恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第三十幕開演です。
大変御待たせいたしました事を御詫び申し上げます。
今回課長の悪企みが次々と浮かび、どんどん長く延びていくので、整理が大変でした。
キャラが勝手に動き出すとは、こういう事かと深く納得いたしました。


第三十話 円盤が来た

恵里はゆっくりとリチャードと名乗る男を観察しながら挨拶して、座った。

正直立っているのもつらい。

「まず、ボクはユリコ・オメガなんて厨二病な名前じゃない!

次にボクには南雲恵里というちゃんとした名前がある。

それと、この倒れてる旅館の人達どうしたの?救急車呼んで、付き添ってあげた方がいいんじゃないのかな?」

(くそっ、やられたな。

煽られて、ついカッとなった。

まず、やるべきはお父さんとお母さんの安全確保、お兄ちゃんが雫ちゃんと一緒に護衛に就くまでの間の時間稼ぎだ。

その時間で出来るだけコイツらの身元と目的を探り出そう。

どうせ、しばらくはボクの身体はマトモに動かせない以上、戦闘は論外だ。

こいつ、何処でボクの分解能力の事知ったんだ?米軍かな?

でも超能力なんて頓珍漢な事言ってる所見ると、かなり限定的な情報しかないみたいだし、魔法という発想が出てこないって事はオカルト組織じゃ無いのかな?

てことは、どっかの国家か企業の特務機関かな?)

「おおっ、恵里サンでしたか?失礼をば。

いい名前ですねえ。

わたくし、この旅館のオーナーをしております、リチャード・ウォンと申します。

ご心配頂き有り難う御座います。

うちの従業員達はちょっと新経営方針に驚いただけで、体調が悪い訳ではないので、御安心下さい。

そちらこそ、随分顔色が悪いですが、救急車を呼びましょうか?」

(ラッキーだなあ、お姉ちゃん達に加え、謎の分解ガールまで接触出来たよ。

しっかし、この分解ガールもクレアお姉ちゃんも、どう見ても人間だね。

浴衣をキチンと着こなして、物の考え方も喋る時の身振り手振りも、人間その物の宇宙人なんて、まず無いだろう。

宇宙人なら、人間とはもっと完全に異質な考え方をするだろうし、身体だってこんな人間そっくりの顔じゃない筈だ。

リーゼお姉さんは大分ヘンだけど、人間じゃないってほどは違わないなあ。

アマゾンの奥地から出て来たぐらいの違いかな。

社会常識を知らなすぎるし、かなりキツい身分制度社会で生きてきたみたいだけど、宇宙人かというと、疑問だね?

高度な技術社会で生きてきたように見えないし、むしろ野蛮な社会の物の考え方だよな。

では、いったい何処から来たんだろうね?

イヤ~ワクワクしてきたなあ!)

お互いの言葉の僅かな手掛かりからの読み合いが始まっていた。

 

「結構だよ、なにせボクよりうちの皆の方が大変みたいだし、介抱するのにリーゼロッテさんとクラウディアさんにも手伝ってもらわないといけないから、話はこれまでだね。

イヤ~面白い話だったのに、残念、残念」

「いやいや、御安心下さい。

我々が協力すれば、皆さん直ぐに元気になられますよ」

二人は欠片も眼が笑っていない、素晴らしい笑顔で向かい合った。

「「アッハッハッハッ」」

「じゃあ、皆が早く回復するよう協力お願いしますね」

皆を心配するように見回した恵里の視界に、雫とハジメが両親の脇に静かに立っているのが目に入った。

(よし、お父さんとお母さん守ってくれていた雫ちゃんと、増援のお兄ちゃんが合流できたね。

これで人質にされる事は無い!

強気に出ても大丈夫だな!)

「ええ、お任せ下さい。」

(いずれにせよ、お姉さん達と分解ガール達はそんなに関係悪くないみたいだから、コチラから攻撃するのは悪手だね)

 

恵里は、うそ寒い笑顔を浮かべた。

「さて、うちのお姉さん達を口説いていたみたいだけど、お国へお持ち帰りしないのかい?」

「イヤイヤ、そんな事はしませんよ。

あくまで、この旅館でアイドルをして貰いたいだけですよ」

「何億もの金が掛かったろうに、わざわざそのためだけに、旅館を丸ごと買ったのかい?豪気だねえ。

よっぽど金が有り余っているのかい、お宅の組織は?

よく怒られないね(呆れ)」

「イヤ~、耳が痛い事を、よく怒られるんですよ。

でも、大丈夫!経費を認めて貰うコツがあるんですよ。

求められた成果を上げた上で、旅館の買収費用が出なければ、成果がご破算になるように仕事を組み立てておくんです。

後は上の人が、もっと上の人に汗ふきふき報告するのを、ノンビリ見るだけですから。

勿論ボクも怒られますよ。

でもねえ、どうせ仕事やるなら、パッ~と、ブワ~と楽しんでやりたいじゃないですか」

恵里は理解出来ない行動にたじろぎ、暴言で怒らせ、本音を吐かせようとした。

「へ、へえ、そんな無責任男、よく首にならないね?」

「ご心配頂き、有り難う御座います。

でも、求められた成果は毎回達成していますので、大丈夫ですよ。

どうです、恵里さんも下らないしがらみなんかキレイに忘れて、一緒にパァ~とアイドルやって人生謳歌しませんか?」

「へ?ボ、ボクがアイドル?!

人気出るわけ無いし、無理に決まっているだろう?!」

「イヤイヤ、大丈夫、素材は悪くないし、目付きの悪いアイドルって、新鮮で受けるんじゃないかな。

彼女は三白眼♪♡とか売り出して、やれば出来る♪」

 

(アカン、何をどうやったら、そういうイカレタ考えが出てくるんだ?

腹が立つより先に、頭がおかしくなりそうだ。

コイツまるで宇宙人だよ。

ン?そういえば、コイツナゼか宇宙ネタに拘ってるなあ?なんでだ?つついてみるか)

「でもねえ、もしアイドルやるにしても、ユニット名が宇宙忍者バルたんって、ちょっとねえ。

そもそも忍者はまだわかるけど、ナンデ宇宙?」

課長は窺うような眼で、恵里を見た。

「おや、お気に召しませんか?

では、恵里さんの方で、何か良い名前は有りませんかね?」

「そうだねえ、「地獄大使」なんかどうだろう?いい名前だと思うんだけど?」

課長の笑顔が始めて引きつった。

なぜなら、頭オカシイとしか思えない、恵里の名付け案を聞いたリーゼロッテとクラウディアが、いい案だと喜んでニコニコしているのだ。

「ナンデ地獄なんてつけるの?イメージが悪すぎると思うんだけど。

それこそ、訳がわからないよ?」

(なるほど、コイツらは地獄や魔法の件を知らないから、宇宙人だの超能力だのと想像を逞しくしている訳だ。

こんだけの大金をポンポン使える組織で、オカルトをまったく知らないとなると、中国政府しか無いかな。

しかし、そうだとしたらコイツを始末するのは簡単でも、もう情報が渡っている以上、また新しい奴が来るだけか。

どうしたもんかな、日米両政府と手を組んでる以上、今さら中国政府と手を組むのはあり得ないし、そもそも中国政府なんか信用出来ない。

かといって、つつきすぎて日本を舞台にアメリカと戦争始められても困る。

なんとかコイツをうまく使って、エヒトを片付けるまでの時間稼ぎが出来ないかな。

イヤ待てよ、よく怒られているという事はコイツの上はマトモで、コイツが暴走してるのに頭を悩ましているという事じゃないか?

上はコイツを追い出したいんじゃないのかな?

ならば、奇貨居くべし、こっちに引き込んでやれ。

上に絶対に信じて貰えない真実を教えてやったらどうするかな)

恵里はゆっくりと語り始めた。

 

課長は頭を抱えていた。

悪魔?地獄?バチカンの悪魔狩り部隊?

未だに自分の眼で見た物が信じられない。

覗き込んだリーゼロッテの眼の中に、荒廃した地獄の情景が見えた。

餓え渇き、彷徨く無数の下級悪魔達や、異形の中級悪魔達を見た。

催眠術を疑いたかったが、目の前にリーゼロッテという現実が、翼を拡げて実在している。

こんなの報告出来るか!!

上は誰もキリスト教なんぞ信じていないのに、キリスト教そのまんまの悪魔や地獄が実在する?

誰も信じてくれる筈が無い。

それに見た感じ、地獄は剣や槍を持った世紀末ヒャッハーな世界にしか見えなかった。

ということは、上が求める高度技術の欠片も無いという事だ。

恵里は課長の顔色を見てニタリと嗤った。

「さあて、リチャードさんはどうするのかなあ?

報告して粛清されるか、うちへ亡命するかどっちかな?」

だが、課長は不屈の人である。

単に諦めが悪いだけとも言うが。

「地獄には失なわれた古代文明なんて無いのかなあ?

最初からあんな環境だったら、知的生命なんて誕生しないから、昔はいい場所だったんじゃないのかな?

そもそもどうやって地球にやって来てるんだい?」

「へえ、古代文明の事、良くわかったね。

勿論魔法を使って来ているんだよ。

だけど地球では、魔法の元の魔力がほとんどないから、ロクに使えないけどね」

「なるほど、魔法も存在すると。

うん、困った時は開き直ろう♪

上が求めているのは宇宙人の高度技術!

そして宇宙人の象徴といったら、やっぱり空飛ぶ円盤が一番!

そして魔法で移動が出来るなら、空ぐらい飛べるだろう!

パン(高度技術)が無ければ、魔法で空飛ぶ円盤を造れば良いじゃないか!

地球に魔力が無い?地獄で造ればいいじゃないか!

という訳でリーゼお姉さん、お金はいくらでも出すから、空飛ぶ円盤作成に協力をお願いします」

「えっ、そんなワケわかんない物造れと言われても?」

「百億円、どうです?」

「ぜひ、やらせていただきますわ!!

重力魔法使えばどんな形の物でも飛ばせますし、おまかせですわ!ですわ!」

「どうどう、お姉さんもリチャードさんも落ち着けよ。

ちょっと待とうか、そもそも、そんなインチキ円盤なんか造ってどうするんだい?

だいたい一介のエージェントが、百億円なんて出せる訳無いだろう」

「なに簡単な事だよ、恵里君。

一番上が形のある成果を欲しているんだ。

そうなれば幾ら非常識な金額を使おうが、誰も文句を言えないよ。

そして、その成果とは派手で、誰の目にも「宇宙人」を思わせるような物でなければならないんだよ。

そう見える物であれば、実際に使える物であるかは問題じゃ無いのさ、うちはそういう所なんだよ。

それに百億円じゃ、現代のジェット戦闘機たった一機分の価格にしかならないよ」

「つまり空をブンブン飛べるならば、竹ひごと紙で出来たハリボテの円盤でも構わない、そういう事かな(呆れ)」

「おっ、それいいね、採用!

その素材で音速超え出来れば完璧だよ!

いやあ~、また上の人達が卒倒するのが見れるなあ♪♡」

「じょ、冗談と嫌みで言ったのに、出来るわけ無いだろう?!」

「あら、出来ますわよ。

重力魔法で円盤にかかる加速のGと重力を中和して、円盤の回りに結界を張って空気抵抗を遮断すれば、極端な話自重を支える必要すらなくなりますわ」

恵里は壁に頭をバンバン打ち付けて、辛うじて正気を保ち、課長の上司達に心の底から同情した。

 

翌日正気に戻された皆と正気がどっかに行きかけた恵里は、課長と協定を結んだ。

リーゼロッテが空飛ぶ円盤を作成し、課長に金と引き換えに引き渡した。

世間で空飛ぶ円盤にあると思われている高機動力に、なんとか超音速に耐える結界などは勿論、更に様々な意味の無いギミックが付け加えられた。

空飛ぶ円盤そのものが様々な色で発光したり、サーチライトのように照らしだす事が出来たり、なんと光の柱で人や物を機内にゆっくりと吸い上げたり、降ろす事まで出来るのだ。

そう、エスカレーターぐらいの速度でだが。

課長は空飛ぶ円盤に乗って中国に凱旋し、総書記から直々にお褒めの言葉を賜り、円盤は軍の研究所に運び込まれた。

そして研究者達の地獄が始まった。

まず機体の内部構造を見て卒倒し、魔法の事を一切教えてもらえずに、円盤の中心に据え付けられた謎のオーブの研究を科学的アプローチでしなければならないのだ。

オーブは一つしかないので、破壊して中を調べる事は出来ない。

原理も構造もわからない物や現象の研究など、最低でも数十年はかかるだろう。

無論課長に原理を宇宙人から聞き出すか、拉致するように命令が下ったが、逆にその命令を実行するために宇宙人を接待すると称して、悪魔シスターズをアイドルにするための宣伝費に、何十億円もの経費を好き放題に使って、上司達の胃を破壊していった。

悪魔シスターズは専用の空飛ぶ円盤でコンサート会場に現れ、ナゾの光の柱でステージに降りて来るなどやりたい放題だった。

「ちょ、ちょっと、あれはいったい?!」

「演出です、特殊効果です、マジックのネタばらししようとする無粋なマスコミの方は出入り禁止です」

無論宇宙人の接待場所になった旅館の経営が立ち直り、聖地扱いされたのは言うまでもない。(女将の胃も破壊されたが)

この時課長が中国政府から巻き上げた金額は、詐欺による世界最高額記録としてギネスブックに載る程の物だった。

宇宙人との接触成功と円盤入手の功績で、総書記のお気に入りになった課長の化けの皮は、二年やそこらでは剥がせるわけがなかった。

エヒトを片付けた後の発表で、中国政府は騙された事に気付いたが、課長はもうトータスに高跳びした後だった。

「イヤッホー、新天地だ、どんな遊び相手がいるかなあ♡♪」

課長はその後、トータスで多くの人達の頭痛の種となるが、それはまた別の話である。

 

二十年後、この旅館を生き延びた老いた中国人達が訪れ、老いた元女将と酒を酌み交わしながら、名前を言ってはいけないある男についての愚痴を、交わしていたそうである。(名前を言うと引きつけを起こす人が何人もいるため)

 

「お兄ちゃん、ボクはトンデモな人の相手をしてトテモ疲れたよ。

疲れた時は甘い物がいいんだって。

だからボクは、さっきの甘い言葉の続きが欲しいなあ。

勿論たっぷりと甘くしてね♪」

「・・・・・・・(滝汗)」

 

 




そろそろ地球編の終わりが見えて参りました。
トータス編は数話程度の予定です。
なお、空飛ぶ円盤はアダムスキー型です。
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