恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第十七幕を開きましょう。
ハレルヤ、ハレルヤ。


第十七話 神がそれを望みたまう

バチカンの内部は荒れていた。

日本政府と揉め事になるのを、覚悟して送り出した精鋭チームであったが、いかに悪魔の子とはいえ小学生一人を始末できず、壊滅して捕虜を出し、神器まで鹵獲されたのだ。

キリスト教国ではない日本政府に、悪魔の脅威を説明しても、バチカン駐在日本大使からは可哀想な人を見るような目で見られてしまい、このままでは、日本政府に事件の真相を洗いざらい全部、発表されてしまう。

その後、世界中で起こるだろう大騒ぎを考えると、ここは一端全面降伏して引き下がり、再度悪魔の子を処分するチャンスを窺うべきではないか?

その主張が通りかけた時、恐るべき報告が届いた。

日本政府が捕えた悪魔と政治交渉を始め、しかも主導しているのは悪魔の子だというのだ。

降伏論は雲散霧消し、あらゆる手段で悪魔の子の抹殺を試み、全て失敗したら日本を人類の裏切り者と宣告して、キリスト教国を総動員して、軍事を含むあらゆる圧力を掛ける事を決定した。

「全ては人類の未来のために」出席者達は唱和した。

 

夏休みとテロ騒ぎが終わってから、数ヶ月が過ぎ去り、恵里とハジメは一緒に登校していた。

途中で雫とも合流し、お喋りしながらのんびりと歩いて行く。

普通なら、心が癒される状況だが、恵里にとってはそうではない。

ハジメとお手々繋いで、歩いているからだ。

恵里は南雲家に引き取られた当時、ハジメを籠絡しようと、自分から

「お兄ちゃん、お手々を繋いでもいい?」

とヤラカシてしまったのだ。

その後、ハジメの過保護のあまりの重さに、慌てて止めようとしたが、手遅れだった。

もう止めようと言うたびに、捨てられた仔犬のような目で見るのだ。

それも上目遣いで!

対エヒトの切り札であるハジメと、決別出来ない恵里に止める選択肢は無かった。

(ウウウ、恥ずかしい、ボクにだって羞恥心という物は有るんだよ!

公開処刑かいこれは?慣れて来ちゃったけど(泣))

ハジメの顔を見ないよう、ソッポを向いた恵里の目に檜山と一緒に登校する光輝の姿が入った。

カッと頭に血が昇る。

駆け寄って檜山をひッぺがしたかったが、これまでそうしたがために、人に指図される事を嫌う光輝の反発をかい、却って光輝と檜山の距離を縮めてしまったのだ。

檜山にイヤミを言ったりしたため、まるで檜山がヒロインで恵里が悪役令嬢のような立場になっていた。

(ぐぬぬぬ、悪役令嬢物の定番なら、この後ボクが卒業式で光輝君やお兄ちゃん達に断罪されて、フィナーレで光輝君と檜山がキ・・・ウゲェェェ、誰得だよ、そんな展開!

こうなったら業腹だけど、檜山をひっぺがすには白崎を当てにするしかない。

ぐぎぎぎ、チクショウメェ、おのれぇ檜山の奴ゥ、前回みたいにとっとと始末しとけばよかった。

お兄ちゃんに放り投げられて、屋根にしがみついて、ボクに助けを求めてきたのを、笑顔で突き落として餌食にしてやったっけ、スッキリしたなあ。

本当にボクの邪魔ばかりする、ムカつく奴)

 

イライラが爆発しそうになり、お兄ちゃんの手におもいっきり爪を立てて、我慢する。

もっともハジメの手は、恵里の爪を食い込ませず、ビクともせず、余計イライラが募ったが。

(お兄ちゃんの手、最近やけに丈夫になったなあ。

前は血が出てたのに、あれ?

レベル完全回復した、ボクの筋力で爪立ててるのに、なんで平気なんだ?

お兄ちゃんのレベルが上がった筈ないし、)

考えに集中していた恵里の耳にハジメの叫びが入った。

「恵里ッ」繋いだ手で、身体がグイッと引っ張られ、道路の端に放り出される。

恵里の目に百キロ以上の速度で突っ込んで来た車に、ハジメが跳ね上げられて、電柱に叩き付けられてへし折りながら、塀にめり込む姿が映った。

恵里は何も考えず、「恵里の出せる全速」でハジメの所に走った。

恵里の姿が一瞬で消えたように見え、足跡がアスファルトに深く刻まれ、ソニックブームのような突風が吹き荒れた。

(間に合え!!即死でさえなければ、魂魄魔法で無理矢理繋いで、エクスカリバーで治癒すれば!!)

「あー、痛かった、恵里ちゃん大丈夫?」

「へ?お、お兄ちゃん?!」

ハジメが頭を振りながら、起き上がった。

電柱がへし折れ、塀に大穴が空いたというのに、見た目服が破けただけで、五体満足で平然としている。

周りで駆け寄ろうとしていた、みんなも唖然としている。

目が点になった恵里は、ハジメの顔をペタペタと触って確認してみた。

 

二人が無事を確かめ合って、無防備になった間に、運転していた男が、車の窓から二人の無事を確認して舌打ちし、ギアをバックに切り替え、二人を再度狙って動き出そうとして、悲鳴を上げた。

忍び寄っていた雫が、電撃付きの棒手裏剣を放ったのだ。

恵里の護衛用に八重樫師範から渡されていたものである。

男は失神して、車は擱座し、雫が男を引っ張り出して、縛り上げて拘束した。

光輝とその尻馬に乗った檜山が、雫を事故だったかも知れないのに、男を攻撃したのはやり過ぎで、死んだらどうするのかと責めて、香織が宥め、檜山が光輝を煽っていたが、雫は相手にせず周囲の警戒を続けていた。

最後には光輝も雫もそっちのけで、香織と檜山の口論になっていた。

 

警察に犯人を引き渡し、事情聴取を終えてから、恵里とハジメ、それに雫は南雲家に集まった。

「「雫ちゃん、うちの子供達を守ってくれて、本当に感謝の言葉もない、有り難う」」

南雲家全員に頭を下げられて、雫は照れてモジモジしていた。

更にハジメが雫の手を握って、恵里のピンチを救った礼を言うと、真っ赤になってアワアワしていた。

恵里が礼を言った後、雫を八重樫家に送って行って、その後家族会議が開かれた。

「ハジメ、身体どこかおかしくないか?」

「ウ、ウン、ドコモオカシクナイデスヨ」

「「「・・・ウソだな(ね)(だね)」」」

「さあ、ハジメ正直におっしゃい。

でないと、恵里ちゃんの前で裸に剥いて身体検査よ」

ハジメは悲鳴を上げた。

「わかった、わかったから、全部言うから、解剖は勘弁してよ。

あの剣が来てから、夢の中で、精霊とかいう女の人が出てきて、強くなりたいか?って聞くから、なりたいって答えた。

そしたら、竜の力を受け取るがいいって。

だんだん少しずつ身体の一部にウロコが生えてたり、寝起きに鏡を見たら縦長の瞳孔に変わってた時が有ったり、力がやたら強く速く動けるようになって、どんなに運動しても全然疲れないし、挙げ句の果てに今回みたいに、車に跳ねられても、たいして痛くなかった」

「お兄ちゃん、なんで相談も無しで、そんな危ない人体改造受けちゃったの?

人間やめるって事なんだよ!」

「だ、だって、僕は恵里ちゃん守りたいのに、恵里ちゃん僕より強いんだもの。

だから、だから僕が、恵里ちゃん守れるように強くなりたかった。

心配かけてごめんなさい」

「うう、お兄ちゃんの気持ち考えなくて、ごめん、そして、有り難う。

お父さん、お母さん、これ多分アーサー王として危機と戦えるように、お兄ちゃんの身体をエクスカリバーが強化したんだと思う。

でも、お兄ちゃんの身体が、もしも竜に変わったとしても、トータス行って変成魔法を手に入れれば、お兄ちゃんを元に戻せるよ。

トータスには竜人族っていうのがいて、竜と人形態両方に成れてたから、最悪でも人形態にはなれると思う」

愁と菫は顔を見合せ、ホッとした。

「「恵里ちゃんだけでなく、ハジメも心臓に悪いなあ」」

「ところでハジメ、竜にトランスフォーム出来るようになったら、乗せて写真を撮らせて欲しいんだが。

後戦闘機と竜のドックファイトとか見てみたい」

「ハジメ、私はどういうふうにトランスフォームするか過程を良く見て、変身物漫画の参考にしたいから、たった二十回位でいいから、スローモーションでトランスフォームしてくれないかしら。

あら恵里ちゃん、顔色が悪いけど、どうしたの?」

「イ、イエ、ダイジョウブデス」

(ヤバい、灰翼の事知られたら、どんな無茶振りされるか、わかったもんじゃないぞ。お兄ちゃんゴメン、ボク逃げる、後は御願い)

ハジメの悲鳴を後に恵里は逃げ出した。

しかし回り込まれてしまった。

「恵里ちゃん、何か隠してるでしょ、正直におっしゃい」

恵里の悲鳴が、加わった。




子供達は無茶振りされた。
子供達は精神ダメージを受けた。
子供達は卒倒した。
おお、子供達よ、隠し事とは情けない。
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