彼女は原作の裏で暗躍していましたが、具体的に何を考え、どう行動していたかは、暗躍であるがために一部しか描写されていません。
ひょっとしたら、こういうことを考えていたのではないかと、妄想をたくましくしてみました。
それではエリリン劇場へようこそ。
エヒトの神域の片隅、鈴達が去った小世界で恵里はまだ辛うじて生きていた。
準使徒化した体はなんとか命を繋いでいたが、もう上半身しか残っておらず、それも能力の暴走で端から分解しつつあり、後僅かな時間しか残されていないのは誰の目にも明らかだった。
その今際の際に過去の回想の走馬灯が駆け巡るなか、恵里の頭に浮かぶのはただひとつの疑問だった。
「ボクはいったい何処で間違えた?」
恵里は自分と光輝がトータスで生き延びる為に最善の道を選んだつもりだった。
恵里も最初から過激な手段を選んでいた訳ではない。
当初はハジメと香織をくっ付ける事でライバルに消えてもらい、失意の光輝を慰めて落とす計画で、その為に裏で色々と画策していた。
香織に他にライバルがいるような話をして焦らせて暴走させ、光輝には香織が暴走するのはハジメが悪いと吹き込んで、香織の前でハジメを攻撃させる事で仲違いさせる予定だった。
雫は香織の味方につくのは確実なので、一緒に光輝の傍から排除できる。
つまりハジメがイジメを受けた原因の半分以上は恵里のせいだった。
(まっ、南雲君には悪いけど、その分後でリア充になれるんだし問題ないね♪)
無論悪辣ではあるが、それでも恵里はまだこの時点では手段を選ぶ余裕があったのだ。
全ては順調にいっていた。
それがハジメが奈落に消えた事で、計画が根底から崩壊してしまった。
一年以上掛けた仕込みを台無しにされた恵里は頭を抱えた。
(なぜだ!?どうしてこうなった !?)
檜山に当たり散らしたかったが、当面使えそうな駒はそれしか居らず、我慢して引き込んだ。
(クソッ、ビークールだ、ボク。我慢、我慢だ)
恵里は檜山にいずれ悲惨な末路を用意してやろうと誓いつつ、計画を練り直すため黙考していた。
(どうして、こうなっただって。
決まっている、光輝君の周りしか見ていなかったからだ!!
それ以外の情報収集を怠って、足をすくわれた、つまりボクの!自業自得!
もう二度と同じ失敗はしない!)
恵里は自重を止めて降霊術士の力をフルに使い、小鳥や昆虫の死骸を動く盗聴機として多数運用する事で周囲の情報収集に励んだ。
そしてそれは報われた。
ベヒモス討伐成功後、ハイリヒ王国が悪化する戦況打開と士気向上のため、光輝とリリアーナ姫を婚約させる事を計画しているのを掴んだのだ。
敗北しそうな国の王族と婚約などしたら、逃げることも出来なくなる。
敗戦後は処刑確定の死亡フラグだが、光輝が拒否するとは思えなかった。
光輝はそもそも失敗した場合の事など考えないし、立場が強くなれば皆を守れると言って賛成し、ハーレム造るのが目に浮かぶようだった。
立場の弱い恵里がそれを阻止するのは無理。
かといって光輝とハイリヒ王国の間に揉め事を起こさせ他国に連れ出した所で、そこの国が同じ事を考える可能性は極めて高い。
恵里はこの時トータスの人類そのものを見限った。
では、何処へ逃げ込めばいいか?
亜人?弱すぎて当てにもならない。
地球?戻る方法もわからない以上、絵に描いた餅に過ぎない。
残る逃げ込み先は、魔人族しかなかった。
人族を受入れてくれるかどうかが、最大の不安材料だったが、運良く清水の裏切りのお陰である程度払拭された。
清水は失敗して始末されたが、魔人族は会話が通じる相手であることを確認出来たのだ。
少なくとも勇者の裏切りという政治的爆弾効果があるうちは生かしておくだろうし、後は使える駒であることを証明すれば、何とかなるかもしれない。
無論光輝は拒否するに決まっているが、縛魂で洗脳すれば何とかなる。
南雲が生きていた事がわかった事など、いまさらもうどうでもいい事だった。
クラスメイトとの間だけでなら有効な駒だったが、国家相手では意味が無い。
もはや恵里には手段を選ぶ余裕など欠片もなかった。
そしてカトレアの死体をアンデッドにして、魔人族との接触と交渉に成功し(ミハイルには殴り倒されたが)、寝返り条件を詰めた帰り、恵里はソレに出会った。
一目で恵里は震え上がって、跪いた。
(ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!!ナニコイツ?化け物だ!!
コイツに比べたら、ベヒモスでさえ仔犬に見える!!)
魂を扱う職業である降霊術士の恵里は、相手の魂の格をある程度見る事が出来る。
コイツには普通の意味での魂は無いが、代わりに膨大な想念が渦巻き、凄まじい量のエネルギー体が疑似的な魂を形成していた。
だからこそ、理解した、理解出来てしまった。
クラスメイト全員で掛かっても、逆立ちしても勝てない相手だと。
そして恵里は母親が連れ込んだヒモ男のお陰で、圧倒的な力の差を誇る者が、どれだけ傲慢で弱者を踏みにじるかをたっぷり経験済みだった。
ちょっと機嫌を損ねただけで、命を奪われかねないのだ。
その判断は正解だった。
「ガッ」ソレは無表情のまま、跪いた恵里の頭を踏みつけたのだ。
「ほう、身の程を弁えているとは、少しは見所があるのですね。
面白そうな事をしている蟲がいるとの事で来てみましたが、主が気に入ったとのことです。
ついてきなさい」
そしてノイントに連れて行かれた神域で 、恵里は使徒と魔物の大軍団を目の当たりにした。
何十万もの使徒、何千万もの魔物、しかも製造工場でいくらでも量産可能ときている。
一体でもクラスメイトをまとめて蹂躙出来る使徒が数十万、勝てるはずもなかった。
(ボクは運が良かった、召還を免れて地球に残っていても、トータスでゲームの駒として戦い続けていても、どちらに転んでもエヒトのオモチャとして世界ごと壊されていた。
それに魔人族側に付いて生き延びたとしても、粛清される可能性も高かったし♪
それが唯一生き残れる可能性のある、デスゲームの運営側に入れた。これって何と言う奇蹟?
まっ、扱いは最下級の奴隷みたいなものだろうけど、生きてさえいりゃあ、いくらでもチャンスはあるさ♪)
エヒトに謁見を許された恵里は問いかける。
「ボクに何をお望みでしょうか?」
「楽しませよ、それだけだ」
「つまり道化師として、現実を舞台としたドラマチックな劇をお見せすればよろしいのでしょうか?」
エヒトはニタリと笑った。
「素晴らしい、演出の手助けとなるように準使徒化した体を授けよう。
トータスを舞台とした最後の公演だ。
せいぜい派手に華麗に滅びを演出せよ。
褒美としてあのお笑い勇者を与えよう」
(ボクの推測大当たりダヨ。
ウン、ソウダヨネ、不死ダカラ、ヒマでタイクツなんだね。
フツウの刺激じゃ、もう満足デキナイんだね。
信じてたクラスメイトに裏切られて泣き喚いたり、罵倒するのがミタインダネ。
さすがのボクもドン引きだよ。
小人閑居して不善をなす、昔の人はエライよね。
でも仕方ないじゃないか、ボクが裏切ろうが、どうしようが、エヒトに全て踏み潰されてみんな死ぬ未来は変わらない。
そうさ、ボクに何が出来る?
逆らっても、良くて一瞬で潰されるか、悪ければオモチャとして死ぬことさえ赦されず、延々と嬲りものにされるだけだ。
裏切り者の末路とか言って、見学させられたゲヘナとやらに、ボクも放り込まれるのは御免こうむるよ。
だったらボクと光輝君だけでも生き延びるための肥やしに、皆の命を有効活用させてもらうよ。
さあて、しっかりドラマチックな裏切りの演出を考えないといけないね。
でないと大根役者と罵られて、あっさりと舞台から永遠に退場させられかねないし。
凄まじき物は宮仕えってね、ハハッ、ほんっとエヒト様の下は地獄だぜ。
でもボクが何を欲しているか、ちゃんとわかっているなら、ボクはそれでいい)
恵里は胸に手を当て深々と一礼し、忠誠を誓った。
こうして恵里は自分と光輝以外の全てを、トータスの人類を、クラスメイトを、地球人類を、人間の体を、親友の鈴を捨て去り、裏切った。
そこまでして選んだ道なのに、恵里は南雲どころか、たかが鈴に敗北して死のうとしている。
人の体を捨て、準使徒化までした。
屍獣兵も充分な数を揃え、性能も出来る限りの強化をしたつもりだった。
それなのに、よりによって南雲グループの中で最弱と思われる鈴に一対一で負けた。
納得出来るわけがなかった。
だが恵里にその答えを得る時間の余裕は与えられなかった。
恵里の準使徒化した体への魔力供給が突如断ち切られたのだ。
それと共に、この神域の小世界が鳴動し始めた。
「なっ、何だ?!何が起きてる?まさかっ!!エヒトが滅んだ?!そんなバカな?!いくら南雲がムチャクチャだからって、あれだけの戦力があるのに負ける筈がない?!
まさかエヒトの奴、攻撃を派手にするため戦力のほとんどをトータスに注ぎ込んで本陣がら空きにしたのか?!」
恵里は唖然とし、次に怒りの余り吠えた。
「フザケルナ!!フザケルナ!!こんな馬鹿げた負け方があるかあ!!
ボクに指揮権を寄越せえ!!一日で全部片付けてやる!!
ボクはキサマに賭けて、全てを捨てて、裏切ったんだぞ!
こんな結末、認められるかあ!!やり直しを要求する!!」
神域の空間は喚き散らす恵里ごと崩壊していき、バラバラに引き裂かれながら時空の大渦に呑み込まれていった。