TS転生して吸血鬼になったけど創作欲しか思い出せない   作:石化

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第5話

 


起きた。

朝の日差しに小鳥の鳴き声。爽やかな陽気だ。季節は初夏あたりだろうか。

 

記憶は山神様と呼ばれていた頭が8つある蛇を倒したところで終わっている。

 

あのあと、毒入りの血を飲んで、意識を失ったんだったな。

 

思い返すと間抜けだった気がしてくる。

 

もう少し吸血衝動を抑える努力をした方がいいかもしれない。

 

まあ、起きたんだしもういいか。

クシナダに戦勝報告しに行こう。

 

そういえば、あの蛇の死体がどこにもないけど、誰か片付けたのかな。

 

 

山をくだって村について、俺は違和感を覚えた。

 

竪穴式住居ばかりだったはずの村に、木造のきちんとした住居が建てられているのだ。

その中に、一際目立つ建物がある。

よくみるとそこはクシナダの家があったはずの場所だ。

 

意識を失う1日前にいたから流石に覚えている。

 

⋯⋯ まるで浦島太郎のような体験だ。そんな感想が頭に浮かぶ。

 

浦島太郎って誰だっけ。

前世の記憶の気がするけど、思い出せない。

 

 

くそう。クシナダはなんでもするって言ってたんだぞ。せめて一目会いたい。

 

潜り込むか。潜り込もう。

 

俺は一瞬で犯罪者になる決意を固めた。

あの家のクシナダの親は、俺を罠にはめて捕まえたんだしおあいこだと思う。

 

 

そういや、山神と戦ってた時に服かなり破けてた気がするけど、いつの間にか直ってるな。

無意識に血で作ってるとかかな。ありうる。自分のスペックをまだ把握できてないし。あとでやってみよう。

 

とりあえず最初は正攻法で行こう。入れなかったら、壁を破壊しよう。

どんどん思考が人外じみてきている気がする。気のせいだ。

 

門を叩いた。

この前の焼き直しだ。

⋯⋯ 今度は不用意にご飯を食べないようにしないと。

 

それだけは固く心に刻む。

 

「はい。」

 

扉が開いて、気弱そうな男が顔を出した。

 

⋯⋯ 。見覚えがない。強いていえば、かすかにあのクシナダ父の面影がある気がする。

 

「この家にクシナダという人はいませんか?」

 

「⋯⋯ 聞いたことないです。人違いでは?」

 

男は、寝耳に水とでも言った調子でそう返してきた。

 

そう言われるとこちらも強く出れない。

嘘は言っていないようだし。

 

 

うーん。

 

様々な違和感が俺の脳裏を刺激する。

 

まず、倒したはずの山神の蛇の死体がどこにもなかったこと。

次に、村の様子が様変わりしたこと。

クシナダのことを知らない様子の男。

 

⋯⋯ 。これ、俺の休眠期間がめちゃくちゃ長かったということでは。

 

蛇は、分解されたんだろうし、村は発展したんだろう。

そしてクシナダはとっくの昔に死んでしまった。

そういうことなのだろう。

 

ちょっとどうだかなと思わなくもないが、今の俺は吸血姫だし、そのくらいの時間休眠しててもおかしくない。

クシナダは何でもするって言ってくれたのになあ。

 

「あのー、どうしました?」

 

気弱そうな男は固まってしまった俺を恐る恐る眺めながら、確認の言葉をかけて来た。

 

流石に不自然だったか。どうせだったら、そうだな。都会の場所でも聞いておくか。結局クシナダには聞けなかったし。

 

「いえ。お聞きしたいのですが、近くの大きな町に行くにはどうすればいいでしょうか。」

 

「ここも、割と大きいんですけどね。でも、そういうことなら、西に向かえばいいですよ。」

 

「⋯⋯ 。西はどっちです?」

 

「わからないんですか? どうやって生活してきたんだ⋯⋯。あっちです。」

 

おい今かなりの煽りを受けた気がするぞ。見た目に反して口が悪いなこいつ。

 

「あと、そこにはヤガミという姫がいるので、これからこのオオナムジが求婚に行くから待っていてくれと伝えてくれませんか?」

 

そしてリア充か。⋯⋯ まあ、恋愛小説も悪くはないし、暇があったら伝えておこう。

 

「善処します。助かりました。」

 

とりあえずお礼は言っておく。

 

何百年経ったか知らないが、ようやく本筋に戻ってくることができた。

 

都会で、小説もしくは、紙の存在を確認する。

 

時代が降ったのなら、小説が書かれるようになった可能性も高い。

 

結果オーライってやつだ。

 

「では。」

 

「ええ。兄達に見つからないうちに、早く行った方がいいですよ。あの人たちは女好きなので。」

 

「心します。」

 

襲われても何とでもなるだろうが、心遣いは受け取っておこう。

 

足がかりを得た俺は意気揚々と目的地へ向かうことにした。

 

るんるん気分で田んぼの間の道を歩いていく。

 

「あの女激マブじゃね。」

 

「因幡の方に向かってるみたいじゃん。」

 

「求婚の用意を整えよう。」

 

 

途中でそんな声を耳に拾った気がしたが、俺の心は、次の街へ行くことでいっぱいになっていた。

 

 

 

「俺、因幡に向かって女口説いてくるわ。」

 

「は?俺が先だし。」

 

「彼女は私のものだ。」

 

 

家に帰ってきた兄達が、口々にそんなことを言ったので、オオナムジは焦った。

 

このままでは、ヤガミ姫が取られてしまう。

 

彼は顔を青くして焦る。

基本的に兄達は横暴だ。強引に話を進められたらまずい。

 

早く行かなくては。

 

しかし、抜け出そうとした彼は兄達に見つかり、問い詰められ、気絶させられてしまう。

 

意識を取り戻すと、すでに兄達は出発した後だった。彼は取るものとりあえず駆け出した。

 

彼が求婚対象の行き違いに気がつくことはなかった。

 

 

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