恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第二十二幕開演致しました。
今回、皆さんお忘れの悪役、久し振りの登場で御座います。
盛大な拍手をお願い致します。
それではお楽しみ下さい。


第二十二話 禍福は糾える縄の如し

恵里の行動による影響は、世界中にさざ波のように拡がっていった。

恵里という蝶の羽ばたきは、ある所では人に幸せをもたらし、別の所では大問題を惹き起こした。

羽ばたきが何をもたらすか、わかる者は誰もいない。

 

秘密結社ヒュドラは神秘の収集に貪欲である。

恵里の周囲に現れる神秘の数々、特にまったく知らなかった悪魔界についての情報に、ヒュドラはお祭り騒ぎだった。

ヒュドラにも飴をしゃぶらせる必要がある事と将来の悪魔対策を兼ねて、恵里は悪魔お姉さんとクラウディアの細胞標本を提供した。

人間が悪魔に変われる可能性に狂喜したヒュドラは、その持てる影響力の全てを動員し、最高の施設と人員を揃え、研究を開始させた。

その動員された研究員の一人に、自分の研究を中断させられて不満タラタラの、エミリーという天才少女がいた。

偶然産み出される筈の物は産まれず、「エミリーの優しい世界」が壊される事は無かった。

何が産み出される筈だったか、知る者は誰もいない。

 

南雲家の夕食時、愁が言った。

「あいつ、明後日出所だそうだ」

「「??」」

恵里とハジメは首を傾げた。

「恵里ちゃんを恨んでいる、あのヒモ男だよ」

二人はポンと手を叩いた。

「「ああ、あの!!」」

「ウ~ン、今のボクとお兄ちゃんの敵じゃないけど、お父さんとお母さんやアシスタントさんみたいに、関係のある人達には危険だよね。

ボクがあいつの前に姿を見せて、とっとと片付けようか」

「それがいいかもな。

ただ、仕掛けるとしたら、あいつがこの町に来てからだね。

でないと、周囲にあまりに不自然に思われてしまう。

こんな事に言語兵器使いたくないからな」

「うん、わかった。

あいつが今いる刑務所の場所と、出所の時間を教えて貰えないかな?

わかれば、屍鳥で監視を付けるよ。

五年前の事だし、顔を確認しておきたい」

「わかったよ、お願いしてみよう」

 

二日後、恵里は顔の確認をし、最寄り駅から恵里の住む町の方へ向かう電車に乗ったのを確認した。

電車とおなじ速度で屍鳥を飛ばすのは無理だし、電車の上にしがみつかせると、スピードに耐えられず、屍鳥がバラバラに壊れてしまうので、恵里の住む町の駅で監視を引き継ぐ事にした。

だが、ヒモ男は降りて来ず、車内にもいなかった。

「????」

 

ヒモ男は刑務所の最初の半年間、恵里をどう嬲りながら殺すか、楽しい空想に耽っていた。

だが、ふと気付いた。

あのクソガキ、母親も捕まっているんだから、あの家に居ないんじゃね?

孤児院か、何処かの家に養子で引き取られているんじゃね?

何処にいるか、まず捜さないと話にならんじゃないか!

一人で捜すんだったら、見つけ出すのに、どれだけかかるんだ?

ひとしきり恵里を罵った後、見つけ出す為に、使えそうな連中と仲良くする事にした。

 

だが、そこからが苦労の連続だった。

「小学三年生に返り討ちにされたマヌケ」というレッテルを貼られたヒモ男は、プロ犯罪者達に嘲笑され、仲間にして貰えるどころか、苛めの対象になった。

既存の裏社会から弾かれたヒモ男は、それ以外の犯罪者達に接近せざるを得なかった。

つまり、外国人犯罪者組織と半グレである。

もちろん彼等だって、何の得にもならない恵里への復讐など手伝ってくれるはずもない。

だから、ヒモ男は接点のなかった両者の仲介役を勤める事で、両方に利益をもたらしたのだ。

外国人犯罪組織は土地勘のある、使い捨てに出来る戦闘員兼売人を手に入れ、半グレは武器や覚醒剤、資金の入手先を手に入れる事が出来る。

そして両者の共通の敵である旧来のヤクザ組織と対立し始めた。

ヒモ男が出所する頃には、恵里の住む県に浸透が進んでおり、衝突は時間の問題になっていた。

 

ヒモ男は彼等を繋ぐ重要人物として、二つ手前の駅で降り、浸透の拠点になっている中古車置場に迎え入れられた。

恵里への復讐心が無ければ、この男がこれ程の高みに登れる事はなかったろう。

今彼等の浸透の切り札は、これ迄全く知られていなかったため、法律の規制対象になっていない、合法ドラッグと呼ばれる新種の麻薬である。

彼等が売り込んでいるのは、これ迄の合法ドラッグと一線を画す特殊な物で、風俗関係に蔓延しつつあった。

この中古車置場はドラッグの中継拠点として使われている。

今ここには、抗争に備え武器が搬入されてきていた。

ヒモ男はリストをチェックしながら、首を傾げた。

「オイ、武器の代金の一部を、純度の高いパワーストーンの粉末で払えってどういう事だ?」

「さあ?でも安上がりでいいじゃないですか」

「まさか、ドラッグの原料?

んなわけないか。

しかし、これだけの銃がありゃ負けるわきゃねえ。

サブマシンガンや手榴弾まで大量にあるんだからな」

恵里の住む町で血が流れる日は近い。

 

ヒモ男を見失った恵里は、万一に備え、戦えない家族や関係者達を、一旦隣の県のホテルに送り出して、ハジメと二人で家に残った。

手分けして放課後、町の盛り場を巡って、ヒモ男を捜しながら襲撃を誘ってみた。

今の二人なら拳銃弾やナイフ位なら傷も付かない。

「そこの中学生、学生証を出しなさい」

ヒモ男の代わりに補導の先生に捕まった。

わざと目立とうと制服姿でウロウロしていたので当然の結果である。

散々絞られて、近くで捕まった他の生徒と一緒に解放され、その生徒と顔を見合せ苦笑した。

「おう、成績学年トップの南雲じゃん、優等生様がこんな所来るなんて、どういう風の吹き回しだよ?」

恵里はこの生徒を前回知っていた。

前回はヤクザの組長の娘だという事で孤立して、しょっちゅう学校をサボるようになった挙げ句、光輝の正義感で不真面目だと糾弾され、騒ぎになったのを覚えている。

「そんなに言うなら、出てってやらあ!」

と学生証を床に叩き付けて、学校からいなくなった。

あの時は、八重樫家のコネやら使って、詫びを入れて何とか収めた。

今回は光輝が「勇者」化していないため、事件は起きていなかった。

 

名前は確か「秋畑さんだっけ。

ちょっと人捜しでね、コイツ見た事ない?」

「ヘエ、アタイの名前知ってんのかよ。

で、コイツ誰?アンタの男?趣味悪いなあ」

「違うよ、ボクが九歳の時、ヤラシイ事しようとして、刑務所行った奴。

この間、釈放になってボクを恨んでいるそうだから、身を守るために何処にいるか、確認しておこうと思ってね」

「オイオイ、バッタリ出くわしたらどうすんだ?」

「コイツは九歳の時のボクの顔しか知らないから、中学二年のボクはわからないだろうし、幼女しか襲わない奴だから大丈夫。

万一の場合も八重樫道場で師範とやり合える位には強くなったし」

「ウゲッ、そういう奴かよ。

わかった、ウチのシマで、そんな事件起こされちゃかなわねえ。

手伝ってやるから、その似顔絵のコピー寄越しな」

コンビニでコピーを取るついでに、恵里の奢りで飲み物と菓子を買って、小公園のベンチでパクついて、駄弁る。

秋畑はサッパリした性格で、会話して楽しい相手だった。

「なんだ、優等生様だからもっと御高く止まっているかと思ってたけど、案外話せるじゃないか。

しっかし、全然平気な顔してるけど、アンタ、アタイが怖くないのか?」

「イヤ、たかが、ヤクザのそれも子供でしかないだろ。

これまで出くわしたテロリストやキ印やバケモンと違って、カネで話が通じる分遥かにマシだよ」

「オマエどういう人生送っているんだよ?」

「言われてみると、碌な人生じゃ無かったなあ。

やっと幸せになれたと思ったら、たった今、オマケがやって来たぽいし」

二人の座るベンチは半グレぽいのに包囲されていた。

「はぁ、面倒くさ、あー最悪」

顔を見合わせて、溜め息一つ。

「「とっとと片付けるか」」

ぼてくりこまして、リーダー格のヒデという奴に威圧を掛けて尋問した。

「で、確認だけどボク達にクスリを使って、楽しい事しようとしたって事で間違いないね?

そのクスリがこ・れ・と」

恵里の動きがピタリと止まった。

「おう、どうしたんだ?」

恵里は威圧を全開にして、怒鳴った。

「なんで、このクスリには魔力があるんだよ?!」

 

 




今回登場した秋畑梓はオリキャラですが、彼女の父親のヤクザの組長は原作のアフター編でハジメに挨拶に来た組長です。
原作では六十歳台とだけで名前は出て来ていません。
子供位いるでしょうし、同世代だったら、光輝と衝突したのではないかと思います。
ホント光輝は母親が元ヤンキーなのにどうしてこうなったんだろ。
後半グレ集団のヒデは同じく、アフター編で組長と同じ回に出てきています。
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