男子高校生の食事情   作:柴犬の帝王

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チャーハンはある程度雑な方が好きです。


暇な高校生と炒飯

 男子高校生というのは、学校の課題を終わらせさえすれば暇な人種である。暇で暇でしかたがなくて、誰か誘うのも忍びないのでテレビをつけて適当にチャンネルを合わせて暇つぶしをするような種族である。

 今日も今日とてテレビチャンネルでルーレットをしていた。

 ふと、見慣れない女性タレントが話しているシーンが目に映る。その女性タレントはお世辞にも派手だとか美しいとか、そんなことはなかったが、健気な印象が残る。特にタレントに興味がない彼も真面目に話を聞くことにした。

 

『――で、ですね、そこで食べたチャーハンがものすごく美味しくて』

「……!! いいなチャーハン。晩飯にしよう。久々に」

 

 こうして、チャンネルのルーレットで夕飯が決まることもまあある。

 チャーハンを作ることに決めたので冷蔵庫から材料にできそうなものを探し当てていく。

 玉ねぎ、ピーマン、卵、かまぼこ……。普通のラインナップではあるものの、なにか一味足りない。なんというか、普通すぎて面白味がない。

 

「あっ。この前買ったアレ使うか」

 

 その面白みがないチャーハンに一味プラスする隠し球的存在を冷蔵庫から発掘。これはなかなかうまいものできるぞ――そう気合を入れて調理に取り掛かった。

 材料を構えてキッチンに向き直る。

 まず、玉ねぎをみじん切りに。細かめが好きなのでとても細かく、噛んだときに気付かないくらいの大きさにしてしまう。

 ピーマンは種を取り除いたら適当に切ってしまう。ピーマンはあまり小さいと食べ応えがないので、少し大きめでいい。かまぼこは極小サイズのサイコロを作るイメージで切る。

 これで主な下準備は終わり。

 

「よし、やるぞ」

 

 まずフライパンにごま油を引いて溶いた卵を流す。強火で焼きすぎて薄焼きにならないように気を付け、菜箸で一定間隔でかき混ぜ――固まる前に米を入れる。

 米を入れたら火を少し強めて、ほぐしながら炒めていく。同時くらいに玉ねぎを入れておくと後でちょうどいい色になる。

 少し米に色がつき始めたら、ここで他の具材を投入。塩コショウもこのタイミングだ。その塩コショウと醤油ないしソースをもって味付けは終わる――普通なら。

 

「……うん、完璧」

 

 ここで味を整えるのが『普通』なのだが、あいにくと今回彼が作るのはただのチャーハンではない。

 スーパーで売ってる韓国発祥のアレ――キムチを取り入れた、ピリ辛なチャーハンである。

 彼は選んだ隠し球を惜しみなくフライパンの上にぶち撒ける。とことん、ひたすら、まるで親の仇のように力一杯ぶち撒ける。

 

「……うん」

 

 結果、黄金色に輝きかけていた米は一瞬にして紅で染まった。シャア専用でもこんな色じゃないだろう。その上大きめの白菜がゴロゴロとフライパンの上に現れる。

 途端に、フライパンから立ち昇る匂いは酸味を含んだ。

 元来、味覚というものは甘味、酸味、塩味、苦味、うま味に区別され、それらを総じて五味という。これらが複雑に絡み合い、そして引き立てあうことで人間は美味しいと感じる……らしい。

 今までその情報に半信半疑だった彼だが、なるほど、今なら納得できる気がした。塩味もうま味も、ちょっとした苦味もある中に混ざり込んだ酸味は、全体の香りを損ねることもなく、また見た目にも一切の妥協をせず、自然に混ざり込んでいた。

 これなら期待ができそうだ。

 

「そろそろ仕上げといきますか」

 

 しばらくお玉で中身をかき混ぜると、満遍なく紅に変わった。

 全体に広がった、ということはつまり味が染みた、ということ。

 味が定着したのならあとは仕上げを残すのみ。

 コンロのツマミを一気にスライドさせる。

 コンロは急激なガスの増加に伴い、ボッという音を立てて火をフライパンの底面から溢れ出そうなほどに広げた。

 ここからが勝負だ。

 最大火力で、なおかつ焦がさないようにライスを炒める。これをやるのとやらないのとでは全体の完成度が変わるが、万が一失敗すればこれはチャーハンではなくなってしまう。焦げたライスに早変わりだ。

 しかしこの家の家事をひとりで担う彼に失敗の二文字などない。チャーハンの炒め加減などとうに熟知している。

 香り、音、感触。全てが最良になるまで待つ、待つ、待つ――今!

 コンロのスイッチを切る!

 

「完、成!」

 

 さて、ここで終了ではない。

 人間、味にこだわったのなら見た目にもこだわりたくなるものである。

 大きめのどんぶりにチャーハンを移し、それを皿にゆっくりと裏返して乗せる。そして、どんぶりの底を軽く叩きながらゆっくり引き上げていけば、まるで中華料理屋で出てくるような丸っこいチャーハンができあがる。

 

「……我ながら量が多いな?」

 

 中華料理屋で出てくる見た目ではあるが、内容はその比ではなく、炊いた米を全部使い切ったのでかなりのボリュームに仕上がった。そのせいか彼も疑問と呆れを含んだ自嘲気味の声を出したが、裏腹に顔は笑みを浮かべていた。

 

「たまには不健康もオツだな」

 

 そう言って彼はキッチンの引き出しからひとつスプーンを取り出して、ひとくち、ぱくり。立ったまま食べるのは行儀が悪いと理解しながらも、しかし出来立てを食べられるのは料理人の特権なのだと、そう自分に言い聞かせる。

 口に広がったのはまず酸味、後を追うように辛味が舌に滲み、最後に旨味がそれらを包む。旨い。食べた人間の思考ルーチンを吹き飛ばしてひたすらに旨いと思わせる、そんなチャーハンだ。

 喩えるとするなら「旨味の暴力」とでも言おうか。

 

 さて、濃い味のものを食べた後はあっさりしたものが欲しくなる。彼は引き出し、スプーンを取り出した段の下の段から小袋を出すと、近くにあったお椀に中身を開ける。そこに電気ケトルに余っていたお湯を注げば、即席わかめ汁の完成だ。

 

「チャーハンといえばこれだよな」

 

 チャーハンの後のわかめ汁は格別だ。

 彼はほっとひと息ついて強くそう思った。卵があればかきたま汁にしたのだが、残念なことにチャーハンで使い切ってしまった。

 

「卵、買い足さなきゃな……」

 

 明日の買い物リストにひとつ書き足す。

 ペンを走らせた彼は座卓真ん中に鎮座するフライパンを見て、眉を顰めた。

 

 ――これ、どうしよ。

 

 フライパンの中には山のような量のチャーハン。

 到底ひとりで処理しきれる量ではない。

 結局、タッパーに入れて後日に持ち越すのだった。




 チャーハンと言われて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
 母親の作るありあわせのチャーハン? それとも中華料理屋の手際よく作られるチャーハン? いつも食べている料理には作り手のなにかしらの思いと、そして具材となった生き物たちの生命の重みが詰まっているのです。できることならそれを忘れないようにこの先の人生を生きていきたいものですね。
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