転生したらプリキュアだった件 ~助けてくれた女神様の世界をプリキュアになって守りたいと思います!~ 作:Yuukiaway
ニトル・フリーマ、齢二十の青年。
彼の酒類の耐性は弱くは無く、標準的と言える。忌まわしき故郷ツーベルクを追われ両親と死別し成年を迎えた後は数日に一回の頻度で安酒を啜っていた。その豊かとは言えない経済状態が幸いしてかニトルは人生の中で悪酔いというものを経験した事が無かった。
そして今回、|風妖精《エルフ]]の里の来客として出席した飲みの場では一時間弱で三杯程の酒を飲み干した。その量もニトルの体質に限界寸前で収まり、顔が紅潮し息が多少荒くなったものの酔いの程度は意識を明確に保っていられる程度に留まっていた。
そして彼は今、酔いを醒ます為に外の空気を吸いに森に出ている。その森の中で彼の耳は木々が揺れる音を捕らえた。酒に含まれるアルコールが横隔膜を刺激し口からしゃっくりが漏れる程度には酔っていたニトルだったが、聴覚ははっきりと機能していた。少なくとも空耳が聞こえる程酔ってはいないという自負があった。
(……………今、確かに揺れたよな? 魔物……………じゃねぇよな。小動物って音じゃねぇしよ。
どうせもうちょっと酔いが醒めるのを待ってなきゃいけねぇしちょっと行ってみっか。)
蛍から聞いた話でニトルは|風妖精《エルフ]]の里の中の森には里の安全を脅かす魔物が存在しない事を把握している。聞こえた音の大きさで鳴らした者が野生の小動物の類では無い事を推測した。
(…………魔物でも小動物でもねぇって事ァ人って事になるよな。こんな夜に人が森の中で? とりあえず一言声掛けてみっか。)
「なぁ、そこで何やってんだ?」
その一言が岐路だった。当時のニトルにとっては何気ないその一言が|風妖精《エルフ]]の里を救う一言になった。しかし彼はこの時点ではその事を知る由も無い。何故ならその音を立てた犯人は|既にその場には居なかった《・・・・・・・・・・・・]]からだ。
(? あれ? 確かこの辺だったよな?)
ニトルは酒に酔っていたものの聞こえた音の距離感を見誤る程泥酔してはいなかった。しかし彼の脳裏に疑念が生じる。音が聞こえた地点に誰も居なかったからだ。
(気のせい? いや、確かに聞こえたと思ったんだがな。考えすぎか?
━━━━お!)
疑念が確信に変わりかけたその時、ニトルは進行方向の更に向こうに人影を見つけた。すぐさまその方向へ歩を進める。
歩を進めると森の中に開拓された土地があり、そこに畑があった。そして一人の男が居た。ニトルが先程見つけた人影がその男だったのだ。
(! ……………森の真ん中にこんな畑が……………!)
「あ、あなたはもしや━━━━!」
「あ、はい。魔王さんの連れのニトルって言います。突然で悪いんですけど、聞きたい事があるんです。」
「はい、何ですか。」
畑に居た男はニトルより一回り以上も小柄で褐色肌の初老の男性だった。その身体的特徴を持つ種族が|土妖精《ドワーフ]]である事を彼は知っていた。畑に居り尚且つ作業服に身を包んでいる為ニトルは一目で彼がこの畑の管理人であると気付き、先程の音の犯人はこの男ではないと判断した。
故にニトルは男に問う。自分の不確かな疑念を明確にするための問いを男に投げ掛ける。
「じゃあまず、俺がここに来るまでずっとここで作業してました?」
「ええ。こうやって夜も定期的に手入れをしないと野菜の質を保てませんからね。」
「そうですか。じゃあ誰かここを通ったりしませんでした?」
「いいえ。こんな所を通る人なんていませんよ。誰かが居た気配もありませんでしたし。」
|土妖精《ドワーフ]]の男の返答に嘘をついているような様子は無い。しかしだからこそニトルの疑念は深まるばかりだった。自分の疑念と男の返答が真っ向から食い違っているからだ。
(……………どういうこった。俺は向こうからここに来た。なのにこのおっさんはここには誰も来てないって言う。ここは一本道だったし森を無理矢理横切ったような痕跡も無かった。
……………やっぱり動物か、それとも俺の気のせいか……………………?)
「あの、随分難しい顔をされていますがどうかされたんでしょうか。」
「ああいや大した事じゃないんです。ただちょっと妙な音が聞こえただけですので。」
「それはきっと野生動物の類ですよ。この辺にも夜行性の動物は時々出るんです。」
疑心暗鬼に陥るあまりに口に手を当てて考え込むニトルに|土妖精《ドワーフ]]の男が声を掛ける。その言葉をニトルは聞き入れた。里の住人である彼が夜行性の野生動物と言うならその可能性はかなり高いと言える。
「……………そ、そうか。そうですよね。
すみません。ちょっと飲み過ぎたらしいです。」
「ははは。どうやら世界樹の酒がお口に合ったようで何よりです。」
「はい。あれは美味かったですから。今日は早めに寝ます。おやすみなさい。」
そう言ってニトルは気まずそうにその場を後にして来た道を引き返す。男の発現から先程の音は自分が酒に酔ったが故の空耳だと結論付けた。
*
ニトルの推論は外れている。彼が音を聞いた時、そこには確かに人が居たのだ。その人物はニトルに自分の存在を察知された瞬間|自分の能力《・・・・・]]でその場から逃れ、木の上からその場を離れるニトルを見つめていた。
(……………屈辱だ。あんな何の取り柄も無いような人間族の凡人に私の存在を気付かれそうになるなどと。私達|影妖精《スプリガン]]の思いを潰されそうになるなどと……………!!!
だがこれは好機だ。森に火を放つつもりだったがそれは止めだ。明日、明日計画を実行に移す…………………………!!!)