あと「T」のファンの方々すみませんと予め謝っておきますm(_ _)m
暑さも鳴りを潜め、涼しくなってきたこの季節、そこに待っているのはいつもと変わらない日常。
なのはさんと共に食事をし、団らんをする光景だ。
この光景を維持するためなら僕はなんだってするだろう。今までもそうしてきた。
今は夕食を食べ終えてリビングで寛いでいる。
ソファにお互い並んで座り、なのはさんは自然と僕の肩に頭を寄せている。
最近は毎日こうだ。
特に恋人同士になった訳ではないけれど、こうして彼女から甘えられるというのは悪くない。
あとは時間が過ぎるのを待ち、自分のアパートに帰るだけである。
その度に彼女が捨てられた子犬のような目でこちらを見てくるのは大変胸が痛くなるが、仕事の関係もあるため、流石に毎日泊まるということはできない。
しかし僕は今日、とある変化をなのはさんのところへ持ってきた。
「ねえ、なのはさん」
「うん? なあにノアくん?」
僕の呼びかけに、彼女はどこか眠たげな声で応えた。
2人とも黙って同じ体勢でいるものだから、ボーッとしてくるというのは分かる。
ただなのはさんの瞼が落ち切る前に伝えなければならないことは伝えなければ。
「実はですね、僕休暇を取れることになったんですよ」
「え、お休み? 本当に?」
「はい、本当です」
彼女は驚いたような声を上げて僕の肩からゆっくり起き上がった。
おおよそ1年前のこととはいえ、彼女は管理局の実情をよーく知っていた人間なのだから、その驚きも理解できる。
時空管理局は毎年のように人材不足に悩まされている。人員はいても、魔導師が圧倒的に足りないということだ。
いつ出動することになるか分からない日々の中、安易に休みを取れば大惨事になりかねない。
だから基本的に仕事に穴ができないようにローテーションを決めておくのが基本となっていた。
そこでただでさえ人材不足の中、更に人員の限られる戦技教導隊では、僕を含めて誰しもが休暇とは無縁の生活を送っていたのだが、最近『働き方改革』なんてものが上層部で決定され、できる限り休暇を取ることが義務付けられた。
改革だなんだと言われても急なことで対応が非常に難しかったが、命令だと言うのであれば従わざるを得ない。
そのためどうにか職場内で全員のスケジュールを調整し、皆に休みを取ってもらったところで、僕にもようやく順番が回ってきたという訳だ。
とはいえたった1日だけである。
なのはさんの家に1日中いるという選択肢もあったが、折角なら彼女に別なこともさせてあげたいというところで悩んだ僕は、とあることを思いついた。
「それでですね、その日になったら僕と一緒に買い物に行きませんか?」
「え……?」
いくら僕がついているとは言え、このまま一生自宅で過ごすということはできないであろう。
世間もなのはさんのことを気にしなくなってきた頃合いであり、だったらこのタイミングで外に出ておくというのも悪い選択肢ではないと思った。
「え、えっと、わたしが外に出るの……?」
が、こちらを見ている彼女の顔にはハッキリと恐怖の感情が浮かび上がっている。
そう思ってしまうのは当然だ。彼女は世界に裏切られたのだから。
「もちろん無理にとは言いません。なのはさんが嫌ならこの話は無しにしましょう」
「えっ、そんな簡単で良いの?」
「ええ。なのはさんが嫌がることをやっても意味ありませんから。ですが、なのはさんもちょっとずつ具合が良くなっているじゃないですか。そこからもう少し前進しても良いんじゃないかなと思って。もし行くとなれば僕がずっと傍にいますから」
なのはさんは顎に手を当てて考える素振りを見せる。
そりゃあ突然こんな提案をしたら悩むのも分かる。行くにしろ行かないにしろ、決定権はなのはさんにある。
「良いのかな。折角のノア君のお休みを使うなんて」
「僕は全く問題ありませんよ。なのはさんといられればそれで幸せですから。それに、急に休みを取れって言われても何すれば良いか分からないんですよ。だったら少しでも有意義な使い方したいなって思えて」
実際問題、最後に休みを取ったのが何時頃だったかまるで覚えていない。
戦技教導隊に入ってからは記憶がないし、その前なのだろうが下手すれば管理局に入隊してから休みをもらっていないのではないだろうか。
世界で最も過酷な職場ではないのかと思えてきたところで、なのはさんは首を縦に振った。
「……分かった。ノア君が折角提案してくれたことだもんね。それにいつまでもおんぶに抱っこじゃいけないから、わたしも変わらなきゃ。でも、私、ノア君がいなくなったらって思うと怖いの……」
「大丈夫ですよ。出かける日は絶対になのはさんの傍を離れませんから。それにそんな気負わなくても良いんです。軽いデートだと思ってくれれば」
「デート。デートかあ……。うん、何だかやる気湧いてきたよ」
「本当ですか? それなら良かったです」
「デート」という単語に反応してか、彼女はどうやら乗り気になってくれたようだった。
僕達は来週末に出かけるということで合意し、そろそろ時間もちょうど良い頃合いになっていたので僕はなのはさんの家を出た。
実を言うと僕もワクワクしている。
なのはさんとの付き合いは長いが、一緒に外に出るということはしていなかった。
彼女が外に出るのに前向きになってくれれば、これからも同じことができるだろう。
今回のお出かけは失敗できないな、と心の中で思いながら僕は帰路に着いた。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―
当日、僕達は車を使って2つ離れた街へ向けて移動していた。
それほどたくさんの物品を購入する訳ではないのだが、なのはさんの家の近くだと近所の人と出会う確率が高く、必然的にそこ以外の場所を選ばなければならなかった。
まあ一種のドライブだと思えばそんなに苦ではないだろう。
助手席に座っているなのはさんをチラリと見る。
今日の彼女はいつもの部屋着と違って外行き用の服を身に纏っている。
白いシャツに淡い色のロングスカート、足元はスニーカーと至ってシンプルな装いだ。
彼女の私服を見るのは久しぶりだ。
家を出なくなったこともあり、すっかりタンスの奥底に眠っていたであろう物であったが、今の彼女でもすんなり着ることができている。
管理局にいた頃と比べてだいぶほっそりとしたからだろう。1年という時間はそれだけ長いのだ。
今日の出来事が彼女の外に出るきっかけになってくれれば良いなと思う。
当の本人はというと、いつもより口数が多い気がする。
久しぶりの外出で何だかんだ気分が上がっているということなのかもしれない。
やっぱりなのはさんは、内に籠もっているよりも外で明るく過ごしているのが似合う。
もっと楽しんでほしいなと心の中で思いながら、目的地へと向かった。
目的のデパートへ到着すると、車を降りてグーッと体を伸ばした。
やはり長時間の運転となると結構疲労が溜まる。
さあ入り口まで足を運ぼうといった時に、なのはさんはつばの広い帽子を取り出して頭に被った。周囲に自分のことがバレないようにする為のものだろう。
しかし、その幼い顔立ちと見た目の印象が相まってどこかのお嬢様のようにも見える。
「ノア君……大丈夫かな、周りの人からわたしだって分からないかな……?」
「ええ、問題ないでしょう。とっても似合っていますよ」
見惚れてて反射的に答えてしまったが、本当のことだから何の問題もない。
違和感ない程度まで深く被っているし、メディアに露出してた時のようなサイドテールでは無く髪も下ろしているから気付く人はそういない筈。
もし気付かれても他人の空似で通して逃げるだけだ。そうならないようにしっかり周りを見張っておく必要があるが。
なのはさんのことはしっかりエスコートして守らなければいけないなと思いつつ、彼女の手を握る。
「大丈夫ですよ、なのはさん。いざという時は僕がいますから」
「……うん、そうだね。ノア君がいれば安心だよ」
「それじゃあ行きましょうか」
「うん」
先頭に立つように歩きながらデパートの中へと入った。
中はたくさんの人でごった返しになっている。
休暇が休日と被ってしまった為、こればっかりはどうしようもない。
なるべく人のいないルートを選んで進んでいくしかないだろう。彼女の手を取って人の間をすり抜けていく。
今日の目的は食材の買い出しだ。
そのため食品売り場があるところまで移動する。
「今日買うものは何かな?」
「そうですね……」
予めリストアップしていた食材を読み上げていく。
初めて来た場所なのでいまいち場所が把握しづらいが、まあコーナーの表示を見れば問題ないだろう。
野菜売り場に着いたので、一つずつ品定めをしていく。
なのはさんと「こっちが良い、あっちが良い」などと議論しながら進んでいたのだが、不意に彼女が一言呟いた。
「……ノア君、変わったよね」
「何がですか?」
聞き返すように彼女の方を振り向くと、寂しげに笑っていた。
「だって最初会った時はインスタント食品ばかり食べてたのに、今はちゃんと食品の良し悪しを理解できてるんだもん」
「ああ、そうでしたね……。それを見かねたなのはさんに家にご飯作りに来てもらって……」
「そうそう。栄養失調でいつ倒れるか気が気じゃなかったし、ノア君にはちゃんと食べてほしいなって思ってたから」
「その節はありがとうございます。なのはさんが毎週手料理を振る舞ってくれなかったら餓死してたかもしれませんし、おかげで料理して食べるようになりましたから」
「そう、それだよ」
なのはさんは言葉を一度区切った。
「今はもうわたしがノア君に食べさせてもらってる側だもんね。それに、わたしがいた部署の隊長にまでなっちゃって……ノア君はどんどん前に進んでるのに、わたしだけが変わらないままで、取り残された感じ」
なのはさんが若干うつむいたのが分かった。
エースオブエースとして華々しい功績を上げていたあの頃、彼女は確かに輝いてたと思う。
大切な仲間もいて、とても良い子な娘もいて、誰からも信頼されていた。
他人が聞けば羨ましいと思うかもしれない。でも。
「良いんじゃないですか、変わらなくても」
「え?」
もう一度、彼女がこちらを向く。
「変わるってことは、もしかしたらその人の良いところも無くなってしまうかもしれないですよね。僕は今のなのはさんの良いところたくさん知ってますよ。だから無理して変わる必要なんてないんです。僕はそんななのはさんが好きなんですから」
「ノア君……」
ちょっと格好つけてしまったけれど、伝えたいことが伝わっていればそれで良い。
隣に立つなのはさんがぽしょりと声を出す。
「……ありがとうね」
「どういたしまして」
なんだか体温が上がった気がしたが、それを無視して彼女との買い物へ集中することにした。
欲しい食材を全て買い終わり、僕達はデパート内に設置されたベンチで休憩している。
今のところ、もうここには用事はないのだが、折角の遠出だ。
まだ散策しても良いかもしれないと思い、なのはさんに声を掛ける。
「なのはさんが服とか欲しいのであれば、そちらにも寄っていきますか?」
女性にとっておしゃれとは重要なものだろう。
なので久しぶりに外出だし必要なものがあれば買っても良いなと思ったのだが、彼女は首を横に振った。
「ううん、今は自分の貯金崩して生活してる訳だし、あんまり無駄遣いはできないよ。それに人と話すのはまだちょっと、ね……」
「そうですか……」
僕が払っても全然問題ないのだが、それだと彼女が余計に気を遣うだろうと思って口にはしなかった。
変わらなくても良いと言ったのは僕の方だ。
今は無理でも少しだけ前に進んでいくのが、彼女にとっての最善となるだろう。
この話はここでお終いだ。
もう少し経ってからデパートへ出よう。
「それじゃあ僕、飲み物でも買ってきますね。たくさん歩いて疲れたでしょうし、ちょっと待っててください」
「あっうん、ありがとう。よろしくね」
なのはさんはお礼を言いながらこちらに手を振っている。こちらも手を振り返すとそのまま歩いて2分もしないところにあるドリンク売り場へと向かった。
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彼のような男性を、わたしは他に知らない。
優しいなあと心から思う。
他人の感情の機微に気が付いて、掛けて欲しい言葉をすぐに発してくれる。
どんなに醜態を晒しても広い心でわたしを慰めてくれる。
それがどれだけわたしを救ってくれたことか。
職場でも彼のことを憎からず思っている子は少なくないのだろう。
もしかしたら告白だってされたのかもしれない。
そんなことを考えると落ち込んでしまうけれど、彼はわたしのことを好きだと言ってくれた。
それが親愛なのか恋愛の感情なのかはまだ判断はつかないけど、わたしは彼に愛されてるということが分かればそれで十分なのだ。
その好意に応えるために、わたしは彼にプレゼントする用のお菓子作りを勉強している。
中々成果は出ていないがこれでも喫茶店を営んでいる両親の娘だ。やる気も根気もあると自分で思っているし、あとは時間の問題だと思う。
それが完成したら、わたしは彼に告白するつもりだ。
この味を使って一緒にお店を開かないかと。
そうすれば彼が管理局で頑張らなくても、いつでも一緒にいてあげられる。
もし断られても専業主婦として頑張っていきたい。
そんな妄想をするだけで自然と口元に笑みが浮かぶ。
彼は変わらなくても良いと言ってくれたけど、やっぱり今のままではいられないのだ。
彼とずっと一緒にいたい。
それがわたしのたった1つの願いだ。それを実現する為の方法を模索している。
――そんなことを考えていたからか、わたしは接近してくる人影を完全に見落としてしまっていた。
帽子の端から人の足がチラリと見えたのでわたしは我に返った。
もう彼が戻ってきたのかなと頭を上げたのが失敗だったのだと思う。
「やっぱり、なのはさん……」
「え、あ……ティ、ティアナ……」
そこに立っていたのはオレンジ色の髪を持つ女性で、わたしの元教え子であった。
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僕がドリンクを持ってなのはさんの待つベンチへ戻ろうとすると、角の先から何やら話し声が聞こえてくる。
1人はなのはさんの声だとすぐに分かった。
しかしありえない。彼女の知り合いの誰にも会わないためにここまで来ているのだから。
何か嫌な予感がして小走りで彼女の元へ向かうと、そこには2つの影があった。
「お願いですなのはさん、話を聞いてください。何もしたりしませんから」
「い、いや……やめて……。わたしに構わないで……」
誰かに絡まれて怯えているなのはさんを見て、僕は自分の頭が瞬時に沸騰するのが分かった。
「何をしているんだ!」
手に持ったドリンクを床に放り投げて急いで彼女の前に立った。
「ノ、ノア君」
「ノアさん……」
後ろの彼女が僕の服を握っている。そこまで来て僕はようやく彼女と話していた女性の顔を見た。
ティアナ・ランスター。
元機動六課のスターズのメンバーで今は執務官になっている、優秀な魔導師だ。
「君だったのか……。一体なんでこんなところに」
「えっと、あたし今日休みをもらったので買い物をしようと思ってここに来たんです。そしたら途中でなのはさんらしき人を見かけたので、それで……」
「後をつけてみたってことか、なるほど」
僕は怒りを抑える為にわざと大きくため息をついた。
これは僕の完全な失敗だ。近隣住民に会わないようにと遠くまで足を運んだが、よく考えればなのはさんの顔はとてつもなく広い。
だからどこに行っても彼女の知り合いに出会う可能性があるということを考慮していなかった。
極めて平坦な声でティアナに問いかける。
「それで、君はなのはさんに一体何の用があって来たんだ?」
それに対してティアナはムッとした表情を作った。流石に不躾が過ぎただろうか。
「……用が無きゃなのはさんに会っちゃいけないんですか? あたしはただなのはさんのことが心配だっただけです」
「それで彼女を怯えさせたのか」
「そんな! あたしは何もしてません! でもなのはさんはあたしの言葉に耳を貸してくれないし……」
「彼女は対人恐怖症を患っているんだ。強引なやり方じゃいくらやっても心を開けないんだよ」
冷静を装って彼女を説得しようと試みるが、ティアナは尚も食い下がってくる。
「少し話しただけでもですか? あたし達仲間にですら震えてて、これじゃあ誰に対してもなのはさんはずっとこのままじゃないですか!」
「それは……ティアナにはもう関係のないことだよ」
「…………ノアさん、変わりましたね」
今日なのはさんにも言われた言葉がティアナの口から出てきた。
言葉に籠もっている感情は2人とも真逆であったが。
「機動六課にいた頃は、ずっとあたしに真摯に付き合ってくれて、苦しくても前向きに生きていればいつか道は
それなのに、今ノアさんがやってることは逆のことじゃないですか。ずっと後ろ向きで、いつまで経っても解決しない問題を先延ばしにして……そんなノアさん見たくありませんでしたよ」
「……なら、一体どうすれば良かったんだ。なのはさんは誰も縋る人もいなくて、最後に辿り着いたのが僕なんだ。だったら、彼女を助けたいと思うのが普通だろう。だから僕がお世話をさせてもらってるだけだ」
「あたし達に相談すれば良かったじゃないですか! 皆なのはさんのこと心配して待ってるんです。いつかまた昔みたいに笑いあえたら良いなって。それなのに……!」
ティアナの言ったことは確かに正しいのかもしれない。
僕と2人だけという閉ざされた世界の中で生活するよりも、代わる代わる色んな人と触れ合っていた方がよっぽど健全だ。
でも、それは『持つもの』の考え方である。
「それで、なのはさんだけ魔法を使えない中で昔話に花を咲かせるのか? なのはさんをのけ者にして」
「え……いや、どうしてそうなるんですか! あたしはただ、皆で昔と同じように楽しく過ごせたらなって……」
「本当に楽しめると思う? どっちにしろなのはさんに気を遣うことにはなるだろ? 魔法関連の話題を出さないようにとか、なのはさんが落ち込んだら頑張って慰めたりとか」
「それは、もちろん……!」
「でもそれって結局
「…………」
ティアナの言葉が止まる。もう潮時かなと僕は思った。
「……厳しい言葉掛けてごめん。なのはさんは久しぶりに外出で疲れてるんだ。そろそろお暇させてもらうよ。行こう、なのはさん」
「う、うん……」
僕は再びなのはさんの手を取って、ティアナに背を向けて歩き出す。
すると、後ろから小さく話す声が聞こえてきた。
「……あたし、諦めませんから」
それに答えることなく、僕達は駐車場へと向かった。
荷物を積んで運転席に座ると、隣のなのはさんが俯いたまま話し始める。
「ごめんねノア君……。本当はわたしが自分の言葉で話さなきゃいけなかったのにね。でも、ティアナを前にした時頭が真っ白になっちゃって……」
「良いんです。なのはさんの立場だったら誰でも同じ
「……ノア君は、ティアナの言ってた通り、皆のところへ戻るべきだと思う?」
なのはさんから重い質問が飛んできた。
チラリと彼女の方を見ると、「はい」と言って欲しくないと顔に出ていた。
だから僕の答えは1つしかない。
「いいえ、それでなのはさんが楽しいと思えるんだったら良いですけど、そうじゃないんですよね?」
「……うん。だって皆がお仕事の話してると時にわたしはなんて答えれば良いかわからないし、それに、昔のこと思い出すだけで辛い気持ちになっちゃうから」
「それが当たり前だと思いますよ。今のなのはさんには辛いことでしょうから」
「本当はこれじゃいけないって分かってるんだけどね……。外に出る以上、ティアナ達と会う日が必ずやってくるんだから……」
確かにその通りだ。いつまでも家の中に引きこもってはいられないから、いずれは外に出る頻度も増えてくる。
そうしたら、フェイトさんやはやてさん、それこそティアナ達と出会う度に毎回戻ってこないかと誘われて、その度になのはさんは心の傷口を広げられることになるだろう。
そんな目には合せたくないと思い頭を捻らせていると、1つ思いついたことがあった。
「……じゃあ、別の世界に移住してみるとか」
「え……?」
考えたことを口に出してみると、とてもしっくりきた。
「いや、仲間に会うのが辛いのならいっそ誰も知らない世界に行って、そこで暮らした方が心も休まると思いますよ?」
「でもそれだと……ノア君、は?」
「まさか、なのはさんを1人で行かせるなんてできませんよ。その時は僕も一緒に行きます」
「で、でも、お仕事もあるよね……?」
「もちろん辞めます。なのはさんがいないのにここで頑張る意味をありませんから」
「…………」
彼女は無言になった。
とても悩んでいるのだろう。今の生活を捨てて新しい居場所を見つけるか、それともここに残って頑張って対人恐怖症を克服するか。
どちらにしても彼女にとっては厳しい未来が待っている。
すると、なのはさんは僕の手を握ってきた。
突然のことで驚きながら、彼女の方を見ると、そこには1年以上は見ていなかった、何かに決意したような瞳が目に入ってくる。
「だったら、わたしからも1つ提案があるんだけどね……?」
「はい、何でも聞きますよ」
「あのね――」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―
あれから1年後、僕達はミッドチルダを離れ、全く別の世界に移住していた。
まさか自分が管理局を本当に辞めることになるとは夢にも思っていなかったが、自分に使える時間は増えて、これで良かったと思っている。
貯金は有り余っていたが、やはり仕事をしなければ生活にハリが出ない。
そこで彼女の提案してきたものが活きてくる。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか? カウンター席へどうぞ」
僕は今、カフェの店員として働いている。
まさか戦技教導隊の隊長から一般の従業員になるとは。
「ここのシュークリーム美味しいでしょ? なにせ
店の規模は小さいものだが、これから増やす気もない。
大きくすればそれだけ従業員も増やさなければならない。
それは彼女にとっての負担となる。そんなことは望んでいない。
ここでひっそりと暮らしていければそれで良いのだ。
僕は幸せだ。好きな人と一緒に暮らしているのだから。
この幸せがいつまでも続くことを願いながら、僕達はたった2人でこの生活を続けていく。
いやあ実に半年ぶり以上の更新となりました。
今回は感想頂いた方からのリクエストがあったので書いてみましたが、今後更新する予定は今の所ありません。
他の作品も書いているので良かったらそっちもお目通ししていただければ幸いです。