恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第二十七幕
開演でございま~す。




第二十七話 馬鹿が課長でやって来た

講和条約を守るため、悪魔のヤラカシを国に知られないように、戦闘など無かった事にする為、恵里はまず悪魔崇拝者全員の遺体を分解して回った。

凄い映画を撮影していると、ウワサが広まり、野次馬が来る前に片付けなければならないのだ。

その為に一番使えるのが恵里の分解能力で、手榴弾の破片が突き刺さった廃車や要らないサブマシンガンなど、あとからあとからキリなく分解する羽目になり、魔力を

使い切って疲労困憊していた。

受肉していない悪魔は死体を残さないのが救いである。

「恵里ちゃん、もう全部終わったよ。

さあ、僕達の家に帰ろう」

「うん、護ってくれて有り難う、お兄ちゃん大好き♡」

ハジメにお姫様抱っこして貰って車に乗り、行きの時のように他の車が居ない時を見計らい、光学迷彩代わりの幻術を張って、この山あいから離脱した。

これで防犯カメラにも映らない。

交通量の少ない地区でしか出来ないが、警察の目を誤魔化せた。

捕らえた下っ端の半グレ達は、殺す必要も無いので秋畑組の車で、余所の県に放り捨てた。

山あいの中古車置き場で、人類の未来を賭けた決戦があったなど、余りにトンデモな真実なので、誰も信じないだろう。

 

人類の未来を賭け勝利した英雄だというのに、称賛もお金も休みも入らない。

冒険物のハリウッド映画なら大金持ちになって、豪邸とスポーツカーをバックにエンディングが流れる所だが、現実は非情である。

その前に請求書を片付けなければならないのだ。

降霊術で埋蔵金伝説の当人を呼び出して、縛魂まで使って場所を聞き出したが、百年以上経っていると、地形も変わっており、見つけ出すのに苦労の連続だった。

埋蔵金の発掘作業を恵里の分解能力とハジメの竜のパワーで夜中にやるため、恵里もハジメもフラフラでギリギリの時間に学校に行き、休み時間居眠りばかりしていた。

幸い今の光輝は前回と違い、説教してくる事が無いのが救いだった。

 

そして発掘が終わっても、仕事は終わらない。

手に入れた埋蔵金の換金を、こっそりしなければならないのだ。

埋蔵金は日本の法律上、何百年経とうが、忘れ物と同じ遺失物扱いなので、基本的に埋めた人の子孫の物になる。

たぶん子孫は相続税を山程取られるだろうが、発掘した人の物にはならない。

だから日本では埋蔵金を捜している人間はいるが、工事などで偶然見つかった物を除き、見つけ出したと発表した人間はいない。

埋蔵金をあちこちの主な古銭商に、少しずつ売りさばいたけど、まだ支払いには足らない。

だけどこれ以上同じ店に売ると、噂になって税務署に目を付けられる。

仕方なく、八重樫家に紹介してもらった地元の資産家に、埋蔵金を担保に金を借りてやっと支払いが出来た。

 

愁と菫が家族会議で恵里とハジメの奮闘を讃えた。

「お疲れ様、よく、がんばったわね。

子供にこんな大変な後始末させて、ヒドイ親と思ったかもしれないけれど、あなた達がトータスへ行ったら、必ずお金の問題は発生するわ。

その時あなた達だけで解決するには、今のうちにお金の仕組みを経験しておくのが一番なの」

「本当によく頑張った。

最悪私が社長を退任して、支払う事も考えていたが、よくやってくれたね」

「もとはといえば、ボクが後先考えず気軽に支払い約束したのが原因だから、仕方無いよ」

「とても疲れたでしょう、温泉旅行でも行きましょうよ。

今回御世話になった人達も招待して」

「そうだね、二人のお蔭で駄目だった場合にうちで支払うために用意したお金が余ったし、いいんじゃないか。

ハジメと恵里ちゃんで招待したい人をリストアップしておいて」

「やった!温泉初めて、お兄ちゃん一緒に行こう♪♡」

恵里が初めての温泉旅行に舞い上がっている頃、エヒトと悪魔についての情報は少しずつ世界に拡散し始めていた。

機密漏洩の可能性は、関わる人間の数の乗数倍、二人なら四倍、四人なら十六倍になると言われている。

日米両政府でこれだけの人間が関われば、完全な機密保持など無理である。

「君だけに話すんだが」などと言ったり、酔った時、家族になど様々なルートで広まっていく。

そして両国に関わりの深い国、アメリカからはイギリスに、日本からは中国と朝鮮半島の国々に、伝わっていった。

幸いなのは、そのファンタジーな内容に信じた人間が極一部だという事だった。

だが中国政府にはアメリカにいるスパイからと、日本の両方から情報が入ったので、真剣な検討が行われていた。

そしてキリスト教の基盤の無い中国政府情報当局は、悪魔が現実に存在するとは信じなかった。

人間とは別の知性体との交渉を、日米で独占するため、世間が忌避し、実在を信じない悪魔をコードネームに使っているのだろうと結論した。

では別の知性体とは何か?

ズバリ宇宙人でしょう!?

これは中国ではまだラノベで育った世代が少ないため、異世界という概念が広まっていなかったためだった。

ではエヒトとは何か?

悪魔星人と対立している、他の異星人に違いない!

勿論中国政府上層部は眉に唾つけて、確証を持ってこいと突っ返した。

情報当局から提出された、どうみても日本人の学生にしか見えない、制服着た女の子が翼を出して物を塵に変える動画など、CGにしか見えなかった。

「なぜ宇宙人が人間そっくりで、眼鏡を掛けて、日本の学生の制服を着ているのかね?」

という総書記の疑問に誰も答えられないのでは仕方が無い。

情報当局は人間と姿形が違う存在の情報を追い求めた。

するとひとつの情報がもたらされた。

コミケで手に入れた同人誌やコスプレ写真を、著作権無視して翻訳し、ネットに上げていたグループの摘発で得た情報である。

因みに逮捕されたのは、総書記そっくりの顔の悪役が出て来る同人誌を翻訳し、ネットに上げてしまったためだった。(その同人誌は恐ろしい事に実在するそうである)

彼らのコミケでの買い出し、写真撮影係がコスプレ会場でよく出会うコスプレイヤーが、羽で空を飛んだというのだ。

オマケに頭に角が生え、尻尾が自在に動かせるというのだ。

止めに最近二人に増えたそうで、飛ぶ動画まであった。

あまりにも馬鹿げた内容、だが他に有力な情報が無い以上、無視するわけにもいかない。

情報当局者の間で押し付け合いの末、貧乏くじを引かされたリチャード・ウォンという局員が中国の商社の課長というカバーで調査に当たる事になった。

彼はこれまであちこちで、色々とヤラカシて上から睨まれていたので、失敗を期待されて送り出された。

上層部はこの時の決定を、後で心から後悔する羽目になる。

「いや~、日本は久し振りだなあ♡♪

国の金で行けるなんて、スパイは気楽な商売ときたもんだ♪

いっちょブワ~と行こう♪

あれ、みんなどうしたの?お腹押さえて?食あたりかい?」

本人は大喜びだったが、同行する部下達は胃が痛かった。

 

「さあて、コミケはちょっと先だから、まず秋葉原行って手分けして、コスプレ写真集を買い集める事から始めよう♪」

「課長、リーゼお姉さんとクレアお姉ちゃんの写真集大人気で売り切れだそうです。

いや~、無くては仕方無いですね」

「君達、中古販売の店は回ったかい?

店員さんに在庫がないか確認したかい?

してない?なんのために日本語で写真集のタイトルを暗唱出来るまで覚えたんだい?

さあ、店員さんに大きな声で聞いてきなさい」

こうして、いい歳こいた局員達は、真っ赤な顔で「リーゼオ姉サンカ、クレアオ姉チャンノ本アリマスカ?」と聞いて回る羽目になった。地獄か。

 

「さあ、次はいよいよコミケで本人と握手♪♡イヤ~楽しみだなあ♪」

局員達はやり方も知らずに真夏のコミケの行列に並び、何人もが熱中症で搬送されたが、耐え抜いた強者達は遂にコスプレ会場にフラフラでたどり着いた。

朦朧とした頭で二人に近付こうとするが、大人気の二人の回りには既に人の壁が出来ていた。

割り込もうにも、スタッフや警備係が張り付いているため、順番を待つしかない。

この段階で更に数人が力尽き、やっと順番が来て撮影しようとして、赤外線カメラは禁止と言われて一人脱落したが、遂に撮影に成功した。

確かに目の前で翼を拡げ、ほんの少しとはいえ空に浮き、尻尾を動かし、角が生えている。

女王様然とした、ただ立って居るだけで凄まじい存在感のあるリーゼロッテと小動物のようなモジモジしているクラウディアの対比が素晴らしく、まったく作り物に見えない角や尻尾、オマケに翼を拡げて空中でポーズをとれるとなれば、大人気なのは当然である。

課長が歯の浮くような恥ずかしい誉め言葉を連発しながら、盗聴器付きのアクセサリーをプレゼントし、握手でクラウディアの細胞標本を手に入れた。

リーゼロッテも握手は出来たのだが、手がまるで鉄の塊のように固く、細胞標本が採取出来なかった。

コミケ後の打ち上げの盗聴で、二人が温泉旅行に誘われている事が判明し、そこで接触を試みる事が決定した。

「ウワ~イ、次は公費で高級温泉旅館だよ、楽しみだなあ♪

毎回こんな素晴らしい任務だといいなあ♪

それなのに半分以上入院で行けないなんて気の毒だなあ。

温泉饅頭でもお土産にするかあ。

まあ、党からの監視役、疑われない形で脱落して貰えたから大成功かな♪」

 

 




次回温泉旅館大騒動予定
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