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病院で治療を受けながら恵里は、無気力な日々を送っていた。
親戚でさえ子殺し未遂という大スキャンダルに寄り付こうとせず、たまに警察が事情聴取に来るぐらいで、見舞に来る者は誰一人いなかった。
自分自身への怒りと絶望で生きる気力が失われて、食事をほとんど取らず日々痩せ細っていく恵里に同情して元気づけようと、病院側は以前来た一家に声を掛けてみた。
恵里は珍しい始めての見舞客を、ベッドの上で迎えた。
「ああ、始めまして恵里さん、私は南雲菫、こちらは夫の愁、うちの息子覚えてる?
公園で自転車に乗ってて、あなたにぶつかっちゃった男の子よ。
さっ、ハジメご挨拶なさい。」
「あっ、始めまして南雲ハジメです、ぶつかってごめんね。」
恵里は無表情でハジメを凝視していたが、内心は荒れ狂っていた。
衝撃が大きすぎて、顔の表情筋が凍り付いたのだ。
(どっかで見た顔だと思ったら、よりによってあのバケモンだあ?!
偶然?こんな偶然あるのか。
い、いや、落ち着け、現時点で敵対される謂れは無いし、戦闘力も無いはずだ。
それに今更コイツに断罪されようが、もうどうでもいいじゃないか。
まてよ、まさかコイツも逆行してたりしないよね。
確認してみるか)
「どうしてボクを助けた?なぜボクを生かしておく?」
恵里は、逆行したハジメに対し敵である自分がこう言えば、何か要求してくるだろうと思ったのだ。
だがハジメは予想外の言葉にあたふたするだけだった。
(なんだ、ホントに偶然か、ウン?何だ?)
愁は何かに耐えるように拳を握って下を向き、菫と立ち会いの看護士が揃ってハンカチで目を押さえ、鼻を啜ってしゃくり上げていた。
(??、何か、ボクマズイ事言ったかな?)
病院で自分の殻に閉じ籠っていた恵里は、今自分が周囲からどういう目で見られているか、良く理解していなかった。
父親が恵里を助けようとして事故死、母親から育児放棄と虐待を4年間も受け続けていたのに、周囲は無関心で気付きもせず、誰一人助けの手を伸ばそうとしなかった。
そのうえ母親が連れ込んだヒモ男に暴行されそうになって反撃したら、他ならぬ母親に刺され、生死の境を彷徨った。
奇跡的に助かったが、まるで自分を罰するかのように、食事を取らず、自らの死を望んでいるかのように見える。
これが恵里を見ている周囲の目だった。
そのため、強く同情した病院側は恵里に対し最上級の待遇を与えており、まるでお姫様のようだった。
もっとも恵里本人は入院経験が無かったのと茫然自失状態だったため、それに気付く事は無かったが。
その恵里が初めてマトモにしゃべったと思ったら、まるで助けなど欲しくなかった、自分など死んでしまえば良かったのだ、ともとれる発言をしたのだ。
恵里が栄養失調でふらついていたのに加え、ハジメを警戒するあまり、ゆっくり感情を込めずに淡々と喋ったのが、余計にその印象を強くした。
回りの人達の頭の中では、恵里は「これでもかとばかりに連続で地獄に放り込まれたにも関わらず、健気に耐えていた小学生。
それなのに、精神異常の実の母親に殺されかけた。
本人は悪くないのに、母親が狂ったのは自分のせいと、自分を責めて死を望む、優しいカワイソウな女の子」だった。
無論勘違いである。
だが、回りの人達の頭の中では間違いない真実と化していた。
だから菫から、この提案が出て来たのは、一つの必然だった。
「ねえ、恵里さん、うちの子供にならない?」
恵里は一瞬唖然としたが、すぐに高速で計算し始めた。
(受ければ光輝君と同じ学校に行ける。
千載一遇のチャンス!南雲の思惑なんかどうでもいい!
やれというなら、靴でも舐めてやる。
他に方法は無い、受けるしか無い、乗るしかない、このビックウェーブに!!)
恵里は上目遣いで答えた。
「本当の家族が欲しいです。お父さん、お母さんとお兄ちゃんと呼んでいいですか?」
(よし、最初はこのくらい媚びておくか?
後は様子を見ながら、媚びかたの程度を探っていこう。
ボクに与えられたパンドラの箱に残った、これが最後の希望だ。
今度こそ慎重に計画し、大胆に行動するんだ。
もう失敗は許されない。
今度こそ全てを利用して、勝利を掴み取ってみせる!!
特に南雲ハジメ、コイツを駒に出来れば勝利は容易い。
たっぷりと媚びて籠絡させて貰うよ、ねえ、お兄ちゃん♪)
下を向いた恵里の口元が三日月のように裂けた笑みを作っていた。
周囲の目 表面回