TS転生して吸血鬼になったけど創作欲しか思い出せない   作:石化

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第6話

 

 言われた通りに西に進んで行くと、街が見えてきた。

 とはいえ、さっきまでいた農村の3倍くらいの大きさでしかない。

 市場が開かれているらしき広場もないし、少し規模が大きいだけの農村かもしれない。

 

 俺は落胆を隠せなかった。

 

 ようやく本に繋がる手がかりが見つかったと思ったのに。

 

 気を落とすのはまだ早い。この街をとりあえず見回ってみよう。

 

 木造に藁葺きの家。高床の倉庫に、見張り台。

 一つの街として重要な部分はきちんと備えているようだ。

 

 外からは市場として見えにくいが、露店も少しはあって、野菜を売っていた。

 

 本屋はどこにも見当たらない。

 一番古い紙はパピルスだろ? パピルスくらいなら作れそうな感じなんだけどな。

 そのくらいの文明レベルはありそう。

 

 仕方がないから、ヤガミ姫という人の家を訪ねるか。

 

 仮にも姫と名がつく御仁だ。

 もしかしたら庶民には手の届かないものであるところの本を所持しているかもしれない。

 

 

 街の人に居場所を聞いたら簡単に教えてくれた。

 その代わりこちらの名前を熱心に聞きたがっていたので夜と答えておいたけど、なんだったんだろう。

 

 まあいいや。

 

 薄々気づいていたが、この街で一番目立つ建物が、彼女の居場所だった。坂の上にあるということと、高床式の建物であるという二点で、他とは隔絶している。あそこに住むなんて怖くないんだろうか。支える板が崩れてしまったら一瞬で死んでしまう。

 

 大丈夫だから住んでいるんだとは思うけど、なかなか勇気ある御仁だなと思う。

 

 少なくとも俺は無理だわ。死にはしないけど不安で眠れなくなりそう。俺が繊細ってより、ここに住んでいる人が豪胆なだけだろうけど。

 

 ちょっと、階段上がるのが怖いな。今は意識が戦闘モードじゃないし、割と風も吹いているし。

 

 風に煽られて落ちたら洒落にならない。化け物だってバレてしまう。

 

 慎重に行こう。

 

 幸いにして警備の人とかはいないみたいだ。まだそこまで社会が発達していないのかな。

 あり得る。

 

 ゆっくりと歩みを進めて、家の前に作られた床板スペースで人心地をつける。

 

 冷静になるとここも割と危ないな。

 

 早く入らせてもらおう。

 

「ごめんください」

 

「はーい」

 

 顔を出したのは、お手伝いさんらしきおばさんだった。

 いや、母親かもしれない。

 

「ヤガミ姫はいらっしゃいますか?」

 

「おりますが、あなたは?」

 

「私は夜と申します。オオナムジ様からの伝言を預かっております」

 

「へえ。お聞きしましょう」

 

 ⋯⋯俺を中に入れない構えだな。いきなり訪ねてきた謎の女だ。そりゃ怪しいもんな。

 このまま引き下がるのも悪くはない。

 だが、一番確かめたいのはこの街で一番権力を持つ姫が、書物を持っているかいないか、だ。

 なんとか言いくるめて、中に入って観察したい。

 

「オオナムジから直接姫にお伝えするようにと仰せつかっています」

 

 言われてないけど。

 それでもこれで信ぴょう性は増したはずだ。

 

「今、オオナムジって言ったわよね!」

 

 奥から姫さまがすっ飛んできた。耳が良い。

 ちょっともう少し落ち着きを持った行動をして欲しかった。さっきまでの言い訳じゃ入れないじゃん。

 ここで直接言えば良くなっちゃってる。

 

 いや。まだある。ここから逆転する手立ては残っている。

 

 どうにか中に入れてもらう方法だ。

 

 一番いいのはこのおばさんがいなくなることだ。彼女さえしのげば、ヤガミ姫は簡単に言いくるめられそうだ。

 

「はしたないですよ」

 

 たしなめるおばさん。

 

 多分従者だな。

 

「お母さんは黙ってて!」

 

 違った。見立て違いだ。恥ずかしい。

 

「それで、オオナムジはなんて?」

 

「できれば二人っきりでお伝えしたいです」

 

「そうね。あなたとオオナムジの関係から聞く必要がありそうだし」

 

 俺の上から下までジロジロ見ながらヤガミ姫は言う。

 

 俺とあいつの関係を怪しんでいるようだ。

 少なくともヤガミ姫も好きなのは間違いなさそう。今の俺は美しい女の姿をしているから、不安になったのだろう。

 

 オオナムジとは両思いのようだ。

 

 ⋯⋯ 恋愛小説の参考にするためにもう少し観察していこうかな? 

 こう言う人の感情の揺れ動きを観察することでより魅力的なキャラクターが作れるようになるはずだ。

 

「姫の部屋に上がらせていただけませんか?」

 

「いいわ!」

 

「姫!」

 

「いいでしょ。男性って訳でもないんだし」

 

「それはそうですが⋯⋯ 。くれぐれも気をつけてくださいよ」

 

 あっ。押し通せた。ワンチャン気絶させようかなと思っていたから助かった。

 

「お邪魔させていただきます」

 

 ようやく、風の強い外から中に入れる。

 一安心だ。

 

 ●

 

 上がった部屋には、俺が期待していたような本棚など存在していなかった。

 

 どでんと鎮座した機織り機が目を惹く程度だ。

 

「純粋な疑問なんですけど、本って持ってませんか?」

 

「何よそれ?」

 

「わかりました」

 

 ⋯⋯ ダメみたいですね。

 ダメじゃん。割と都会なここで一番の権力者の娘が本について知らないとしたら、本が作られていると考えることはできない。無理筋だ。

 

「で、オオナムジの伝言ってなによ? あとあなた達の関係も教えて」

 

 彼女は気になって仕方がない様子だった。

 

 まあ、口実とはいえここに潜り込むのに役に立ったし、伝えるのはやぶさかではない。

 

「これからこのオオナムジが求婚に行くから待っていてくれとのことです」

 

「求婚?! あの優柔不断男が?」

 

「確かに言ってましたよ」

 

「信じられない⋯⋯ 」

 

 口ではそう言っているけど、隠しきれない喜びの感情が彼女の表情にはあふれていた。

 

 幼馴染的な関係だったんだろうな。

 

「もう一つの質問に答えると、私は所用があって、オオナムジの家を訪ね、それからこちらに来る用事があったのでそのついでに伝言を頼まれただけの女なので、彼と特別な関係があるという訳ではないです」

 

「そうよね。わかってたわ」

 

 露骨にホッとした顔をしている。うん。ずいぶんわかりやすくて可愛らしい姫だな。

 

「良ければですが、彼と姫の馴れ初めを聞かせてもらえませんか?」

 

「えー。恥ずかしいなー」

 

 これは、もっと聞いてというブラフだな。

 恋話を始める前の女子がよくやるやつだ。

 

「そう言わずに」

 

「仕方ないわね」

 

 ちょろい。

 

 という訳でn番煎じの恋物語を聞くことになった。

 

 当事者から直接聞くのはやっぱりいいな。

 

 表情の移り変わりを眺めるのが楽しすぎる。

 

 恋愛は主軸とは言わないまでも、そこそこ取り入れて書くのが正解かもしれない。人間的な魅力を書く上では一番役に立つだろう。

 

 そんなことを考えながら俺は長くなっていくヤガミ姫の話を聞くのだった。

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