「…………マ、マジかよ……………………!!
んな低い可能性に掛けようってのかよ…………………!!」
「そ、そうファ! 成功したら、この一発で決着がつくファよ…………………!!」
「んな事言ってもよォ…………………」
フェリオの作戦を聞いたヴェルドは一転して苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
フェリオの作戦は確かに確実に決着をつけられるものだった。しかしそれは不確実な関門を何度も超えられればの話だ。
数秒思考した後、ヴェルドはフェリオの作戦に乗る決意を固めた。不確実とはいえ解呪を扱えないヴェルドには他に縋る方法が無い事もまた事実だ。
「………………分かったよ。お前に全部賭けてやる。
だが一つ聞いておきてぇ。もしそれが失敗したらよ、そん時ぁどうする?」
「………………その時は、覚悟を決めるしかないファ。」
「!!!」
フェリオの言葉の意味をヴェルドは瞬時に察した。そして最大限の努力が求められる事を再認識した。この作戦に不確実な関門が付きまとうならば、せめて自分の実力によってその関門の幅を広げる事が絶対条件だ。
「解呪!!!!」
「!!!」
フェリオはヴェルドの手に触れ、解呪の詠唱を唱えた。ヴェルドの手が桃色に光り、フェリオの解呪がヴェルドへと譲渡される。この一筋の光こそが自分達の明暗を分ける光なのだ。それを理解し、ヴェルドは拳を握り締める。この拳の一撃がツーベルクの運命を大きく左右するのだ。
「………………やるぞフェリオ。」
「ファ。」
ヴェルド達の前に影魔人が姿を現した。二人が会話を交わしていた一分弱の間、影魔人は距離を詰めて来るでもなく、《転換之王》を使用するでもなく、二人に時間を与えた。
しかし、それは徒に待っていた訳ではない。彼は準備を進めていたのだ。
『!!!!』
その瞬間、影魔人の背後に大量の赤色の魔法陣が出現した。彼はフェリオ達に時間を与えている間に魔力を溜め込んでいたのだ。確実に決着をつける大技を放つ為の準備を進めていたのだ。
「来るぞ!!!!」
「分かってるファ!!!!」
影魔人の魔法陣から炎の塊が姿を現した。次の瞬間には大量の炎魔法がフェリオ達に向けて襲い掛かってくる事は火を見るよりも明らかだ。しかし、それを阻止する為の策をフェリオが実行した。
「《陽光之神》ッ!!!!!」
『!!!!!』
フェリオの手から強烈な光が炸裂した。しかし、その餌食となったのは影魔人だけだった。ヴェルドはフェリオに背を向けていた為に視界を陽光に焼かれる事は無かった。強烈な陽光に状況判断能力を奪われ、影魔人は魔法も贈物も使用できない状況に追い込まれた。
フェリオの残り少ない体力と作戦の実行の両方を考慮した場合、この目眩ましの為の《陽光之神》の使用は一瞬にとどめる事を余儀なくされた。しかし、この一瞬がヴェルド達の運命を分けたのだ。
「!!!」
影魔人の視界が捉えたのはヴェルドが正面から全力で急接近してくる光景だった。それを僥倖だと判断した影魔人は魔法の発動より先に《転換之王》の発動を優先させる。自分と視界に入っているヴェルドの位置を入れ替え、虫の息となっているフェリオに炎魔法の集中砲火を見舞う為だ。
しかし、フェリオの奇妙な言葉が影魔人の鼓膜を震わせた。
「………………勝った。」
「!!!!?」
次の瞬間、影魔人はあってはならない事態に直面した。間違いなく《転換之王》を発動しているにも関わらず、入れ替えが完了しないのだ。
「……………おい、何を間抜け面晒してんだ? 俺はここだぜ!!!!!」
「!!!!?」
影魔人の耳はヴェルドの言葉を後ろから聞いた。
目の前には確かにヴェルドの姿がある。そして口も動いている。しかし入れ替える事が出来ない。その理由はすぐに判明した。目の前のヴェルドの姿が突如として歪んだのだ。
「………………や、やったファ。
《蜃気楼作戦》 大成功ファ!!!!!」
*
蜃気楼
フェリオが使った策がそれだった。
蜃気楼とは空気中の温度差が原因で光が通常とは異なる屈折をする現象である。これが発生すると生物の目は通常とは異なる視界を捉える。
今回、フェリオは《陽光之神》の超高温を利用してある一点の空気の温度を加熱させ、その異常な温度差によって通常ではありえない程の空気の異常屈折を人為的に誘発した。その結果、影魔人の目の前に真後ろに居るヴェルドを見せる事に成功したのだ。
フェリオのこの作戦の一番の目的は《転換之王》を使えると誤認させる事だ。ヴェルドの視界は眼前にヴェルドが居ると思い込んでいるが、実際にはその位置には誰も、何もいない。何もない場所と自分の位置とを入れ替える事が出来ない事は必然である。
視覚を発動条件としている《転換之王》の隙をついたフェリオの作戦だ。
*
「ッ!!!!」
「ヘッ。もう遅いぜ。
それに振り向いてくれたなぁ。お陰でその[[rb:魔法陣>急所]]に思いっ切りぶち込んでやれるぜ!!!!!」
「!!!!!」
影魔人の胸部にはその力の源である紫色の魔法陣が浮かんでいる。ヴェルドはそこに狙いを定めて身体を思い切り捻った。
「《プリキュア・ドラゴンフォースパニッシャー》!!!!!」
「!!!!!」
影魔人の出現という異常事態を乗り越え、嘲笑うような悪魔の贈物を乗り越え、この辺境に発生した膠着状態に終止符を打つ起死回生の一撃が、遂に炸裂した。