恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第十五幕開演です。


第十五話 悪魔の誘惑、堕落への道

地獄界、悪魔大公爵アガレスの城、此処には謎の神代魔法の遣い手を捕捉すべく建造された、魔法精密探知システムの中枢がある。

地球各地二十箇所に設置された魔法陣を連結する事により、いかなる場所でのほんのわずかな神代魔法使用でも見逃さない性能を誇るシステムである。

各設置場所は適切な間隔を空けなければならないため、山の上や砂漠、海底などに設置せねばならず、設置作業にあたる者達からの泣き言、資材の輸送に掛かる経費、時間、様々な苦労を乗り越え、完成させたものである。

南極に魔法陣を設置させた時など、プロジェクトxのような、筆舌に尽くしがたい苦労が(悪魔崇拝者に)あった。

だが、いまや無用の長物と化していた。

 

標的の神代魔法の遣い手が、これ迄の微弱な魔法使用を止め、探知システムなど使わなくても、場所が丸わかりになるほどの大魔力の使用に切り替えたのだ。

魔法探知システムはもはや存在価値を失っていたが、上が停止命令を出すのを忘れたため、運用が続いていた。

システムの地図には、今も神代魔法の使用位置が精密に表示されているが、誰も見ようとはしていなかった。

当直の中級悪魔は、ふと違和感を感じた。

そう使用位置が二つ表示されているのだ。

興味を引かれ、表示を注視すると、オコリにかかったように震えだした。

「有り得ない、そんなバカな?!」

悲鳴をあげ、飛び出していった後、誰も居なくなった部屋で、見る者がいなくなった表示がまだ光っていた。

読める者がいれば、微弱な概念魔法の探知結果が読み取れた筈である。

 

負傷したバチカンチームは警察に逮捕され、病院送りとなった。

バチカンは日本と国交のある国家であり、もはや外交問題である。

警察と外務省、内閣の間で処理が決められる事になるだろう。

 

手引きしたのみならず、直接恵里の命を狙った警察幹部は、懲戒免職の上で逮捕され、最終的には、一生出る事の出来ない精神病院に、放り込まれる事になるだろう。

小学生を悪魔の子だと言い張り、殺害しようとして、警察の顔に泥を塗った以上、当然の措置だった。

 

マスコミにはキリスト教原理主義テロ組織の内ゲバによる犯行であり、いまだ捜査中と発表されている。

バチカンの外交折衝での出方を見て、どう発表するか決定されるだろう。

 

こうした処理が南雲家と関係ない場所で粛々と行われていく一方、肝心の南雲家は都内のサミットに使われるセキュリティの整った超高級ホテルに宿泊していた。

警察のセーフハウスで現職警察幹部に襲われたという大不祥事のため、警察だけに保護を任せられないという事になり、警察の予備費から宿泊費用を出して、外交関係の事情聴取にも都合がいい都内に宿泊する事になったのだ。

無論南雲家に対する御詫びと口止め料も兼ねている。

ホテルは警視庁のすぐ近くで、警備のため公安が就き、警察特殊部隊もすぐ出動できるよう待機していた。

何せテロ事件の片割れ、仮称「悪魔崇拝者」はまだ一部しか捕まっていないのだ。

それにバチカン側も主力が壊滅したとはいえ、まだ全て捕まったとは限らない。

テロは一人でも起こせるのだから。

 

ホテルのスイートルームで、恵里とハジメは夏休みの宿題に勤しんでいた。

恵里は前回の記憶のお陰で、常に学年トップの成績を誇り、よくハジメに勉強を教えていた。

おかげでハジメもかなり上位の成績を達成していたが、それでも宿題を片付けるにはそれなりの時間が必要である。

菫は同じスイートルームの別の部屋にアシスタント達を集め、マンガ制作に忙しい。

愁はweb会議で会社から報告を受け、指示を出していた。

海外旅行とセーフハウスで時間を使った分、やる事がたまっていた。

こんな時でも、日常は追いかけてくるのである。

宿題の提出日もマンガの締切も会社のゲーム発売日も待ってくれないのである。

いや、ゲーム発売日だけは少し遅れ、ある存在が怒り狂っていたが、それは自業自得であった。

 

そうした日常の合間、今日は八重樫道場一行が南雲家への見舞いで訪れてきていた。

光輝が夏の全国剣道大会に出場する事になり、その応援のついでである。

久し振りに光輝と雫、それに以前、恵里がすごい人材がいると、師範にチクって特待生扱いで口説きおとされ、忍術コースに入れられた遠藤君に会えて、恵里とハジメは大喜びだった。

大人達が話しをしている間、子供達は別行動になったので、みんなでホテルのティーラウンジに行き、ケーキバイキングを南雲家(警察予算)の奢りで楽しむ事にした。

折角普通なら絶対泊まれない超高級ホテルに来ているのだ。

それなのにやった事が宿題だけでは、涙が出ようというものである。

今後の警察との付き合いを考え、やり過ぎないよう家族会議で言い渡されていたが、経費全て警察持ちなのだ、おやつ位皆で贅沢しても良いではないか。

「ああ、美味しいね、近所のケーキ屋さんも良いんだけど、やっぱり違う!」

皆で四方山話しをしながら堪能していると、ふと恵里は違和感を感じた。

自分達は五人なのに皿やティーカップが六組ある。

自分、お兄ちゃん、光輝君、雫ちゃん、浩介君とお喋りしながらケーキ頬張っている角の有るお姉さん、おかしな点は何処にも・・・あれ、これって?

 

(うわっヤバイ、コイツあのトンデモバチカン連中を、一人でまとめて相手取れる、白兵特化タイプのバケモノじゃないか。

なのに、懐に気付かせず入って来やがった。

ボクまで認識阻害にかけやがった。

道理であんな目立つ格好なのに、これまで警察の捜査にかからないわけだ。

どうすればいい?戦う?論外だ!

回りに気付いてもいない光輝君やお兄ちゃんがいるんだぞ。

まとめてみんなの首飛ばされるわ。

お兄ちゃん以外はまだ戦力にならないし。

だけど、いきなり襲い掛かってきていない今ならば、ヨシッ!覚悟決めろ、ボク!

コイツはデッカイチャンスだ!!)

 

「あっ、ボクちょっとお手洗い行ってくるね」

「あら、わたくしも行ってきますわ」

「あっ、お兄ちゃん、後で出渕さんに請求書回すの忘れないでね」

 

トイレの中で二人は対峙した。

(先手必勝!宣戦布告される前に会話に持ち込め!言葉の戦いの開始だ!)

恵里は深々と頭を下げた。

「どうも、いらっしゃいませ。

折角お出で頂いたのに、留守にしていてご免なさい。

どうかお許し下さい」

悪魔は艶然と嗤った。

「ダ~メ、ただで済ますつもりはないですわ」

「なるほど、ただではダメ、つまり賠償にお金と魂が必要なんですね。

両方当てが有りますので、おいくらなら許していただけるのですか?」

「そういう意味ではないですわ。まったく殺りにくい子ですわね。

上から貴女と戦うように、わたくしが命令されているの、おわかり?」

「戦うようにですか?殺すようにではなく?ならば命の保証は頂けますか?」

「そんな甘っちょろい話を聞く義理はないですわね、覚悟を決めなさいな」

「有るじゃないですか、義理。

食べたじゃないですか、ボク達のケーキ。

それとも食い逃げですか?」

悪魔お姉さんの目が泳いだ。

「えっ、だ、だって、ゲームの発売日が重なって買い物し過ぎてお金が無かったんだもの、仕方ないじゃない。」

「お姉さん、お金お好きですか?

ボクを生かしておいてくれるのならば、毎月お金を献上してもいいですよ。

好きなだけお買い物したり、ケーキ食べたり出来ますよ。

それにボクのお父さんはゲーム会社の社長です。

発売日前にテストプレイしたり、限定品を入手出来ますよ。

でもボクが死んだりしたら、お父さんショックの余り、新作が出なくなっちゃうかも」

「貴女本当に人間?悪魔より悪魔らしいわよ」

「お褒めに預かり、恐悦至極です」

「褒めてなんか、いないわよ!

ともかく、戦わないと大公爵閣下にわたくしが殺されるのですわ。

少しは手加減してあげるから、手足の三四本はなくなるかも知れないけど、諦めて戦いなさいな」

「では、せめてこのホテルにいる人間には危害を加えないと、誓約して貰えませんか?

ホテルにはボクの家族や友達達もいるんです」

「流れ弾までは保証出来ないし、貴女が盾にするのは認めないですわよ」

「それで結構です。契約書又は偉い方の名前に誓っての誓約をお願いします。」

「人間じゃあるまいし、破ったりしないですわ。

大公爵アガレス閣下の名前に於いて、貴女以外のこのホテルにいる人間に、危害を自発的に加えないと誓う、これでいいかしら?」

「はい、有り難う御座います。

さすがにトイレでは戦いたくは無いので、外に行きましょう。

ボクが逃げたり出来ないように、お先にどうぞ」

 

悪魔お姉さんは疲れた様子で溜め息を吐きながらトイレを出て、目が点になり、口があんぐりと開いた。

ロビーホールは警官達で、文字通り埋め尽くされていたのだ。

恵里がハジメに状況に応じて、決めていたキーワードを使う事で警察に連絡させたのである。

「かかれー!!」ホイッスルが吹かれ、銭形警官隊のように雪崩れ込んでくるのを、悪魔お姉さんは力任せに警官達を引き摺り、藪漕ぎのように掻き分け、ホテル外に脱出しようとする。

「外に出たら、覚えている事ですわ。

ヒャッ、ヒャハハハ、や、止めなさい、何をするの?」

「くすぐったいのって、状態異常と見なされないんだよね、力が抜けるでしょ、ホレ、ウリウリウリ」

「イヤー、笑い負けなんて、恥ずかしくて生きていけない!許してー!!」

「確保ー!!」

押し倒された悪魔お姉さんに、警官達が担いできた船の錨用の鎖が巻き付けられ、グルグル巻きにされて拘束される。

 

「警部さん、この悪魔さんにホテル内のボク以外の人間には絶対危害を加える事が出来ない誓約をさせたので、勾留するのはここがいいと思います。

見ての通りの怪力ですから、取り調べする人が危険です。

後この悪魔さん、大公爵とかいう偉い悪魔の命令で来たと言ってましたから、悪魔の国を相手にする事になるんじゃないでしょうか?

丁重に扱った方がいいと思います。

人間じゃない生き物との人類初の接触ですから、宇宙人みたいな物ですよね」

話しを聞いた警官達は逮捕の高揚も消え、全員がいやそうな顔になった。

この後、どれだけ面倒くさい事になるか、容易に想像がついたのだ。

 

(泣きたいのはこっちだよ。

あ~あ、素直に買収されて、堕天使ならぬ堕悪魔になってくれれば、こんな面倒な事にならなかったのに。

政府も噛ませるとなると、もう家族にも隠しておけないよな。

何処まで開示しようか?

あー頭が痛い

いや、これは贅沢な悩みだよね。

ボクも家族も無事で、言語兵器に続く第二の切り札が手に入りそうな事を素直に喜ぼう。

妖怪に続く異種族の詩も手に入るだろうし、言語兵器の威力も向上できる。

今夜はお祝いでディナーバイキング認めてくれるかな?

食べ過ぎだからダメって言われるかな。

認めてくれるといいなあ)

 

 




なお、運動してないからダメと言われ、涙目でホテルジムに通った模様。
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