病んで愛して魔法少女!!   作:ガラン・ドゥ

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抜け出せない花の迷路

 仕事が一段落つき、体を伸ばしながら時計を見ると、すでに定時を過ぎていた。

 部隊長を引き継いだ僕は、それはもう仕事が山のようにあるのだがどうしても寄らなければいけない場所があるために、慌てて帰りの身支度を整える。

 まだパソコンに張り付いている部下に挨拶すると、すぐに事務所を出た。彼らも事情は知っているだろうから何も聞かずにお疲れ様です、とだけ返してくれる。

 

 車を走らせること30分。その頃にはドミノのように並び立ったビル群は鳴りを潜め、閑静な住宅街へと侵入していく。その中の1つが僕の目的地だ。

 大通りから横に入り、その奥には一軒家が建っている。道や周囲の芝生は手入れされているが、その家の周りには他に何も無く、綺麗な外観とは逆に寂れた印象を受ける。

 横にある駐車スペースに車を停めた後、玄関の前でインターホンを鳴らした。

 

「ノアです。いらっしゃいますか?」

 

 少し間が開くと、廊下を歩く音が近付いて来てドアが開かれる。

 

「おかえりなさいノア君。ちょっと遅かったね」

「すいません――なのはさん」

 

 僕をノアと呼んだこの女性の名前は高町なのは。

 栗色の艷やかな髪を持ち、花のような笑顔が似合う女性なのだけれど、今は影を感じさせる笑みを浮かべている。

 彼女のことを知らない人間は少なくともミッドチルダにはいない。

 管理局のエースオブエース。数多の世界を救った英雄。

 呼び名はいくらでもある。彼女はそれほどまでに優秀な魔導師()()()

 

「今日は何をされていたんですか?」

「ううん、一日中ずっと家にいただけ。外に出ようとしても、やっぱり怖くて……」

「あまり気にする必要もありませんよ。もっと時間をかけて歩んでいけばいいんですよ。……夕飯はスパゲッティで良いですかね?」

「お願い。ノア君の作る物なら何でも美味しいもん」

「あはは、褒めても料理しか出てきませんよ」

 

 家に上げてもらい、彼女の手を引きながら中へと入る。なのはさんにリビングのソファに座っているように頼むと、自分はそこを抜けてキッチンへ立った。冷蔵庫を開けてあらかじめ買っておいた食材を取り出していく。

 「勝手知ったる他人(ひと)の家」とは、彼女の故郷の言葉だったか。といってももう半ば同居状態となっているため他人の家というのは的外れか。

 麺の上に乗せる具材をフライパンで炒めながら、チラリとなのはさんの様子を伺う。僕と話す時は薄く表情を作っていたが、今ソファの上でテレビを見ている彼女は全くの無表情だ。虚無と言って差し支えない。

 実際のところ僕がいない時もこんな感じだろう。

 それに、なのはさんの肌はしばらく陽を浴びていないこともあって、更にまっ白になっており、なんとなく僕に死人を連想させた。そのまま目を閉じてしまえば、僕はきっと呼吸が止まっていることにも気が付かない。

 でも彼女のそんな状態は無理もないことだ。なぜなら彼女は、僕では想像し難い心の傷を負ってしまったのだから。

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―

 

 大体10年前くらいだろうか。エース達の集う戦技教導隊に招集を掛けられた僕は、そこでなのはさんと初めて出会った。

 彼女は部隊の中でも特に秀でていて、何よりも自由に空を飛び回る姿が優雅で、僕はずっと魅了されていたのだ。

 生まれも生き方も違う僕達だったが、唯一接点があったのは歳の近かったということ。それで話が合うこともあったし、それなりに仲も良かったと思う。

 そんな彼女との関係が少し変わったのは、いつかの深い夜のことだ。

 その日は仕事を大量に残してしまい、止む終えず職場に残って処理をしていた。ようやく目処がついたところでふと我に返ると、一緒に残業していたなのはさんが途中から一言も発していないことに気が付いた。

 彼女の席へ振り向けば、そこにはスースーと机に突っ伏している姿が見える。

 もう夜も深いしとにかく起こさなきゃと思った僕は彼女に近付いて肩を揺らした。

 

『なのはさん起きてください。なのはさん』

『んぅ、……あれ、ノア君? わたし寝てた……?』

『ええ。疲れてるんじゃないんですか? 仕事はこの辺で止めておきましょうよ』

『しごと、仕事…………あ~!』

 

 ウトウトと夢見心地だったなのはさんが突然大声を出したことで驚いた僕だったが、彼女はそんなことは気にせず大急ぎでパソコンを起動する。

 

『あ、明日の会議の資料できてない……』

『明日の会議……。もうこんな遅いのに今からやって間に合うものなんですか?』

『わかんない……。でも、徹夜すればまだ大丈夫かもしれないから』

 

 なのはさんはそう話しつつ高速でタイピングしていた。その内容を見る限り半分もできておらず、本当に間に合うようなものでもなさそうだ。

 しかし、それよりも気になったのは、この距離で初めて見た彼女の表情だった。

 よくよく見ないと気が付かなかったが、それでもクッキリとしたクマが大きな瞳の下に見えている。あとから知ったが、どうやらコンシーラーという化粧品でいつも隠していたらしい。

 それがその日はうつ伏せで机の上で寝ていたために取れてしまったということだ。

 そんなことは全く知らなかったが、そもそも朝から晩まで隊員の指導につきっきりだというのに、それから事務作業をしていたら疲れて当然なのだ。早急に休ませるべきだと当時の僕は判断する。

 

『やっぱりここらで止めておきませんか? 途中までの資料でも、これまでのなのはさんの活躍見てたら許してくれますよ』

『そんないい加減なことできないよ! みんな、みんながわたしに期待してくれてるのに……。それに応えないと……』

 

 疲れからか、うわ言のように『期待に応える』と繰り返す彼女にとても困ってしまったが、作成されている資料をチラ見してあることを思いついたのだ。

 すぐに自分のデバイスを起動して操作する。

 

『なのはさん、ちょっとこれ見てくれませんか?』

『え?』

 

 僕の言葉にこちらを振り向く彼女の表情に、胸の辺りがムカムカとしたがそれをあえて無視してデバイスにモニターを表示させた。

 

『これ僕が明後日使う論文なんですけど、明日の会議の題目と一致していますよね? ちょっとなのはさん向きではありませんけど、とりあえずこれでお茶を濁しませんか?』

『え? ……だ、駄目に決まってるよ! そうしたらノア君はどうするの!?』

『まあ、僕は新しく作り直せば良いので。なのはさんよりは多忙でもないですし』

『そういうことじゃないよ! わたしのせいなのに、ノア君にまで迷惑掛けたら申し訳ないじゃない……!』

 

 憔悴している彼女が更に悲痛な面持ちになるのを見て、こちらの良心も痛んだのだが、それよりもなのはさんへの怒りの方が少しだけ勝った。

 

『……なのはさん、ちょっと自分を追い詰めすぎじゃないですか?』

『えっ、え……?』

『仮に明日まで資料ができたとしてそれをまともに発言できるんですか?』

『そ、それは……』

『そうでしょ? だったら今なのはさんがやるべきことはしっかり休むことですよ。僕は十分時間がありますからこれを使ってください』

『で、でも、そんなことして良いのかなあ』

 

 本当ならやってはいけないことだ。だが、頑張ってる彼女が少しくらい休むのにいけないことがあるんだろうか。

 

『良くはないでしょうけど、なのはさんはもう少し()()()になっても良いと思うんですよ』

 

 僕の言葉に彼女が少しだけ止まったのが分かったが、それが何を意味するのかは僕には分からなかった。

 結局、なのはさんは折れて僕の論文を借用する形となり、僕もいくつか変更した上で論文を提出したのだが……結論から言えばバレた。

 彼女の方はあまりらしくない資料作成をしたこと、僕の方はなのはさんの資料と類似点が多すぎること。

 さらに言えばそのことで呼び出されたのだが、僕だけが一定期間の罰を受けることとなった。

 

『本当にごめんなさい! 元はと言えばわたしがちゃんと準備してれば良かっただけなのに……』

『過ぎたことですし、もうその話は止めましょうよ。僕も気にしていません。でも、もし責任を感じていることがあるのなら、これからはもう少し先に相談してもらえませんか? 貴方はもっと自分が周りから大切にされてるんだって気付いてほしいんです』

『……うん』

 

 本音からあまり気にしていなかったのだが、真面目な彼女は自分に罰がないことに納得がいかなかったようだ。僕に謝るだけではなく、教官に抗議までしたらしい。

 僕が何か言う前に、彼女は少しずつ変わり始めていたようだ。

 そのことがきっかけで僕はなのはさんとの距離を縮められた気がした。私的な会話をよくするようになり、頻繁に食事に誘われるようにもなった。

 親友なんかに話すべきでは、と思う相談も乗って欲しいとお願いされることもあった。こころなしか、以前よりも本心で笑っている気させしていた。

 

 本当に信頼されているなと思ったのは『J・S事件』の後、英雄となった彼女が率いる部隊に、なのはさん直々に副官として任命されたこと。本人曰く、

 

『機動六課にはお誘いできなかったけど、やっぱり横にノア君がいると安心できるから』

 

 とのこと。

 そんなことを言われてやる気を出さない男はいない。

 非常に優秀な隊員達のまとめ役を任され、大変なことも多かったがその分仕事への充実感も格別なものであった。

 彼女と一緒にいられる時間は楽しかったし、こんな日常が続けば良いな、なんていう願いもあった。

 しかし、そんな日々が壊れるのはいつも突然だ。

 

 いつものように訓練をしていた時――彼女が倒れたのだ。

 急いでなのはさんを抱き抱えて医務室へ向かったが、2日間も意識が戻らなかった。その間の検査で分かったのは、彼女の体内のリンカーコアが破損してしまったということ。

 元々無茶をし続けて体には大きな後遺症が残っており、魔法の使用は控えるように言われていたらしく、比較的気をつけて過ごしていたのだが、日々の残業の疲れと何らかの偶然が重なって、遂に限界が来てしまったとこと。それもすでに手遅れの状態で。

 

 目覚めたなのはさんが、もう魔導師としてやっていくことは不可能だと伝えられた時の表情を、僕は今でも忘れられない。しかし、悲劇はそれだけではなかった。

 なのはさんが先の事件で保護し、本当の娘のように愛している高町ヴィヴィオ。

 僕には詳細は分からないが、彼女は聖王と(ゆかり)があるらしく、なのはさんの状態を聞いた聖王教会は、彼女に万が一が起こることを危惧して、なのはさんに確認することなく自分達で保護することを決定したのだ。

 直接会うことも無いままの家族との別れ。

 大事なものを一度に失った彼女は壊れてしまった。廃人のようになって、普通に生きていくにはあまりにも不安定すぎる様子になってしまった。

 

 何かの拍子に自殺しかねないなのはさんの様子に、僕はほとんど寝ることもしないまま看病を続けることにした。

 突然思い出したかのように娘の名前を呼んで暴れる彼女を抑えたり、何度も罵倒を浴びせられ、暴力を振るわれもしたが、それで彼女の気が済むならと僕は耐えた。

 すべては今までの思い出があったからだ。

 優しい彼女を知っている。目の前の出来事に一生懸命すぎる彼女を知っている。笑いながら今はいない娘を自慢している姿を知っている。それだけの思い出があれば十分だ。

 体中にアザができたものだが今となってはいい思い出だろう。

 しかし、一週間程経って突然光の無い瞳で僕を見てこう言った。

 

『ノア君……。ここに来なくても良いんだよ……?』

『え? ど、どうしたんですか、急に』

『わたしが頭おかしくなっちゃったの嫌でも分かったでしょ? 大切なノア君を傷付けて、わたし、ノア君になにも償ってあげられない……。それにね、もう管理局から辞めるようにって勧められたの……。ここにいても良いことないだろって。だから、ノア君との繋がりはもう無くなっちゃったから……』

『そんな……そんなの関係ありませんよ! 僕は僕個人の意思でここに来ているんですから! 管理局だけが貴方と僕の全てじゃない。』

『でも、ここに来てくれるのはもうノア君だけだよ? フェイトちゃんもはやてちゃんも皆わたしと怖がって近付かない……。わたしは、いらない人間になっちゃった……。ノア君もわたしに関わってたら碌な目に会わないよ。……同情してくれて、ありがとう』

 

 無表情でボロボロと涙を流す彼女を見て、僕はベッドへ乗り上げてその体を抱きしめていた。背中を優しくさすりながら、あやすように言葉を掛ける。

 

『なのはさん、もう良い子の振りをしなくてもいいんです。ここには僕と貴方しかいないんです。僕しか頼れないというのなら頼ってください。貴方が助けて欲しいと言うのなら、僕は貴方が生きる手伝いをします。だからもう、頑張るのは辞めましょう……」

 

 それが心のダムを決壊させたのか、彼女は静かに嗚咽を上げる。

 これからどうして行くかなんて、その時は全く持って考えていなかったが、なのはさんを1人にできないということはハッキリしていた。

 それが半年前の出来事。

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―

 

 退院してからも、なのはさんは他人に完全に心を閉ざしており、唯一まとも会話出来るのは僕だけとなっていた。

 1人になった自宅で過ごしながら、毎日僕が料理を作りに来るのを待っている。その間は何もやる気が起きずにボンヤリと座っているだけであることが多いようだ。

 これでも半年前と比べればだいぶ進歩している。家に帰ってきた時は娘がいないことに泣いて、食事すら喉を通らなかった。なるべく消化に優しい食事から始めて、今は普通の食べ物も口に入れられる。

 ちょうどスパゲッティが出来上がり、彼女を呼んだ。

 

「出来ましたよ、なのはさん」

「――あ、うん。今行くね」

 

 なのはさんはテレビを消して、2人でテーブルに皿を持っていく。お互い向き合うように座りながら、「いただきます」と挨拶をしてスプーンを持った。

 パスタを口に運ぶ彼女へ美味しいかどうか聞くと、「すごく美味しい」と笑顔で返事が返ってくる。チラッと彼女の顔を伺うと、管理局にいた時より痩せてしまっているのがすぐに分かる。

 元々モデルのような体型をしていたのだが、今は少しずつ肉付きもよくなってきている。

 どうにか以前のように元気な姿を見せてほしいと思うが、僕が焦っては元も子もない。僕は彼女が願うことを時間を掛けて叶えていけば良い。

 料理を食べ終えて食器を洗ったらもう部屋に戻ろうと考えたところで、なのはさんが僕の服の袖をキュッと掴む。そうして僕の顔を見上げる仕草から、彼女の次に伝えることが分かった。

 

「あの、ノア君。今日は、一緒に寝てくれないかな……?」

「……はい、喜んで」

「ほんと!?」

 

 弱々しくお願いした彼女の表情は、僕の返事でパァと明るくなる。

 なのはさんが不安でいっぱいになった時などは、僕はいつも彼女の部屋で、彼女が眠れるようにと一緒のベッドに入ることになる。

 なのはさんの為ならばと断るなど一切しないのだが、問題は彼女が僕に抱きついて就寝すること。

 体温を肌で感じる方が安心するから、と言われれば従わざるを得ないのだが、彼女の甘い香りや柔らかい感触から逃げる術がないため、理性を鎮めるのにとても苦労していた。最近はようやく慣れてきたとはいえなのはさんの無防備さに悶々する日もあるが、今はなんとか手遅れの状況にはなっていない。

 ……何か熟年夫婦のようになっている気がするが、なのはさんとはもちろん結婚もしていないし付き合ってすらいない。

 今のこの状況で告白というのも憚られ、なのはさんが元気になったらしてみようかというくらいだ。なのはさんが僕を受け入れてくれるのならそれはとても幸福なことだと思う。

 

 僕から了承を得たなのはさんは、自分が食器を洗うと言い出してくれて、僕はソファでテレビを見ながら待つことにした。柔らかな座り心地に瞼が重くなるのを感じる。

 部隊長であることから次々に仕事がやってくるのだが、彼女のお世話もあって残業なんて出来ない。必然的に忙しい時は太陽が登り切らない内に職場を出ることとなり、疲れを取ることが難しくなっていた。

 

 やっぱり自分のこともやりながら他人も、というのは大変に感じるが、僕がいなくなった後になのはさんがどうなるか不安でしょうがないのだ。

 彼女無しのこれからを生きていこうとも思わない。未来のことを考えながら僕は意識を落としていった。

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 食器を洗い終わってリビングに戻ると、彼がスースーと穏やかな寝息を立てているのが目に入る。

 仕事をして、わたしの世話までしなきゃいけなくて、顔には出さないけれどとても疲れが溜まっているのは分かっていた。

 まったく、これじゃわたしに言ったことそのまま返さなきゃいけないよ?

 

 しゃがんで彼の両頬にソッと手を置くと、静かに自分の口で相手のに触れる。時間の感覚なんてとっくに失っているからどれだけの間彼の唇を貪っていたのかなんて分からない。

 満足してから離れると彼の水が口元に付いていることに気が付き、わたしは左手でそれを味わうように舐め取った。

 ああ、何という甘美な蜜。このまま彼の口の中に入ったらどれだけ幸福なことか。

 右手を彼の頬に当てたまま俯く。

 

「…………好き」

 

 好き、すき、スキ。

 その言葉を紡ぐだけでわたしの心に熱が灯った。この寂れたような、世界から隔離されたような時間が一番幸せだ。

 人間として壊れたわたしを救ってくれた彼に、恋心を抱かない筈が無い。

 

 病院に放り込まれた日、わたしは絶望感から誰も彼も構わず当たり散らした。フェイトちゃんらはそれでも来ようとしてくれたけど、暴力を恐れてか次第に来ることもなくなった。

 でもそれでも良いと思ってた。だってわたしは誰からも必要とされなくなって、あの2人や機動六課の後輩たちにも侮蔑するような目をされるのがたまらなく怖かったから。

 それでも、彼だけはずっとわたしの傍にいてくれた。痛かったろうに、辛かったろうに。

 そんな彼ならわたしを見捨てずにいてくれるんじゃないかと期待してしまったのが悪かったんだと思う。

 それでも本当にわたしを助けてくれたことが嬉しくて、わたしは彼の胸の中で泣いた。

 でも、それが今度は彼を苦しめることになる。

 疲れた表情でわたしの家に帰ってくる彼を見て、そんなになってまでわたしを助けようとしてくれることにたまらなく胸が締め付けられた。

 わたしも彼を助けたい。

 いっそ私でストレス発散すれば良いじゃないかとも思うんだけど、それで侮蔑されるのも怖くて中々言い出せない。

 だからせめて家の中だけでもゆっくりとさせてあげたいのにわたしの体は思ったとおりには動いてくれないのだ。

 彼の『ゆっくり時間をかけて』という言葉を信じてただ待つばかりだけど、いつになれば、という気持ちがないわけがない。

 誰かに必要とされたくて、そこで魔法という安易な道を選択したわたしには、気が付けばそれ以外何もかも失っていた。

 

 それなら何ができるか、と問われれば、わたしには努力しかないのだ。これまでもそうやって生き抜いてきた。

 もうなりふり構わない。どんな形になっても努力して、そして彼の隣に立てる女になりたい。やっぱりお互いに支え合って生きていくのが一番幸せになれると思うから。

 わたしにはもう彼しかいないのだ。彼に捨てられたら本当に死ぬ以外ない。それだけの想いを彼に寄せている。

 

 これから、もう少しまともなわたしになったら2人でどんなことをしようか。

 彼はエリート公務員で、わたしは専業主婦として彼を癒やす。そんなのでも良いのだろう。

 お母さん達がパティシエだったから、2人で喫茶店を開くのも悪くないかも。そうなれば一緒に苦労して一緒に喜びあえる。そっちの方が楽しいかな?

 

 ああ、でもその前に彼と結婚したい。早くわたしを彼のものにしてほしい。

 どんな家にしようか。子供は何人欲しいかな? 男の子と女の子どっちが良いんだろう。

 自分だけで盛り上がっていることに気が付いて、「いけないいけない」と思考を遮断する。彼はベッドで密着してても手を出してこないくらい優しい人だ。わたしが傷付くかもと思ってくれているのだからそれを無下にしてはいけない。

 彼が起きる前にお風呂の準備をしようと立ち上がる。彼から1秒でも離れているのが辛いけど、我慢するのは今だけだ。

 

「……待っててね、ノア君。もう少ししたらわたし達、たくさん幸せになれるからね?」




共依存系のなのはでした。
こちらにはリメイク後の作品のみ載せています。もしリメイク前のをご所望する方がいれば感想欄にでも書いてくださいm(_ _)m

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