恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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総員傾聴。
本日はエリリン少佐の演説から始まる、エリリン劇場第十六幕開演であります。
少佐の演説は偉大なるテンプレです。
キレイに嵌まりました。


第十六話 キレイな言葉にはトゲが有る

恵里は家族全員の前で、静かに話し始めた。

「みんな、ボクはお父さんが好きだ。

お母さんが好きだ。お兄ちゃんが好きだ。この家族が大好きだ。

初めてこの家に来た時、ふらついていたら、抱えて車から降ろしてくれたお父さんが大好きだ。

いつもパンの耳じゃない、冷たくないご飯を作ってくれるお母さんが大好きだ。

ボクが倒れた時、目を覚ますまでずっと手を握っていてくれたお兄ちゃんが大好きだ。

血の繋がっていないボクを、分け隔てなく愛してくれた、この家族が大好きだ。

だから、大好きなみんなを傷付ける者は赦せない。

だから、イギリスでボクの誘拐の邪魔だと、みんなを殺そうとした奴を、ボクは殺した。

だから、ボクだけでなく、みんなまで殺そうとした、バチカンの連中を崖から落として、ボクは殺した。

ボクの手は血塗れだ」

 

凍り付いているみんなを見回す。

「こんなボクをまだ家族と見てくれるか?

ボクがこれから語る、もっと悍ましい話を聞いてくれるか?」

「ゴツンッ」恵里の頭に愁のゲンコツが食い込んだ。

「ハジメもそうだが、どうしてお前は大人を頼らない?!

お前が、快楽殺人者に堕ちたというならともかく、家族を守ろうと必死な子供のやった事を否定できるか!

早く話の続きを言いなさい!」

「ごめんなさい、ボクには九才の時、突然頭に入って来た、未来の記憶がある。

誰にも助けてもらえず、堕ちた記憶、それがボクの書いたノート。

ボクはその記憶の中の未来で、快楽殺人者で人類の裏切り者だった。

それでも家族でいてくれるか?」

 

恵里の体は震えていたが、頭の中は冷静だった。

(ああ、怖いな、これは賭けだ。

でも、これからやらなきゃならない事を考えると、もう完全な隠蔽は無理だ。

悪魔と交渉するには、エヒトに関する情報開示が必要な以上、ボクについての情報はいずれ漏れてくるだろう。

だったらコチラから先に開示したほうがマシだ。

せめて、魂の上書きじゃなくて、記憶の流入にしておけば、平行世界の別人のヤラカシと考えてくれるかも知れない。

ダメだったら、家を出て、ヒュドラの首領として生きていけばいい。

こんな怖い想いは、神域でクラスメイト同士の殺し合いを見たがるエヒトに、異界同士の連結を切り替えられて、お兄ちゃん御一行様とぶつけられた時以来だよ。

クソッ、悪魔お姉さんが買収されてくれていれば、こんな怖い想いをしなくて済んだのに、チクショウメェ!!

後でタップリくすぐってやるからな、覚えてろよ。

ああ、家族なんて駒にしようと思っていたのに、どうしてこうなった?

ボクがこんな想いをするのは、どう考えても、南雲ハジメって奴が悪い。

後でお兄ちゃんにも八つ当たりを、・・・まだ家族で居られたらだね・・・)

 

「恵里、お父さんの前世はな、スターリン書記長だった」

「はい?」

「だったら、お父さんを嫌いになるか?

前世の時の罪は、死ぬ事で償った。

今の恵里は快楽殺人者でも、人類の裏切り者でもないんだろう、だったらそれでいい。

もちろん、恵里がそんな道に行くなら、ぶん殴って止めるけどな。

でも、恵里のパパの為に、跪いてお願い出来た恵里が、そんな事はしないと信じているよ」

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、本当に有り難う。

これからも、よろしくお願いします」

(記憶が流れ込んだって言ったのに、前世の話をするって事は・・・バレテーラ。

これが本当の大人って物なのかな。

ヤッパリお父さんには頭が上がらないや)

 

「それで恵里ちゃん、あのノートだけど、邪神って実在するのね?」

「いる、五年後ボク達はクラスごと、あの世界に誘拐されて、戦わさせられた」

「で、あの突き落とされた男の子、アレも実在するの?

アレは流石に何人かの話を合体させたんでしょ。

あまりにトンデモで、イタくて、属性マシマシで、聞いてるだけで恥ずかしいキャラなんだけど?」

恵里の目が泳ぎ、ハジメが脂汗を流し始めた。

ハジメは思い出してしまったのだ、恵里が誕生日に倒れた時、自分に言った事を。

「え、恵里ちゃん、僕ハーレムなんて作らないからね!」

「ハジメ?え、まさか・・・」

気まずい沈黙が訪れた。

「え、え~と、ハジメ、そのなんだ、ドンマイ」

自分の過酷な運命に涙目になるハジメを慰めようと、恵里がワタワタしながら言った。

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。

お兄ちゃんを突き落とす奴は処理済みだから」

「恵里ちゃん、それどういう意味?

その子に何をしたの?」

「大丈夫、ちゃんと五体満足で生きているから。

ただ、女の子に関心を持てなくなっただけだよ。

お母さんに教えてもらった、言語兵器を完成させるテスト台にしただけだよ」

 

菫は悲鳴を上げた。

「恵里ちゃん、アレを本当に作ったの?

核兵器より危険な代物よ。

ただの詩文を広めるだけで、見聞きした人全てを操ったり、狂わせる事が出来るのよ。

テレビやインターネットに載せれば、人類を滅ぼせる物だってわかってるの?」

「わかってる、だから安全措置は何重にもして、檜山にしか効かないようにした。

他の人が読んでも効果はでないようにしてある。

危険だけど、邪神や悪魔対策にどうしても必要だと考えているんだ。

もちろんボク一人の判断で使うつもりはない。

この二つが片付けば、全て破棄してもいいと思ってる。

権力者には渡せないからね」

愁と菫は深い溜め息を吐いた。

「「ほんと恵里ちゃんのする事は心臓に悪い」」

「ボクを引き取った事、後悔してる?」

「後悔なんざ、とっくの昔にし終えたよ。

恵里はもう、うちの子なんだし、私達がそれを選んだんだよ」

「有り難う、それじゃボクの計画を説明するね、まずは悪魔との交渉計画についてだよ」

その日、南雲家の宿泊する部屋は遅くまで灯りが消える事は無かった。

 

その数日後、恵里は警察から参考人聴取を受けていた。

悪魔お姉さんを取り調べるためには、トイレで何が有ったかを、まず知る必要があるからだ。

恵里は警察に極めて協力的であり、取調官達は大いに感銘を受け、恵里が協力者として捜査に参加する事を認め、容疑者でない事を理由に恵里の聴取結果の動画削除を決定した。

無論、有り得ない事である。

彼等は恵里の言語兵器の餌食となったのだ。

供述調書の中に分散して仕込まれた詩文を読む事で、彼等は常識を改変され、子供が捜査に参加する事を当たり前と考えるようになった。

そして反対する者達は、反論するために供述調書を読まねばならず、速やかに賛成に意見を変えていった。

 

こうして悪魔お姉さんに会えるようになった恵里は、地獄の内情を教える事と悪魔上層部との交渉窓口になる事を依頼し、快諾してもらった。

これは恵里を罵るお姉さんに対し、恵里がお姉さんが捕まった時の動画がネットに流出する危険性を指摘して、「不幸な事故」が起きないように協力を要請したためである。

なお、交渉終了後の地球への亡命受入れも代価として約束された。

 

鎖から解かれたお姉さんの、ホテル内でのお目付け役の一人に遠藤君が名乗り出て色々と教え合っていた。

遠藤君は自分をキチンと認識出来るお姉さんとお喋り出来るのが、嬉しくて仕方ない模様であった。

「取り調べは、脅し役と宥め役がいて、陥落させるそうだけど、ボクが脅して、遠藤君が宥め、いい役割分担だこと。

遠藤君は何も知らず、本気で庇っているから見抜かれる心配も無いし、うまく籠絡出来るといいな。

まあ、あれだけベキベキに心を折られた後に、優しくされれば悪魔だって依存するよね」

恵里は悪い笑顔でニタニタと嗤っていた。

 

 




なお後日、檜山が、光輝君のストーカーになり、性善説の光輝君が檜山と親しい友達になったため、恵里は頭を壁に叩き付けて穴を開け、己れの所業を心底後悔した模様。

追記 この常識改変のため、あちこちで少年探偵が蔓延る模様。
コナン君とエリリンのコラボあるかな?
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