TS転生して吸血鬼になったけど創作欲しか思い出せない 作:石化
面白かったけど、話は長かったな。
ヤガミ姫の恋愛話をなんとか切り上げて外に出た俺は思い返した。
まあ、ここより都会であるという場所の話を聞けたので良しとしよう。
創作にも役立ちそうだったしな。
俺の恋愛? それは無理。いかに小説には実体験が必要だって言っても、男に欲情なんてできる気がしない。
そこは諦めているよ。
この国で一番の都会は、東に進んで、オオナムジの村から南に折れてまっすぐ行った先にあるらしい。
オオナムジが教えてくれれば、ここに寄る必要もなかったのだが、あいつ、知らなかったんだろうな。
これが姫と一般人の差だろう。
ともあれ俺は気分良く、一旦来た道を引き返し始めた。
●
行く時に通ったんだが、ヤガミ姫の街と、オオナムジの村の間には砂浜があって、海に面している。
海を見るのは今世では初めてだったので行きは感動したんだけど、2回目になると流石に感動は薄れてくる。
それでも綺麗なことは綺麗なので、俺はしばらくそちらを見つめていた。
少し違和感に気づく。
水平線の方に、何かが並んでいる。
あの背びれは⋯⋯ 。サメだな。
サメが群れを作ることはあるかもしれないけど、あんなに一直線に並ぶことはあるのか?
不思議だ。
不思議な出来事を見つけたら観察するのが、創作のためには重要だ。
俺は何をやっているのか見ていることにした。
しばらく見ていると、サメの背中を踏みながら白い兎が飛び跳ねてくるのが見えた。
沖に島でもあるんだろうか。しかし、ウサギとサメの共同作業なんて、まるでおとぎ話だな。
言葉でも話せたりするんだろうか。
そろそろ兎が岸に近づいてきたので、俺は身を隠すことにした。
出待ちしているみたいで印象悪いだろうし。こうするべきだろう。
岸に着くか着かないかのうちに、兎が言葉を発した。
「お前たちの数なんて数えている訳ないだろバーカ。お前たちは騙されたんだよ。ありがとね。私のために橋渡ししてくれて」
ひたすらに相手をバカにした口調だ。メスガキじみた感じ。⋯⋯メスガキって何だ。
岸についてからいえば良いものを、最後の一匹の上でそれを言ったから、兎は怒ったサメに捕まってしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「あ? 泣いて謝っても助けは来ねえぞ?」
見ようによっては、サメが兎にひどいことをしているみたいだが、この非は兎にあるからな。
普通に数えておけば、別に足場として利用されても気にしなかっただろうに。
口は災いの元ってやつだな。まあ、兎はこういう役回りになる話が多い気がする。何でだろうか。
確かかちかち山とかもそうだったような。
まあ、俺は観察するだけで良いかな。助ける必要はないだろう。
最終的に、全ての皮を剥がれて、裸になった兎が一羽、砂浜の上に打ち捨てられた。
⋯⋯ ここまでくると哀れを催すな。
っと、誰か来たようだ。
もう少し様子を見るか。
砂浜にやってきたのは見るからにチャラそうなの男たちだった。
何というか、男として論外である。
⋯⋯ でも、本を書くならチャラ男の生態にも詳しくなくちゃいけない。全ての登場人物を魅力的に書けてこそ、一人前の作家だ。
「お、兎がいるじゃん」
「何かお困りのようですね。なんてな。ハハッ」
「なになに。皮を剥がされた? それなら良い手段があるよ」
「そっ、それは?」
「体を海水につけて、そのあと、山の頂上に行って強い風と日光に当たることで治るさ」
「なるほど。早速やってみます!」
親切を疑わない兎は、すぐさま海の中に入ってしまった。
いやちょっと待て。それあれじゃん。おいしい肉の作り方じゃん。
「最初は痛いかもしれないけど、そのうち痛みも引いてくるさ」
「はい!」
すっかり兎も信じ切ってしまっている。
流石に見過ごせなくなってきた。
皮を剥がされることまでは自己責任だけど、さらに悪意によってひどい目にあうのは、違う。
止めに行こう。
「ねえ、そこの兎くん」
俺はウサギに声をかけた。
だが、遮られる。
「あっ、あのお姉さんじゃーん」
「俺たち、チョッチお姉さんにお話あるんですけど」
「俺と付き合ってくれない?」
チャラ男に目をつけられた。
何でだよ。意味がわからないよ。これがナンパってやつか。
「朝村で見た時から激マブだなって思ってたんすよ」
「そうそう。一目惚れ的な」
「求婚の準備は整っているさ」
ゾゾゾと虫酸が走っている。
「嫌です。見ず知らずの男にどうして求婚されなくてはいけないんですか」
「俺たちこう見えて、名士の家だから金はあるよ?」
「そうそう。何なら三人でお相手しても良いし」
「3pか。悪くない」
「悪いわ!」
丁寧語の仮面を繕っている余裕もない。何だこいつら強すぎる。
「可能な限りの希望は聞くつもりだぞ?」
「ほんと? なら、本が欲しい!」
「本? ってのが何なのかわかんないすけど、探しますよ」
⋯⋯ 。ちょっと魅力的だな。
いやいやいや。それ以前にこいつらは、兎をからかって苦しめようとしていた。
性格的に受け入れられない。
「嫌です」
はっきりと拒絶の意思を伝えよう。
「下手にでりゃつけあがりやがって。一度体にわからせてやる必要がありそうだな」
「やれるものならやってみやがれ」
こちらも油断なく返す。
「女の身で何ができるって言うんだ」
「こっちは三人だぞ」
「やっちまえ!」
ボコボコにしようと拳を振り上げてくる三人組だが、実のところ、何一つ怖さを感じない。三人組によく襲われるなと考える余裕さえあった。一番最初のごろつきもこんな感じだったよな。
一体多戦闘の描写の礎になってくれると助かる。
⋯⋯ 。
三人は特に特筆することもなく倒せた。あの蛇に比べればまあ、どうしても見劣りする。
戦闘描写の訓練になったかと言われると、疑問符が着いてしまうな。
もう少し、手加減を覚えるべきなのかもしれない。
次に誰かと戦闘になったら、どう言う風に相手が動いているのかよく観察してみるか。
そうしよう。
「何ですかあなた。なぜこんなところにいるんです!?」
この聞き覚えのある声はオオナムジのものか。
こっちのセリフなんだけど。
振り返った俺の目に、衣服も顔もボロボロなオオナムジの姿が映った。
えっ。どうしたんだよお前。
「何があったんですかここで」
オオナムジは、倒れている男達を見ながら困惑している。
彼の見た目ボロボロなところがどうしても気になる。
そちらを尋ねたい欲を我慢して俺はとりあえず疑問の答えを返した。
「なんかかかってきたのでボコボコにしました」
「はあ。なるほど⋯⋯ 。とりあえず、よくやってくれたと言いたいですね」
「あなたの関係者だったりするんですか?」
「ええ。この前言った女好きの兄達です」
「なるほど⋯⋯ 」
何と言うか、深く納得した。
「僕もおっつけ彼女のところに行こうとしていたんですが、兄達に止められた上に殴られて気絶してまして」
「ボロボロなのはそのせいですか」
「はい。お恥ずかしい話です。だから本当によくやってくれたと言いたいんです。スカッとしました」
「かかってきたのを返り討ちにしただけですよ」
とりあえずそう答えておこう。
「すごいですね」
オオナムジは純粋な憧れの視線を向けてきてむず痒い。
そういえば、あの兎はどうなったんだろうか。
オオナムジの兄達が襲ってきてから意識から外してしまっていた。
キョロキョロと探す。
兎は岩の上で日光浴をしようとしていた。
「痛い痛い痛い。でも、これで治るんだから我慢我慢⋯⋯」
そんなことをしても良くならないぞ⋯⋯。
因果応報とはいえ哀れである。
「そんなことしても治らないって言ったでしょ?」
「親切な人が教えてくれたんです。我慢すれば治ります!」
その親切な人たち、俺の足下で伸びてるけど。見てなかったんだろうな⋯⋯ 。兎だもんな。
「それじゃ良くならないよ。今すぐ水門へ行き、水で体を洗い、その水門のの穂をとって敷き散らして、その上を転がって花粉をつけると良いよ。皮膚はもとのように戻り、必ず癒えるはず」
オオナムジが優しく言い聞かせた。こいつ、なかなか薬草の知識があるぞ。
「⋯⋯ 。わかりました」
兎は、オオナムジの言ったことを信じたみたいだ。
俺が言っても信じなかったくせに。
もう少し説得力のある話し方を研究してみよう。そしたら説得力のある文章作りができるはず。
オオナムジの言った通りにした兎は、元々の姿に戻った。効果が現れるのが早すぎる気もするが、まあ、そんなもんだろ。俺も多分おんなじ速度で回復するし。
兎は白い毛並みが美しい。
割と位が高い生き物なのかな。まあ、喋っているしそうかもしれない。
「ありがとうございました。お礼にあなたの恋の成就の保障をしてあげます」
「え?」
「早めに行くと良いでしょう」
「ヤガミ姫に伝えたけどいい感触だったよ。めっちゃ惚気られたし」
兎の言葉に俺も肯定材料を加えておく。
「早めに行くといいんじゃない?」
「わかりました。ありがとうございます。えっと⋯⋯ 」
「そういえば言ってなかったですね。夜と言います」
「夜さん。このお礼はいつか必ず」
「ええ。また会うことがあれば」
多分もう会わないと思うけど。
「それではこれで!」
オオナムジは幸せそうにスキップしながら西へ向かっていった。
まあ、いいやつではあったしせいぜい幸せになってくれ。
「さて」
「なんでしょう?」
「いやなんでしょうじゃないぞお前。あいつが何をしているか知っているみたいな口ぶりだっただろ」
「よそ行きじゃないとめちゃくちゃ口調が変わるわね」
「お前もな」
サメ相手にこの兎の口の悪さはすでに目撃している。
「で、あなたは何者なの。筋書きではここに来るのは八十神と、大穴牟遅神だけだったはずなのに」
「俺は夜。吸血姫だ」
「一人称が俺だなんて、野蛮な姫もあったものね。笑っていい?」
「やめろ。これは俺の最後の記憶に従ったものだ。他人にとやかく言われる筋合いはない」
「私を人扱いするんだ」
「まあ、こうして話しているからな。兎とも言いきれないだろ?」
「私も私が何者なのかわかってないんだけどね」
「そうなのか?」
「ある日突然使命が思い浮かんで沖ノ島からワニを使って渡ってきただけの兎だもの」
「どんな?」
「おおなむぢに予言をするようにってね」
「さっきの予言だったのか。単に励ましているだけかと思ったぞ」
「下手だった⋯⋯ ?」
「まあ、それなり」
「どう評価していいかわからないんだけど」
彼女はため息をついた。
なかなか感情表現が多彩な兎だ。
「これからどうするの?」
「高天原に向かうつもり」
「そこは?」
「神が住まう地」
「私もいっても良い?」
「いきなりよそ行きになったね」
「気にしないで」
「ふふふ。あなた面白いね」
兎に笑われて気に入られた。
よそ行きの性格の構築がうまくいきすぎているんだよな。
本当に俺の前世は男だったんだろうか。
知るすべはもはやない、か。
ともかく神が住む地と言う高天原には行ってみたいし、行く価値がある。
書物がある可能性も高いだろう。
南にあると言う都にも興味はあるが、神の住まう場所に行ける機会はまたとない。
こちらを優先しよう。
「それでどうやっていくの?」
「歩き」
「もっとこう何かなかったのかな⋯⋯」
俺のつぶやきは虚空に溶けていった。