人デハ何モ出来ナイノカ?…フミカゲ)

 

項垂れて指先一つ動かす事が出来ずにいるシュバルツを見て、王子が前に出る。

「イジメはダメだよ勝己、シュバルツはまだ赤ちゃんみたいなものなんだから」

「何がイジメだ、鳥頭から家出したからぶん殴って矯正してるんだろが!」

爆破し威嚇しながら王子へと迫る爆豪、腕を拡げてシュバルツを守ろうとする王子。

 

「あのクソ塊がなければクソガキ以下だ、どけ…いやどかなくていい…二人とも吹っ飛べや!」

塊は近くにはない、オールマイトに飛ばされ遠くの瓦礫の山に埋もれているのを確認している。

両腕を突き出し爆破する、そこには躊躇いも容赦もない。

派手な爆発に王子とシュバルツも吹っ飛ぶが、その弾道がおかしい。

(真正面からぶっ放したのに何故右方向へ飛ぶ?…あの方向は―まさか!)

急いで追撃に向かおうとするも、その予感は当たってしまった。

あの塊は瓦礫の山に埋もれたんじゃない、瓦礫の山が塊になったのだ。

 

動き出す瓦礫、周辺にあった残骸一切残らず塊と化す。

「クソガキって久しぶりに聞いた感じするなぁ…勝己も一緒に来ない?敵連合(うち)は楽しいよ?」

瓦礫の上からこちらを見下ろして話しかけてくる。

「楽しいから俺に敵になれと?嫌だね。したくねーモンは嘘でもしねぇんだよ俺ァ、テメェはどうなんだ?俺を説得してるが本当にそれがしたい事か?」

いつになく真剣な顔つきで王子を睨む爆豪。

たった数秒だが二人の間に沈黙が流れ…王子が塊から降り、対峙する。

「ちゃんと相手と向き合ってお話する、だったかな。勝己が嫌なら…うちに来てくれなくてもいいや、そのかわり立派なヒーローになってね」

笑顔で敵からヒーローになってくれと意味の分からないエールを貰い、怒りより先に笑いがこみ上げてくる。

「ハハ!なに言ってるんだテメェは!じゃあクソガキを捕まえて立派なヒーローへの足掛かりにしてやるよ!」

「えー?捕まりたくはないから頑張って転が…っげぷぅ」

 

王子のマスクやコスチュームの隙間から黒い液体が零れ落ち、身体を包んでいく。

(これはさっきの!逃げられる―いや、向かう先はっ!)

 

 

 

 

 

 

「王子、犬にはちゃんと命令を出したかい?それにしてもシュバルツがやられてしまってるとはね」

「ワンちゃんにはとってこいさせたよ…それにしてもこれ臭いね先生…」

臭いでぐったりした王子と微動だにしないシュバルツが弔の横へ出現する。

「王子、それに何だこの脳無は…?」

AFOの指先が倒れていたマグネに刺さり、個性を強制的に発動させる。

トガを中心にその場に居る敵連合全員が引き寄せられる。

「え? やーそんな急に来られてもぉ」

 

次々と黒霧のワープゲートへと吸い込まれるが弔だけは抗おうとする。

「待て…ダメだ先生!その身体じゃあんた…ダメだ…!俺はまだ――」

 

「弔。君が皆を先導し、戦い続けろ」

 

 

 




ちょっと用事やらイベントやらが立て込んでしまって次回もまた遅れてしまいそうです。
申し訳ないです。


追記
誤字報告ありがとうございます。
自分では気がついていない事が多く、とても助かっております。
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