老いも若いも酸いも甘いも   作:ヤウズ

2 / 3
いくつになろうと、男はバカになる時がある

 

 

 

 

「ーーーーーーーー以上から、エナジードリンクの方が優れているのは明白です。一部地方だけに売上と人気の片寄ったマイナーな缶コーヒーなどに劣るわけがありません!」

 

 

「……………………」

 

「……なにか?」

 

「………………いえ別に…」

 

「…は!?」

 

「…データを用いた解りやすいプレゼン、ありがとうございました。エナジードリンクの魅力、とても伝わってきました。」

 

「…………!?」

 

 

 

「だからこそ、あまり他社の飲み物を貶めるような表現は避けていただきたかったのが本音です。こちらの推奨するドリンクにも当然開発者が、生産者が、愛飲者がいるのです」

 

「………………ッ」

 

 

「俺を含めたこの商品を愛する者を敵に回すような発言をされてしまいますと、折角あれほど魅力を教えもらったエナジードリンクについても穿った目を向けてしまいそうになります。…ならばそちらの商品に粗はないのか…と」

 

 

「…………そんなのッ!」

 

 

「別にこちらと致しましては自身が愛飲する飲み物以外に対して粗を探そうとは思いません。エナジードリンクが主に喉の渇きや嗜好品としての目的よりも、その名の通りエネルギーチャージと眠気覚ましとしての人気を博していることも、それ故子供人気の獲得しづらいことも…」

 

 

「…………それは…」

 

 

「鹿の角、豚の心臓といったどんな効能があるのかもわからない原材料を多く使用する商品があることも、一口に『エナジードリンク』と言っても多岐に渡る商品故に味が似通った商品も多く確認されていることも別に粗だとは思いません。…エナジードリンクは元来栄養補給を目的とした飲料なので子供に与え過ぎて食事と栄養のバランスを意識しなくなるのは問題ですし、栄養補給を目的とした故に味に重きを置かないことも納得できます…」

 

 

 

「そ!そうです!あくまでエナジードリンクは目的意識をはっきりさせた経口飲料であって、一切の無駄を捨てた素晴らしい商品です!」

 

 

「…というと、MAXコーヒーには無駄が存在すると?」

 

 

「一部の地方にしか認知されていないうえにあの強烈な甘さは万人受けするとは思えません!」

 

 

「それがいいんじゃないかと言いたいところですがあまり意味はなさそうですね。それはあくまで俺の主観でしかありませんから…」

 

「それは確固としたデータは無いということですね!」

 

「ん…、歴史や時間の長さが必ずしも良さの証明になるとは思いませんが、一つの事実としてお伝えするのであれば、MAXコーヒーはもともと千葉と茨城に限定して発売されていましたが、2009年から全国で販売されています。その際、味が見直されたという不確かな情報はありますが、1975年の発売開始より、その強烈な甘さが愛飲者達に喜ばれてきました。それを無駄と表現されるのはあまりに横暴ではないかと…」

 

 

 

「……ッ、それについては、申し訳… 」

 

 

「謝罪はいりません。というか此方こそ熱くなってしまい申し訳ない。討論の場であることを忘れていました。本題を続けましょう…」

 

 

「えっ、いや…」

 

 

「エナジードリンクは機能性飲料とおっしゃいましたがその商品は多岐に別れますね。それではその種類と効果と内容物についてはどのくらい把握しておられますか…?」

 

「えーっと…」

 

「今回は此方の方でとりあえず30種類ほど見繕いましてデータとしてここに出させていただきました。ちなみにこの中でお飲みなられたことのある物は…?」

 

「こ、この商品とこの商品、ここからここまでは飲んだ覚えがーーーー」

 

「ではそちらを例にあげてーーーーーーー…」

 

「あっ…………」

 

「見てわかりますよね?この2つを比較しますとーーーーーーーーーーーー…」

 

「……ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「……聞いてる?まぁいいか。それでーーーー…」

 

「……ハァ…ハァ…ハァ…ヒクッ…ハァ…ハァ…」

 

「大丈夫か?ついてきて下さいね?先ほど申し上げたとおりーーーー…」

 

 

「うふ、うふふふふ……ヒクッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チキン竜田バーガーセットを1つ、ドリンクをメロンソーダ。単品でバニラソフトをカップでお1つ。以上でしょうか?」

 

時刻は午後18時ちょっと前。俺はバイトあがりに高校の制服のまま、近くのファーストフード店に入り、独り寂しく財布を開いていた。

 

「はい。あァ…クーポン使えます?」

 

「はい!お一人様ですか!」

 

「……………………そうですね」

 

可愛らしい笑顔で聞いてくるレジのお姉さん。

見りゃァ解るだろ。ほっといてくれよ。

 

「………私でよろしければ、スマイルをサービス致しますが?」

「…手持ち足りないので遠慮しときます」

 

余計な気を回すんじゃねェ…。テイクアウトしちゃうぞ。きっとそのあとお姉さんがお巡りさんを電話でデリバリーして、俺がお持ち帰りされちゃうんだ。そしてお巡りさんと俺の気まずいトークタイムが始まるんだ…なにそれ俺が悪いの?

 

 

無神経な優しさを見せてくれるバイトらしきレジのお姉さんにメンチを切りつつ、お釣りに500円玉が出来るように少し多めに代金を渡す。お客が少ないおかげで待たずに商品を受け取って席につくことが出来た。独り寂しく席につき、両手を合わせる。

 

「いただきまぁ…」

 

「比企谷じゃないか」

 

「……………………あ?」

 

独りで食事を始めたはずなのに名前を呼ばれ、ついでに肩を叩かれる。振り返るとそこには見慣れた二人の顔。

 

 

「何をしてるんだ比企谷?休日に高校の制服で独りハンバーガーって…哀し過ぎて見てみぬ振りが出来なかったぞ?」

 

カジュアルな私服姿の金の短髪の爽やかな雰囲気を垂れ流すいけすかないスポーツマン系なイケメンと、

 

「八幡!お疲れ様!今日はバイトあがり?」

 

戸塚ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!戸塚がいた!ジャージじゃない私服の天使かと思ったら天使だった!戸塚ぁぁぁぁ…(果てるように…)

 

 

「戸塚もお疲れ様だな!。…それと葉山か。お察しの通りバイトあがりだ。真っ直ぐ家帰んのも嫌だから寄っ………ーーーー来ちゃった♪」

 

「保険屋の真似か?」

 

「え?そこは彼女だろ?」

 

 

玄関開けて「保険…契約に来ちゃった♪」とか言われたら無言でドア閉める自信がある。鍵かけてU字ロックかけるまである。…でもあれ紐一本で外から開けられるらしいよね?もうそこまで出来たらそのスキルを活かせる仕事にした方がいいと思うの…。

 

 

「ていうか…」

 

 

 

ホントにあいつといい、こいつらといい、何で俺の周りってこんなに眉目秀麗が揃ってやがんの?実は同じ素材で出来てんの?…レゴブロックなの?

 

いや待てよ…類は友を呼ぶって言うよね?つまり、イケメンと美少女(だった)戸塚と知り合いである俺もイケメンということになる。違うか?違うな。まず友達じゃないから俺はお呼びじゃない。…死のう。

 

 

 

 

「お前らこそ何してんの?」

 

ポテトをつまみながら俺が訪ねると、葉山が目の前の席を引いて座りながら答えた。おい、俺の正面に座んじゃねぇ。そこは戸塚の席だ。お前は俺の座席の下で腹這いになってろ。

 

 

 

「その…俺はただの買い物の帰りだ。これといって用事があったわけではなかったんだけどな、……戸塚と前から約束をしていてね…」

 

俺ハブられてンじゃねェか。まぁ別に文句は無いけど。

 

「…………俺も誘ってよ、戸塚…」

文句出ちゃった!!

 

 

俺が不満と…不満をこぼすと、不満だけだよ?この溢れてんの涙じゃないから。違うから。ちょっと竜田バーガーのマスタードが目に入っただけだから、だからこれは…うん、涙だね(涙)

 

 

 

「何故君が泣いているんだ比企谷…。誘って断ったのは君の方だろう…」

 

 

「え?マジで?」

 

全く身に覚えがない。俺が誰かに誘われて忘れるなんてことがあるのだろうか…?もともと他人に誘われるなんてほとんどない俺が他人の誘いをそんな蔑ろに扱うわけが…あるな、むしろ戸塚以外の誘いは社交辞令と判断して即断る。戸塚の誘いは持ち帰って重々検討させていただきます。

 

 

「そうだよ八幡!朝電話したの覚えてないの?」

 

戸塚は空いたもう1つの椅子に腰掛けながら、プンプンとしかめっつらで俺を糾弾した。ヤバいな。…なにがヤバいって、(クセ)になりそうな俺が一番やばい。

 

 

「というか、君の方こそ何をしているんだ?大学の休日に高校の制服を着て独りでハンバーガー食ってる仕事終わりの悲しい学生かと思ったが…」

 

 

「全部合ってるな。今日は5時間しか働いてない。だから休憩も少しずつしか取れなくて、食事っつー食事はしてなかったんだわ…」

 

 

「相変わらず大変だな…」

 

皮肉にも俺に受け継がれてしまった社畜精神を知っている葉山はそういって女受けしそうな苦笑をみせた。(おとこ)じゃなかったら見惚れちゃうね。

 

 

「…どーも」

 

続けて、戸塚も屈託のない笑顔で俺を労ってくれる。

 

「八幡は頑張り屋さんだもんね!頑張ってね!」

 

あれこれ労われてなくない?労ってくれよ。でも心に、心に染みたよ。なんか焦りを感じるほどにな。早く辞めなきゃ…みたいな。ため息混じりに俺は小さな抵抗を口にする。

 

 

「やっぱり働いたらダメだ」

 

「時には仕事に逃げるのもありだよ比企谷…」

 

「やめろぉ…お前の深い事情なんざ知りたくねぇ…」

 

「女性は怖いよね。そのうち涼しい顔で『豚』とか呼んできそうで俺は不安だよ…」

 

「今真っ先に一人の顔が浮かんだからこの話はここまでにしようぜ…」

 

 

正反対である二人の顔に差す色がシンクロした。やだこれ。なにこれ。アオハルですか、いやビーエルです。BLなのかよ、ぜってぇ認めねぇぞ。

 

 

 

「葉山くん!豚を馬鹿にしちゃダメだよ!豚さんって凄いんだよ?たしか日本人男性の平均体脂肪率はおよそ14~20パーセントで、豚さんが14~18パーセント。女性が17~24パーセントなんだよ!だから豚さんの体脂肪率って、浜崎あ◯み”とほぼ一致なんだよ!彼らは理想ともいえる無駄の無さだよね!」

 

それ見たことか葉山ァ!テメェ俺と豚さんに土下座しろや!!(何故かキレる)

 

 

「じゃー比企谷はアザラシかな」

 

「高脂肪率すぎんだろ!!?」

 

アザラシの体脂肪は50パーセントを優に超えるらしい。力士か俺は……。というか戸塚の豚に対する気遣いと浜崎あ○みに対する気遣いにギャップがありすぎる…。

 

 

「でもでも力士の身体がおっきいのってほとんど筋肉なんだって!50パーセント超えと言えば“柳原か◯こ”くらいじゃないかな…?」

 

 

「戸塚さんもうやめない?固有名詞だして敵つくるのやめない?」

 

 

焦る俺と裏腹に、葉山は落ち着いた口調で答える。

 

「安心しろ比企谷。一文字伏せるだけで無限の可能性が生まれるんだ。ひょっとしたらその一文字に入るのは小さな“つ”かも知れないだろう?」

 

「生まれねぇよそんな雑な可能性ェ…。日本中探しても柳原()はなんて名前つける親はいないだろ。小中学でイジメの的にされるの明白だからな…」

 

 

あいつらどんなことでも虐めのネタにするから。ソースは小中の時の俺。たぶん『その括弧には一体何が入るんですか~?』とか言われるぞ。

 

 

 

「あなたの愛情と優しさで、私の()を埋めて下さい」

 

「…あの人もう結婚したらしいから、多分俺もお前もお呼びじゃねぇな…」

 

勝手に俺のポテトに手を伸ばしてくだらないことを呟く葉山から、俺はポテトを奪い返した。

 

 

 

「…貴方の熱いモノで、私の隙間を…」

 

 

「葉山、これ以上下ネタ続けるなら、この熱いモノ(ポテト)を鼻の穴にブチ込むぞ?」

 

 

「…………………………………………」

 

俺がポテトを構えると葉山は黙った。聞き分けが大変よろしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、そういえば…」

 

“愛情”という単語で思い出した。いや別に忘れていたわけではないが…

 

 

「ちょっと君たち相談乗ってもらえる?ボッチからの相談でも受け付けてもらえる?ぜひ俺と違って女慣れしてそうな君たちの意見を聞きたいんだけど」

 

 

「八幡?」

 

「比企谷、俺達が遊び人だと思われるような発言をしないでくれないか?」

 

 

「....................」

 

 

 

 

戸塚は意味がわからないという顔、葉山は心外だと言いたげな顔を見せるがそれも仕方ない。

 

2人はまだ俺が知らないと思っているからだ。

 

 

 

だが、その面もすぐに氷つくだろう。

 

「...............まぁ、お前らはどっちかっつーと遊ばれた側だもんな…」

 

 

 

「「!!!??」」

 

 

 

「なぁ…」

 

 

 

 

 

知ってるんだよ…

 

 

 

 

 

「“男”になった感想を聞いてもいいか?」

 

 

 

 

 

 

お前らが童貞捨てたってことはなァァァ!!!!?

 

 

 

 

二人の顔が驚愕で静止したーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーまぁ、そんな話はどうでも良い」

 

「はははは八幡!?よくないよ!?」

 

 

「比企谷!?いったい誰に聞いたんだ!!いやそれよりもそれ誰かに話したりしてないよな!?」

 

「スゥゥーーーハァァァァァ~」

 

「おいやめろポテトを吸うな!受動喫煙になるだろ!」

 

「葉山君も落ち着いて!ポテトは依存性はあるけど副流煙はないよ!」

 

「実は最近よぉ…」

 

「「(八幡)(比企谷)ーーーーー!!!!!」」

 

 

ここでネタバラシ。以前八幡と戸塚は葉山に誘われ居酒屋で飲み会をしていると個室で飲んでいた筈なのに扉が開き3人の女性が乱入。どうやら空いてる席が無いので相席を希望していたらしい。

 

まぁ仕方ないよね。俺がその直後トイレ行った時には両隣の部屋もカウンターもテーブルもガラガラだったけど、二人は酔ってて気づかなかったみたいだけど明らかに同じ大学で見かけた顔だったけど、どうやら俺には興味ないみたいだったから見逃しちゃっても仕方ないよね!!

うんハチマンなにも悪くない。

 

 

「気づいてたの八幡!?」

 

「なんでその場で言わないんだ君は!!」

 

テーブル下でメール画面に『どっち狙いだ?』って聞いたら『両方☆』って言われたので『ここでの俺の分の支払いもってくれるなら自然とフェードアウトするが?』って聞いたら親指ぐっ!ってしてたから「そう言えば急にプリキュアの録画溜まってきたから…」って言って帰ったけど俺は悪くないプリキュアが悪い。

 

 

 

「あの時払ったのは俺だぞ!?」

 

「八幡やっぱり嘘だったの!?すごく不自然だったよ!?」

 

 

「まぁ、絶対無理強いしない脅さない記録は残さない乱暴はしないって約束してくれたからな…」

 

『乱交は?』

『人数差で女が勝つんならいいんじゃね?(犯罪感なくて…)』

 

「おい待てその回想はなんだ!?」

 

 

この前大学でバッタリ会った時に

 

『ついてたか?』って聞いたら

『立派だった』って赤面してたわ。

 

だいぶお楽しみだったようで。 俺は一つ夢を失った気分だったけどな。

 

『ほんと見蕩(みと)れちゃった…』

『見蕩れる…ほう…』

『ねぇ、君も…』

『俺帰ってハートキャッチプリキュア観るから…』

 

「君も狙われてるじゃないか!」

 

 

 

そんな訳で、俺の天使は汚され、そのせいか若干俺の病気も落ち着いたのであった。

 

 

 

 

流行るといいな……戸塚()れ。

 

 

 

 

「まぁだから、見事脱童貞を果たしたお前らに相談というか愚痴を聞いて欲しいんだわ。別に断ってくれてもいい。無理強いはしないし記録は残ってないし乱暴もしないって約束だから…」

 

 

「『脅さない』が抜けてるよ八幡!」

 

「いったい誰に告げ口する気なんだ君は!!」

 

..........誰だろうな。告げ口する相手には困らないが、俺としてはそいつらに近づくのが恐ろしく躊躇われるのでぜひとも相談には乗ってほしいところだ。

 

 

 

 

 

「この間討論(ディベート)した相手覚えてるか?」

 

 

「有無を言わせず相談する気だな…まぁもういいけど…」

 

「八幡の力になれるなら聞くけど…ディベートってこの間講義の一貫でやったMAXコーヒー対エナジードリンクの討論会?」

 

葉山は渋々と、戸塚はどうやら前向きに聞いてくれるらしい。俺のせいで初めてを失ったのに人のいい奴等だ。戸塚の、初めて…ね。オラなんだかムラムラすっぞ。

 

 

一瞬病気を再発させそうになったが慌ててメロンソーダで喉を潤し思考を切り替える。甘さが足りない…が、なかなかのスパークだ。オラなんだかシュワシュワすっぞ。

 

 

「二人とも覚えてるなら話が早いな…」

 

「忘れようがないだろあんな催し…」

 

「あはは…」

 

「?」

 

二人が呆れたように笑うが俺としては二人が覚えていること事態意外だった。そんなにインパクトが強い催しだったかあれ?

 

 

「本人が自覚なしか…」

「あはは…あの時の八幡は本意気で攻めの姿勢だったね…電車で材木座君が女子高生に悪く言われた時と同じ顔だったよね。僕は格好良いと思ったけど周りには怖がってる女の子もいたかな…」

 

あぁ、あったなそんなことも…

 

「ああ!あの時は怖い顔で睨んでた比企谷が急にイヤホンして歌い出して驚いたな」

 

「そんなに大きな声でもなかったのに車両にいた全員が聞き入ったもんね!」

 

「秋葉原だからな。幅広い年代で好かれるのが1990年代のアニソンの強みだ。放心してた材木座も途中から合わせ出せば声優力のみせどころだ。ルパン三世の時は割りと人殺す勢いで歌ったわ…」

 

 

「挙げ句の果て車両全体がノリ出したら流石に気不味さを感じて女子高生達も降りてったな。俺達も同じ駅だったからあまり達成感もなかったが」

 

 

ボッチ達でも容易く繋げてしまう!それがアニメだよね!まぁ俺の場合語り合うところまでも行けないんだが…。もうラブライブのTシャツでも着てやろうかしら…。上手く行けば俺でも友達(笑)出来るんじゃね?最悪の場合ボコボコにされて脱がされそうだが…

 

 

 

 

「うっうん!」

 

「ん?」

 

葉山が急に咳払いで視線を集めた。というか俺を軽く睨んでいる。何故だろう。いまだにポテトを煙草に見立てて吸ってるのが気に障ったのだろうか。これ指に油すげーんだけど。ぶん殴っていいかな。

 

 

 

「なぁ比企谷。あの時のことで俺に謝ることがあるんじゃないか?」

 

「……なにが?」

「駅に降りた後の事だ」

 

……?なにかあったか?材木座が戸塚の痴漢だと勘違いされて駅員に取り押さえられてて、葉山が止めに入ってたことしか覚えてない。戸塚に痴漢とかちょっと羨ましかったこととか覚えてない。

 

 

「その時のことだ!君はその間何をしていた!!」

 

「あ、あはは…あの娘のことか…」

……?

どうやら戸塚は合点がいったらしい。えマジなに?あの時は確かーーーー

 

 

 

ーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

 

『悠久の時を超え、今ここに導かれん我が同胞よ!』

 

『……………………?』

 

『先の儀式は見事!あの逆境の中数多の群衆を纏めあげその魅了によって仇を討ち滅ぼすその手腕に我も強く心乱された!』

 

『……………………………………』

『……こっ、ここでの邂逅も輝く闇で世界を包むに必要な……』

 

『……………………………………』

 

『……あの…』

 

『………………………………』

 

『…………かん、神崎です……』

 

『……………………葉山です』

 

『もし、ご、ご迷惑でなければ、連絡先をっ!』

 

『…………どうぞ』

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

なにも無かった筈だが…。

 

「そのことに決まってるだろ比企谷!!!!」

 

「えぇ!?」

 

「どこに驚いているんだ君は!!!!」

 

 

カッ!と食ってかかりそうな勢いで猛る葉山を戸塚が「どうどう」と宥める。いいな、それ。俺もやって欲しい…。可愛いなぁ戸塚。ーーーーだがもう彼奴は童貞じゃない…。

 

 

 

「あの夜あの娘から急に電話が来てこっちは驚いたんだぞ!」

 

「むこうはその倍驚いただろうね…」

 

「だいたいなんでlineじゃなくて電話番号で教えたんだ!」

 

 

 

なぜ?愚問である。

 

 

「その方がバレずらいだろ?トプ画とかタイムラインなんかで別人だとバレたら厄介だろ。電話なら声だけだからワンチャン気付かない可能性もある」

 

「どこまで非道なんだ君は!」

 

葉山はトレーの横にある俺の携帯をひったくり慌ただしく指を滑らし始めた。そんな激昂する葉山を見ながら俺はポテトをつまんだ。

 

 

「はぁ…。あの娘には一応君の番号とlineを教えておいた。今比企谷の携帯にも登録したから問題なく連絡とれる筈だ」

 

「なんてひどいことをするんだお前は…」

 

「葉山君の対応が普通だよ、八幡…」

 

 

 

ため息をつく戸塚がかわいい。だが非童貞だ。

 

「あの娘確か現役アイドルだって言ってたな…」

 

「そうか。…………………………この話はここまでだ…」

 

 

 

 

背筋に冷たい何かが走った。この話はこれ以上進めてはいけない気がした。知ってるか?俺一人暮らし始めたんだぜ?理由は聞くなよ。

 

 

 

家族に「無料エロ動画サイト使ってたらなんか住所特定済みの架空請求メールきたから」って言ったらゴミを見る目をされたが一人暮らしは容認、比企谷家に八幡という名の男児はいないということに相成った。ふっ、家庭からすら居場所を消してしまうとは…己のぼっち力が憎いぜ。…憎いぜ。

 

 

 

俺は石橋は爆破して誰も渡ってこれないようにする男だ。これで暗黒眼(あんこくまなこ)系アイドル女子の夢なんてみないだろう。夢だよね?あれ。結束バンドと手錠が混在する家庭とかどうなってるんだよ俺の深層心理!

 

 

 

 

ちなみに、何故か親父は滝のような汗をかいてたんですがなんか心あたりでもあるんですかね。

 

 

 

 

「お前ら、今後俺の家来るの禁止な」

 

「あ!八幡一人暮らし始めたんだよね!今度お酒持って行ってもいい??」

 

 

「……………………」

 

 

 

いや、揺れてないですよ。ただちょっと血圧高めですね。風邪かな。お薬出しときますねー…。

 

 

「く、来るならお前らの携帯を7つに分解して、世界中にバラ撒くからそれかき集めてから来やがれ」

 

 

「どこのドラゴンボールだ!!」

 

「八幡の神龍(シェンロン)だね!」

 

 

oh…神よ、すみません。戸塚が下ネタを口にしてしまいました。令和最大の悲劇だ。俺のせいか。俺が戸塚の童貞を粗末に扱った天罰ですか…。アーメン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というか、その話はどうでもいいんだよ。この間ディベートした相手のあのスタドリ派のリーダーの女、覚えてるか?」

 

「そりゃあまあ、彼女はうちの大学でも有名だからな」

 

「うん、うちのサークルの男子にも人気だよ?」

 

 

……そうだったのか、と、俺は少し危機感を覚えた。てかそんな有名なの?俺だけ知らなかったとか俺に情報回ってこなさ過ぎじゃない?一昨日の講義が教授の病欠で無くなったのも知らなかったよ?待てど暮らせど来ないから一人でポッキーゲームやってたわ。あの一本をどれだけ速く食べれるかってやつ…。

 

 

「確か一応うちの大学はもう卒業してるんだよな彼女。年齢とかは聞いてないが数年前に卒業したって俺は聞いたけど…」

 

 

「えっと、たしか普段働いてる事務所で有給休暇が溜まり過ぎて、その解消ついでに後輩の様子見みたいな感じでうちの大学に体験入学した…って聞いたよ!」

 

 

「ほー…そりゃなんとも奇特な考えだな」

 

まず働こうという考えが共感出来ん。雄のライオンは狩りしないし、男は働いたら負けだと思ってるから。

 

 

 

 

さて、本題である。

 

「あれからやたらとあの人に話しかけられるようになってな……」

 

その講義があった日の夕方だった……

 

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

 

 

『……先ほどはありがとうございました』

 

『…………誰?』

 

 

 

 

「八幡…」

 

「なんで君は早速忘れているんだ…」

 

……叩き潰すのに相手の顔を知る必要はないだろう?

 

「本気過ぎるだろ……」

 

 

 

 

 

『とても、有意義な討論でした。もしよろしければこの後家でお話させていただけませんか?少し相談したいことがありまして…』

 

『はぁ……………えっ、どちら様ですか?今日はちょっとアレがアレでアレなもんで…』

 

 

 

「なぜ君は頑なに相手を認識して会話しようとしないんだ…」

 

「ちょっと相手が可哀想に思えてきちゃったよ…」

 

 

目の前に美人がいるとわかった時点で前なんて見ないのが八幡クオリティなのだ。

 

 

 

 

 

『他所の家に行くのに抵抗がおありならこちらから伺いますが…?』

 

『あ、あぁーいや、今日は予定もありますし家は片付いてないし知らない人を家に入れるのが嫌なので…』

 

 

「……八幡らしいね」

 

「最後に本音を暴露するあたりがな」

 

そんな呆れた目で見るな。

 

 

 

 

 

『マックスコーヒーを数本買って伺おうと思っているのですが…安く売っているお店を見つけましたので…』

 

『どこで買います?お家はどちらでしたっけ?荷物あるなら持ちますけど』

 

 

「「(八幡)(比企谷)!!!!!」」

「うおっ!」

 

 

葉山と戸塚がテーブルを叩いた。驚いた勢いで食べていたバーガーのタレが口につく。

 

こ、これ、戸塚がとってくれないかな…(照)

 

 

「八幡、顔汚いよ?」

……すんませんした。

 

 

「落ち着け。流石に俺も怪しいと思ったから、マッ缶は自分で買って店先で飲んでトンズラしようとしたわ…」

 

 

 

『ご馳走さまでした。それじゃこれで…』

 

『あと5本買ってしまいました…』

 

『……………………』

 

『相談乗っていただけますか?』

 

『……マッ缶が切れるまでなら伺いましょう…』

 

 

 

 

結果…仕事先の人間関係やそいつらが起こすトラブル等の愚痴に散々付き合わされたが、俺は映画を飲みながらマッ缶を啜り、時たま相づちを打つだけだったのでさほど不満はなかった。

 

俺がぼーっとしているとやたら横顔を凝視される時があって何か怒らせてしまったかと不安になる場面はあったが…。

 

 

 

 

「そうか、まぁ無事ならいいんだが……」

 

「きっと八幡と友達になりたかったんだね!」

 

そんなわけはないが…

 

 

 

 

嬉しそうに俺のポテトを摘まむ葉山と戸塚。

 

この続きを聞いて、その笑みが続けばいいが………

 

 

 

「それでマッ缶も粗方飲み尽くして」

 

「5本も飲み尽くしたのか…」

 

「……飲み尽くして、彼女の部屋でDVD観てた時に、トイレ行くのに彼女を置いて少し部屋を出たわけなんだが…」

 

 

 

うんうんなるほどと、頷く二人。俺は、俯いてテーブルだけを見ていた。

 

 

「それで部屋に戻ったら、彼女がベッドで大の字で寝てた…」

 

 

「…………………………………………それで?」

 

 

続きを促す戸塚に俺は間を置かず答える。

 

 

「昼間の討論会もあったし多分疲れたんだろうと思って起こさないように漫画読んでたら、5分もしないうちに起き上がってしかもやたら不機嫌だった。怒りと哀しみが入り雑じった般若のような顔で睨んでたな…なに?タオルケットかけたのがそんなに不満だった…?」

 

次は顔にハンカチでもかけてやろうか。

 

 

 

「寝起きだからじゃないのか?」

 

 

え?女子って寝起きはあんな鬼のような形相するの?世の中のカップルはよく同衾出来るよな全員遠視かよ。

 

俺は葉山に対する回答はせず話を続けた。

 

 

「その次の日も誘われた…」

 

 

 

『今日もよろしくお願いします…』

 

『慎んでお断わ…』

 

『マックスコーヒー5本買っておきました』

 

『…………』

 

『帰りにもう5本買うつもりです』

 

『……了解』

 

 

 

「比企谷、さすがに死ぬぞ」

 

「少し自制しようね八幡?」

 

 

……気をつけます。

 

 

 

 

「それでその日も俺はまたトイレ行き、部屋に戻ったら、またベッドで大の字で寝ていた、綺麗な大の字で寝てるわりに服がかなりはだけて少しずつ肌が露出してた…」

 

 

「寝相……悪いだけじゃないかな…?」

 

あ、戸塚の声のトーンが落ちた。

 

 

 

「まぁ…、そう思うよな?俺もそう思って、はだけた服をなるべく凝視しないように直して寝かせておいてやった」

 

あ、俺の声のトーンも落ちてる。重力って偉大だね。

 

 

 

「し、紳士的な対応だな…」

 

葉山から称賛の言葉頂きました。だがその目は俺を見ていない。縦横無尽にブレまくっている。さながら風に揺れる蝋燭の灯火のように…。

 

 

 

 

「……また次の日、トイレから戻ったら…………」

 

「も、戻ったら……?」

 

怯えた目で問いかける戸塚に、ゴクッ。と唾で喉を湿らせ俺は言った。

 

 

 

「りょ、両手に手錠かけて、目元に布を巻いて寝たフリしてた……」

 

 

 

 

「……………………………………………………」

 

「……………………………………………………」

 

返事は、無かった。俺が顔をあげるとそこには、

 

 

ブルブルと痙攣を起こしながら、戦慄いた目で無表情に虚空を見つめる二人の姿があった。

 

「………………………………………………………」

「………………………………………………………」

 

 

怖い。怖い怖い怖いよ。父さんの会社が倒産した顔してるよ。俺が悪いの?

 

 

うまいこと言っている場合ではない。俺は速足でレジまで行くと、二人分のシェイクを買って再び葉山達が枯れているテーブルまで戻る。

 

 

「と、とりあえず食え、お前ら」

 

 

ストロベリーとクッキーオレオのシェイクをコトッと音をたててテーブルの上に置くと、二人はブルブルと痙攣しながら恐る恐るといった感じでシェイクへ手を伸ばした。

 

 

 

「わ、わわわわわわるい、助かったよ、比企谷…」

 

「鳥居見いだしちゃってごめんね?ちょっと……想像したら怖くて…」

 

 

 

ちょっと……の後遺症がかなり見える。取り乱し過ぎて戸塚が鳥居見いだしてるもん。どんだけ引いてんだ。

 

 

 

 

呟く戸塚のシェイクはもう半分ほどにまで減っている。ちなみに俺のソフトクリームはというと……あぁもうこれはダメですね。既にだいぶ溶けてきている。やはりハンバーガーの1セットと一緒に頼んだのが間違いだったか。食い終わってから頼めば良かったな……。半ば後悔しながら食べ掛けのバーガーを包装紙でもう一度包み、俺はソフトクリームのカップへ手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

「そもそも、彼女いったいどうしてしまったんだ…」

 

俺は閉口するしかない。そんなことは俺が聞きたい。

ホント、あの人どうしちゃったんだよ…。

 

「たぶん、ギャップを感じちゃってそれがクセになっちゃったんじゃないかな…」

 

「ぎゃっぷ?」

 

俺は戸塚の言葉に首を傾げて、葉山に目線を向けて見るが、葉山もわからないと首を横に振る。

 

 

 

「覚えてるでしょ?…八幡が彼女に何をしたのか…」

 

「は?比企谷、お前彼女になにをしたんだ!?君は最低だっ!」

 

 

「お前どんな想像してんだよ…」

 

討論会で半泣きになるまで攻め立てたくらいだぞ

 

 

「やってるじゃないか…」

 

「まぁうちの大学のほぼ全員が知ってるけどね…」

 

 

 

 

葉山の言葉に俺はため息をついて、カップの中のソフトクリームを飲み物の様にあおった。

 

 

 

 

 

 

「….........ンで?それがなんかあるのか戸塚?」

 

俺はソフトクリームのカップを空にして戸塚に訊ねる。すると戸塚は何故かため息をついてジッとした眼で俺を見た。

 

 

「ねぇ、八幡。彼女とどこまで進展したの?ここで言ってみて」

 

 

 

「……は?彼女?」

 

驚きのあまりソフトクリームのカップを握り潰した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーブブブッ。メールである。

 

 

『……どういうことですか?』

 

……誰?怖い。間違いメールだよね?俺このメアド知らないですよ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーブブブッ。

 

「………………」

 

 

 

『まゆです』

 

 

……知らない人だ(頭抱え)

絶対知らない人だ。だが向こうは俺を知っているのかも知れない。怖い。

 

 

 

 

 

 

「八幡?」

 

「えー、あっ、いや、そのちょっと….........彼女ってのは三人称のこと…だよな?な?」

 

 

畳み掛ける衝撃に俺は冷や汗しながらひたすら狼狽えるのみである。

 

 

 

 

俺は神様にでも嫌われたのだろうか。というか戸塚に嫌われたのだろうか。

 

 

 

 

 

「というか比企谷はどういう女性が好みなんだ?」

 

「………………」

 

関係あるか?と思ったが少しでも気を反らしたかった俺は顎に指を当てて少し考えて答えた

 

「……経産婦(けいざんぷ)だな」

 

 

「「……………………」」

 

 

 

 

 

 

「……考えうる限りで最悪の答えが出たな」

 

「八幡アニメ観なかったの?」

 

二人は俺をみていた。屑を見る目で俺を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「観て改めて思ったんだよ。やはり童貞からすればあの母性と色気に勝てるもんはねぇ…」

 

 

 

 

ブブブーーーーメール?

 

 

『まゆです。次お会いする時までに産んでおきますね?』

 

 

…………なにを?メリーさんより怖い予告メールきたんだが。

まゆさん……ほぼ知らないな。一体誰だろう。冷や汗が止まらない。

竜田が、竜田が足りない……(頬張る)

 

 

 

「アニメ観てってことは由比ヶ浜さんのお母さん?」

 

「ん?おう」

 

 

是非俺のお母さんになってほしい。あの人が母であれば俺はマザコンにでもなれる。

 

 

 

 

 

 

ブブブーーーー

 

『まゆです。今由比ヶ浜さんのお宅の前にいます』

 

……由比ヶ浜の友達だろうか…そうだよね?てかさっきまで未登録だったのに今登録されてるんだけどなにこれ怖い。あと怖い。俺が竜田バーガー食ってる間に何があったの。

 

 

「あ、ああああと雪ノ下の母ちゃんもなかなか良かったよな?大人の余裕っていうか…(焦)」

 

 

 

動揺のあまり言わなくてもいいことを口走る俺。

 

 

 

『まゆです。今雪ノ下さんのお宅の前にいます』

 

しまったぁぁぁぁ!!!焦って犠牲者を増やしてしまった!

 

 

『まゆです。今、あなたの子供の前にいます』

 

 

産んでじゃねーよ!!!!!!つーか俺の子供だったのかよ…欠片も覚えがねぇよ…

 

 

目まぐるしく変わる状況と重なる理解不能な事態に軽く絶望を覚え俺はテーブルの上に落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりこういうことだよ」

崩れ落ちたトランプタワーのごとくテーブルの上で潰れている俺を無視して戸塚は語る。

 

 

「八幡はだいたいにして消極的だし、そもそも他人というか女性に対しての興味と認識が薄い。普段の態度もやる気を感じさせないよね?ダウナーって言うのかな…。草食系な印象が強いよね?」

 

「いや、むしろ“無食系”じゃないか。あれだけ囲まれておきながら…」

 

「そうかも!“無職系”だね」

 

 

 

….........俺の人間としての品格がどんどん落とされている。『食わない』『働かない』ってなによ。地蔵か俺は。……ある意味理想の姿なのかも知れないな。

 

俺を無視して戸塚は語り続ける。

 

 

 

 

 

「普段の八幡を見てても攻撃的な印象は一切ないけど、さっき言った討論会の件じゃ八幡は完全に彼女を叩き潰す勢いだったよね?所謂八幡の“隠れたドS”さを味わっちゃったんじゃないかな?それが彼女のツボにハマってまたおかわりが欲しいのかも知れないね?」

 

 

なるほど、なるほどなるほど。しかしまァ…

 

「ギャップ…ねェ…....。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ところで、えっと、手錠掛けて寝たフリしてた彼女に、….....比企谷は一体どうしたんだ?」

 

恐る恐るといった面持ちで聞いてくる葉山に、俺は出来るだけ真剣に答える。

 

 

「どうしたって……、俺だって手錠まで出されたら彼女がどんな…プ、プレイ?を、求めてンのかはまぁ、想像、つく、しなぁ………」

 

 

「それは….........まぁ、そーだな…」

 

「うん。それで、一体どうしたの?」

 

 

空気が重い。ここだけ空気が重い。なんか挫けそう…。

 

 

 

「き、決まってるだろ、彼女が恥を忍んでプレイをお望みなわけですからね…その、恥をかかせるわけにもいかなくて….........その、や、やりました…、俺はやりましたよ…」

 

 

既に俺は涙目である。

 

 

「ど、どんなプレイしたんだよ…」

 

 

 

怯えた様な、憐れむような目で葉山に聞かれた。

 

 

俺は素直に答えた。

 

 

「…………放置プレイ」

 

「逃げてるじゃないか」「逃げちゃったんだ」

 

 

 

すっごい冷ややかな目で見下された。自分の弱さを思い知らされる。

 

 

 

 

「いやだって無理だよ…八幡のチキンハートをなめんなよ。骨無しチキンより骨無いよ?」

 

 

 

 

ーーーーそこで相談というのが、どうすれば被害少なく彼女の奇行を止める、しいては満足させられるか。ということなのだ。出来れば二度とあの家に行きたくない…。

 

 

「ん!そうだ!」

 

パッと明るい顔で葉山が手を叩く。その快活な動作に期待が募る。

 

 

 

「….........陽乃さんに相談してみたらどうだ!?」

 

 

....こいつ、逃げやがった。とんでもない爆弾だけ残して。

 

 

 

「葉山テメェふざけンなよ。俺は真剣に悩んでるだよ…知人が悩んでいるのを放っておくつもりか…?」

 

 

どうして火種にガソリンぶち撒けるようなことするですか?火柱あげたいんですか?

 

 

「そんな相談される身にもなってみろ。俺は今日ここでお前と巡り合わせた運命を呪うぞ」

 

「ハハハ……」

 

葉山が腕組みをしたまま苦々しく呟く。ちょ、そんな真顔で言わないでくれない?なんかホントに傷つく。俺なの?俺が悪いの??

 

 

 

「「「はァ………」」」

 

3人のため息が重なる。ここのテーブルだけお通夜の空気である。時間的にはおやつの時間だけど…………ごめんなさい、何でもないです。

 

 

俺がくだらないことを考えている間に戸塚は残っていたシェイクを食べ終え、「なら…」と前置きしながら空のカップを自分の前に置き………いやごめん何でもないですごめんなさい。

 

 

とにかく戸塚だ。どうやら一計を案じたらしい。すごいな。俺がここ一週間考え続けていても何も浮かばなかったのに………。やはり観的視点だからこそ思いつくアイデアというのもあるのだろうか。それとも童貞を失ったからこそか…?

 

 

「彼女は八幡の攻撃的な一面を見たくて遠回りな誘いをしているけど、八幡は失敗や嫌われるのが怖くてその誘いに対して一歩踏みきれずにいる。ここまではいい?」

 

 

よくない。別に俺付き合ってもいないし嫌われるのも全くもって構わない。なんでそんな付き合いたての彼氏みたいな心境にされてるんだ俺は。

 

それはともかく、戸塚は要点をまとめつつ状況を整理してみせた。やはり侮れない。しかし、この場合頼りになることこの上ない。さすがに童貞を捨てただけある。

 

 

 

 

 

 

 

「だから“さりげなく見せる”っていうのはどうかな?」

 

 

「ーーーっと、そのこころは?」

 

 

「つまり、見せつけるわけじゃなくて、でも暴走しちゃったりするわけでもなくて、あえてその一面の片鱗?だけを見せて彼女にある程度の満足してもらったりとか!」

 

 

「なるほど!“チラリズム”ってやつだな」

 

 

葉山は俺より早く理解したらしく、得心顔でそう呟く。俺もそれを聞いて頷く。

 

チラリズムとは、文字どおりチラリと見せる(魅せる)ことだ。自然と出てしまう癖や、見えそうで見えない微妙なエロさなど、その応用は広くあるが、共通するのは“見た者にプレミア的なお得感を与える”ことだ。

 

滅多に見られないチャンスを目撃したことによって、たとえどんな些細なことでも見た者には異常な満足感があるのだ。

 

 

「だがあれは意識してやることじゃない。わざとやるってなんか邪道な気がするしそもそも可能なのか?」

 

 

いや、一色あたりならそれすら計算してそうだが…。

 

俺の個人的な感想に戸塚は何故か満足気にうなづく。可愛い。童貞を捨てただけはある。

 

 

 

「確かにね。仕組まれた故意より、偶発的に起こった奇跡。見せパンより生パン。水着より下着の方が嬉しいという八幡の主張にはぼくも強く同感だよ」

 

 

いや、別にそこまで言ってねェだろ。…………戸塚変わりすぎじゃね?童貞捨てると男ってここまで変わるの?……いや、やっと男になったのか?

 

 

……………激しい後悔。

 

 

 

 

 

呆れて溜め息をつく俺に葉山は言う。

 

 

「まぁ、多分中には故意にやってる女達もいるんだろな。色気とか化粧と上目遣いは女の武器だと聞いたことがある」

 

 

 

へェ…そうですか。モテる男は自分からパンツ見せてもらえたりするんですね。俺が見ちゃった時はたとえ事故でも学級裁判でしょうけどね。

 

 

「……誰に聞いたんだ?陽乃さんか?一色か?」

 

 

「………………」

 

「失礼」

 

「……いや…」

 

時をもどそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「話を戻すけど、今回の場合は『見られたくない』という意識をもって見せるのがポイントだね。つまり、自然と出ちゃったんじゃなくて、隠していた一面を見られてしまった!っていうシチュエーションを作ることで満足感があがるかも知れないよ?」

 

 

 

「見られたくない?隠してた?え、どゆこと?」

 

 

具体性の無い説明に俺は首を傾げる。何となくニュアンス的に雰囲気というかあれは伝わってくるんだけど…いやこれ何も解ってないですよね、はい。理解力の無さを痛感してます。頑張れ元国語学年3位!

 

 

「八幡、ちゃんと理解出来てる?」

 

 

と戸塚に俺は顔を覗きこまれ、嘘をつく意味はないので

 

 

「あァ、(解ンねェけど、)…大丈夫だ」

と力強く頷いた。…いや、全然大丈夫じゃねェよ!何ちょっと見栄はってンだ!余計情けないわ!

 

 

「よし、もう一度説明するね」

 

あっさり見破られてんじゃねーか!戸塚が気遣い出来過ぎてて逆にムカつくんだけど!

 

 

「具体的に話してみるね?まずいつもの様に八幡は一度部屋を出るよ?そして部屋に戻ると彼女は寝た振りをして八幡を待っている………ここまでは?」

 

 

「……まぁ大丈夫だ。大体80パーセント以上の確率で寝た振りしてるからなぁ(遠い目)」

 

 

「どんだけ誘われてるんだ君は……」

 

 

 

 

「そして、八幡はここでいつも通りに彼女が寝ていることを確認する。たとえ“フリ”だと気づいても、あくまで“寝ている”と信じこんでいる体で対応してね?」

 

 

「……あぁ。…え?なんで?」

 

 

俺が聞くと戸塚は立てた人差し指を振ってここが重要だと念を押しする。ちくしょう可愛い。だが非童貞だ。

 

 

 

 

「相手が寝ていることを確認するということは、これからする行為は他者には見られたくはないという印象付けをしてくれる筈だよ。つまり、他人には見せらないことってことを強調して、それを見た人に特別感をもってもらうんだよ!」

 

 

「ほー、なるほど…。秘匿性を演出して希少価値を錯覚させるわけか」

 

 

俺は感嘆の息を漏らす。よくもここまで色々な視点から考え、計画を練り、それを解りやすく解説出来るものだ。

 

 

「そして、彼女は自分に対して一切踏み込んでこない八幡に対して僅かながら…いや、大きく不安を感じているのかも知れない」

 

 

 

……付き合ってもいないからね?

 

 

「その不安を取り除く為に…………」

 

 

……取り除かなきゃだめかそれ?

 

 

 

「…ために?」

葉山が首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おもむろにエロ本を読んでみよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

戸塚からエロ本という単語が出たことじゃない。真面目に相談に乗ってくれていると思っていた戸塚からネタとしか思えない提案をされたからだ。

 

……あれやっぱり戸塚怒ってる?でも俺逃げただけでそのあと女子3人とどーなったかは俺関係なくない?

 

 

 

 

「……戸塚?」

 

 

 

 

 

パニック。八幡超パニック。

視界が歪んで世界が回り始める。実はこれは夢じゃないのか。戸塚が男で非童貞というところから夢じゃないのか。まさか今みてる夢はこれから起こる正夢なのか、それとも決して現実にはならない逆夢なのか。結局どっちか2分の1なのならもはや気にするのも意味はないのか。そもそも…

 

 

 

「まぁ落ち着けよ比企谷。君の矮小で最低な脳じゃわからないのかも知れないが、この作戦実は良く考えられてんだぞ…?」

 

 

「お前むしろ喧嘩売ってるだろ…」

 

 

混乱が怒りに変わり矛先が葉山にうつる。後は発射するのみ…!という時に、テーブルに肘をつけて指組みしていた戸塚が口を開く。ちなみに、俺がパニクっていた間も微動だにしなかった。

 

 

というか戸塚さん、そのポーズ(碇ゲンドウ)は似合わないわよ。可愛いだけよ。

 

 

 

「彼女は、どれだけ誘惑してもその気を見せない八幡に不安を感じ始めてる。『ひょっとしたら、私には魅力がないんじゃ…』って…」

 

 

「…………………………………………………」

 

 

魅力どうこうの前に、あの状況じゃ手錠しか目に入らないんだが…。

 

 

続いて葉山も言う。

 

 

「かと言って、君も理性を無くして勢い任せで一線を超えてしまって、その結果で彼女を傷つけてしまった…………なんてのは、一番許せない結末だろ?」

 

「そりゃ…………まァな」

 

俺は葉山の問いに落ち着きを取り戻し、静かに腰を下ろした。

 

 

そもそも付き合ってないだけど。なんでこいつらは交際前に性交渉するのも致し方なしな話し方なの?あの時の仕返しか!?

 

 

「つまり、このプランは彼女の不安と比企谷の思いの間を上手くとった解決案なんだ。エロ本をコッソリ、しかも馬鹿真面目に読んでるお前を見て、彼女はこう思う…」

 

 

「「『あぁそうか。私の為に我慢しててくれたのか』って(と)な。」」

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 

二人が同時に口にした言葉に、俺は衝撃を受ける。

 

 

「なるほど…。そうか、俺は傷つくことも傷つけることもなく、彼女は自分に自信を感じることが出来るわけか…。いや、なんか悪いな戸塚。お前、俺と彼女のことそこまで考えてくれてたんだな…。本当に助かった…」

 

 

 

「もう八幡!そこは『悪い』じゃなくて…」

 

 

「……あぁ!そうだな。……ありがとな!戸塚!」

 

俺も心からの笑顔で戸塚へ感謝する。

 

 

 

……葉山?知らんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんか、ホントありがとなお前ら。我ながら奇想天外な相談になっちまったけど、馬鹿にもせず真面目に考えてくれて。ホントに助かったよ…。」

 

ドン引きはされたが、それでも俺は、俺の悩みに耳を傾け、流すことなく考えてくれたことが嬉しかった。

 

 

「もう八幡、困った時はお互い様だよ?それに、僕はいつだって八幡を頼りにしてるし、八幡に僕を頼ってほしいんだよ!」

 

「また、何かあったら言ってくれ比企谷。俺も君には色んなところで世話になった。だが、今君の側に俺がいるのは、君の力になりたいからで、君のことが心配だからだよ比企谷…」

 

 

..................................ヤバい。泣くかも知れない。

休日の夕方のファーストフード店で高校制服着てる大学生が泣かされるかも知れない。良い話なはずなのにイジメられてるようにしか見えないのは気のせいか。

 

 

 

「…………俺、これ片付けてくるわ…」

 

 

思わず涙が出そうになるのを隠すように、俺はテーブルの上の食べ終えたセットのプレートを持って、二人に背を向ける。

 

まったく、こんな非主人公には勿体無いほど良い奴等と知り合えたものだ。出逢いとは、縁とは一生誇りに思っても良いほどの宝だ。大事にしよう。……これからは。

 

 

 

俺にしては珍しく、ひねくれずに心から親友達に感謝をしながら手にしたプレートの上包みや紙カップを所定の場所に捨ててテーブルへ戻ると、

 

 

「あ、あの、これからお暇ですか?良かったら一緒に夕飯でも…」

 

「二人ともスッゴい格好良いですね!彼女とかいるんですか!?」

 

 

 

「いや、恋人はいないですが…」

 

「えっと、今ちょっと友達と…」

 

 

女子大生くらいの美女達に逆ナンされて少し戸惑っているイケメン達がいた。誰だろうかあのイケメン達は。そう、何を隠そう俺を泣かした奴等だった。見てみて!マジでイケメンだから!………そう、あいつらは…イケメンなんだよな…

 

 

 

「お前等…」

 

「あっ、遅いよ八幡!」

「比企谷!待ちくたびれたぞ!」

 

 

やっぱり、あいつ等だった。うん、知ってた。

 

 

戻ってきた俺を見るやいなや、二人はパッと顔を綻ばせる。俺は助け船にでも見えたのだろうか。

 

 

 

「……悪い。俺ちょっと急にプリキュアの録画溜まってきたから帰るわ」

 

 

 

残念助け船ではありませんでした。ノルマントン号事件さながらに見殺しにした。溺死しろ糞イケメン共が…。

 

 

 

「んなッ!?おい、比企谷!どうしたんだ!!」

「ちょっと八幡!?待って八幡!」

 

 

「あの、そいつらに絶対無理強いしない脅さない記録は残さない乱暴はしない。約束して下さいね…?」

 

「「(八幡)(比企谷)あああああああああああ!!!」」

既に年上美女達に腕をホールドされている見知らぬイケメン達を残して俺は店を出る。

 

 

 

空にはすでに闇がかかり、星達が美しく自己主張を始めていた。あの星達のように、闇に飲まれないように俺も懸命に輝き続けたいな……。

 

なんて純粋な言葉は、今の俺にはとても言えないけれど……。

 

 

「………………………………死にてェ…。」

 

 

ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届かず夜の冷えた空気に溶けて消えた。俺は白い息を吐きながら少し歩を早めて夜道を歩く。何故早めたかって?後ろから二人分の足音が、物凄い勢いで近づいてきたからだ。

 

 

「「(比企谷)(八幡)アアアアアアアア!!!!!!!」」

 

「うっせェ!来ンな!イケメンがうつ…いや待って嘘うそウソうそ!だから止め…あああああァッッッッーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー後日、戸塚の作戦を実行して彼女に無言で叩かれたのはまた別の話だ。




こういうのが書きたかったんだっけ?続きといえば続きです。これ以上書ける気がしないのでとりあえず完結です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。