TS転生して吸血鬼になったけど創作欲しか思い出せない   作:石化

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第19話

 

 夜は再び都に戻った。

 世はまさに平安時代。王朝文化が花開き、牛車が都大路を行き交っていた。

 出来るだけ身分の高いであろう相手に接触し、あわよくば書物を読もう。

 白のところで立てた目標の一のために、夜は貪欲であった。

 

 下働きの下女として入り、働きぶりを見込まれてどんどん出世する。

 夜に眠る必要のない体は無理が効いて、このような仕事にうってつけだった。

 

 貴族たちが和歌を詠みあっているのを聞きながら、夜はよくわからないけど、とりあえず声はいいなと考えていた。認識が非常に甘いと言わざる得ない。

 

 地位が上がって、書物を扱う仕事をするようになった夜は驚愕する。

 巷に溢れる物語には、必ずと言っていいほど和歌が挿入されていた。

 竹取物語の頃は一つの話に一つが関の山だった和歌が、現在では事あるごとに挿入され物語の雰囲気を盛り上げている。伊勢物語も宇津保物語も、物語と名のつくものに例外はなかった。

 世相を反映したものの重要性に夜は思い至る。

 

 言われてみれば、屋敷の中で和歌を吟じる声を聞かない日はない。

 日常生活の一部となっている動作が小説に入らないわけがないのだ。

 

 食事と似たような位置付けだと考えていいだろう。

 

 ならば、ないがしろにするわけにもいかない。

 描写の上での重要な一部分をしめるのだ。

 余人より精通していなければ話にならない。

 

 夜は願い出て、子供の和歌の手習いの手伝いをすることにした。

 仕事をしながら和歌のなんたるかを学べるという寸法である。

 

 その甲斐あって、夜の和歌を詠む技術は驚異的な伸びを見せた。

 著名な詠み手であるというだけで女性でも名が通った時代である。小野小町、伊勢、斎宮女御に中務(なかつかさ)。上げてみれば枚挙にいとまがない。

 殊勝な心がけの侍女がいるという噂は広まり、仕えていた貴族家でも夜を重要しはじめた。中でも、貴族の子供である阿古久曽は、夜に懐き、よく呼び寄せた。

 

 年月を経ても年が変わっているように見えなかったので、怪しまれることはあったが、夜の侍女勤めはそれなりに順調であった。

 

 ●

 

 阿古久曽は成人し、紀貫之を名乗るようになった。

 

 昔から世話をしてきた子供の成人なので、夜も自分のことのように嬉しく思っていた。貫之は、夜とともに行った研鑽で自分の歌の才能を開花させており、当代一とも呼ばれる詠み手であった。

 古今和歌集の編纂を若くして引き受けるなど、帝からもその才能は高く評価されていた。

 彼が夜の歌を古今和歌集に無理やりねじ込もうとして、夜が必死に止めたというのはまた別の話である。

 彼女は自分の才能が、天才に比べれば一歩劣ることを自覚していた。努力の才はあるかもしれないが、最終的に大切な歌の要素が足りない。そう自覚し悩んでいたのである。

 

 生まれながらの才覚でその要素を自然と加えることができていた貫之には全く持って理解できないものだった。

 ただ、幼い頃から綺麗なお姉さんだった夜が、いつの間にか同年輩くらいの女性に見えてきて戸惑っていたのは確かだ。

 身分の違いからおおっぴらに言えず、妻もすでに迎えてはいるが、彼の気持ちの一部は絶えず夜の上にあった。側女に手をつけるのはこの時代では一般的なことである。問題はないはずだった。だが、夜はやんわりと拒絶した。

 夜は、当然のことながら男を恋愛対象から外している。貫之が振られるのは仕方のないことではあった。夜のことを諦めきれない貫之はそのまま夜を仕えさせ、貫之のことを可愛い弟くらいに思っている夜も、彼のそばにいるのは当然だと思っていた。書物も自由に読ませてくれる。少なくとも貫之に追い出されるか貫之が死ぬまでは出て行くつもりはなかった。

 ただ、夜に関しては、随分と噂になってはいたようで、蓬莱の薬を飲んでいるだとか、物の怪の類だとかいうことがまことしやかに囁かれていた。

 

 月日は過ぎ、貫之は土佐守に任命され、四国の南の果て、土佐に赴任することになった。住み慣れた京を離れるということで、多くのものが、着いていくのを断念した。

 

「夜さん、来てくれますか?」

 

「もちろん。いくに決まってます」

 

 貫之はすでに50を過ぎた老齢で夜はいつも通り若々しい外見だったが、一番最初に付けられた序列はそう簡単に覆るわけもなく、貫之は夜に敬語を使っていた。

 はたから見たら奇妙だが、二人の間では至極当然のことだった。

 

「土佐は行ったことないな。楽しみだ」

 

 久しぶりの京都以外への外出にワクワクする夜だった。

 

 

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