焼けるように熱くて痛かった。
いくつも穴が開いた自分の体が見える。焼け焦げた肌のにおいが鼻につく。
こんな状態でも思考できていることが自分でも不思議だった。
やがて体は重力に従い大空から海へと落下を始める。
落ちたくないと反射的に手を伸ばすと空には銀色の翼を持つISが見えた。
命を賭して戦いを挑みそれでも勝つことはできなかった。やがて走馬燈が頭をよぎる。
必死に勉強したこと、はじめてISに触れた時の感動、試合に負けた時の悔し涙、高校に入ってできた友達。
気が付くともう熱さも痛みも感じなかった。ただ感じるのは内側からあふれてくる寒さだけ。
これが「死ぬ」ということだと理解する。最後に思い出し「……い、……き……い」たのは少年の顔。
この手をつかみ取ってほしい「お…、起き…さい」と願う。しかしそれがかなうはずもない願いであることはよく理解していた。
やがて瞼が重くなってゆく、そして……
「いい加減に起きなさい!!」
びっくりして目を開ける。するとスーツ姿の女性が肩をゆすっていた。突然のことに動揺しあたりを見回す。
「あなたこんな場所で居眠りなんてよくできるわね…」
飽きれたような女性の顔を眺めつつようやく覚醒してきた頭が機能し始める。
私は更衣室のベンチで座りながら寝ていたようだ。この女性はこのアリーナの関係者なのだろう。
「あ、すいません!」
立ち上がり頭を下げる。
「試合の開始まであと5分しかありません。急いでください」
「あ、はい!」
女性に急かされて急いで自分の出るピットに向かう。
「いい夢は見れたのかしら?」
皮肉交じりに女性が聞いてくる。
「えへへ、怒鳴られた衝撃で全部忘れました」
「まったく…」
そんな話をしている間にピットに到着する。ピットに入ると途端に会場で今か今かという観客のざわめきが耳に入る。
「遅れてすいませんでした…」
「とにかく急いでISを装着してください」
準備をしていたスタッフの人達に謝りつつ小走りでまるで戦国武将の纏っていた鎧を近代化させたようなデザインのIS「打鉄」に向かい身に纏う。
「準備完了です!」
そう告げるとスタッフの一人が手元の無線でどこかに連絡を取る。そして会場全体にアナウンスが響いた。
「大変お待たせいたしました。これより日本代表候補選出大会、決勝戦を行います。選手入場」
そして私の相手の名前が読み上げられる。すると会場から地響きのような歓声が上がる。
(やばい、緊張してきた)
書類選考、面接、強化合宿、筆記試験、そしてトーナメント式の実技試験。面接のときには100人もいたライバルも残るはたった一人なのだ。やがて私の名が呼ばれる。スタッフがGOサインを作り私はスラスターにエネルギーを送り込む。ふわりと体が宙に浮く。覚悟を決め私はピットからバトルフィールドへと飛び出した。
また観客が地響きのように歓声を上げる。スラスターの出力を調整し地面に降り立つ。
目の前には「打鉄」を纏う眼鏡をかけた少女が待っていた。
「両者構えてください。」
「「近接ブレード」」
2人の声に反応しそれぞれの腕に剣が具現化する。それを剣道のように中段に構えて集中する。
ビィィ――
ブザーの音が開始の合図を告げる。
私は一目散に相手に突っ込んでいった。少女も同じように突っ込んでくる。
やがて剣と剣がぶつかり甲高い金属音がなる。鍔競り合いになった剣を押し返す。反動で少女は一歩引き、私も後ろにステップを踏み距離をとろうとする。が、その足が地面に着くよりも先にさらにスラスターを吹かし相手に肉薄する。生身の体では到底できない動きもISを纏っていれば可能なのである。
「!!」
突拍子もない動きに少女のガードも遅れ私の剣が相手の左肩に当たりシールドエネルギーが削られる音が聞こえる。前半戦はお互い接近戦で剣をふるい続けた。しかしじわじわと私と少女の残りエネルギーに差が出始める。どうやら剣を用いた接近戦は私の方が得意らしい。しかし少女もこのままではなかった。わずかに距離が開いた隙に後方へ大きくジャンプをし距離を作った。
「ライフル!」
少女は剣の具現化を解き代わりにアサルトライフルを呼び出した。
「ちょっと!」
飛び込まずにぐっと耐えていた私は血相を変えて機体を浮かせ地を這うようにデタラメに飛ぶ。間髪入れずにライフルを発砲。少女はちょこまかと逃げ回る私を必死に銃身で追っていた。
「ラ、ライフル!ライフル!」
慌てて私もアサルトライフルを呼び出し左手に握り引き金を引く。
「くっ…」
苦虫を噛み潰したような顔で少女も機体を浮かせ走り出す。大きく円を描くように飛ぶ少女の軌道にわざとぶつかるように飛ぶ。接触の瞬間ライフルの弾を浴びせそして浴びながらも私はさらに右手に持ったブレードを彼女に叩きつける。
両手に違う武装を展開し戦う戦術は何かライバルに差をつけることはできないかと悩んだ挙句私が考えた秘策だ。もともと面白半分で両利きをマスターしていた私は左右の手で違う文字を書く練習から始め、ISのアシストを借りての片手でのライフルの照準合わせなどの地味な特訓を重ねてきた。その成果は着実に実を結び始めているようだ。
少女は崩された体制を直しつつ私の背後に付いた。ライフルから再度ブレードに持ち替える。恐らくは大会基準の1500発の弾を打ち終えたのだろう。後ろから振り落とされる剣を私は銃身で受ける。銃の軋む嫌な音を聞きつつ剣で相手を薙ぎ払う。そしてさらに追い打ちと言わんばかりにライフルを投げつける。
「!!」
合宿中に指導してくれていた教官はきっと怒るだろうがどうせ弾も残っていないのだし使えるものは何でも使っておくのだ。
私の行動に驚いているのか呆れているのか少女の反応は鈍い。私のエネルギーは残り3割強、対して相手のエネルギーは残り2割程。一気に決めるべく私は再度接近戦を仕掛ける。少女に飛び込み思いっきり上段から剣を振り下ろすなんとか受け止めるも少女は膝をついてしまう。もう一度と振り上げようとしたとたん、少女は息を吹き返したように剣を押し返してきた。思わずのけぞると少女は屈んだ状態から突き上げるようにタックルを仕掛けてきた。
「えっ!?うそ!」
奇をてらったような反撃に機体を後ろに下がらせてしまった。
その時、けたたましいブザー音とともに警告メッセージが目の前に現れた。背後を確認するとそこにはぽつんと一つのグレネードが転がっていた。
「え?えぇ!?」
一瞬の戸惑いのうちに理解する。先ほど少女の反応が鈍かったのは言葉を発さずにグレネードを呼び出すために集中していたのだろう。そして剣を受け止め膝をついた隙にグレネードを放り投げたのだ。
気づいた時にはもう遅く急いで離脱しようと前を向くと少女はすでに大きく距離をとっているのが見えた。次の瞬間――――
ドガンッッ!!
爆発の衝撃と熱が伝わり体が吹き飛ばされる。
ビィィ――
再びブザーが鳴り試合の終了がアナウンスにより伝えられる。そしてアナウンスが勝者の名前を宣言すると観客は歓声と惜しみない拍手が2人の少女に送られた。
表彰式が終わり少女は居眠りをしていた更衣室で1人胸にかけられた銀色のメダルを眺めていた。もちろんそれは今までの苦労と失敗、成功と喜びのすべてが詰まった結晶である。しかし逆に言えばそれだけなのである。優勝者に与えられる日本代表候補生の称号や自分専用のIS、IS学園への入学という目に見える形とどうしても比べてしまうのだ。
「……っぐす…、うぅ…」
思わず瞳から涙がこぼれた。
中学3年生の11月少女は敗北の悔しさを知り、そしてもう一度IS学園を目指すことを決意する。
最後まで読んでいただきありがとうございました。まだまだ至らぬ点があるとは思いますがこれからも書き続けていきたいと思います。よろしくお願いします。