恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第三十四幕開演、遂にトータス編始まります。
皆様の93件の暖かい感想や533件ものお気に入り指定のお蔭でここまで来れた事に御礼申し上げます。
それが無ければ、とっくにエタっていたでしょう。


第三十四話 ブリカス無双

気絶した恵里は夜中にベッドで目覚め、唇に指を当て、上気した頬で困惑していた。

キスされた記憶が有るのだが、ナゼかベッドでキチンと寝ていた。

(ゆ、夢?だとしたらボクの欲求不満で?それとも現実?どっちだろ?ウウウ、知りたいけど、こんなの恥ずかしくて聞けるかい!)

悶々と悩む恵里の頭に閃きが走った。

(そうだ、魂魄魔法でボクの魂の記憶のログをチェックすれば、いいんじゃないか!

そのために必要な魔法の組み立ては?

準使徒の自己診断機能を流用して、それと記憶をリンクして、よし!いけるぞ!)

夜を徹して朝まで、部屋に閉じ籠って魔法の組み立てに没頭し、朝食に呼ばれても「今大事なとこ」と断り、知恵の限りを尽くして、ようやく頭の中で魔法陣を組み上げ終えた時、ノックの音がして照れた顔のハジメが入って来た。

「ね、ねえ恵里ちゃん夕べは中断しちゃったけど、」

恵里はハジメを突き飛ばした。

「お兄ちゃんのバカー!!」

後に恵里はこの日の事を懐かしく思い出す事になる。

あの日が平和に過ごせた最後の日だったと。

翌日から対エヒト戦の調整と準備で、寝る間も無い忙しい日々が始まったからである。

 

遂に高校に入学した恵里は、召喚に備えての最終調整に追われていた。

これまでエヒトの件で秘密を共有している国家は日本、アメリカ、バチカンの三ヶ国だったが、これにイギリスが加わったのだ。

アメリカ側からの情報流出と、内部からヒュドラがイギリス政府の尻を叩いて、エヒトの件が真実だと信用させた結果である。

イギリスにどの程度の関与を許すべきか?

関与を最低限にしたい日米からの圧力と、ヒュドラからの出来るだけ関与させて欲しいとの嘆願の板挟みになり、恵里は調整に奔走する羽目になった。

何しろ、実質的にはジェファーソン・オルグレイが首領として運営しているとは言っても、あくまでショッカーもといヒュドラの大首領は恵里なのだ。

散々お金やら触媒やら吸い上げた以上、何もしない訳にはいかなかった。

この結果、イギリス側から何人か外交・情報関係者がイギリス大使館に常駐し、研究チームも幾つか来日した。

召喚を観測するイギリス側物理学者チームがやって来て、アメリカ側チームと観測の場所取りでまず揉めた。

最上の場所である両隣と上下の教室は契約を楯に悪魔側が押さえ済みだ。

悪魔は押さえた教室の隅っこの使用権を英米に売り付け、残った僅かな条件の良い場所を奪い合う様を、わざと煽って楽しんでいた。

「ククク、争え、もっと争え、その怒り、憎しみが我等の糧よ」

嘲笑う中級悪魔の背後から声が掛かった。

「お楽しみの所申し訳ないが、ちょっとよろしいかな?」

「なんだ?!今良い所なんだ・ぞ・・・」

振り返った、悪魔サンの顔が引きつった。

彼の後ろにいた者達、それは手術服を着用し、メスやら手術道具を持ち、目の下にひどい隈をつけた集団だった。

「失礼、貴方の肉を四分の一オンス程頂けませんかな?」

「げえっ、死神博士っ!!」

レジナルド・ダウン教授率いる生物学者チームは、以前恵里から手に入れた悪魔細胞の研究を行い、チームメンバーのエミリー・グラント博士の努力で既に画期的な突破口を挙げていた。

人類初の他の知的生物の細胞と遺伝子の研究となれば、ノーベル賞を受賞して歴史に名を残せるのは確実とあって、ダウン教授は目を血走らせて、何としても研究を完成させようとしゃかりきになっていた。

チームリーダーはあくまでも、ダウン教授なので、メインの受賞はエミリーではなく、ダウン教授の方に与えられるからである。

その為にリーゼロッテの細胞との比較対照用に必要な悪魔細胞のサンプルを、悪魔側観測チームから採取させてくれと、ストーカーの如く付き纏い、ひどく嫌がられていた。

「ハッハッハッ、よいではないか、よいではないか、ちょっとチクッとするだけだよ。

たったそれだけで、キミの名前が人類史に燦然と輝くのだよ。

是非サンプルを取らせてくれたまえ、さあ!さあ!さあ!」

「そんな輝き要らねえよ!

白衣でメス持って擦り寄ってくるんじゃねえ!

俺をモルモット見る目で見るんじゃねえ!

やめろー、死神め、ブッ飛ばすぞー!!」

悪魔達はダウン教授に死神博士の異名を付けて嫌がり、その苦情も恵里に来た。

更にチームの護衛としてイギリス国家保安局から派遣された、ヴァネッサ・パラディとかいう日本オタクが、ダウン教授が死神博士と呼ばれたのにティンと来て、悪のりして教授にマントをプレゼントしたり、悪魔に細胞を要望する時、後ろでショッカーの音楽を流したりと、悪さを働いていた。

こうした様々な問題が発生し、恵里の負担は大きくなるばかり、無論官僚達も頑張ってはいるのだが、全く前例の無い事ばかりで力をうまく発揮しにくいのだ。

大首領はつらいよ、思わず手伝っているハジメと溜め息を交わす。

我儘やら苦情やらの日々の調整に疲れ果て、恵里は家出するフーテンの寅さんの気持ちが判りかけた。

最もこの場合、家出するのは寅さんではなく、妹のさくらになるわけだが。

そこに救世主がやって来た。

ヒュドラ首領ジェファーソン・オルグレイがイギリスから恩の押し売りにやって来たのだ。

ジェファーソンは企業トップとして、こうした調整や仲裁に長けており、快刀乱麻にトラブルを片付けて、恵里の負担を大きく削減して、みんなから地獄大使と讃えられた。

恵里がジェファーソンに礼を言っても、

「なにたいした事ではありませんよ。

後でちょっと返して下されば結構ですよ」と笑っているのが無気味だったが。

 

まあ有難いのは確かなので、恵里は空いた時間で懸案だった自分の魂のチェックを行う事にした。

自分がエヒトならば、恵里の魂の改造をした時に、絶対バックドアか何かの仕掛けをして反逆に備えるからだ。

リーゼロッテにエヒト戦終了後に、ずっと柊のゲーム会社で発売前のゲームのテストプレイや限定グッズの優先確保、コミケなどで行われるゲームの宣伝イベントでゲームキャラのコスプレを用意して宣伝コンパニオンをさせる事を報酬に約束して、魂の点検をして貰った。

案の定、本人がわからないようにトータス内で使徒を使役するシステムに強制リンクさせられ、位置情報と身体の状態を送信され、何時でもリモコンで自壊させる事が出来るようになっていた。

このままトータスに行ったなら、即座に存在を把握され、盗聴器代わりにされた挙げ句、ハジメを巻き添えに自爆させられたろう。

リーゼロッテの神代魔法でリンクを切断し、自壊システムを消去してもらった。

本当はもっと早くやりたかったが、これまでは身内に出来る者が居らず、悪魔陣営に頼んだりしたら、別のリモコンを付けられるのが目に見えているので、リーゼロッテが成長するまで出来なかったのだ。

最大の不安材料が解消されホッとしたが、まだまだ問題は山積みだった。

 

エヒトが光輝を依り代にしようと狙っていた事は、身内にしか喋っておらず、政府関係者には、エヒトは生徒を狙って召喚したとしか言っていない。

ここで政府内部で問題になったのは、召喚される高校の教師、生徒の扱いである。

彼等は保護されるべき国民であり、誘拐されるのがわかっているのなら、彼等を教室から退避させ、戦闘要員を代わりに配置すべきだとの主張が出た。

恵里はエヒトは教室という場所ではなく、魔法能力の優れた生徒達を狙ったのであり、生徒を移動させれば、その場所が狙われて巻き添えが出るので、かえって危険だと説明した。

また、前回と召喚されるメンバーを変えると、他の学校が狙われる恐れもあるので、出来るだけこのままにすべきと主張して何とか押さえ込んだ。

普通なら一部官僚が生徒の命を守ろうと、マスコミへのリークを考えるところだが、ナゼか彼等の頭にはその行動が思い浮かばず、秘密は保持された。

言語兵器による精神汚染が国内関係者全員まで拡散したためである。

そのため、最終段階では外国へのリークもほとんど無くなり、妨害が入る事も無かった。

 

こうして、召喚当日を迎える事になる。

隣と上下の教室は改装工事の為、閉鎖という事になっており、観測機器が運び込まれ、観測班が何日も前から配置に就き、教室には観測用センサーが、ダンボール箱被せて置かれていた。

昼食時、何も知らないクラスメイト達が談笑している中、光輝がやって来た。

「なあ南雲、なんでお前さん達はそんなにピリピリしているんだ?

毎日だんだんピリピリ度が上がってきてるんだが、何か起きるのか?

教室にも変な物が置いてあるし?」

教室の後ろに並んだ大きなダンボール箱の列を指して聞いてきた。

恵里とハジメは目を見交わし、光輝を同情の眼で見た。

考えてみれば、性格に多少難があっても、たまたまエヒトを受け入れられるだけのスペックを持って生まれてしまったがために、光輝はクラスメイトを巻き添えにトータスに引き摺り込まれたのだ。

その点においては、光輝には何の責任も無く、ただの被害者である。

そして今回も何も知らされずに召喚されると思えば・・・。

「あー、そのなんだ、生きてりゃ良い事もあるさ、なっ」

「う、うん、そうだね、ドンマイ!」

「な、なんだよそれ?!俺にも関係あるのか?何が起きるんだよ?」

「「ハルマゲドンだよ」」

光輝がその言葉に反応する前に、光輝の足元から召喚円が拡がり、愛子先生の叫びも空しく、教室中を覆っていった。

周囲が白光に満たされ、視界が回復した時には周囲の景色は塗り変わっていた。

 

前回と同じ神殿の大広間に、にこやかなイシュタル教皇を始めとする神官団を観察し、顔を伏せた恵里の口元が三日月型の笑みを形作る。

(ヨシッ、今のところバタフライによるイレギュラーは、トータス側には無いみたいだね。

コッチにはあるけど)

後ろを振り返り、魔法陣が拡がる僅かな時間で天井裏から飛び降りた、八重樫鷲三、虎一、霧乃の三人に眼で会釈する。

そして、リーゼロッテの認識阻害の蔭に隠れて教室内で待機していたクラウディアが姿を現し、リーゼロッテは未だ認識阻害で潜んでいる。

(よしよし、五人全員無事に転移を、ん?

なんで八重樫さん達もクラウディアも引きつった顔してるんだ?

あれ?人が身に付けていない、物だけの場合は転移しない筈なのに、なぜダンボール箱が二つだけ転移して来ているんだ?)

床に置かれていたダンボール箱が持ち上がり、最上級礼服たるモーニングを着用し、シルクハットを被り、ステッキを持ち、ベネチアのカーニバルに付けるような仮面の紳士と軍礼服を着た女性が現れた。

「モーニング仮面参上!これで良かったかな、パラディ君?」

「ハイ、サイコーです、オルグレイさん」

恵里は無言で、自分達が乗っている台座に頭を打ち付けた。

 

 




ブリカス(ブリティッシュ カスの略)入れたら、このぐらいやると思うの。
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