TS転生して吸血鬼になったけど創作欲しか思い出せない   作:石化

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第8話

 

 兎も、詳しい高天原の場所は知らないみたいだった。ただ、俺を引き連れて山の方にずんずんと進むだけである。

 

 ちょいと不安だが、まあ、いざとなればこいつの血を吸えば、飢えることはないだろう。

 

「何か変なことを考えてない?」

 

 兎のくせに感覚が鋭敏だなあ。

 

「そんなことはないよ?」

 

 外面を取り繕って澄ました顔をする。

 こう言うことは不思議と得意だ。

 

 こちらを怪訝そうに見つめる兎だったが、そのままでは何も進展しないことに気づいたのか、また歩みを進めることにしたようだ。

 

 俺もそれを追って歩く。

 

 新緑の広葉樹の葉が光を透かして、キラキラ輝いている。

 あまりに普通の山道は、ずっと上まで続いているようだ。

 

 一定の間隔で、高度を上げている。

 

 雲の上にあるとか、そう言うことじゃないよね。

 

 高天原と言う字面から考えると、十分にあり得るな⋯⋯ 。

 

 ●

 

 いつの間にか雲海の上にいた。

 鳥居があるとか、光に包まれるとか、そう言うこともなく、気がついたらここにいた。

 

 

 どうやってここに行くのかと言われてもわからない。

 

 類型的な結界物語にありがちだからこそ、個性的な入りを体験したかったのに。トンネルを抜けるとか、車に乗り込むとか、そう言う舞台装置はあってしかるべきだろ。

 

 

 しかしどうやって雲の上に立ててるんだろうな⋯⋯ 。

 深く調べると落ちそうな気がするので気にしないことにするのが唯一の正解だとは思うんだけど。

 

 

 雲海の中で多方面に道が分かれている。

 

 その脇に猿面をつけた男が立っていた。

 

「よしよし。話は聞いています。そこの兎。高天原に案内してあげましょう」

 

「よろしくお願いします」

 

 話が早いな。まだ自己紹介も済んでいないんだけど。

 

 とりあえず俺は兎の後ろをついていけばいい。

 

「ですが、そこの女性は話が別です。道祖神猿田彦の名において、素性の知れない人を高天原に迎えるわけには行きません」

 

 俺? 自分を指さして首をかしげると、頷かれた。

 

「素性の知れた兎はいいの?」

 

「素性が知れてるので」

 

 確かに。人間かどうかより素性が知れてる方が大事か。

 

「どうしたら許してもらえますかね」

 

「私からはなんとも。向こうで聞いてきましょう」

 

「つまりここで待ってろってことですか?」

 

「とりあえずは。まあ、一日あれば戻りますよ」

 

「1日ってのは、かなり長くないですかね⋯⋯ 」

 

 ここには雲と道しかないんだが。

 

「ちなみに高天原には何をしに?」

 

「小説のネタ探しと、書物を探すと言う目的です」

 

「なかなかに奇特な方ですな」

 

「それほどでもないですよ」

 

 俺は少し嬉しくなる。

 

「褒めてないですよ?」

 

 そんなあ。

 

 

「じゃあね、夜。縁があったらまた会おうね」

 

「うん、それじゃあね、兎」

 

「⋯⋯ 名前ないとは言え複雑な気分だなあ」

 

 兎の耳がピコピコと上下する。

 

「名付けてみようか?」

 

「それもいいかも。なんてつける?」

 

「えっ。白でしょ」

 

「そんなことだろうと思った」

 

 兎はため息をついた。

 

「えー。いい名前でしょ。白って」

 

「絶対に見た目でつけたでしょ」

 

「わかりやすいじゃん」

 

 この兎、めちゃくちゃ性格が似ていると言うか、気があうんだよな。

 

「もうそれでいいよ。これからは白って呼んで」

 

「わかった。また会おうね、白」

 

「こっちの台詞よ」

 

 俺と白は握手をした。

 めちゃくちゃもふもふしてるぞ。

 もう少し、身体的接触を行うべきだったか。

 正直途中までは食料としても考えてたから愛でるのは躊躇していた。

 惜しいことをしたな。

 

「それでは明日まで待っていてください」

 

「わかりました」

 

 まあ、アポなし訪問だったし、仕方ないか。

 

 ゆっくりしておこう。

 そんなに腹も減らないし。

 

 白たちが離れていくのを見送った。

 

 ●

 

 八つ辻の脇に座ってぼんやりと雲海を眺める。

 もくもくと沸き上がり、風に流されてちぎれ、分裂し、合流し、新たな形に再生する。

 

 雲の形を眺めるのは思っていたより楽しい。

 

 周り一面雲なんて景色見たことなかったもんな。

 

 これはあれだ。風景描写の練習になるぞ。

 

 小説に風景描写は要らないと言う話もあるけど、美しく景色を表すのは良いアクセントとなると思うんだよ。

 

 幸い、お腹の方はまだまだ持つみたいだ。吸血衝動に駆られることもない。

 

 今のうちに眼に映るものを言葉で写生してやろう。

 

 全てが、俺の教材だ。

 

 ⋯⋯ 純粋に、書くものが欲しいな。紙とか。

 

 書物を手に入れてからにしようかな。

 

 いやいやいや。ここで何かと理由をつけてやらないのは良くない。

 書けるだろ俺なら。

 例えばこの雲の道の上に雲のことを書いていくとか。

 

 おしゃれな気がしてきたぞ。

 

 書きつけていこう。

 

 

 思い立ったら即実行。

 俺は八つ辻のそれぞれの道に、その先の風景を描写していくことにした。

 

 雲の調子は刻々と変わっていくけれど、その時間変化も含めて捉えることができるのが、文章の良さだ。

 

 時間変化を一つの描写で捉えてもいいし、変わりゆくものとして、一歩ずつ描写しても良い。柔軟性に富んでいて、奥が深い。それが風景描写だ。一つ一つテーマを決めてやってみようか。

 

 まずここは、サクッとした描写。

 

 道の先には白い雲がぷかぷかと浮かんでいる。

 

 次のこちらは状態変化を入れ込んだ描写。

 

 流れる雲は次第に厚く、黒くなり、雨の気配を漂わせ始めた。

 

 そして、心理描写を追加する。

 

 俺は雨で濡れるんじゃないかと心配になってきた。いつの間にやら空の半分以上が暗くて灰色の雨雲だ。

 

 さらに現象によって立ち位置が変化する様。

 

 降りかかる雨を我慢して雨が止むのを待つ。すると、いきなり空が光って、俺の頭に雷が落ちた。

 体が痺れて、動けなくなる。

 

 アクシデントがあったようだが、すぐに回復したので描写は続けていこう。

 続いては何がいいかな⋯⋯ 。そろそろネタ切れだ。

 いや、そろそろ時間も遅くなる。つまり、夕焼けがある。

 これは別の描写になるな。

 

 それに次は夜もあるし⋯⋯ 。夜目が効くから、暗闇の描写だってお手の物のはず。

 

 まだまだ描写できるんだ。

 

 やってやるぞ。

 

 

 

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