Fate/Vilebloods   作:ゾラ!ヤクルトゾラ!誰のもの〜

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1話

雁夜side

 

 

 窓から差し込む強い光で目が覚めた。日が高く既に正午を回っているだろう。目が覚めると知らない天井ということもなく、見慣れた自分の部屋の天井だった。

 

自分の部屋と言っても、元々自分の部屋だったこの部屋は1年前に戻ってきたときには既に私物は全て捨てられており、ベッドやソファも無いのでいつもは蟲蔵から部屋に戻ると気絶するように床で寝ていた。そのため蟲蔵で嬲られた疲労感は全く取れず、体はバキバキになって寝起きはいつも最悪な気分だった。

 

だが今日はサーヴァントの召喚による魔力不足による疲れはあるものの、いつの間にか自室に運び込まれた元々は居間にあった、少し固めだが床よりは何倍も柔らかい革張りのソファの上で熟睡できたため、いつもよりは断然マシだった。

 

足を引き摺りながら階段を降りて居間に着くと、そこにはリンゴを齧る桜ちゃんと家にあった本を読んでいるバーサーカーがいた。桜ちゃんは俺や臓硯の許可が出るまで食事をとったり、寝ることもしなくなってしまったのでリンゴは恐らくバーサーカーが用意したのだろう。

 

「貴公、目が覚めたか」

 

バーサーカーが本のページから目を離さずに声をかけてきた。

 

「もう少しマシなものを桜ちゃんに用意できなかなかったのか?」

 

 

 

「この時間まで眠りこけていた貴公に言われたくはないな」

 

バーサーカーの態度が気に入らなかったので、少し非難めいた口調で返したが少し痛いところをつかれたので、その後は何も言わず桜ちゃんと自分用に軽食を用意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅めの朝食をとった俺は話したいことがあるからと、桜ちゃんに部屋へ戻ってもらい、バーサーカーと対面する。臓硯が死んだことですっかり忘れていたが、昨日から気になることが一つある。

 

 

それはバーサーカーの真名について。

 

 

アーサー王伝説の円卓の欠片によって召喚したバーサーカーは時代錯誤甚だしい銃を装備している。聖杯戦争に参加することを決めてから、蟲蔵で過ごす合間に付け焼き刃になることは百も承知だが、1年間それなりの数の文献を読んで、敵サーヴァントと対峙する時に真名が分かるように備えていたのだが、目の前で相変わらず本を読んでいるこいつに関しては、全く心当たりがない。

 

 

ある意味有名になりそうな特徴的な兜、青い軍服に、ピザカッターのような武器。そして昨日の彼の発言で聞こえた『連盟』・『狩人』・『虫』。それらとつながる人物が思い当たらないので、大分マイナーな英霊だと思うのだが吸血鬼のようなしぶとさを持つ、あの臓硯をあっさりと倒したことが釈然としない。

 

 

サーヴァントには知名度補正というものがある。「その時、その場所で、どれだけの人に認知されているか」で、ステータスはより高く、伝説の再現度もより正確になる。そのため、目の前のバーサーカーは狂化による補正があったとしてもそこまで強いはずがなく、今までの聖杯戦争に少なからず関わり、生き延びてきた臓硯を倒したことがやはり信じ難かった。

 

 

臓硯から桜ちゃんを救い出すことが既に叶ったため、聖杯は必要なくなったのでそこまで気にすることではないかもしれないが、それでも助けてくれた恩人がいったいどのような英霊なのかを知りたかった。

 

 

改めてバーサーカーを見てみる。相変わらずバケツのような兜を被っているせいで表情は全くわからないが、ただ本を読んでいるその姿勢は、『常に優雅たれ』を家訓にするあの憎たらしい時臣と引けを取らないどころか、比べるのが失礼だと思えるほど優雅で貴族然とした印象を受ける。いいところの生まれなのだろうか。

 

 

助けてくれた彼の真名を自分の力で気づきたかったが、最早お手上げだったので意を決して尋ねる。

 

 

「私か?そういえば自己紹介がまだだったな。この世で最も尊き御方の血族。私のことはただカインハースト、そう呼んでくれ給えよ雁夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はその名前を聞いて驚いた。

 

 

カインハースト家

 

その一族の歴史は古く多くの謎に包まれている。

様々な時代、様々な国で一族とその痕跡が確認されており、歴史的に重大局面においては必ずと言ってもいいほど関わってきた一族。

 

そして歴史上でなぜか彼らは皆、カインハーストとしか名乗らない。世界史などで王族や貴族などは、ドラキュラのモデルとも言われるヴラド3世のように、家名に~世をつけた名前伝えられてきた人物は数多く存在するが、個人名が伝わらず家名のみ後世に伝わっていることも、カインハースト家の謎の一つである。

 

そのため日本ではフリーメイソンが秘密結社として有名であるように、カインハースト家は世界規模で秘密結社か、それに近しい組織なのではないかと信じられており、日本でも年に一度か二度は都市伝説を扱う番組で特集が組まれるほどだ。

 

更に数年前、当時ルポライターとして取材するために参加した海外で開催されたオークションでイギリスのとある民家の地下室で発見された『人形』を名乗る作者が著した、カインハーストの末裔を主人公とした、3冊の小説をカインハースト本家の当主がそれぞれ、当時の日本円で10億円もの大金で購入したことが話題となった。

 

19世紀頃に書かれたとされるその3冊は全て手書きにもかかわらず、筆跡を調べると文字の形は1ナノメートルの誤差もなく同じであることが話題となっていたが内容の方は注目されていなかった。

 

なぜなら、なにかと謎の多いカインハースト家をモデルとした作品は、何かと多く出回っており現在のおいても小説家がモデルにすることもざらにある。とりわけ歴史小説や、ある程度史実に沿う漫画ともなると、色々な時代で歴史上に現れるので時代に縛られることが少ないので登場させやすく、その謎の多さから物語の黒幕や、主人公達にアドバイスする謎の人物、といったキャラクターにしやすいため必然的に多くなってしまいがちなのだ。

 

そのため有名作家が著したものでもない限り、オークションで高額になるケースは少なく、カインハーストに類するものが競り落とすことがなかった。

 

そのためカインハーストの本家の当主自ら、高額で競り落としたことが当時話題となり、ある都市伝説のTV番組も、「そこに隠された真実がある!」と俺からしたら少しこじつけ気味な考察をしていたりもした。

 

 

――どうりで強いわけだ。

 

あの謎の武器のことは結局分からずじまいだったが日本でも超が付くほど有名なカインハーストに連なる英霊ならば知名度補正は十分に発揮されるだろう。

 

 

カインハースト家について思い出しているとバーサーカー、いや‟カインハースト”から声をかけられた。

 

 

「どうしたバーサーカー?」

 

「そういえばまだ聞いていなかったのだが、貴公は聖杯に何を望む?」

 

「いや、俺は臓硯から桜ちゃんを解放してあげたくて参加しただけだからバーサーカーが臓硯を倒してくれて蟲も全部殺してくれたから望みはもうないかな」

 

 

今の正直な気持ちをバーサーカーに告げる。だが、その返答として思いもしなかった言葉が返ってきた。

 

 

「確かにあの糞袋野郎は殺したが、あの娘の中に蟲は残っているぞ」

 

「なっ、話が違うぞ!」

 

 

桜ちゃんを救えたと思っていたのに、そのことを救ってくれたと思ってい本人の口から否定され思わず大声で返してしまう。

 

 

「なにも違わないよ雁夜。というより気付いてなかったのか?仮にもしあの時点で全ての蟲が死んでいたら、貴公の中の蟲も死に絶え私を使役するどころではなくなっているぞ?」

 

 

そう諭され、自分の身体の内に意識を向けると、確かにまだ蟲の気配が感じ取れる。

 

 

「どういうことだ!?」

 

「なに簡単なことだよ。確かに糞袋野郎が死んだとき屋敷にいた蟲も一緒に死んだが、娘や貴公の中にいる蟲どもは文字通り寄生虫として巣食ったままというわけだ。といっても糞袋野郎の支配下から脱したという点においては、解放されたと言えるだろうがな」

 

刻印虫や淫虫は魔術的な恩恵を与えもするが寄生主の体を蝕む。生命力を餌にするため、このままだと、いづれは俺と同じように体がボロボロになり最終的には死んでしまう。

 

「頼む!桜ちゃんを助けてくれ」

 

「もちろんマスターの命令ならば従うのはやぶさかではないが、1つ条件がある」

 

「条件だと?」

 

「ああ。もし仮にその桜という娘が助かれば貴公が聖杯戦争に参加する理由がなくなる。そして貴公としては理由がなくなったのであれば、教会に向かい私との契約を破棄し聖杯戦争から降りて、余命幾ばくかの貴公が死んだ後、娘が無事に過ごせるよう奔走するだろう」

 

親が子を思いやるようなどこか安心する穏やかな口調で語る。だが突如として空間が軋んでいるような圧が部屋を包む。

 

「だが、それでは困るのだよ。

私には聖杯にかける願いがある。聖杯が真に万能の願望器であるのならば、何を犠牲にしてでも成就させたい悲願がある。

そのために雁夜、貴公には聖杯戦争が終わるまで私に付き合ってもらう。

もっとも、私を召喚した時点で降りることは許さないがな」

 

その言葉には、あの臓硯の悍ましいほどの不死への執念に近いもの、いやそれ以上のものを感じてしまった。臓硯を殺してくれた恩人であるにも関わらず感じてしまった。

 

 

―さてどうする?とカインハーストが答えを迫る。

迷うことなどない、それで桜ちゃんが救われるならどんなことだってする。そう思ったからこそ、あれほど嫌悪していた間桐の魔術を習い、この体を蟲にくれてやった。そして契約相手は俺たちにとって紛れもない恩人なのだ。

 

だからこそ誓った。降りることはしないと。

 

間違ってなどいない。そのはずなのに何故か取り返しのつかないことをしてしまった。そんな予感が頭から離れなかった。




雁夜が倒れた後、

深夜、桜の部屋に押しかけ

狩「こいつの部屋はどこだ?」担がれた雁夜

桜「…こっち」


~雁夜の部屋~


狩「…」

桜「…」

その後、無言でソファを運ぶ狩人がいたとかいないとか
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