恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

18 / 40
エリリン劇場第十八幕開演いたします。
よろしくお願いいたします。


第十八話 地獄への道は人々の善意によって舗装される

愁と菫の前で灰翼の実演を散々させられた恵里は、精神的に疲れきっていた。

「あ、あ、あ、灰翼拡げて、色々変な香ばしいポーズ取らされて、デッサンされるのは、精神ゴリゴリ削られるう。

次はコミケでコスプレしたらどうかしら、スターになれるわよって勘弁してえ」

「恵里ちゃんはまだ良いよ。

僕なんか、胸やら背中やら変化した身体の部分を丹念に観察されて、ペタペタ触られるし、恥ずかしいし、風邪引きそうだし、もうやだあ」

げっそりとした二人は、リビングのソファーでマグロになっていた。

 

「ねえ、お兄ちゃん、なんで死ぬかも知れないのに、ボクを助けてくれたの?」

「わからない、恵里ちゃんが危ないって思ったら、体か勝手に動いた。

頭の中に恵里ちゃんの血塗れの姿が浮かんで、そしたら・・・」

「ああ、・・・なるほど、ボクが病院で晒した自傷行為の醜態が、お兄ちゃんのトラウマになっているのか。

だったらボクの魂魄魔法でその部分の記憶を消してあげるよ。

そうすれば、ボクを無理に助けなくて済むよ。

何なら今すぐにでも、やってあげるよ」

「やだ、僕は恵里ちゃんの大事な記憶忘れたくない」

「即答かい、訳がわからないよ。

ボクはお兄ちゃんに、何の恩義も与えるどころか、利用してきた。

むしろボクはお兄ちゃんにとって、危険に巻き込む疫病神じゃないか?

そんなボクなんかの何が大事なんだい?」

「わからない、でも僕は恵里ちゃんが傷付くのも、泣いてるのも絶対に見たくない。

それに、本当の疫病神はそんな事、自分から言わないと思う」

寝転がったまま、恵里は溜め息を吐いた。

「そういうところだよ、お兄ちゃんがハーレム作るのは」

「前にも言ったけど、僕はハーレムなんか作らないよ!」

「お兄ちゃん、ハーレムはね、作るもんじゃなくて、どこからか自然に生えてくるもんなんだよ」

「ナニソレ、怖い、ハーレムってキノコかなんかなの?」

「前回、お兄ちゃんは最初の一人だけを熱愛して、ハーレム拒もうとしていたよ。

だけど押し掛け女房の大軍に押し潰されて、ハーレムを持たせられたんだ。

特にひどかったのが、ファブリーズ女だね。

ボクを使ってお兄ちゃんの写真や持ち物を集めていたし、お兄ちゃんが突き落とされた原因も彼女だよ」

「エエエエー、やだよ、そんなの。

僕は恵里ちゃんの方がずっといいよ」

「お兄ちゃん、 ねえ、ボクがお兄ちゃんが撥ね飛ばされたのを見た時、どんな想いしたかわかってる?

ボクを命を捨ててまで守ろうとしたうえに、そんな事まで言われたら、ボクは堕ちるしかないじゃないか。

ボクも木石じゃないんだよ。

ハジメ君、覚悟してよ、ちゃんと引き返すチャンスをあげたのに、ボクを本気で好きにさせた以上、絶対に逃がさないし、離れるのは、ボクが滅びる時だけだ」

「恵里ちゃんとだったら、いいよ」

「わかった、これまで、ハジメ君には政治関係はあまり説明してなかったけど、出来るだけ分かりやすく説明するから、わからない事は質問して。

これから、タップリ鍛えるから、ボクと一緒に生きていこう」

 

恵里は悪魔お姉さんを通信機代わりにして、悪魔大公爵アガレスと接触した。

悪魔に対し恵里は、ビジネスを申し出た。

灰翼を始め、トータスの魔法を実演、地球上でこれから一年以内に起きる災害等の出来事の予言を行い、逆行した事についての悪魔側の信用を得た。

少し前であったら、アガレスのこれまでの腹いせに、話も聞かず殺害されかねなかったが、悪魔側が概念魔法を探知していた事で、恵里の話の信憑性が上がり、何とか聞いて貰えた。

そして悪魔達にとって、地球がエヒトに支配されるのは好ましい事ではない。

そのうえで、恵里が提供するのはトータスと神域、エヒトについての情報、なかでも最大の目玉商品はエヒトが召還を仕掛けて来る場所と日時である。

代価として恵里は、悪魔側に地球での人類の支配権の承認と不可侵、無許可侵入の禁止、トータスの住民の可能な範囲での保護と人権の尊重、対エヒト同盟締結を契約する事を要求した。

 

一見悪魔側にあまりメリットが無いように見えるが、これは地球の代わりにトータスというフロンティアを差し出すという意味である。

トータスは次元的な位相で、地球や地獄界より低い位置にあるため、コチラの住人がトータスへ行くだけで、かなりステータスが強化される。

また地球と違って魔力に溢れているため、悪魔が受肉するのも、容易い。

つまり、今の下級悪魔は獣並みの知能に退化しているが、受肉すれば人間並みに知能が向上するうえ、トータス行きの特典で種族その物のステータスまで向上するという事である。

おまけに現地住民の人口密度は、地球より遥かに低く、悪魔の割り込むスペースが残されている。

 

こんな美味しい話はない。

唯一の障害はエヒトだが、その戦力や神域の構造は恵里が情報提供出来るうえに、恵里側が囮としてエヒトの注意を引き付ける事を申し出た。

それに対し、エヒトは悪魔側の戦力をまったく知らない。

つまり情報戦で圧倒的に有利である。

悪魔の七王は元々概念魔法すら使えるのに、トータスへ行く事で更にパワーアップするのだ。

地球で戦うなら、エヒトにも勝ち目があるが、トータスを戦場とする事で悪魔側は圧倒的に有利になる。

負ける要素が無かった。

唯一困るのが、トータスへの行き方がわからない点だが、御親切にもエヒトが道を造ってくれる。

場所と日時さえわかっていれば、道が開く瞬間を観測して、データを集めれば、道を自前で造る事など悪魔には容易い。

これだけ大きなメリットがあれば、悪魔側が受諾しない訳がない。

 

では恵里側の問題点は、悪魔が約束を守るかどうかの一点であるが、精神体、つまり情報生命体である悪魔は契約を破る事が出来ない。

恵里はここまでの大筋を固めておいてから、後は日本政府に丸投げした。

無論、その前に警察から日本政府内部に言語兵器を浸透させることで、恵里の話を信用させ、話を引っくり返されないように仕込んでおいた。

所詮恵里は高校生程度の知識と社会経験しか無いし、自分でもその事はよくわかっている。

後はプロの仕事である。

たとえば契約に穴があれば危険なので、法律家や外務官僚に契約内容のバグ取りを行ってもらっている。

大筋は決まったが、対エヒト同盟の細目など細かい交渉は残っており、締結されるのは当分先になるだろう。

 

アメリカ政府には、侵略してくる異世界に悪魔をぶつけるという形で通知し、交渉に立ち会わせる事と、恵里の魔法の実演を見せる事で、協力関係を立ち上げた。

アメリカ側は特に恵里の灰翼の原子分解能力に多大な興味を持ち、大量の測定機器の前で何度も実演をやらされた。

その後、分解能力を科学的に再現しようと、米軍の開発計画に原子分解砲なる物が加えられ、産業面での利用の無限の可能性(水からの水素燃料抽出、鉱石からの純度100%の精錬、完璧なリサイクルによるゴミ問題の最終的解決など)に凄まじい予算と人員が注ぎ込まれる事になる。

この契約が締結されれば、人類の未来は輝かしい物となるだろう。

 

バチカンの恵里暗殺計画は、まず情報収集から始まった。

たかが小学生一人と侮り、精鋭部隊を壊滅させられた手痛い教訓によるものである。

裏社会まで動員し、恵里本人のみならず、家族、親戚、友人にいたるまで調査し、不審な点が無いか、弱点が無いか探っていた。

 

だがここで、バチカン側の思い込みがネックとなった。

恵里が悪魔の子という勘違いのため、人質が使えるという発想が無かったのだ。

愁や菫を人質にしていれば、恵里は詰んでいただろう。

悪魔の子がただの人間を守る筈が無いとの思い込みのため、バチカンの注意は悪魔の子の周囲にいる筈の悪魔崇拝者や悪魔、魔物にしか向かなかった。

 

そして当たり前だが、いくら捜そうが悪魔崇拝者の欠片も見付からなかった。

普通はここで、前提条件が間違っているのではとなるのだが、精鋭部隊を壊滅させた相手が悪魔の子では無いとの発想は出てこなかった。

見付からないのは、上手く隠されているからだとなってしまい、隠れている悪魔崇拝者を炙り出すため、恵里を攻撃してみる事になった。

 

マフィア経由で金で雇った犯罪者に恵里を襲わせ、その経緯を隠しカメラで観察してみた。

その結果、ハジメは悪魔か魔物、恐らく狼男の類いと判定され、雫の行動から八重樫道場が疑われた。

八重樫道場を調査した結果、不審な点が有ったのだ。

たかが民間の道場とは思えない鉄壁の守りに遮られ、何の情報も入らないどころか、探ろうとした者が片っ端から暴かれてしまったのだ。

おまけに恵里本人が通っている。

此所こそ、悪魔の子を守る悪魔崇拝者の巣窟に違いないと、八重樫道場への攻撃が決定された。

攻撃のタイミングは、恵里とハジメが道場に入った時と決定された。

道場の人間は全て悪魔崇拝者と推定される事から、巻き添えの心配も無く、大威力の攻撃でまとめて殲滅する事となった。

ガソリンを満載したタンクローリーを別々の方向から突入させ、爆破する事で道場ごと灼き尽くす計画だった。

前回の襲撃に参加出来なかったオムニブスのメンバーが、志願して皆に別れを告げ、運転席に乗り込んだ。

「全ては人類の未来のために!!」

 

 

 




悪魔側がエヒトの地球へのチョッカイに気付いていたら、絶対に黙っていなかったでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。