恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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大変お待たせ致しました。
エリリン劇場第十四幕開演に御座います。



第十四話 一寸の虫にも、五分の魂

日本に帰国した南雲一家は、空港で警察の出迎えを受け、そのまま普段警察の保養所として使われているセーフハウスに連れて行かれて、保護された。

テロで狙われたのが、恵里の可能性が高いための措置である。

 

セーフハウスでは、南雲一家に対し事件内容の説明が南雲家の建物の被害状況の写真や防犯カメラの動画などを使って行われた。

まず、紛争地帯のビルのように穴だらけになった南雲家の写真を見せられ、愁と菫が卒倒し、ハジメが介抱し、恵里は脂汗をダラダラ流していた。

警察の説明では、最初に欧米人のグループが南雲家に押し入り、家の中、特に恵里の部屋を漁っていた。

警報器が作動して、警備会社の警備員が途中やって来てくれたが、アッという間に倒され縛られていた。

次に、いきなり二台の車が別々の方向から南雲家に壁や玄関をぶち抜いて穴を開け、

一般人のように見える雑多な集団が侵入し、欧米人グループと戦闘を開始した。

欧米人グループはやたらと強くて、襲ってきた集団を蹴散らしていたが、その中に一人だけおかしな格好で欧米人グループと互角以上に戦うのがいた。

まるで翼と尻尾があるように見えた、いや角もあるように見える。

まるっきり戦隊ヒーローと怪人、戦闘員の戦いである。

欧米人グループはチェーンで金属の塊みたいな物を振り回すのやら、バカデカイ十字架から電撃みたいなのを放つ奴やら

トンデモない奴のオンパレードだった。

普通の奴でさえ、跳んだり跳ねたりしながら、銃や弓を撃っていた。

ソイツらを相手取って互角に戦う角付きは、ハルバードを振り回し大暴れしていたが、多勢に無勢で手傷を負い撤退した。

その過程で家がズタボロになったのは言うまでもない。

 

なお、その後二回ほど市内でこの二グループの抗争があったとの事である。

南雲一家の心は一つ。

「「「「ナニコレ、何処の特撮?」」」」

恵里は衝撃の余り、つい口を滑らした。

「バチカン特務局?」

説明していた警察幹部はそれを聞き逃さなかった。

「ああ、お嬢さん、今なんて言いました?

バチカンとか言ったような?」

恵里はしくじりに気付いたが、今更吐いた唾は飲み込めない。

「あ、あの、イギリスで会ったそういう事に詳しい人が、バチカン特務局とかいう所に大きい十字架で戦う人がいると言ったのを思い出したんです」

「ほう、それは貴重な情報を有り難う。

これまで我々はカトリック教会は、真っ当な所だと捜査対象にしていませんでしたが、そういう部署があるというのなら、調べるべきですな」

「うちをぶち壊してくれたコイツらは捕まえたんですの?」

「奥さん、申し訳ないですが、逃走中です。

ですので、また襲撃してくる可能性がありますので。暫く保護致します。

色々心配かと思いますが、しっかり守っていますので、ゆっくりお過ごしください」

警察幹部が立ち去ると、恵里は悄然と頭を下げた。

「ごめんなさい、ボクが霊媒なんて力を見せたから、家が壊された」

「恵里ちゃん、悪いのは誘拐なんかやらかすアイツらだ。

それに家の事なら一応保険があるし、万一適用にならなくても、相手がバチカンなら父さんが損害賠償の訴訟起こして、ガッポガッポお金ふんだくってやるから、心配しなくていいよ。

恵里ちゃんはもううちの子なんだから、そんな事気にしなくていいんだよ。

じゃあ、父さんはちょっと会社に電話してるから、ハジメとおとなしく休んでなさい。

母さんも担当さんと電話しなきゃいかないだろ」

「ええそうね、ハジメ後は御願いね」

 

恵里は考え込んでいた。

(ウウウ、あれじゃお家が完全に建て直しだ。

何とかボクの方でお金調達出来ないかな?

降霊術で埋蔵金でも見付けられないかな?

あっ、いい考えかも。

いや、そんな後の事より、まずはあの犯人共を始末するのが先だ。

ついでにアイツらの金もふんだくって、再建費用の足しにしてやる。

マネーロンダリングはヒュドラにやらせばいいし。

 

さてこういう時は、まず原点に帰って考えてみよう。

アイツら何処でボクの事を知ったんだ?

まずアイツらはボク達が留守にしてる事を知らなかったんだから、イギリス側からじゃ無い。

同じ理由で八重樫道場でもない。

初めての海外旅行に浮かれて、イギリス土産に何がいいか、光輝君や他の門弟に至るまで皆に一人一人聞いて回ったんだから。

後降霊術の事を知っているのは、警察と精神病院だけだ。

ていう事は、精神病院で決まりか、イギリス行きは警察から来た話だし。

いや待て、警察は八重樫道場と違って巨大な組織だ、降霊術の事は知ってるけど、イギリス行きの話を知らない奴がいても不思議じゃない。

前回王国でも、連絡が行き届いてないなんて良くあったじゃないか。

それに病院で降霊術使ったのは一番最初に一度だけ、その後結構時間が経ったのに何もなかった事を考えると・・・。

 

マズイ、もし警察から漏れたんだとしたら、ここは安全な場所どころか、死地だ。

ここじゃあ、家族全員守って戦わなきゃならないんだぞ。

あんなトンデモ連中相手に勝てるかい!)

「恵里ちゃん、顔色すごく悪いよ、お医者さん呼んで」

「お兄ちゃん、さっきの敵がここに来るかもしれない」

ハジメの纏う空気がスッと変わった。

「ボクの情報が漏れたのは警察からの可能性が一番高い。

だったら今日中にここを襲撃してくる。

周りに探知網を形成する間、ボクを護って、御願い」

ハジメの手にエクスカリバーが出現した。

ハジメは恵里の前に立ち、気配を消して護りに就いた。

 

恵里は壁を向いて座って精神を集中し、魂魄魔法で微弱な魂を攻撃する魔法を使用した。

建物の内部と周囲1キロ内の虫が全て死亡し、恵里の支配下に入る。

飛行出来る虫達を、近くにいた鳥達に無数に集らせ殺して支配する。

屍鳥で屍虫を周囲、特に道沿いにピストン輸送で運ばせ配備する。

無数の屍虫でスズメバチの巣を捜して、幾つか見付けると屍鳥を送り込み、全滅させ支配する。

ねずみ算式に増えて行く無数の屍達を、一時間以上コントロールしている恵里への負担も加速度的に増え、恵里の顔が苦痛に歪んでいく。

だが恵里は止めない。

なぜなら最外縁の屍虫が疾走するバチカンチームの車を捉えたからだ。

迎撃予定ポイントへの屍達の集結が間に合うか、ギリギリの闘いだった。

 

その時、ノックの音がした。

ハジメは目を瞑ったまま、動かない。

三十秒後、カチャリとカギが開く音がして 、ドアノブがゆっくり回り、ドアの隙間から閃光弾が放り込まれ、部屋中が眩い光に満たされた。

次の瞬間、ドアを蹴り開けて一人の男が部屋に飛び込んでくると、恵里に銃口を向けようとする。

ハジメはエクスカリバーを鞘ごと振り回して男の足を薙ぎ払い、倒れた所で銃を持った手を踏みつけ、男の肩にエクスカリバーを叩き付けた。

骨が砕ける音が響き、悲鳴が上がるがハジメは止まらない。

家族に危害を加える相手にハジメは容赦しなかった。

もう片方の肩にも叩き付けて粉砕し、無力化すると銃を部屋の隅に蹴飛ばし、恵里の守護位置に戻る。

まだ戦いは終わってはいないのだから。

 

スピードを上げ、山道を走行するバチカンチームの車、保養所にいる信者の警察幹部から仕掛けると連絡があったため、急いでいた。

暗殺後、脱出する警察幹部を回収し、失敗していた場合強襲して恵里を始末するためである。

当初穏健な方法を主張していた警察幹部だが、南雲家で本物の悪魔を見たため、バチカンチームが引く程の過激な行動を主張するようになっていた。

今回の保養所も、タンクローリーを突っ込ませて、職員丸ごと爆破して恵里を確実に始末する事を主張し、クラウディアと大口論になっていた。

もっともバチカンチームも、南雲家で悪魔と悪魔崇拝者達に襲撃されたため、恵里を悪魔の子と確信しており、問答無用で始末にかかっている点は変わらない。

 

その走行中の彼等の車は、カーブの向こうにいた巨大な羽虫の群れに突っ込み、フロントガラスに無数の羽虫がへばり付いた。

運転していた男は視界が塞がれ、慌ててブレーキを踏みながら、窓を開け顔を突き出す事で視界を確保しようとした。

何処離れた場所で誰かが「掛かった」と呟いた。

次の瞬間、スズメバチの群れが開いた窓に殺到し、運転していた男の全身に毒針を突き刺した。

他の者が助けようにも、同時に侵入した様々な虫の大群が視界を塞ぎ、耳の中に潜り込み鼓膜を攻撃したり、鼻にも潜り込み呼吸を止めて苦しめるので、それどころではなかった。

「チェックメイト」の呟きとともに男はショック死し、倒れた拍子に踏まれたアクセルで加速した車は、ガードレールを突き破り谷底に転落していった。

「お兄ちゃん、ボクやったよ、護れたよ・・・」

 

転落しひっくり返った車の傍で、クラウディアは泣きながら、生き残りの治療を必死で行っていた。

彼女はまだ中学生程度の年で、南雲家の戦いが初陣だった。

落ち着いて集中しないと、まだ経験不足で力の制御がうまく出来ない彼女では治療がうまく出来ないのだ。

なんとか即死しなかった者の命だけは救えたが、傷をこれ以上治せそうになかった。

 

その彼女の脇にスッと影が差した。

「なんでバチカンすぐ死んでしまうんですの?

せめて謎の遣い手を引っ張り出す役位、出来るかと思っていましたのに、何もしないのに勝手にジャンクになるなんて、つまりませんわ」

ゴスロリドレスを着て、角と黒い羽根のある銀髪の少女のように見える悪魔は、盛大な溜め息を吐いた

「な、何を言って?」

「まあ遣い手が誰かのヒント位にはなったし、何よりも明日は待ちに待ったゲーム発売日で、これから並ばなきゃいけないの。

本当地球は色々な娯楽があって万華鏡のよう、下級悪魔で知能が低下しておバカさんになっていたわたくしが、受肉したお陰で毎日楽しくて仕方ないわ。

今日は気分がいいから、生かしておいてあげる。

跪いて、涙を流して感謝するがいいわ」

 

悪魔が飛び去った後、心をベキベキに折られたクラウディアが残され、パトカーのサイレンの音が近付いていた。

 

 




怪獣と正面から火力戦や殴り合いなんて、ウルトラマンでもなきゃ、やってられないと思うの。
エリリンはエヒトでもウルトラマンでもないので、一寸法師戦法で対抗致しました。
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