エリリン劇場第十九幕開演、開演。
「ん~、フフフ、エヘヘヘ」
南雲恵里は、今日も舞い上がっていた。
夢にまで見た、いつも自分だけを、ずっと一番に見てくれる人を手に入れたのだ。
毎日幸せで幸せで、嬉しくてたまらない。
フンフンと、ソビエトマーチを鼻歌代わりに口遊みながら、歯を剥き出しにして嗤う。
「お兄ちゃんの出来る妹兼嫁としては、お兄ちゃんの邪魔になる物は、みんなキレイキレイにお掃除しなきゃいけないよね♪
さあて、まずお兄ちゃんを傷付けてくれたゴミ連中から、タップリお礼をしてあげなきゃね♪
ボクを殺そうとしたって事は、誘拐したがっているオカルト組織じゃなくて、バチカンの確率が高いよね。
主力が壊滅したっていうのに、懲りない連 中♪」
恵里はまず、以前ヒュドラに命じておいた、バチカンとオムニブスメンバーに関する情報収集の結果を寄越させる一方、言語兵器で影響下においた警察から尋問資料を取り寄せ、捕まっているオムニブスメンバーを屍虫盗聴器で監視し、口を割りそうな者を選んだ。
恵里が狙いを着けたのはクラウディアという十四歳の少女だった。
大人達と引き離されて心細くなっており、自分達の行動に疑問を持っている様だった。
ヒュドラから届いたクラウディアの個人資料ファイルとある品物を眺めながら、攻略法を検討する。
悪魔お姉さんと、附録で漏れ無く付いて来る遠藤君の二人を連れて、取調室を借りた。
「やあ、はじめまして、クラウディアさん」
「あ、悪魔の子が何の用ですか?」
「こんな根性曲がりと、わたくし達悪魔を一緒にしないで戴きたいわ!」
「はい?」
「コイツはわたくしを買収しようとして、拒絶したら、ペテンに掛けて騙し討ちにし、止めに脅迫してきたのですわ!!」
恵里は仏像のようなアルカイックな良い笑顔で、嗤った。
「やだなあお姉さん、ボク達はオ・ト・モ・ダ・チじゃないか。
お姉さんの恥ずかしい動画がネットに流出しないで済んだのは、ボクのお蔭だよね。
ボクに不幸な出来事があると、お姉さんも動画が流出して不幸になる。
お互い不幸に成らないように、Win-Winの関係を築けてる、素晴らしい友達じゃないか」
「そんな友達要りませんわ!
こ、この魔王!悪魔まで苛めるお前なんか、魔王ですわ!!」
遠藤君が、膝を付いて泣き叫ぶ悪魔お姉さんを庇うように、前に進み出た。
「恵里ちゃん、リーゼロッテお姉さんをあまり苛めないでよ。
リーゼロッテお姉さんはこんなにも協力しているじゃないですか」
「ああ、浩介だけがわたくしの味方ですわ」
(よしよし、ボクが煽って、遠藤君が慰める、順調に籠絡されているね♪)
「そこの男の方、貴方は悪魔に騙されています。
悪魔は人類を滅ぼし、地球を奪おうとしているのですよ。
マヌケな事を言って、油断させようとしているのです」
「わたくしがマヌケだったのは、否定しませんわ。
貴女と同じく捕らえられたのは事実ですから、でも、わたくしの浩介への気持ちが偽りというのは許せませんわね。
浩介はわたくしを救っただけでなく、下級悪魔に生まれて、獣同然だったわたくしに名前まで付けて下さったのよ。
名付けてもらった事で、わたくしの魂は永遠に浩介の物になったのに、浩介を騙すなんて不可能ですわ。
浩介は素晴らしい人間ですの。
わたくしに「マチカネコンキチ」なんて変な名前を付けて笑い者にしようとした、ソコの根性曲がりの魔王とは大違いですわ。
はっ、まさか、わたくしの浩介を奪おうとして、悪口を吹き込もうと言うのね。
この泥棒猫が!」
「なっ、ち、違います!
初対面の男の方にそんな事考えたりしません!」
「それはつまり、次は考えるという事ですわね!
ねえ、浩介はこんな泥棒猫なんか、好きになったり・・・なんでこんな泥棒猫を、ガン見しているんですの(怒)」
「え、お姉さんが僕の事を、最初からきちんと認識出来ているから、なんでだろうと思ったからだけだよ」
「ああ、ボクが思うにそれはクラウディアさんが、悪魔の血を引いているからじゃないかな」
「「え?」」
「何をそんなに驚くんだい、悪魔は遠藤君の認識阻害が効かない、クラウディアさんにも効かない、そして過去に地球と地獄は密接な交流があり、今も細々と交流はある、ならば悪魔の能力を受け継ぐ混血の子供達がいても、何の不思議もない、違うかな」
クラウディアは、蒼白な顔で全身を震わせ、歯をカチカチと鳴らした。
「うっ嘘です!あっ、あり得ません!!私に穢らわしい悪魔の血が流れているなんて!!」
「だったら、確認してみればいいんじゃないかな。
ボクの本職は降霊術士だからね、君の両親や先祖を呼び出して確認できるよ。
今ここでやってあげようか?
君が真実が怖くて逃げだしたいなら、やらないけどさ、さあどうする?」
「わ、私は聖女です、逃げたりしません!」
恵里はヒュドラから届いた、クラウディアの家族の遺品を机に広げ、両親を呼び出した。
クラウディアの前に二つの透き通った光る球体が現れた。
「パパ、ママ!!」
深いレベルで魂の交流が始まり、クラウディアは両親の魂が本物である事を否応なしに理解する。
そして、クラウディアは崩れおちた。
家に残る伝承で受肉した悪魔との混血の話が残っていたのだ。
おまけに恵里が追加で呼び出してあげた、悪魔召還の企みの犯人から、両親を殺害した悪魔は、その男が母親を手に入れたいという、欲望のために呼び出されたに過ぎない事も理解してしまった。
そう、全ては人間の歪んだ欲望から始まったのだ。
そして、リーゼロッテお姉さんの
「な~んだ、お仲間でしたの」の言葉が止めになった。
茫然自失して、へたり込んだクラウディアに、恵里は今悪魔と進んでいる平和交渉の内容を説明し、平和交渉を壊そうとするバチカンのテロで、関係無い人間が巻き添えになる危険を理解させた。
「君がバチカンのアジトや計画、人員を教えてくれれば、君やボクのように親を亡くした子供達が生まれなくて済むんだよ。
それともダンマリを続けて、孤児を作る片棒を担ぐかい?
そういう子供達が出来てしまったら、連れて来て、キミに会わせてあげようか?
パパを返せ、ママを返せって聞きたい?」
(さあ、壊れろ、壊れろ、お兄ちゃんを殺そうとしたバチカンのゴミは皆壊れろ♪
お兄ちゃんが死んだと思った、あの時のボクの恐怖と絶望を思い知れ♪)
もはやクラウディアには抵抗する気力は欠片も残ってはいなかった。
全てを自白して、精神が崩壊しかけているクラウディアの傍に悪魔お姉さんと遠藤君を残し、別室で恵里は聴取内容を警察側と共有し、一斉検挙の打ち合わせを始めた。
恵里は忘れていた。
自分が悪魔お姉さんを堕とすのに、使った脅し役と宥め役の手口を。
そして、恵里のあまりのエゲツナさにクラウディアに同情した遠藤君と悪魔お姉さんに慰められ、クラウディアが完堕ちした事を知り、唖然とする事になる。
「優しい浩介さまのおかげで、わたしがんばれそうです」
「浩介の素晴らしさがやっとわかったようですわね。
そうよ、あんな根性曲がりの魔王になんか負けてはいけませんわ!
でも浩介にお姉さんと呼ばれていいのは、わたくしだけですわよ。
そこは譲れませんわ」
「アッ、ハイ、じゃ、じゃあわたしはお姉ちゃんじゃ、ダメでしょうか?」
後日クラウディアは自分が悪魔の血を引く事を告白、悪魔との共存を世界に訴えていく事となる。
それに対し、クラウディアはバチカンから「背教者クラウディア」、「悪魔聖女」と呼ばれ、忌み嫌われ、何度も命を狙われるが、浩介とリーゼロッテに守り抜かれる事となる。
遠藤君の認識阻害が効かない人達への、筆者のひとつの仮説です。
ナチス幹部にユダヤ人の血が流れていると、突き付けるような物ですよね。
実際いたらしいし。