恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第三十五幕開演時間で御座います。
不幸比べ大会開催いたします。


第三十五話 何でも造れるなら、キミは何を造る?

現れた謎のモーニング仮面は、あっという間に会話の主導権を握った。

恵里が八重樫さん達に目配せして、オルグレイに任せてみる事にしたのだ。

生徒達はモーニング仮面のインパクトに押され、声を出す事を躊躇っている。

一緒の舞台に上がって、同類と見做されるのがイヤというのが大きいのかも、知れないが。

 

モーニング仮面はイシュタル教皇の説明を聞いて、ブチキレた愛子先生に、

「お嬢ちゃん、落ち着き給え。

武力を持たないキミは、今反って生徒達を危険に晒しているのだよ。

レディ、ここは私に任せ給え」

と頭をナデナデしながら、アワアワして赤面した愛子先生を言い聞かせて押さえてしまった。

愛子先生を撃沈すると、モーニング仮面は悠然と回頭し、イシュタル教皇に照準を定めた。

「話は聞いたよ。

我々は君達の戦争に、兵士として強制徴募されたという認識でいいのだろうか?」

(翻訳、戦闘奴隷ですよ、生徒さん)

身も蓋もない露骨な言い方に、イシュタル教皇の口許が微かに引きつり、生徒達もざわつく。

「いえ、そのような事は、私共はあなた方勇者様達に救って頂きたいのですよ。

ただの兵士などとは違います。

それに皆様の活躍で勝利の暁には、エヒト様も皆様を元の世界に戻す事もお考えになるでしょう」

「フム、切り札である我々は、一般の兵士と違い、使い捨てにされる事は無いと、大いに結構だね。(翻訳、家族や親戚の一般兵は使い捨てですよ、メイドさん)

戦争が終わるには、何年も掛かるのが普通だからね。(翻訳、何年間も戦場送りですよ、生徒さん)

しかし切り札にしたいのなら、充分な訓練を施してから戦場に向かわせるべきだ。

なにせ我々の中には戦争経験のある者は一人もいない。

それとも、すぐに我々を戦場に投入しなければならないほど、戦況は悪いのかな?」

(翻訳、家族や親戚の兵隊さん、生きて帰れないかもメイドさん)

給仕していたメイド達の手がピクリとさせ、ティーカップがガチャリと音を立てた。

「いえ、そんな事はありませんぞ!

充分な訓練をする位の余裕はあります。

訓練については、受け入れ先のハイリヒ王国が行いますので、そちらと協議して頂けませんかな」(翻訳、コヤツにこれ以上喋らせるとヤバいから、王国に押し付けよう)

前回と違い大人達がいるため、光輝が演説する事も無く、生徒達に教会に対する警戒心と厭戦感情を抱かせる結果となった。

話が終わると、モーニング仮面はメイド達に笑顔を振り撒いて、

「キミのような素晴らしいレディに、お茶を出して貰えるとは光栄だね」

とウインクして撃沈隻数を増やしていた。

メイドにそんな気の利いた事を言ってくれる者など教会には居なかった所に、勇者様達の一人にそんな事言われたら仕方ない事である。

 

ハイリヒ王国に送られると、八重樫鷲三は生徒達の保護者代表として、訓練を担当するメルド団長に、イシュタル教皇の「充分な訓練をする余裕がある」との言葉を楯に、訓練期間をたっぷり取る事を了承させた。

拒否する事はイシュタル教皇の言葉を否定し、戦況が悪いと認める事になるので、出来ないからだ。

メルド団長は訓練計画が全部作り直しになり、イシュタル教皇を呪いながら、徹夜で頑張る羽目になった。

何とか訓練計画が出来上がり、生徒達にステータスプレートが配られる。

恵里達は、配られたステータスプレートを地球から持ち込んだそっくりな物と、そっとすり替えた。

前回の恵里のステータスプレートについての記憶を、魂魄魔法を使ってまで取り出して、外観のみならず機能まで完璧に模倣した逸品だ。

ただし、表示されるステータスは遥かに低い物になる。

これは恵里達の、エヒト神の準使徒、騎士王、聖剣の主、竜因子、ネコレンジャー、混沌の玉座からの生還者、憑依されし者、デビルガールなどのヤバい称号や、高過ぎるレベルとステータスをトータス側に見られては困った事になるからだ。

そして、恵里のもう一つの懸念は、ステータスプレートその物への疑問だった。

多くのアーティファクトが永き戦乱で喪われたというのに、ステータスプレートだけは地方にまで行き渡る程大量に生産され、行き渡っている。

そして前回、エヒトはユエの存在を何処で知ったのだろう?

ユエの存在を知ったからこそ、ハジメを破門し追い詰め始めたのだ。

地上のエージェントはノイント位しか居なかったし、エヒト本体の知覚力はトータス全てを覆うような力は無い。

魔人族からの報告は、もっと後で首都での交戦後だったのを恵里は覚えていた。

ステータスプレートはエヒトがバラまいた物ではないのか?

ハジメがユエのステータスプレートを作ってしまったので、エヒトにユエの存在がバレたのではないのか?

ステータスプレートとは、エヒトに取って危険になり得る特殊なステータスの存在を見つけ出す為に拡められた物ではないのか?

その仮説に対する対策として、偽ステータスプレートは造られた。

恐らく、個々のステータスプレートは多すぎて監視出来ないので、誰かのステータスプレートに異常なデータが表示された場合のみ、警報が出る仕組みだろう。

ならばこれで誤魔化せる筈だ。

ハジメの偽ステータスプレートは前回より、数値をあげて全て80にして、天職は錬成士にしてある。

あまり低すぎる数値はおかしいし、光輝より高いのもマズイ。

馬鹿にされていた前回とは違い、クラスで高く評価されているハジメは、別の意味で今回も注目され期待されていた。

 

クラスメイトの近藤がハジメが錬成士と知って、嗤った。

「なんだよ、高い数値で期待させてさ、錬成士じゃ宝の持ち腐れだよなあ。

南雲がモテた時代も終わりだよな、アハハハ!」

「フウ~、君は何もわかっちゃいないな。

錬成士こそ、僕が求めていた天職だよ」

「へっ、負け惜しみ言いやがって。

錬成なんか戦いの何の役に立つんだよ?

敵に切りつけるのを待ってもらって、剣でも造るのかよ?」

ハジメは眼をカッと見開いた。

「錬成で僕はガンダムになる!!」

「はい?」

唖然とした近藤の前に清水が進み出た。

「ちょっ、ちょっと待て、そんな物造れる筈が?」

オタクを隠していた清水だが、ガンダムの魅力に耐えられず、流石に黙っている事が出来なかった。

「なぜだ?なぜ出来ないと決め付ける?!

僕達はトータスの人達の数十倍の能力を与えられたんだぞ。

なのに、たかが普通の魔法鎧なんか、なぜ造らなきゃいけないんだ?

僕達にしか出来ない事が有るんじゃないのか?

かって人類は鳥を見て飛行機を、鯨を見て潜水艦を、馬鹿にされながら作ってきた。

ならば出来る筈だ!!

今度こそ、本当の美しきガンダムを!それは幻ではない!」

「な、南雲、俺ガンダムになりたいです!なりたいです!!」

「同志清水、一緒に世界を革命する力を!!」

ハジメは生徒達を見回した。

「諸君はガンダムを欲するか?ならば更なるガンダムを!徹底的なるガンダムを望むか!」

「「「ガンダム!ガンダム!ガンダム!」」」

「よろしい、ならばガンダムだ!燃え上がれ!立ち上がれ!ガンダム!!」

男子達は一斉に歓声を挙げると、モビルスーツの好みで揉め始めた。

「ええい、ドイツもコイツもガンダム、ガンダム!なぜだ!なぜガンダムを認めて、ザクを認めないんだ!」

「フッ、ドムの機動力も知らないで、錆び付いた古くさいザクなど何の役に立つ?」

「分かっちゃいないなあ!

サザビーこそ至高!異論は認めぬ!」

「あ、あの小生はザクレロが・・・」

ギャアギャア騒ぐ男子達と呆れ顔の女子達(「じゃあ、私がガンダムになれば?!エヘヘ」だの、「オウ、ガンダム!!チョー、サイコー!」とか何とかほざいている奴は、いないものとする)を見て、恵里は雫と眼を見交わし、一緒に溜め息を吐くと、心の中で呟いた。

(うん、そうだね。

本当のメイドとやらも作ったし、それだけじゃ満足出来ないんだよね。

ホントッに男の子だなあ。

まっいいか、惚れた弱みだ、お兄ちゃんが喜んでくれるなら、メイドでもガンダムでもドンと来い!)

お祭り騒ぎの生徒達を見ながら、メルド団長は茫然と呟いた。

「おかしい、言葉は通じている筈なのに、何を言っているのかサッパリわからん?」

 

ハジメは王宮内の訓練期間中に、弟子入りしてきた清水と、まず人間サイズのガンダム型鎧を完成させ、もっと大型を造るための経験を積む事にした。

ビームライフルは難しいので、手持ちレールキャノンと魔力ビームサーベル付きで、その上鎧がパワードスーツとなり、力と敏捷性、知覚を強化出来るのだ。

もちろん防御力も高く、聖鎧には負けるが、そこらの魔法鎧よりはずっと上だ。

レベルアップして魔力が上がれば、より武器の威力が上がり、より高機動出来るようになる。

男子達は競ってガンダムを求めて、鍛練に励んだ。

王国側はその性能に瞠目し、更なる生産を求め、ハジメはそのために必要だと言って、王宮と王都にストックされていた希少素材を全部ふんだくってきた。

もちろん、自分達のアイテム強化のためである。

清水はガンダム一号機を与えられ、テイムした魔獣にもこうした装備を着けて、ゾイドを再現しようと燃えていた。

「凄い装備なのはわかるし、有難い。

けど、ガンダムのパワーと火力に耐えうる訓練場所の手配と計画の変更ががが、アアアアア」

副団長の一人は巡回と称して逃げ、教会は早く実戦に出せと無責任な事を言い、メルド団長とクゼリー副団長の胃はマッハである。

 

前回より長引いた訓練期間もやっと終わり、オルクス大迷宮に行く時がやってきた。

八重樫さん達は王国との交渉と、オルグレイへの監視のため、残っている。

神秘大好きオルグレイがエヒト側に誘われたら、寝返る危険があるからだ。

その前夜、ハジメの部屋のドアがノックされた。

光輝が真剣な顔で口を開いた。

「南雲、聞きたい事がある」

恵里を心話で呼んでから、三人で腰を下ろした。

「なあ、召喚される直前の話覚えているよな?

あの後、色々有りすぎて、話すヒマが無かったけど、お前ら前もって知ってたな?」

「へえ、流石にわかるよね。

そうさ、ボク達は召喚される事を知っていたよ。

だから八重樫さん達に来てもらったし、地球に帰れるよう、他にも色々手を打ったのさ」

「だったら、なぜ事件その物を防がなかった?!

教室からみんなを避難させれば!」

「なあ天之川、狙われたのは教室じゃなくて、お前なんだよ。

だから避難しても、お前の回り毎召喚されてしまうんだ」

「は?なんで俺が?冗談だろ?!

だってもしそうなら、みんな俺の巻き添えになったって事じゃないか?」

「いいや、お前は別に悪くないだろ。

悪いのはお前を召喚、いや誘拐したエヒトだろ」

「でも、いやそもそも、どこから君達は召喚の事を知ったんだ?」

「ボクがトータスに来るのは二回目だからさ。(嘘は言っていない)

ボクは前にエヒトに誘拐されて、仮面ライダーみたいにこんなふうに改造された

(これも嘘ではない)」

灰翼を拡げる恵里に、光輝は絶句した。

「何とか脱出して、九歳の時地球に戻って、お兄ちゃんに助けて貰って養子になった。

そして、ボクはまたエヒトの手が地球に伸びる日に、ずっと備えてきた。

光輝君がエヒトの依り代として狙われている事は、前回エヒトから直々に聞いたんだ(嘘は全く無し、話そのまま受け取ると、絵に描いたようなヒロインである)

オルクス大迷宮でボク達は別れて行動してエヒトを片付けてくるから、光輝君はその間、残りのクラスメイトを八重樫さん達と守って欲しいんだ」

光輝は恵里に深々と頭を下げた。

「ごめん俺のせいで!みんなは必ず守ってみせる!!」

(いや、ホントは今回の人生では、これをネタに光輝君に負い目を負わせて、ボクの物にしようと以前企んでいた身としては、少しは心が痛むね)

 

ハジメ達は皆力を前回並みに押さえて誤魔化していたが、清水のガンダムが配備されているので、攻略はサクサク進み、前回檜山がトラップに掛かった場所にやってきた。

恵里がわざと触ってトラップを作動させ、転移させる。

現れたベヒモスとトラウムソルジャーに対し、光輝と清水にトラウムソルジャーを倒して脱出路を切り開くよう指示し、ハジメ達はベヒモスと対峙した。

ここで橋をわざと破壊して、ベヒモス毎墜ちて見せる事で死亡を装い、本当の大迷宮に入るつもりだった。

今のハジメ達には、ベヒモスなど余裕であしらえる物でしかない。

それゆえ一応恵里がハジメの背後を警戒していたが、油断があった。

恵里が、檜山が放った火球がハジメの方に向かわないのを確認して気を抜いた瞬間、火球が突如分裂して槍のように収束し、香織の手足と足元の床を撃ち抜いたのだ。

足元が崩壊して、足を殺られて跳び移る事も出来ず墜ちる香織に、ハジメが飛び付いて抱え込み、一緒に墜ちて行く。

今の香織は手足が使えず、アンノウン戦に参加していない為、一人だけレベルが低い。

狼狽えて治癒術が間に合わず、このまま墜ちれば、確実に死亡していたろう。

(だからお兄ちゃんの判断は間違っちゃいない、いないけど、ムカつくう!!

お兄ちゃんに抱き締められてえ!!おのれ!!ファブリーズう!!)

怨嗟の思いと共に、恵里が思いっきり地団駄を踏むと、そのパワーに耐えきれず、橋は落ちた。

「あ、あれっ?!ナンデ?どうしてこうなった?」

ベヒモスの体重やら、援護魔法の着弾やら、檜山の火球が橋の内部で爆発した衝撃波、ハイレベルのパワーでの戦闘余波による損傷で、橋はアチコチにヒビが入り危険な状態だったのだ。

香織以外全員ニンジャである彼等は、射出したワイヤーを引っ掛けて直ぐに壁面にしがみつき、予定通り浩介の幻術で奈落に落ちたように偽装した。

 

ハジメに抱き締められて、手足の激痛にも関わらず夢見心地の香織と、引っ剥がそうとする恵里と雫、溜め息吐いて香織を治癒するクラウディア、修羅場に近付くのを避けてリーゼロッテと真の大迷宮への通路を捜す浩介、そして上では檜山に詰めよったら、「愛しているんだ~」とカミングアウトされ泡をくう光輝、ハジメ師匠を失い涙に暮れる清水、六人も一気に失って蒼白なメルド団長、メルド団長が更送されたら自分が団長と気付き、これまた蒼白なクゼリー副団長と、不幸展覧会が開かれていたが、一番不幸で優勝確実なのは、恵里の嫉妬なんていうしょうもない理由で奈落に落とされ、深い深い奈落をまだ墜ちている途中のベヒモスだろう。

 

 

 




この世界線では香織と雫は親友になっていません。
雫がいじめを受けて香織が助ける筈が、代わりにハジメが助けたため、普通の関係です。
しかし成り行きとはいえ、気が付いたら香織以外全員ニンジャ(汗)
◯◯忍群とか名乗るべきだろうか?
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