恵里が中国に空飛ぶ円盤を渡す約束をした事で、日米両政府に対してより多くの魔法データを渡す必要が生じた。
中国の外交と開発をミスリードするのが目的とはいえ、まだ見せていなかった重力魔法のアイテムを渡す約束をした事は、やはり問題となり、その穴埋めに重力操作の実演を求められた
恵里とリーゼロッテはそれを逆利用して、アイテム作成を政府側の目の前で行う事で、空飛ぶ円盤の製造場所と資材、製造要員を政府に出して貰い、中国政府からの金をその支払いに当てた。
まあ、資材の費用といっても構造材は竹ひご、外板は紙の、提灯みたいな代物なので、ないも同然なのだが。
唯一オーブだけはリーゼロッテが地獄から持ち込んだ素材を使っているので、金で買えない貴重品と言えない事もない。
地獄ではたいして珍しくもない物だとしてもだが。
更に政府の分の空飛ぶ円盤を造るついでに、アイドル活動用の分の機体も実験機との名目で製造した。
アンノウン戦に参加した事で大幅にレベルアップしていた恵里、ハジメ、雫、浩介、クラウディアらのメンバーは、アイテム作成を手伝いながら、アンノウンを喰らって貴族級にまでパワーアップしたリーゼロッテから重力魔法を手始めに、神代魔法の習得を行っていた。
基本的な概念を体得した後、各自が自分の適性や好みに応じたアレンジで様々な技を組み立てていた。
雫の重力斬、クラウディアの重力落としなどの各自の個人技に加えて、機動戦艦ナデシコに出て来たグラヴィティブラストとディストーションフィールドのモドキ魔法を恵里が開発に成功し、全員に習得させた。
グラヴィティブラストは重力波の攻撃なので、やれ炎は効かないだのといった面倒くさい敵が出た時や、大集団の敵を薙ぎ払う時重宝するし、ディストーションフィールドは空間を歪めて、ビーム系の攻撃をねじ曲げてくれるので、使徒の様にビームをボンボン撃ってくる相手には必需品だ。
こうして対エヒト戦の準備を進め、魔法のアイデア交換会を定期的に開いて強化に励むなか、ハジメから提案があった。
「今の魔法の威力ではアンノウンのようなボスキャラ相手は正直苦しい。
と言うわけで、僕が考えた最強の魔法を全員で創りたい」
ハジメの発言に、皆首を傾げた。
「お兄ちゃん、説明が足らない。
なんで全員で創らなきゃいけないの?」
「前に読んだ、宇宙が舞台の不老不死の超能力者物の漫画みたいに、何人かで魔力を同調してひとつの魔法を掛けるんだ。
そうすれば攻撃でも、防御でもトンデモな威力の魔法になる。
でもこれはひとりじゃ実験も検証も出来ない」
浩介が疑問を投げ掛けた。
「理屈はわかるけど、どうやって同調させるのかな?
威力を上げるには人数が多い方がいいけど、人数が増えれば、増えるほど同調が難しくなるよね」
「そこで、お互いの身体の一部をふれ合わせて、繋げる事で皆の魔力を循環させる。
使う魔法が得意な人が魔力制御の中枢になり、他の人はうまく同調出来るように自分の魔力を調整するんだ」
「ハジメ君、肌をふれ合うって、どんなふうに全員を繋げるの?
手を繋いで横一列とか、ムカデ競走みたいに縦一列とか?」
「そうじゃないよ、雫ちゃん。
それだと中枢になる人に直接ふれ合えない人が出て効率が悪くなるし、調整もタイムラグが出てうまくいかなくなってしまう。
だから中枢になる人を囲んで、残り全員が手を伸ばしてふれる型にしたいんだ」
「あ、あのう、それってお姉さまとコミケのコスプレコーナーで見た戦隊物のポーズでは?」
「エエエ?!そ、それを、ボク達にやれってぇ?!」
「恥ずかしいかも知れないけど、皆が生きて帰るために、我慢しようよ♪」
そう、この時間線でも南雲ハジメはオタクであった。
家庭環境を考えれば、両親が健在で有る限りどの時間線でも、それは避けがたい宿命である。
勿論戦隊物のポーズが先に頭にあり、その理由付けに新魔法を思いついたのだ。
なぜ、そこまで拘るか、「カッコいいからだ!!」それだけだった。
実験が始まり、攻撃のタイミングを合わすため、全員で技の名前を叫びながら、ポーズをとる事で、全員でひとつの疑似魔法陣を形成する。
ハジメとリーゼロッテ以外は、みんな技の名前をどもりながら叫び、引きつった顔を赤らめていた。
恥ずかしい技だが、最大六倍のエネルギー量が同調して一点集中するのだから、防御の固い敵には極めて有効だろう。
実験は日本にある米軍の射爆場で夜間行われ、様々な観測機器の前でハジメ達の乗った空飛ぶ円盤から、収束型合体グラヴィティブラストが放たれ、海上の小島を跡形も無く消滅させた。
続けて拡散型合体グラヴィティブラストが、空中の散開したドローン百機以上の大群を一掃した。
実験結果に大いに満足した米軍は、基地内で盛大にパーティーを開いて恵里達を労い、重力兵器の開発と反重力ユニットの導入を決定した。
そのなかには、原子力空母を含む既存の軍艦に反重力ユニットを搭載して飛行させる、空中艦隊という雄大な構想もあった。
しかしながら、空軍が空を飛ぶなら空軍の管轄になるべきと噛み付き、海軍は水上に降りる事が出来るのだから船だと反論、どちらが空中艦隊を管轄に置くかの縄張り争いが起きた。
こうした様々な困難と妨害を排して計画は進行していき、ついに完成した空中艦隊は後に、クヴァイレン天空神国なる地球に侵略してきた国家と、空中艦隊同士の激戦を繰り広げる事になる。
更に反重力ユニットを積んだ戦闘機の開発計画が持ち上がったが、そもそも反重力と結界による空気抵抗の整形があれば、翼で揚力を作る必要も、流体力学に基づく機体形状もいらないのではないかという主張がノースロット社から出された。
さすが第二次大戦中に、超合金の翼で敵機に体当たりして真っ二つにする戦闘機?を、ホントに作って飛ばしてしまった会社である。
ならば、必要なのは対空ミサイルで撃墜されない重装甲と、どの方向にも迅速に機動できる高機動推力ユニットだ。
後は視界のいい操縦席と、どんな地形でも、安全に着地出来る頑丈な脚部が有ればいい。
結果鳥居の下に戦闘機の機首を付けたような、戦車のように機体がゴツク、キックで格闘戦すら可能な珍妙なデザインが提出され、戦闘機パイロット出身の空軍参謀総長が
「またノースロットかぁ!!
こんなのを戦闘機と呼べるかぁ(激怒)、デバイスとでも呼べば充分だ!!」とブチキレたという。(なお、開発陣に元ネタのアニメ資料を渡したのは、ハジメだった)
この機体は海空軍の飛行機乗り達から総スカンを喰らい、危うく不採用になりかけた。
だが、しょっちゅう対空火器の脅威に晒される直接航空支援を、大した防御力の無いヘリや垂直離着陸機で行っていた、海兵隊航空隊は採用してみて直ぐに惚れ込んだ。
ピンチの海兵隊員の所へ超音速で駆け付け、対空機関砲も対空ミサイルも弾き返して何時間も滞空しながら、必要なら空中停止して正確に、雨霰とミサイルや銃砲弾を浴びせかける。
まさに空飛ぶ戦車だった。
海兵隊員達から崇拝された荒くれパイロット達は、誇りあるデバイス乗りの証しとして、逆三角形のシールを額に張って、直ぐに見分けられるようにしていた。
こうした兵器開発のみならず、宇宙開発ではロケットが要らなくなるのではとの声が囁かれている。
アメリカの一部では、人類が飛躍的に発展する新時代の始まりだと浮かれて、これまでのキリスト世紀を超時空世紀に変えるべきと主張する者も現れるほどだった。
合体グラビティブラスト実験の翌朝、領土主張のためこの海域に侵入してきた中国海警の艦は、昨日まであった小島が消滅しており、いまだ消えない重力異常で巻き上げられた、海底の土砂が海を変色させているのを目撃し、海底火山の活動による物と誤認した。
以後数年の間、噴火の巻き添えを怖れた中国の海警と漁船団は、この諸島に近付こうとせず、領土問題は棚上げになった。
こうして、重力魔法を習得した次に、恵里達は錬成の上位神代魔法の生成魔法の習得を始めた。
これまで懸案になっていた防具の作成が可能になると思った所で、再びハジメの提案が炸裂した。
どうしても強力な防具はかさ張る物になる。
ならば、普段はアイテムに収納しておき、危険が迫る時だけ、合い言葉で一瞬で装着出来るようにするというアイデアである。
話を聞いた女性陣は、目と目で会話した。
(ヤバくね?)(ヤバいわね!)(ヤバいですよ)
恵里と雫はハジメとの付き合いで、クラウディアはコミケで、どちらもオタク知識は持ち合わせていた。
だからハジメがナニ考えているか推測できたのだ。
「ハジメ君、考え方は素晴らしいけど、どんな形にするのかしら?」
ハジメがよく聞いてくれたとばかりに、ディストーションフィールドを付けたり、自衛隊の10式戦車の装甲板の素材を魔法で加工強化するなど、性能について長広舌を振るおうとした所を遮り、雫はもう一度聞いた。
「ごめんね、聞き方が悪かったわ。
どんなデザインにするのかを、教えて欲しいの。
ハジメ君のことだから、もうラフスケッチぐらいあるんでしょ。
さ き に 見 せ て ちょ う だ い」
ハジメが動揺して眼が泳いだ。
恵里が溜め息を吐いた
「お兄ちゃん、バレバレだよ、そのいつものファイルホルダーでしょ、見せて」
ハジメがおずおずと出したスケッチを見て、女性陣は渋面になった。
「なんというか、まあ予想通りね」
「まあでもこのくらいなら、まだおとなしい方ではないですか?
コスプレではもっと過激な格好の人のが有りましたし」
「お兄ちゃん、ミニスカートとレオタードばっかりだよ。
ボク達は魔法少女じゃないんだよ。
せえのっ」
「「「ギルティ!」」」
「お兄ちゃん、好きな人ならともかく、敵や関係無い人に、こんな格好見られたくないんだよ。
だから、もっと露出度の低いデザインに変更してね。
そのほうが防御力も上がるでしょ、わかった?」
落ち込んでいたハジメに、恵里は後でこっそり囁いた。
「お兄ちゃん、他の人の居ない時だけ、着てもいいけど、誰かに言っちゃダメだからね、絶対だよ。
え?雫ちゃんが、お兄ちゃんにまったく同じ事言ってきたあ?!
理由はお兄ちゃんが戦友だから?
なんつうか、理由が雫ちゃんらしいなあ。
それで悪いから断った?!ナンデ?」
「うん僕は反省したんだ!
間抜けな話だけど、確かに言われてみれば、僕自身も他の奴に恵里ちゃんや雫ちゃんの恥ずかしい姿なんて晒したくない事に気が付いたんだ。
だからちゃんと足元まで隠れる格好にして、デサインを全面的にやり直したいんだよ」
「う、うん、お兄ちゃんがそれでいいなら、いいけど?」
その後女性陣は、ハジメが完成させた変身防具アイテムの試着で、正統的なメイド姿に変身する羽目になり、阿鼻叫喚の騒ぎになった。
「「「なんで戦うのに、メイドなんかに変身しなきゃならんのか?!
納得のいく説明を要求する!!」」」
「まずひとつめは、実用的で清潔で動きやすい作業着である事。
これは軍服と共通する点が多く、戦闘時に向いている。
ふたつめは、正統的なメイド服は、露出度が低くて全身をキチンと覆っているので、竜のブレスや毒ガスといった全身同時に攻撃してくる敵への防御に隙がなくなるし、布地が多い分だけより多くの防御魔法が付与出来て、強力な防具が作りやすい。
みっつめは、今みんなが見せた反応のように、メイドが非戦闘員だという思い込みからの油断を誘える事。
よっつめは、そのう・・・、僕がメイドが大好物だから・・・」
クラウディアが声を震わせて確認した。
「あのう、そのう、私達この格好で例の戦隊物のポーズをしなきゃいけないんでしょうか?」
「うん、だから名前はメイド戦隊ネコレンジャーとかどうかな?
ネコ耳カチューシャも用意してあるよ」
クラウディアが卒倒し、雫はしゃがんで何かブツブツ言いながら、超高速で床に之の字を描いていた。
恵里はいつものように、壁に頭を打ち付けて大穴を開けていた。
リーゼロッテは皆の様子に首を傾げながら、コーラとポテチを摘まんでいた。
もうすぐ中学校の卒業式を数日後に控え、今日もまた、異常な事など何も無い平和な一日の些細な出来事だった。
本日南雲家戦線異常無し。