老いも若いも酸いも甘いも   作:ヤウズ

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彼は大変なものを拐っていきました

『あー…こちら市原さんの携帯で間違いないですか?』

 

残業中、ただ1人残されたオフィスに電話越しの低い声が響いた。

本日仕上げるべき仕事を粗方終わらせ、一杯のコーヒーを燃料に残りを一気に終わらせてしまおう。今日も愛する娘の寝顔しか見られないのだろうか…今日はアイドルとしての仕事もお休みだと聞いていたから、少しくらい一緒に過ごしてあげたかったと罪悪感を感じざるを得ない。

ため息をつきながら職場のコーヒーメーカーを動かした時の話だった。

 

 

この時間には珍しく、私の携帯が着信の声をあげた。

 

暗くなった部屋で、デスクライトの小さな光の中で耳にする聞き慣れたはずの無機質な合成音に、なぜか不安を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『事前に連絡出来ず誠に申し訳ありません、市原仁奈さんを誘拐させて頂きました』

 

電話越しにざわめき混じりに聴こえてくる、抑揚のない、いっそ耳に心地のいいほど低い男の声が、身近な存在の名前と、あまり身近にはなかった単語を、最悪と思える形で並べてくる。

 

“誘拐”。一人の女として、一児の親として知らないはずはない。恐怖しないわけがない。

いつもと変わらず漂っているだけの大気が、私のことなど気にもとめず回っているだけの世界が、すべてが私ひとりの敵にまわったような焦燥感と危機感が私を襲った。

 

 

 

 

 

 

だが私の胸中は、その声を、続く言葉を聞けば聞くほど、恐怖からは遠ざかっていった。

 

 

『あ、此方(こちら)からはとくに要求はありません。ですが、市原仁奈さん本人は貴女(あなた)に会いたいと言っています』

 

 

………要求は…ない?

 

 

『しいて言うなら、それが我々の要求でしょうか…』

 

 

………仁奈が、私に会いたいと言っている。それが、誘拐犯の要求…?

 

 

 

誘拐犯を名乗る男の言葉に、私はすっかり頭がこんがらがってしまった。だってそうだろう。もちろん私は人生において誘拐の現場や誘拐犯というものに遭遇したことはないけれど、テレビや映画ではよくみるファクターだ。だからこそ、偏見ともいえる予測はついていた。

金…いわば身代金だ。命と身柄の無事と返還を保証をする為に大金を要求する卑劣な犯罪。それ以上の最悪があるとすれば、拐ってきた人質自体が犯人の目的であることだ。怨恨、身体に対する加害、歪んだ情欲…姦淫…もはや想像もしたくない。まして仁奈はアイドルとして活動をはじめて認知度もかなり広がった。誘拐の動機としてはどちらの可能性も濃厚だろう。

 

 

 

しかし、当の誘拐犯から出た言葉は誘拐という大前提すら覆す要求。誘拐犯自身に要求はなく、わざわざ拐った女児の願いを共に願う。もはや要求とすら言えない。一周回ってなぜわざわざ拐ったのかと問いただしたくなるほど本末転倒な話だ。

 

 

私は、娘が(かどわ)かされた危機感も忘れても「知りたい」と思ってしまった。まるで映画かドラマでも観ているような、いやもっと現実離れした、それどころか現実感(リアルティー)の欠片もないクイズでも出されたような感覚だ。

 

 

だがしかし、私が頬をつねるまでもなくそれが現実(・・)だと証明させるような声は受話器越しに私に届いている。

 

 

 

『ご返却をお望みであれば、○○駅のそばのサイゼリヤにてお待ちして…あーおい婆さん!仁奈がムール貝食おうとしてる!仁奈にムール貝はまだ早いだろ…』

 

『仁奈はもう貝さんもたべられるでごぜーます!ラッコさんのきもちになるですよ!』

 

ざわめきの中に聴こえる一際大きな声。間違える訳がない、愛する娘の声だ。どうやら誘拐犯と夕飯を共にして上機嫌らしい…いや何故?…しかもムール貝を食べているとは、娘の成長を感じた。

 

 

『うっそ。最近の子はすげーな。お嬢はもう大人のレディですね…』

 

うっそ。まさか誘拐犯と感想がかぶるとか。ほんと子供の成長は早いですね…

 

『仁奈はもうおとなでごぜーます!おさけもおたばこもうぇるかむです』

 

 

恐怖に濡れた泣き声でも、苦痛に満ちた絶叫でも、官能的な喘ぎ声でもない。いつも通りの、何の影響を受けたのかやたらと特徴的になってしまった愛娘の言葉が電話口から溢れる度に、状況も忘れて口が綻んでしまう。………いや別に愛娘の喘ぎ声に興味がない訳ではないけれど、でもそれはダメよ仁奈。あと11年待ちなさい。初めてはお母さんが一緒に付き合ってあげるから。一緒にいい男探そうね?でも煙草は一生吸わなくていいの。どうせこの先吸える場所なんて減っていくんだから。

 

漏れ聴こえてくる声に、恐怖という殻に少しずつ罅が入り、固まっていた緊張と恐怖が()(ほぐ)れていくのを感じた。

 

 

『…え?いやいやいや、注文じゃないです。はい。お酒をお持ちしないで下さい…。子供用のグラスとか要らないですから。…煙草?いやいやいや吸わせてないです灰皿もいらないので…あーいや通報とかちょっとやめて…おい婆さん!なに笑い崩れてんだ!他人事じゃねーんだぞ!』

 

 

私以上に焦る男の声が聞こえる。どうやら仁奈の呟きが店員にまで聞こえたらしい。この場合私は店員を応援するべきなのか誘拐犯を応援するべきなのか迷うところだ。

 

 

 

『おにーさんは誰と電話中でごぜーますか?仁奈はうるせーですか…?』

 

『あー今はお嬢を誘拐中だからな…。仁奈のお母さんとお話中だ…』

 

『ママでごぜーますか!?お話させてくだせー!』

 

 

 

「仁奈?仁奈なの…?」

 

“誘拐”という犯罪の最中に自分に向けられる愛娘の幸せそうな(・・・・・)声に本当に自分の娘なのかと疑ってしまうが、

 

『ママ!』

 

 

“人質”という立場に似つかわしくない、あの太陽のような笑顔を幻視させるほどの明るい声。普段から何もしてやれていないにも関わらず私へ無条件で最上級の愛情を向けてくれる、そんな声。

 

 

娘の無事は証明された。では次はその体温を感じて安心したいと思うのは当然だ。仁奈の声に思わず抱き締めたい衝動に駆られ、勢いづいて居場所を問うてしまった。

 

 

 

「仁奈!大丈夫なの!?今どこにいるの!!」

 

 

『うぇっ!?に、仁奈はいまママに言われたれすとらんでランチでごぜーます…』

 

仁奈は平静さを欠いた私の声に驚き、怒られると思ったのかおずおずと答えた。もちろんそんな声も可愛いらしく、愛おしいと感じてしまう。

 

“私に言われたレストラン”とは、先月たまたま休みだった日に仁奈と一緒に行ったサイゼリヤのことだろう。友人が店長をしているので何かあったらそこへ行くように言っておいたのを覚えていたのだろう。

 

 

 

『仁奈ちゃん…今はお夕飯だからディナーの時間だねぇ…』

 

『らんちじゃねーでごぜーますか?まちがえた仁奈はわるいこでやがりますか…?』

 

 

誘拐犯の片棒…?のお婆さんに間違いを指摘された仁奈の声にまた陰りがかかる。そんな声も可愛い…

 

 

『あー大丈夫だぞ仁奈。俺は昼からずっと入り浸ってるから、ほとんどランチだ』

 

『仁奈は“おじょー”でごぜーますよおにーさん!』

 

『………はいお嬢…』

 

 

仁奈に起こられてしょんぼりとする誘拐犯(おにーさん)

どうやら『お嬢』呼びは仁奈の意思らしい。何故?

 

 

『ハチちゃん?夕方まで学校だったって言ってなかったかい?』

 

『………………………』

 

 

どうやら誘拐犯のお兄さんは『ハチ』と呼ばれているらしい。お婆さんからの質問に無言で答えるハチさん。何と無く切迫感(やってもーた)という感情を私も電話越しの無言の中に感じた。

 

 

『ハチちゃん?まゆちゃんは夕方からお仕事だから今日は会うの断念したんだけど、嘘だったのかい?』

 

『………………………』

 

 

どうしたらいいのだろう。私も警察も関係のないところで誘拐犯が追い詰められていくのが解る。立場を忘れて助けてあげたくなるほどだ。…仁奈!助けてあげて!

 

『おにーさんは明るい時からずっとなにか書いてやがりました!』

 

『………ハチちゃん?』

 

………仁奈。

素直とは時に残酷だと思った。

 

 

『………あー婆さん、酒が足りてないんじゃないの?えっと…ボトル入れる?』

 

ハチさんの声には悲壮感が満ちていた。

あと、いつの間にか私はコーヒーを飲み干していた。やだ私落ち着き過ぎじゃないかしら…。

 

 

 

 

『ママ!仁奈はおにーさんとまやさんといっしょにごはんでごぜーます!ナイフとフォークもおしえてもらったです!はやくママにみせてーです!』

 

 

もう一人の誘拐犯、もといお婆さんは『まや』さんと言うらしい。うちの娘がお世話になっています。

 

 

「仁奈… 」

 

もはや誘拐などという危機感を忘れて私は娘を親戚に預けたような意味不明な安心を感じていた。親戚どころか顔も知らないし、何故そんな状況になったのか検討もつかないが…。あと多分親戚や海外出張中の旦那にこの事を伝えたら私は死ぬほど怒られるだろう。

 

そんな馬鹿なことを考えていた私は、すぐに言葉をうしなった。

 

『おにーさんとまやさんがいるから寂しくねーですけど、ママといっしょにごはん食べてーです。おしごとがんばったママに『ありがとう』と『おつかれさま』が言いてーです…』

 

 

「仁奈…」

 

背中に氷を入れられたように、目を見開き呼吸が止まる。

 

今日は(・・・)おにーさんとまやさんがいるから寂しくない…ならいつもは…。

私はこの時に、娘が誘拐されて初めて娘の本音を聞いてしまった。これは、娘の、仁奈の悲鳴なのだ。私がこれまで考えなかった。考えようとしてこなかった仁奈の心の痛みだ。

 

 

そして、そんな心に痛みを感じていた仁奈が私とご飯を食べたいと言ってくれた。お仕事を頑張っていると許してくれた…。仕事を言い訳に娘から目を逸らしていた自分を。

どんな事情があったのかはわからないが、仁奈が彼らと出会っていなければ、今日この誘拐犯さんが電話をしてくれなければ、私は仁奈の痛みにいつ気づけたのだろう。…いつまで目を逸らしていたのだろう。

 

 

そして気づく。

私は、誘拐によって愛する娘の悲鳴に気づくことが出来た。

仁奈は、彼らによって一時の心の平穏を得て私に本心を話せた。

 

誘拐は、卑劣な犯罪である。だが、彼等が、私の娘を救ってくれたことを私は覆せるのか?私に気づかせくれたことを、私まで救ってくれたことを、私は否定出来るのか?

 

 

 

『お嬢…今日は誘拐されてるわけだからお母さんが迎えにきてくれるまで待ってられるぞ。明日も学校は休みだろ?』

 

『うーー。おにーさんの手はきもちーでごぜーます…』

 

『おっと、今お母さんに全力で誤解を招いた気がするぞ…なんでまや婆さんはさっきから真顔なの?ちょっと周りの視線も恐いんだけど』

 

『それはハチちゃんが昼間っから入り浸ってるからじゃないかい?』

 

『サイゼリニストは孤独だ…』

 

彼等の、私の愛する娘と誘拐犯を名乗る者達のひどく愉しげな声が受話器から聴こえてくる。この会話をずっと聞いていたいとおもった。

 

 

 

 

 

『おにーさん手止まってるでごぜーます…』

 

『………レポートのことか…?』

 

『仁奈ちゃんの頭に乗ってる手のことじゃないかい?』

 

『………お嬢、そろそろ膝からおりて手も離してもらえません?気づいてる?全然食べ終わってないのに店員さん10分置きに皿取りにきてるんだよ?』

 

………どうやら店側には激しく警戒されているらしい。ふふ。

 

 

『仁奈は今ひとじちなのでみのしろ金がよーいできるまでおにーさんからはなれねーです』

 

『あ、ちがいます。その、ガチな誘拐とかじゃないんで…あムール貝もう一皿貰えます?あと…』

 

『ホネついた肉のやつくだせー!』

 

『………らしいです』

 

 

 

そしてそれ以上に、私もそこに加わりたいと思った。

そう思った時…

 

 

 

『………まぁ、そういうわけで、仁奈さんのことはしばらく預かって置きますので…誘拐犯らしからぬ言葉なのは承知ですが、とりあえずご安心を。…でも流石に周りの視線がキツいので、事故を起こさない程度に急いで迎えにきていただけると助かります。えーっと、まあ…具体的には婆さんがワインで潰れる前に…』

 

 

まるで迷う私の手をとり(いざな)うような言葉に…彼の優しい声に救われた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、仕事を大急ぎで終わらせ、車でサイゼリヤに向かうと酔ってハイテンションになっているご年配のご婦人と、私の姿が見えて機嫌が良くなった仁奈に引っ付かれて疲労感を顕にする一人の青年の姿があった。

 

 

そして、青年とご婦人と一緒に食べた中で気に入った料理を私に「たべてくだせー!」と勢いこんで勧めてくる仁奈に驚きながらも、勧められるがままに食べるとそれが余程嬉しかったのか喜びはしゃぐ仁奈を、落ち着かせるように褒めながら頭を撫でる青年と、それによって更にテンションを上げる娘の姿をみて、久しぶりに心の底からの笑いがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすみませんでした」

 

酔いの回った佐久間まやさんをタクシーに乗せ、いざ我々も帰路につこうとした時、彼は、比企谷八幡君は私に深く頭を下げた。

 

 

ここに至った経緯、仁奈とはこの店で今日が初対面であり、たまたま話の流れから仁奈が(わたし)に会えないことを寂しく思っていること、頑張っている母にお礼も出来ず、何か言えば迷惑がかかるんじゃないか…すでに迷惑をかけてしまっているんじゃないか…と、呟くように漏らす仁奈の言葉を聞き、狂言に及んだことを説明した。

 

佐久間さんとはもとより待ち合わせではあったが、大学生と幼女、しかも不信感を抱かずにはいられない腐った目の男と、血縁もありそうに見えない女児と二人で長時間ファミレスにいては店員に警戒され、善意や正義感から警察や私に連絡が入ってしまうのではないという懸念から少し予定より早くきてもらい、佐久間さんには自分の妹だと偽って同席を許してもらい家族ではなくてもなるべく長く団欒を感じられるように協力してもらったらしい。「こんな腐った目ですみません」なんて、自虐をまじえて謝られた。

 

 

加えて“誘拐”という物騒な表現を使った理由については、たとえ善意であれ本人が喜んでいようが保護者の許諾なく拘束すること自体が“誘拐”と認められ刑事罰が下ることがあると知っていた為、現状が誘拐となんら矛盾しないと判断し『誘拐犯』を名乗ったらしいが、たとえ佐久間さんが比企谷君の妹が既に高校生であることを知っていても、仁奈が親類ではないと気づいていたとしても、警察に世話になることがあれば責任は自分一人にあると言い張るつもりだったらしい。…それと、年端のいかない娘を一人放置している母親とやらに少し怒りを覚えたと地に額をつけて語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからというもの、仁奈のお仕事が休みの日には連絡先を交換してくれた比企谷八幡君に仁奈の子守りを頼み、私の仕事が終わってから仁奈を受け取り帰ることが増えた。

 

 

 

「あまり同じレストランに子供と未成年の男の子が入り浸るのも体裁が良くないかしら」…と私が呟いたのをきっかけに、彼は自身のバイト先の店長と交渉しバイト中はそこで、休みの日は自分の一人暮らしする部屋に仁奈を招いてくれるようになった。無論彼なりに悩んだようだが…。

 

いくらお世話になっているとは言っても最近はロリコンやらポリゴンだのとたとえ幼児期とはいえど女の子を男性と関わらせるのに抵抗を招く事件も多い。そんな複雑な私の胸中を察した彼は仕事中の私によく仁奈の写メを送ってくれるのだが、その随所に佐久間まやというあの人の良いご婦人の姿が見られるのだから、どこまでも気遣いのできる青年だと反って彼への好感度はうなぎ登りだ。

 

 

まれに佐久間さんとの都合がつかない日でも自宅で夕飯を振る舞ってくれ、宿題などの面倒もみてくれているらしく、その報告を仕事終わりで疲労困憊となった私に、残り物とはいえ温かい食事とともに用意してもらったことも一度や二度ではない。ひょっとしたら彼は私の血の繋がりのない“家族”なんじゃないかと錯覚してしまうほど、私は彼に信頼と、愛情に似たものを持ち初めていた。

仁奈にとっても恐らくそうだろう。どうやら比企谷君はテレビや芸能ニュースに疎いらしく、仁奈がアイドルとして活動していることを知らないらしい。だからこそ、比企谷君は仁奈を一人の女の子として、或いは妹のように扱い、可愛がってくれている。それが余計に嬉しいのだと思う。

 

 

余談だが、どうやら彼のバイト先の人も、そして行きつけのサイゼの店員も佐久間さんまでもが、比企谷君に仁奈がアイドルであることを内緒にしているらしい。

 

 

「そうだね…明らかにファンに見える人が仁奈ちゃんと二人きりでいたら流石に僕達も警戒せざるえないけど、どうみても兄弟だったんだよね。全然似てないけど。それも仁奈ちゃんの方が懐いてるみたいで。そりゃ僕達も見守らざるえないよ。彼が仁奈ちゃんの職業を知らないことであの距離感を作られているのであれば、出来ればこのまま知らせずにいたいよね」

 

というのが、サイゼの店長さんの言葉だ。今では仁奈がお兄ちゃんに甘える姿が店員達の楽しみになっているそうだ。皆に見守られて幸せだね、仁奈。これからも私と比企谷君と家族3人仲良く生きていこうね。…あれ、最近旦那の顔が思い出せない…。歳かしら。

 

 

 

 

 

 

 

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最近、アイラブ千葉Tを着てコンビニに行くと怪訝な顔をされるようになった。というのも、高校という身分を捨て晴れて大学生となった俺には制服というものが存在せず、私服で行動することが増えたからだ。

 

あとはあれだな、最近の時勢によりレジには店員と客の間に必ずビニールシートなんかが常設されていて、声が届かなくてぶっちゃけ何言ってるのかわからん。…故に、客も店員も互いの身振りに視線の動きに注視しないと意志疎通が図れないのだ。ある意味これも進化と言えよう。…もっとも、おかげで身振り手振り首振りでの意志疎通が可能になったおかげで俺の言葉数はかなり減ったが。これは進化なのか…?

 

 

そもそも、ソーシャルディスタンスなんてぼっちにとってはただ習性でしかないし、コロナなんてのも遭遇率の低いポケモンみたいな認識しかないのだ。ちなみに、進化表現の仕方は“ココロナ”→“コロナ”→“ボスコロナ”な?ボスとかつけると凄い強そうだけど伝説のポケモンに“ボス”はつかない。これ豆な?

 

 

 

そんなこんなで店員が俺の素晴らしいTシャツに感動しやすくなったのか、はたまた前々から店員は俺のTシャツに感銘を受けていたが俺がそれに気づかなかったのか、どちらにしてもその店員の鼻で嗤うようなあの表情がウザったくなってきた。あらやだ、全然感動されてない?

 

 

 

 

 

 

という訳で今日は、相変わらずのユニフォームである千葉Tにしまむらで買った適当なジャージの上下で、バイト代抱えて洋服屋に来たわけである。

 

 

笑顔の眩しい店員のお姉さんが現れ、緊張のあまりなんども吃りながら「とりあえず、着回しが楽でシンプルで固すぎなくて、そんで冠婚葬祭もコンビニも行ければベスト」という無理難題をふっかけてみたのだが、流石はプロ。一瞬の膠着のあとすぐに高い声で「それでは~」なんておすすめのコーナーに案内されたのである。…あれ、ひょっとして俺ってカモられてる?

 

 

 

その後、メジャーやらなんやら使って色んなところのサイズを測って「やっぱり目が…」とか「なんとか雰囲気を和らげないと…」とか呟く店員さんを眺めて目を腐らせる男がいた。というか俺だった。

身体のサイズと目は関係ないよね?和らげるってなに?まさか俺のセンサーを!?いつの間に測ったんだ!!まだまだ大きくなりますよ!測り直しを求む!

 

 

 

なんて我ながらふざけた下ネタ混じりの漫談を一人で展開してる間に店員が持ってきた服を受け取り、試着室でジャージを脱ぎ、改めてサイズを見るというか、畳んでおくという言葉に甘えてカーテンの隙間から脱いだジャージを渡して服に袖を通そうとしていると外から妙な会話が聴こえてきた。

 

 

 

 

「いや~ん志希ちゃんイイモノはっけーん!その服からドーパミンどばどば出ちゃうくらいあたし好みのフェロモン感じちゃうね~、研究資料としてお買い上げしちゃうよ!」

 

 

………変わった人もいるらしい。研究資料なんてこの店にあるのか。どんな研究なのだろうか。

 

 

「お、お客様?こちらは売り物ではなく今試着中のお客様の御召し物でしてお売りすることは…」

 

 

………は?え?俺の服?

 

 

「……はい?え?いやいやそんなにいただく訳には…ええ?」

 

 

………あれ?なんか交渉始まってね?多分俺のだよね?

 

 

「やった~!これで志希ちゃんも頑張れちゃうね!クンクン…ふむふむ。わぁ~やっぱり志希ちゃんにはおっきーいなぁ~!手が隠れちゃった!」

 

 

………えっ、なに、なに?どーなってんの?

 

 

 

「ニャハハハ!おっ持ち帰り~!」

 

 

 

おおおおおおおおい!なんでだアアアアアア!!!!

 

 

 

 

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「申し訳ございませんお客様。当店のスタッフのミスで、お客様の御召し物で床にこぼれたカレー粉を拭いてしまいまして、お客様の大切な御召し物を返せなくなってしまいました!」

 

 

「………」

トランクスと千葉Tで試着室から出動する勇気などもちろん俺にはなく、預けられた服を身につけ出た先で笑顔の店員に告げられた言葉がそれだった。

 

 

………笑顔でとんでもない嘘つくなこの人。いい…笑顔です。

 

 

「お客様そちらとてもお似合いです~。お帰りは是非そのままでどうぞ!あっ、それと、それでお詫びと言っては何ですが、こちらで着回しが可能になるよう同じタイプのシャツとスーツを何着か見繕いさせていただきました!今回こちらすべて無料とさせていただきます」

 

 

ほぉ…だいぶ太っ腹である。

 

 

 

「さらに今回は、こちらの銀のネックレスに色付き眼鏡と西洋杖、革靴も無料でつけさせていただきます!」

 

 

「へぇ、オマケまで付くんすか…サービス良いですね…。でもそのオマケお高いんでしょう?」

 

 

「いえいえいえ!お客様あっての当店でございますので!通常ですと、7万と4,800円のところ、本日は無料。それと次回以降御使い頂ける半額クーポン券の方をお渡しさせていただきます!」

 

 

「………ほぅ…俺のジャージいくらで売った?いやいくらで売れたんですか?」

 

 

 

「重ね重ね、当店のスタッフが申し訳ございませんでした!」

 

 

「いやいや、なんであんたはちゃっかり『自分じゃないですよ』アピールしてるんですかね…」

 

 

「毎度ありがとうございましたー!」

 

「えーーーーーーーー…」

 

 

結局、俺は自分(のジャージ)に何が起こったのかわからないまま新たな装いで店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最近大学に行くとやたらと視線を浴びるようになった。まるで怯えるような警戒染みた視線や、なんだか解らない熱っぽい視線まで。ひょっとして店員がすすめてくれた服の下に“アイラブ千葉”Tシャツを着ているのが理由なのかも知れない。やはり千葉は東京人からは警戒を、他県の者からは憧れを向けられるのが常なのだろう。流石は千葉。それでこそ千葉だ。

 

ちなみに、流石に校内でサングラスはかえって目立つので、とりあえずYシャツの胸元を第2ボタンまで開けてそこに引っ掻けてる。こうすることで小町がくれた黒い千葉TのVネックと千葉への愛を象徴するハートマークの端がチラ見えするのだ。戸塚に教わったチラリズムをここで活用して俺の千葉への愛と千葉の偉大さを皆に布教してやるでごぜーます。

 

 

 

 

 

ところで、最近戸塚と葉山はかなりお疲れ気味らしい。

 

なんでだろーなーぁー…。

 

とりあえず、いつも戸塚と葉山の手をとって一緒に帰ってるあの女子3人には近づかないようにしよう。「爽やか王子系と小動物系とヤクザ系…」「三人まとめて…」「戸塚君達に呼んでもらおっか」などという話は聞いてない。ごめんな戸塚、俺はバイトと子守りに忙しいんだ。代わりに俺のおすすめの“アキバ系横綱剣豪将軍”を誘ってやってくれ。

 

 

 

 

 

 

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今日は大学は休んだ。買い物である。ちなみに経費がおりた。出所はまだ控えておこう。正直、この金を俺が持ってるのはかなり心苦しいし、俺が代表して買い物をしなければならないのはかなり責任を重く感じている。

 

 

 

だからさっさと済ませて終いたいのだがなかなか決まらず、道づたいにお店のショーウインドーを眺めていたら………

 

 

 

 

「ちょっと貴方…」

 

「え?」

ガシッ…と、突然背後から肩を掴まれた。

振り返って目に入ってきたのは…落ち着いた色のスーツを着た、黒髪ショートボブの妙齢の女性と………

 

 

「見つけましたよ!葛西善二郎!放火及び建造物破壊の容疑で逮捕します!」

 

 

………その手の、警察手帳…。

 

 

 

「ッッッうぇ!?」

 

息が詰まるほど驚きパニックに陥る俺。当然である。これまでの人生「通報されるかも知れない」などと思うことは何度もあったが今回に関しては何の心当たりもない。

 

「俺?俺ですか!?」

 

自分を指差し何度も確認する。これはゾンビですか?いいえ指名手配らしいです。………なんで?

 

ついでに周囲の奥様方もこちらを指差しなんかヒソヒソ言ってる。やべぇこれ満場一致じゃない?多数決で少数派だったことは何度かあったが満場一致で悪者扱いなんて………、………………あれ結構あるな。

やばい、どれだけ振り返っても負けたことしか無いなんて目も当てられない。というか目のせいとしか思えない。親父の写真渡したら許してくれないかな。『私がつくりました』って書いとけば親父のせいになりませんかね?

 

 

 

 

「貴方です!確かにその変装には驚かされましたが、貴方のその凶悪な目は誤魔化せません!署までご同行願います!」

 

「は?いやいやいやちょっ!?いきなりパトカーはちょっ…!?」

 

強引に腕を組まれパトカーに押し込まれた。…もうこの辺の店これねぇな…

 

 

 

 

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「うちの部下が悪いね、比企谷君…」

 

「すみません!すみません!すみません!すみません!」

 

 

等々力(とどろき)という俺を誤認逮捕した若い女刑事が何度も頭を下げる横で、その先輩らしき刑事が俺の学生証を確認して返してくる。

 

笹塚(ささづか)というプラチナシルバーの髪に同色の顎ひげを少し残した妙齢の刑事。整った顔立ちはどうみてもハンサムに違いないのに、目許の深い隈とダウナーどころか無気力とさえ言える気だるげ感がそれを掻き消している。見ようによってはそれも色気といえるのかも知れないが。

 

なんかシンパシーを感じるな。この刑事さん。

 

 

「うちの等々力は思い込みは強いがとにかく真面目な奴でな…俺にはない正義感でよく暴走しちまうことがある…。今回はその勤勉さが転じて君に迷惑をかけてしまった。………完全にこっちの事情で申し訳ないが許してもらえると嬉しい……」

 

「………先輩…」

 

いや、ちがうな。どうやら等々力さんの方は笹塚さんにほの字らしい。つまり笹塚さんも俺の敵だ。畜生(ジーザス)

 

 

「いえ、こんな見た目ですから仕方ないかと…。気にしないで下さい…」

 

 

 

俺が誤認逮捕された店からこの警察署まで結構距離があった為、笹塚さんがパトカーで送ろうかと提案してくれたのだが、「パトカーから目が腐った男が降りてきたらどう思います?」と尋ねてみたところ、等々力さんは申し訳なさそうに目をそらし、笹塚さんは無言で頷いてタクシーを呼んでくれた。タクシー代は署の経費で落ちるらしいので遠慮なく利用させてもらった。

 

 

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トラブルはあったが、それでも良いヒントを得た。

15時には仁奈も帰ってくるし、まや婆さんが手伝ってくれるとはいえ全てを委せきりにするわけにもいかない。

 

 

「早めに済ませるか…」

 

 

 

 

「お手伝いしますか…?八幡さん…」

 

 

「!!!!!!!!!!!」

 

またしても背後から声をかけられた。だが今度は、この耳にハッキリと覚えのある声。甘く、柔らかく、優しく飲み込むような口調と声。

 

 

 

「ッ…」

 

「やっと…やっとお会い出来ましたね…八幡さん…」

 

 

 

いつか見た、底なしの暗闇の瞳。

 

 

 

「ッッッッッッ」

 

 

 

まや婆さんの面影を帯びた、美しくも可愛らしい顔立ち。

 

 

 

「ずぅーっと、お会いしたかったです…」

 

 

 

相手を安心させ優しく飲み込むような口調と声。

 

 

 

「ッッッッッッッッッッッッ」

 

 

 

そして、俺の中の警報を激しく鳴らすこの麗しき少女は……

 

 

 

「まゆのこと、覚えていますか………?」

 

 

「………うっす…」

 

 

 

 

佐久間まゆ。あの佐久間まやさんの実孫。なぜかあの婆さんの「うちの孫とハチちゃんが付き合ってくれたら」なんて妄言をどう受けたのか、俺によくわからない圧力(プレッシャー)を向けてくる現役女子高生アイドルだ。

 

 

もうホントに疑問符が止まらない。何故ここにいるのか。何故この一瞬の行間で手を繋がれているのか。俺に向ける感情(ベクトル)はなんなのか。怒ってる?怒ってるんでそ?なんでこんな奴とみたいな感じだよね?

 

 

 

 

「八幡さんが『子供のいる優しいお母さんのような女の子が好き』だと聞いたので、まゆ、とっても頑張ったんですよ…?」

 

 

上目遣いで凄い微笑んでくれるけど、ドキドキするけど、

 

俺はこの子にそんな話一度もしてない。

 

 

「ほら、八幡さん。まゆと八幡さんは運命で繋がってるんです。だからほら、まゆ達、子供が出来たんですよ?ほら、八幡さんそっくりの猫っ毛なんです…」

 

 

子供ってのはその手にある目付きの悪い黒猫のぬいぐるみのことですかね?猫っ毛ていうか猫だよね。そのしっぽは両親どちら似なんですかね。

 

 

「あ!しっぽはもちろん八幡さん似ですよ?…………ふふ、八幡さんのしっぽはまだまだ大きくなると聞いたので後で計り直させて下さいね?ふふふふ…」

 

 

 

お前にっつーか誰にも言ってない筈なんだけど…こわい。あとこわい。隠し子の発覚ってこんな感じなのか。男の子なのか女の子か全然気にならないところがマジで愛を感じない。こわい。

 

 

「性別…ですか?えー…と…解らないですね。どっちがいいですか?」

 

 

 

頭を鷲掴みして猫を下から覗き込んでいる。…子供の扱いがぞんざい過ぎる。そしてその設定はさして重要じゃないのか…こわい、あとこわい。

 

 

 

「あ、それで八幡さんはこれから仁奈ちゃんのお母さんのプレゼントを買いに行くんですよね?警察手帳を見て写真を入れられる手帳型のiPhoneカバーに決めたんですよね?さすが八幡さん、まゆ好みのセンスです!」

 

 

 

どこまで()られてんの?

 

 

「いつでも、まゆは八幡さんを見ていますよ。たとえ遠く離れてしまっても、いつでも八幡さんは私の中の運命(むね)のなかに生きているんです…うふふふふ」

 

 

俺の故人感がすごい。俺が一言も喋ってないのに通じるあたり俺を殺してこの子が食ったんじゃないかなって思えるレベル。ヘルシングかよ…セラス可愛いよね…

 

 

 

「今、目の前にいるのは私、なんですよ八幡さん?…誰か他の女性のことを考えるのは悲しいです。ふふふふふふふふ…」

 

 

こわい…

「すみません…」

いつの間にか俺の右手と彼女の左手を縛っていたリボンをほどきつつ俺は冷や汗を流しながら謝る。気分はさながら爆弾処理班だ。赤…切っていいかな。

 

「ほどいてしまうんですか…?まゆと八幡さんの…運命の糸…」

 

俺がほどいているのは右手の赤い拘束具ですけどね。運命の糸を解きほどくとかちょっと神っぽくて格好いいなぁ…。「今度は錠と鎖にしますか?」とかやめろ。ガチじゃねーか。強度をあげんな。

 

「………」

 

なんだろうか。俺はほどくために手を寄せて俯いていて、小柄な彼女が俺の顔を覗き込んでいるから…

 

「キス………してるみたいですね…」

 

「………耳元で呟くな…」

 

 

 

なんだかもう逃げられないのかな…なんてもう諦めというか、彼女と繋がる右手に凄まじい閉塞感と束縛感を感じていると、

 

 

 

 

 

「こらそこのヤクザー!誘拐!売春!それか悪徳な勧誘だな!現行犯逮捕だ!」

 

本日二度目の警察手帳と対面した。

あ、この手錠(オプション)は初めてですね…。

 

 

 

「………一般人です…」

 

「嘘つけ!どーみてもヤクザだろう!こら!暴れるな!警察呼ぶぞ!」

 

「呼んでくれよ頼むから…」

 

 

「あ、あの、違います。比企谷さんは…」

 

 

「うぉっ、美人!?大丈夫です!もう手出しさせません!」

 

 

珍しく…という程知り合いでもないが初めて動揺を見せる彼女の顔を見てその若い刑事は驚き、そしてどや顔で自身の胸を叩いて無線を取り出す。

 

 

「またか…またなのか…」

 

 

「先輩こちら石垣(いしがき)です!少女を誘拐して売り飛ばそうとするヤクザを確保!至急連れて帰ります!」

 

 

 

やはり、パトカーの乗り心地は良くなかった。

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーゴンッッッ!!

 

 

 

「…携帯の履歴と、なりより佐久間さん本人の証言で比企谷君と彼女が知り合いである確認がとれた。それと学生証でわかるとおり比企谷君はまだ大学生だ。…ヤクザでもナンパでも売春でもない。わかったか石垣…」

 

 

「…はい………」シュゥゥゥゥ………

 

「度々すまないな比企谷君…」

 

「いえ…」

 

「すみません、重ね重ねすみません…」

 

等々力という女刑事さんは申し訳なさから、あるいは石垣というこのアホっぽい刑事と同じ失敗をしたことが恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯きながらひたすら謝罪を重ねている。

 

 

俺の携帯に(なぜか)入っていた佐久間の電話番号で彼女と俺が知り合いである確認をとり、LINEに送られてきた(教えてない)いつ撮ったのか解らない佐久間が俺と腕を組んでいる自撮り写真と怒涛の「運命」「また必ず」などのメッセージを見せれば流石の石垣刑事も納得した。

 

 

 

 

 

まさか一日に二度も見た目だけでパトカーに乗せられるとはなぁ…。服か、服装かな?でもこれあの店員が見繕った服なんですけど。レビューで低評価つけてやろうか。それとも目ですか。この目ですか。これは社会がつくりました。俺は社会の被害者です。

 

でもこの格好仁奈は喜んでたんだが…『おにーさん!かっけーです!仁奈のわかいしゅーでごぜーます!』とか目をキラキラさせながら言ってたんだけどなぁ…

 

 

 

ちなみに、等々力刑事が俺のスマフォを手に取り佐久間からの一方的なメッセージを見て「強烈というか、すごい…ですね。私もこのくらい…」なんて赤くなっている時に佐久間から「触るな」というメッセージが来て俺のスマフォを落としそうになっていた。

 

 

 

やっぱり同性でも恐いんですね。そりゃそうだ。

 

 

 

 

「そ、その比企谷さん!お願いだから訴えないで!これ!4分の1スケールの島風ちゃんのフィギュアがあとちょっとで完成するから!完成したらあげるかr…」

 

 

ーバキャキャッ!!!!!!

 

 

「ぎゃーーーーーー!!!!!!島風ぇーーーーー!逝ったらいけーん!」

 

 

「本当にすまないな比企谷君…」

 

ちょっと欲しかったとか言えない…。いや、仁奈がうちにくるようになったから置けないけどね。というか、さすがにあそこまで完膚なきまで壊されると流石に同情を覚える。俺もあれされたら泣かずにはいられないだろう…。

 

 

「いえ、別に悪気があったわけじゃなさそうですし…あんまり怒らないであげて下さい…」

 

 

「…………………………………………………………………………………

……………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………ああ…」

 

 

「間長いな!」

 

ほとんど否定とも取れるほど間を置いて返事をした笹塚さんに石垣さんはクワッと目を見開いて驚き、笹塚に庇われる(…庇われてる?庇ってるか?)石垣さんが腹立たしいのか等々力さんは冷たい目で見下ろし、

 

 

「石垣さん。あなたのフィギュアが私のデスクにまで侵食してましたので棄てておきました」

 

 

 

事後報告していた。

 

 

 

くおおおおおんのガキがああああああああ!!!!!!!!!!

 

声にならない石垣さんの怒りを聞いたような気がしながら俺がその場を後にしようとすると…

 

 

 

「…比企谷君…」

 

「はい?」

 

 

笹塚さんに声をかけられ、プライベートらしき電話番号が書かれたメモを渡される。

 

 

「………いいんですか?」

 

「………あぁ…。色々迷惑をかけたし、君はその…何かと苦労がありそうだ。なにか必要だと感じたら連絡をくれ。詫び…とは関係なく、力を貸す」

 

 

「………ありがとうございます」

 

相談にのる………とかじゃない愛想の少ないところがとてもこの人らしく、逆に頼りになると感じた。もちろん警察の方の力が必要な機会など無いに越したことはないのだが、それでもとてもありがたかった。

 

 

 

俺は頭下げて、口喧嘩をする石垣さんと等々力さんの声を聞きながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

その後、佐久間に言い当てられた通りのプレゼントを2つ購入し、俺のスマフォの中にあった写真をそこら辺で現像してなんとか仁奈に頼まれた『ママへの誕生日兼日頃感謝のプレゼントの調達任務』を終え、自宅へ帰って仁奈とまや婆さんと部屋の飾り付けや料理なんかをしていた。

 

 

 

そして、

 

 

「おにーさん!仁奈のママをゆーかいしてきてくだせー!」

 

「…マジすか。お嬢…」

 

「行ってらっしゃい、ハチちゃん。気をつけていくんだよ?」

 

「了解…」

 

 

うちには黒塗りのベンツもリムジンもないので、冴えない中古の軽自動車で姐さんを迎えに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

今日は、私の誕生日だ。

おそらくそれに合わせただろう仁奈もお休みで、ありがたいことに比企谷君とまやさんも予定がないらしい。

予定がない・のではなく私の為に予定をつくってくれたのだろう。わかるものだ。仁奈は素直で無邪気な、親である身内びいきなしに可愛らしい子だ。だから、仁奈は嘘をつくが得意ではない。

 

 

「ママ!あしたのばんごはんは一緒にたべてーです!まやさんと、おにーさんもじゅんびてつだってくれます!だから…、はやくかえってきて?」

 

 

どうして?…私が笑ってそう聞くと…

 

 

「なんでもねーです!でも、明日じゃなきゃだめなんでごぜーます!あっ!おかいものもおりょーりもおにーさんとまやさんがやってくれるですから、ママは明日はおいわいされるだけですよ!」

 

 

なんて、思わず笑ってしまいそうになるほど可愛らしくて罪のない嘘。きっと、仁奈の前でお兄さんらしく振る舞ってくれるものの、本音と卑屈さを隠そうとしない比企谷君の影響か。人との距離感が絶妙で、安心させてしまう佐久間さんの影響か。嘘は上手くならない代わりに仁奈は以前よりもおねだりとわがままが上手になった。そして、私もそんな仁奈のわがままを叶えるのが楽しくて仕方ないのだから比企谷君と佐久間さん、なにより仁奈には感謝しかない。

 

 

そんな三人が私の為にお祝いを用意していると言うなら仕事にも身が入ってしまい、いつの間にかすっかり退社時間になっていた。

 

 

珍しく仕事もすっかり片付いてしまったので部下達も皆帰らせ、一人部署内の戸締まりをしていたところ、部下が閉めていったドアが開く音がして振り返った。

 

 

 

「お疲れ様です。市原さん…」

 

「青山部長…」

 

最後の最後で嫌な人に会ってしまったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですから、市原波奈さんの知人で、今日は迎えを頼まれてきたんですって…」

 

「あーうん、はいはい。ですから、比企谷さんでしたっけ?たとえうちの社員とお知り合いだったとしても、暴力団の方を社内にお入れするわけには行かないんですよ…」

 

 

「あーだから違うんだけど、あーそだ、これ、学生証です。大学の学生証。さすがに学生でヤクザってのは無理でしょ?」

 

 

「あーA大学の学生さんでしたか。えーあーうん、わかりました。」

 

少々お歳を召した警備員さん相手に悪戦苦闘して、なんとか入場の了をとり、そこではたと疑惑にぶつかる。この爺さん、大丈夫か…?

ここまでの経験で、俺の容姿があまり人から歓迎されないのは重々承知している。ここ最近はそれがとくに顕著だ。なんせ、今日一日でパトカーに二度も乗せられ、一度は手首に輪っかまで嵌められたのだ。どんだけ一般人離れしてんだよ俺。

 

 

そんなことがあったのだから、もともと初対面の人間とのトラブルに対して臆病だった俺も輪をかけて警戒する。手錠だけに。…今のはない…(自己嫌悪)

 

このベテラン感が過ぎてむしろちょっと心配になる警備員さんが、今ここで(・・・・)俺の入場を許可してくれたとしても、社内で俺が別の人間に不法侵入の疑いをかけられた時、果たしてきちんと証言をしてくれるだろうか。

 

 

念には念を入れておこう…。

 

 

俺はスマフォ内にいれておいた録音アプリを起動して、意識的に情報を口にし記録を残す。

 

「A大の比企谷です。今日は知人の市原さんと約束がありましてお迎えに来ました。これ、一応市原さんと知人の証明です」

 

「あぁーぁ、あーはい、一緒に写ってるね。…市原さんね。うん、確かにいたねこんな人。うんうん、解りました」

 

「それじゃあ入場許可を証明するような物はありますか?名札とか入館証とか…」

 

「えーっとそれじゃーぁね、これ、今即席で入館証つくるからね、首から下げてって」

 

「ありがとうございます」

 

 

かなり回りくどくはなったが、無事警備員さんから入館証を貰い俺は市原さんが日頃勤めているである会社に足を踏み入れた。

 

ちなみに、作ってもらった入館証には警備員さんの名前らしき『落無(おとなし)あかし」と書いてあった。マジで念を入れてよかったと思った。

 

こんな記憶も証言能力も信用出来ない名前あるんだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめてっ!青山部長どうして!?」

 

私は青山部長に押し倒されて、冷たい床と息を荒くする部長に挟まれて動けなくなっていた。…いや、正確には、私の動きを封じるのは、部長の手にある刃渡り10センチ程の刃物。

 

そう長い得物ではない。だが、それでもそれを手にしているが常軌を逸した雰囲気で馬乗りになっていて、尚且つそれが首もとの動脈に当たるところに強く押し付けられているとなれば、命の危機を覚えずにいられない。

 

 

 

「前々から気に食わなかったんだ!同期で俺が苦労して成績あげてるのにいつも涼しい顔で当たり前みたいに俺より評価されて、あんたが産休で休んでる間になんとか成績あげて、ようやく部長まであがったってのにあんたは戻ってからすぐ俺の成績に追いつきやがって!」

 

 

「なっ、そんなの貴方のただの逆恨みじゃないですかーーーッ」

 

首筋に一層強く当てられたナイフの冷たさが、それ以上私の発言を許さなかった。

 

もともとこの男の視線には、よく嫌悪感を感じていた。同期として入社した時にはそれほど嫌な感じはしなかった。だが、本格的に仕事が始まってそれぞれ成績にバラつきが出るようになってから、彼の目には怒りのような色が見え始めた。

 

だがそれも、私が産休に入り戻ってくると、その視線がより不快感を感じるような色を含むようになっていた。まるで獲物を見るような、私を女として、食い物にしようと企むような、私に対する言動にも誑かすような印象を持つようになった。だが…

 

 

「うるせぇ!だが偉そうにしてられるのも今日までだ!今日ここで俺が弱味を握っちまえば、あんたは俺の奴隷だ!あんたも、あんたの旦那や娘の稼いだ金だって俺が好きに使えるようになる!」

 

 

そう、仁奈が成長し、アイドルとして活躍するようになり、またその視線に色が増えた。…いや、濃くなった。怒りと、欲と、妬み、嫉み。そして、今それが、直接的な暴力として私に向けられている。

 

 

「そんな…貴方…最低です…」

 

「黙れぇ!!お前が言えたことかよぉ!?毎日毎日朝から晩までガキほったらかしてこんな所で小銭稼いでやがって!挙げ句の果てにそのガキまでアイドルにして金稼ぎの道具か!?お前が俺に最低なんて言えた女か!?テメーは金稼いで使うだけで、ガキを見知らぬ他人に任せにしてるお前はそんなに出来た親かよ!?俺がなんか違うこと言ってるか!?あぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーちがうね。お嬢をお守りするのは俺の仕事だ。姐さんはそれを理解して俺にお嬢を預けてくれているだけだ」

 

 

そこに、彼がいた。

 

グレーのYシャツの上に、光沢のある黒革の、ベストタイプのレザースーツ。色の薄いサングラスをかけ、右手の西洋杖を肩にかけた比企谷君が。

 

 

 

「ついでに、女を粗末にするカスを始末するのも、俺等の仕事だ」

 

 

コツ…コツ…とゆっくりと床を鳴らして歩み寄る比企谷君の出で立ちは、私にとってはヒーローと言っては差し替えないはずなのに、少なくとも正義を担う者の雰囲気ではなかった。

 

 

「な、なんだお前は…」

 

 

 

「…お話中どーも(あね)さん、お嬢の指示でお迎えにあがりましたが、お取り込み中ですか?」

 

 

狼狽える青山部長の言葉を無視して私に訊ねる彼の言葉は、その流れるような軽さとは裏腹に、その怒りと理性で固められた無表情によって刃物を持った男に恐怖を抱かせるほどの重みを有していた。

 

 

 

(かしら)に連絡入れて今部下がこっち向かってます…」

 

ゆっくりと、その感情見えない顔が青山部長に向けられる。

 

「ッ」

 

 

「沈めるかバラすかは姐さんに任せるそうです」

 

どうします?と、こちらへ向けられた伺いに私はパニックのあまりに言葉が出ない。

 

 

「わ、私は…」

 

「決められませんか…相変わらず人が()い…」

 

だが彼はそれすら予想していたように静かに頷くとまた革靴を鳴らして青ざめる青山に近づく。

 

「なら本人(お前)に聞こう。青山譲二」

 

「な、んで俺の名前…」

 

 

「…決まってるでしょ。姐さんの周辺人物は全て調べてある。無論、テメェの親族までな…」

 

「ッ」

 

まるで首を絞められるように息を飲み恐怖を顔に顕現させる。

比企谷君の落ち着いた言葉、まるで荒事に慣れたような佇まい。もう青山部長には彼が反社会的勢力の構成員にしか見えないのだろう。

 

 

 

 

 

 

「…さぁ、どうする?コンクリ着てダイビングするのと、解体(バラ)してホルマリン漬けの売り物にされるのーーーー」

 

 

 

 

比企谷君は色つきの眼鏡を外しながら二択を差し出す。

 

 

 

 

ーーーーどっちがいい…?

 

 

 

 

その目は混沌を煮詰めたように冷たく、感情が消えたように腐っていた。

 

 

 

 

 

「ひ、ひゃあああああああああああ!!!!!!」

 

 

青山部長はこれまで感じたことのなかった命の危機を前に、頓狂な声を上げて逃げ出した。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーーーーーー

 

 

あれから比企谷君と私は、彼が運転してきた車に乗って帰路についていた。あんなことがあったというのに気分はとても落ち着いている。

 

 

私は青山部長が逃げ去った後、まるで恐怖から解放され感情を取り戻したように涙がボロボロと溢れ、比企谷君の脚にみっともなくすがりついてしまったが、比企谷君はそんな私になんと言葉をかけて良いかわからないように、数十秒ほど狼狽えた後、自分の脚にすがりつく私の頭を優しく撫でながら何処かへ電話をかけ始めた。

 

無闇に優しい言葉をかけないその振る舞いが、私を救ってくれた。

必要以上に私は被害者にならずに、弱くならずに済んだのだ。

 

 

 

 

『………比企谷君か…。何かあったか?』

 

「早々に連絡しちゃってすみません。迎えに行った知人が男に襲われてまして…今は無事です。男はどっか逃げました。同僚みたいなんで身許とかはすぐ解ると思います…」

 

『………そうか…。………比企谷君と、女性………だよな?………怪我は?』

 

「ありません。ただ、知人はナイフを突きつけられてたんで、今ちょっとショックが抜けないみたいで…取り調べとかは今日は俺だけにしてもらえませんか。証拠になるかはわかりませんが、一応音声を録ってあるんでそれをお渡しします」

 

『………了解。それは………送れるかい?それと文面でいいからメッセージで詳細を送ってくれ。被害者のケアは…まかせる。…署に来るのは明日以降でいい』

 

「………いいんすか?守秘義務とか…」

 

『俺と比企谷君がたまたまプライベートで交流があって、俺がたまたま職質かけた相手がその男だったとしても問題は………ないだろ』

 

「最後、ちょっと不安になったんですけど…」

 

『まぁ上司も一応それなりに知った仲だし、多めにみてもらうよ…』

 

「…了解です。じゃーこれから送ります。ご迷惑おかけします」

 

『…お互い様だからな、気にしなくていい』

 

「ありがとうございます。今度都合が良ければ飯でも奢りますよ笹塚さん」

 

『さんきゅ』

 

電話が切れる寸前。「いくぞ、石垣、等々力」なんて声が聴こえた。会話の内容からおそらく相手は警察の関係者らしいが比企谷君の知り合いなのだろうか。

 

 

比企谷君は手帳型のスマートフォンカバーをパタンと閉じ、それをズボンのポケットにしまって私に視線に合わせるようにしゃがみこんで、優しく、それは優しく微笑み手を差し出す。

 

 

「帰りましょうか…」

 

 

サングラスを外した比企谷君の瞳の濁りが、まるで吸い込むように恐怖と不安を奪いさり

 

 

「………うん」

 

 

その笑みに引き寄せられるように、差し出された手をとった。

 

 

 

 

 

「比企谷君?」

 

「はい?」

 

「みっともないところ…見せちゃったわね…。ダメね…私は。あの人の言うことに、一つも言い返せなかった…。泣く前に…傷つけられるくらいなら…って、諦めようとしちゃった…私…お母さんなのに……。仁奈を守らなきゃいけないのに…こわくって…」

 

 

ハンドルを回す比企谷君に私は弱音を晒す。さっきは無闇な優しさを取らない比企谷君に救われたが、落ち着いたせいか少しだけ欲が出てしまった。

 

あの男の言葉を誰かに否定して欲しくなった。女として傷いてしまった心を、優しさで、甘い言葉で、信頼に足る男性(ヒト)に、埋めて欲しくなってしまった。

 

 

 

 

だが、比企谷君の言葉は、その期待を裏切るものだった。

 

 

 

 

 

「俺も、……怖かったです…」

 

 

 

あの場で誰よりも冷静さと強さ、暴漢が恐怖するほどの威圧感を見せつけた彼が、冷や汗を流して声を震わせていた。

 

「比企…谷くん…?」

 

 

「なんとかハッタリはかませましたが、まだちょっと怖いっす…格好つきませんね…」

 

確かに、比企谷がハンドルを握る手には無理な力が入っているのか、僅かに震えていて、

 

 

「今でも、膝が、膝が笑ってます…『さんま御殿』くらい…あれ?あれは『踊る』でしたっけ…」

 

 

「ぷっ、ふふふふふふ…うふふふふ!!!」

 

思わず、笑いがこぼれた。

 

「ふふ、ふふふ………あんなに…かっこよかったのに…?」

 

 

「格好つけてはいましたよ…」

 

そっか…かっこつけてくれたんだ…。私の為に。怖くて、終わっても、思い出すだけで震えてしまうほど怖い状況で、私の為に我慢して震えを押さえて、頑張って強がってくれたんだ…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー私は手を伸ばした。

 

 

 

 

「ん?ぅんん??」

 

私が断りもせず比企谷君の頭に手を置き労うように撫でると、比企谷君は戸惑いながら恥ずかしそうにしていた。そんな彼へ、私は仁奈へ向けるような愛情を覚えた。そして、その他に、彼を別の形で求める熱い感情が自分の中に生まれていくのを感じた。

 

 

「そういえば、青山部長の名前はどこで知ったの?」

 

「………普通に部屋の入口の火元責任者のタグに名前があったし、市原さんが“青山”って呼んでたのでそれで……」

 

「そう………ふふ。たったそれだけのことで青山部長も追い詰められるなんて、………よっぽど比企谷君が怖かったのね…ふふふ」

 

「ええぇ~ひどい言われよう……あ、ぁーところで、仁奈ってアイドルになったんですか?お祝いでもします?」

 

「うふふ…ふふふふふふふふ!!!!!」

 

「うんん??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私と比企谷君は佐久間さんと仁奈のクラッカーを浴びて比企谷君の部屋に入り、彼等が用意してくれた誕生会を心の底から楽しんだ。それこそ、今日の恐怖を忘れるくらいに。

 

 

「ママ!おたんじょーびプレゼントでごぜーます!おにーさんにかってきてもらったです!」

 

「えーっと、俺のセンスで買ったんで、その、気に入らなかったら俺の見えないところで捨てて下さい…大丈夫です。女性に泣かされるのは馴れてるんで」

 

 

 

仁奈に渡されたのは広い機種に対応出来る手帳型のスマホカバー。見開きに小さな写真を数枚入れられるタイプだ。

 

 

 

 

「ママがくれたクッキーのかんのお金でおにーさんに買ってきてもらったでごぜーます!」

 

 

「ちなみに、それ買うまでに二回捕まりました…。警察手帳って…格好いいっすね…目に焼き付いて離れないんです…」

 

 

「ママと仁奈でおそろいでごぜーます!こんどおにーさんがママとおそろいのけーたいでんわ買ってくれるでごぜーます!いっしょにいきましょー!」

 

 

 

「ふふふ…そうね。いっしょにお揃いの写真入れようね?」

 

私のスマホカバーには、二枚の写真が既に入れられていた。一枚は、まだ仁奈が小学校に入る前にとった私と旦那、そして仁奈が写った、家族3人で撮った最後の家族写真。確か以前比企谷君に見せたことがあったような…。

 

 

そしてもう一枚はつい最近撮ったばかりの4人の写真。

私と佐久間さんと仁奈…そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

「送ってくれてありがとねぇ、八ちゃん」

 

「気にすんなよ、婆さん。いつも世話になってるからな。俺も仁奈も、あとまぁ市原さんも?」

 

「ふふふ…八ちゃんにそんな素直に言われるとくすぐったいねぇ…」

 

 

「………うっせ…」

 

俺はまや婆さんを後部座席に乗せ、家まで送るついでに今日市原さんを迎えに行った時あった一部始終を話していた。

 

 

「………それにしても、そんなことがあったんだねぇ。二人とも怪我がなくてよかったよ…」

 

 

「悪いな、婆さん。おかけでちょっと戻るの遅くなって、こんな時間になっちまった…」

 

 

「いいんだよぉ八ちゃん。仁奈ちゃんも楽しそうだったからねぇ。それで警察には連絡したのかい?」

 

 

「あぁ、ちょうど…都合が良いのか悪いのか…警察の人と知り合ったり録音したりしてたから、諸々説明して取り調べとかは落ち着いてからにしてもらった…」

 

 

「あぁ…さっきのはそういうことなのね…。気のきくお巡りさんなんだねぇ」

 

「あぁ、いい人だよ。…多分、知らんけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ!今日はたのしかったでごぜーますか!?」

 

「うん!楽しかったわよ仁奈。ママ今までで一番楽しかった。ありがとね?」

 

「えへへ!うれしーです!おにーさんと、まやさん、いっぱい手伝ってくれたでごぜーます!仁奈もいっぱいがんばったです!」

 

「そっか、本当にありがとね、仁奈。比企谷君………八幡君とまやさんにもお礼も言わないとね?あ、一緒に携帯も契約に行って二人にご馳走しようかしら…」

 

「えへへ、楽しーです!いきましょー!」

 

 

「ふふふ…ねぇ仁奈…お兄ちゃん、欲しくない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八ちゃん、波奈さんに、気をつけなさいねぇ」

 

「んー。そりゃ、まぁ解ってる。あんなことがあったからな…」

 

「そうじゃないけどねぇ…」

 

「んん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…帰りました…」

 

「お帰りなさい。八幡君…」

 

帰ってきた八幡君を、私が出迎えると八幡は意外そうに目を丸くして驚いた。

 

「えっ…と、ただ…いまっす…八幡…君?起きてたんですか市原さん…」

 

 

「波奈…って呼んで下さい。ね?八幡君…」

突然名前で呼ばれたこと、名前で呼ぶように言われたことで八幡君はまた驚いて言葉が淀む。

 

 

「………えっと…。あぁ、おじょ…じゃねーや。仁奈はもう寝ちゃいましたか?パピコ買ってきたんですけど、一緒にどうですか…?」

 

「ふふふ、いただきます…」

 

ソファーに腰を下ろしてパピコを2つ分ける八幡の横に腰を下ろす。とても、とても落ち着いて、まるで身体が溶けるように力が抜けてリラックスしていくのを感じるが、八幡君は私に密着されたせいで少し居心地が悪そうだ。…が、もう少しこの八幡君の体温と、1日分の汗の匂いを堪能させてもらおう。

 

 

 

「えっと…どうぞ…」

 

「ふふ…ありがとね」

 

パピコを渡すついでに、私との間に手を置いて距離を作ろうとした比企谷君の手に私の手を置き、指を絡める。

 

「ひッッッ」

 

肩をビクつかせて真っ赤に染まる八幡君。本当に、本当に愛らしい。

あまりに居心地がよいせいか、少しばかり眠くなってきた。八幡君の肩を借りて、また体重を八幡君へ預ける。私の体温も、匂いも、八幡君へ伝わっているだろうか。

 

 

「八幡君、仁奈のお兄ちゃんになってくれませんか?」

 

「兄…って、えーっと…?」

 

「仁奈が何処から産まれてきたかご存知ですよね?そう、私からです」

 

 

「………?」

真っ赤に染まった顔で、不思議そうに眉を寄せる八幡君。

 

 

「だから、私から産まれたあの子は私の子です。それはつまり、私から生まれれば、私のなかから()たら、それはもう“私の子”ということになりませんか?」

 

「…………………」

赤みを帯びていた八幡君の顔から、少しずつ血の気が引いていくのを、私は気づくことなく言葉を、願いを連ねる。

 

 

「さあ八幡くん、私の中にお入りなさい。私のなかに甘えて下さい…」

 

「…………………」

 

 

 

「貴方を私に余すことなく注ぎ込めば、私が優しく貴方を産んで差し上げます」

 

 

「…………………………」

 

 

「仁奈の、優しいお兄さんになって下さいね?」

 

 

 

「………………」

 

 

 

「うふ、うふふふふ…」

 

 

そうして私は、甘やかな酩酊感と心地のよい睡魔に飲まれ、微笑みを溢しながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………

…………………………………………………………………

…………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………

…………………………………………………………………

………………………………………………………………ッ」

 

 

 

 

ガチャッ…

 

「ん、うーん…?おにーさん?どうしたでごぜーますか?」

 

「イヤ…ナンデモナイ…」

 

「ふるえてるでごぜーます…さみーでごぜーますか?」

 

「………アァ、チョット恐い夢を見てネ……」

 

「………?おにーさん、こえーでごぜーますか?あ!それなら仁奈のおふとんでいっしょにねやがりましょう!」

 

「………ん?あー…いいのか?」

 

「はい!あったかいでごぜーますよ!おにんぎょーさんもいっぱいいやがります!もうこわくねーですよ!」

 

「ありがとな、仁奈…。………じゃー仁奈が俺をマモッテクレ…」

 

「………?なんでごぜーますか?おにーさん?」

 

「………ナンデモナイなんでもない…ははは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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結局あの後も恐怖からなかなか眠ることも出来ず朝まで一睡も出来なかったので途中でリビングに戻りソファーで眠る市原さんに毛布をかけた。

 

朝ソファーで目を覚ました波奈さんは意味深な笑みを見せて会社に向かった。行き掛けの警察へ行き、パトカーで出社、そのまま被害届を提出して退職願を出すらしい。まぁ事情が事情だし、ほとんど問題なく通るだろう。俺もあとで呼び出されるんだろうなぁ。

 

次の仕事としては休みのとりやすい仕事を探すらしい。「八幡君のバイト先にも頭を下げてみようかしら」なんて嬉しそうに言われた時は思わず冷や汗をかいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにーさん、今日はねみーでごぜーますか?」

 

欠伸が止まらない俺の膝の上で、仁奈が気遣わしげに首を傾げた。

 

 

「んあ?あぁ…大丈夫だ…。どこか解らないところあったか?」

 

 

「しゅくだいは終わったでごぜーます!でもさんすうドリルのオマケのクイズがわからないです。おにーさんわかりやがりますか?」

 

 

「んー?ちょっと見せてくれるかお嬢…」

 

目元を擦りながら膝に乗る仁奈の頭越しにドリルを覗き込む。

 

 

「『ドラえもんの四次元ポケットと繋がっているもうひとつのポケットはなんていうかな?』………そのまんまだな…」

 

「わからねーです!おにーさん教えてくだせー!」

 

「いいのか?んー…確か…ぁ、“スペアポケット”って言って、確か四次元ポケットの予備にあたるものがあった筈だ…なぁ」

 

「それがあればドラえもんになれるでごぜーますか?」

 

「んん…んと、どーだった…かな。そもそも四次元ポケット自体、ドラえもん以外使いこなせてない節があるからなぁ…。基本的にはスペアポケットなんて手を突っ込めばドラえもんに快感を生じるだけのリモコンローター代わりにしかならないよなぁ…ふあぁ…」

 

「ドラえもんは何しに来たでごぜーますか?」

 

「えーっと…確か…どら焼き食って…猫と不倫するだけ…って誰かが言ってたような…」

 

 

「………ハチちゃんは眠いみたいだからソッとしといてあげようね?仁奈ちゃん、ドラえもんはのび太君の未来を明るいものに変えにきたのよ。お勉強がんばったねぇ。どら焼きあるけどお婆ちゃんと一緒に食べるかしら」

 

「っ!食べてーです!ドラえもんの気持ちになるですよ!おばあちゃんもドラえもんになるでごぜーますか?」

 

 

「ふふふ、待っててねぇ。今お茶沸かしてくるからねぇ」

 

「はいでごぜーます!」

 

 

 

 

 

 

 

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仁奈は、市原仁奈といいます。

しょうがっこーとアイドルをしています。

 

仁奈は、いつもお家にかえるとさびしい…です。

パパもママも、おしごとがんばってくれてやがります

 

仁奈も、アイドルのお仕ごとでたのしい時間はふえたです。いろんなキグルミ着れるようになったでごぜーます。

でも、お家にかえるといつも1人になります。とってもさびしくて、お家にかえる時間になりそうになると、すこしこえーです。

 

 

 

今日は、おしごとはお休みでした。

仁奈はがっこうがおわったらすぐ家にかえってしゅくだいをして、おなかがぺこぺこになりやがりました。

 

「パンは朝たべちゃったのでねーです。れいぞーこも、空っぽでやがります…」

 

テーブルの上に、ママがかってくれた仁奈のおさいふと、クッキーのかんがありました。ママがいつも「お腹すいたら買って食べるのよ?」と言ってお金をいれてくれるやつです。

 

仁奈は一人でおかいものはこえーので、あんまりお金はへりません。カンヅメのなかもいっぱいでごぜーます。

 

「今日は、おそとにたべに行くです!」

 

ひとりでお出かけは初めてです。きょうはママもお姉ちゃんたちもいやがりません。大丈夫です。きょうはドラゴンのキグルミでお出かけです!ふあんなんてビームでやっつけてやるですよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽乃様、お乗りください…」

 

「ありがと都築。今日も比企谷君に会えなかったな~。大学なら会えると思ったのに…このレストランの招待状は雪乃ちゃんと一緒に使おうかな?」

 

「それがよろしいかと思います。陽乃様、お入用の物は以上でしたでしょうか」

 

「うん!付き合ってくれてありがとね。帰ろ?」

 

「かしこまりました。荷物を置いてから雪乃様のマンションでよろしいでしょうか?」

 

「うんよろしくー」

 

 

 

 

ママといっしょにきた、れすとらんにつきました。

れすとらんに行くとちゅうで、きれーなお姉さんと、お姉さんのおせわをするおじいさんがいました。お姉さんは仁奈に手をふってくれやがりました!お顔がキラキラしてて、アイドルのお姉さんたちみたいでした。

おじーさんは、かっこいいまっくろなおようふくと手ぶくろをしてやがりました。巴お姉ちゃんの、「わかいしゅう」っていう人たちにそっくりです。

 

 

巴お姉ちゃんも、パパがお仕ごとで忙しいと言ってやがりました。でもいつもたのしそうで、「さびしくねーですか…?」って聞いたら

 

 

 

『なんじゃぁ?うちの親父も忙しい人で会えん日もなかなかあるが、それでもうちに帰れば若い衆がいてくれるからの。『お嬢、お嬢』っちゅーて気にしてくれとる。事務所(ここ)でもプロデューサーも姉御(あねご)達も色んな人が大切にしてくれとる。だから寂しいことはないんじゃ!』

 

 

 

仁奈も、お仕ごとではみんなやさしくしてくれるです。

 

でも、おうちではさびしいです。

 

しかたないです。ママも、パパも、仁奈の為にがんばってくれてやがります。会えたときは、仁奈をやさしくしてくれます。

 

でも…

 

「もっと、そばにいてくだせー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢…」

 

「!!」

 

「いや、これはちょっと違うか…」

 

 

「おじょー?」

 

「うん?あー…えっと、大丈夫か?ジュース飲みたいのか?ドリンクバー頼んだ?お嬢…いや、やっぱこれはちょっと違うか…」

 

 

「………!!お兄さんは!仁奈の『わかいしゅー』でごぜーますか!?」

 

「………んん??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日俺は、やむにやまれぬ事情で大学を休み、真っ昼間からサイゼにきていた。

 

 

正直、仕送りがあるとはいえ私的利用できる金はほとんどバイトから生み出す毎日だからあまり余裕はない。まぁ、そもそも私的利用というのも最近は本を買ってあとは安い中古車を乗れるくらいに維持する程度しかないので貯金はかなり貯まってきている。だからまぁ、余裕が無いといっても俺が自分で決めた月の使用金額の範囲内の話だ。今日明日の生活が脅かされるなんてことはない。ただ合言葉のように「節約しよう」とかほざいてるだけだ。

そんな時でも安心して食べにこられる!サイゼならね!

 

なんて、誰にむけたものかわからないコマーシャルを脳内作成していると、ドリンクバーの前に佇む一人の少女…というか幼女を発見した。

 

 

「………?」

 

 

とても特徴的というか、奇抜な格好をした子だった。緑のしっぽや鱗…のようなイメージの服。………コモドドラゴンだろうか?いや、角っぽい飾りもあるからただのドラゴン…?………ただのドラゴンというのが世界に存在するかは置いておいて、とにかく気になったのはその奇抜な服装ーーーー

 

 

ーーーーではなく、そんな格好をしながら今にも泣き出しそうなその悲しみに満ちた彼女の雰囲気だった。

 

ドリンクバーの前に立っているのだからソフトドリンクが欲しいのだろう。ひょっとして飲みたい種類が無かったか、あるいは届かないのだろうかと声をかけることにした。

 

 

 

 

 

「お嬢…」

「お嬢さん」と、声をかけようとした。というか言いかけた。だがここで俺の自意識というやつが俺にブレーキをかけた。考えてもみて欲しい。

 

昼間のファミレスで、一人の幼女に、腐った目をした男が声をかけるのだ。『お嬢さん』と。………もう控えめにいってヤバイ。何がヤバイって超ヤバイ。もう犯罪の匂いしかしない。通報まったなしである。

 

 

「いや、これはちょっと違うか…」

俺は幼女の肩に触れようとしていた手を止め(まじヤバい)、どう声をかけたものか考える。考え(モノローグ)が声に出ていることを気づかずに、いっそ店員に知らせた方が良いかも知れないと思い至った時、

 

 

 

「おじょー?」

 

彼女が俺見ていた。幼女が、まるでなにかを期待するようなキラキラした目で俺を見ていた。

 

 

「うん?」

俺は首を傾げ、彼女と目線が合うように片膝をつく。

 

 

「あー…えっと、大丈夫か?ジュース飲みたいのか?ドリンクバー頼んだ?お嬢…いや、やっぱこれはちょっと違うか…」

 

とりあえずドリンクバーを代わりに注いであげるとして、そもそもドリンクバーを注文済みなのだろうかと俺が頭を掻きながら彼女にたどたどしく訊ねようとすると…

 

 

 

「………!!お兄さんは!仁奈の『わかいしゅー』でごぜーますか!?」

 

 

 

太陽な笑顔が咲き、その幼女が俺の胸に飛び込んできた。

 

 

 

「………んん??」

 

 

 

俺と、“市原仁奈”嬢の出会いである。

 

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「仁奈ちゃぁん、どら焼きとお茶だよ…ってあら」

 

 

「ふふふ…くっついて寝ちゃって。ホントにお兄ちゃんと妹みたいねぇ」

 

 

 

 




うっそ、このシリーズまだ続くんだ。てかこんな長くなるとは思わなかった。1000文字くらいで終わると思ってたのに。
計画性どこにいったんだよ!計画性どこにあんだよ!売ったのか!メルカリで売ったのか!

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