恵里は今日も壁に頭を打ち付ける(完結)   作:コミッサール

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エリリン劇場第七幕ハジマルヨー
お楽しみクダサイマセ


第七話 過ぎたるは猶及ばざるが如し

南雲恵里は、トイレで頭を抱えていた。

「おお、もう!!どうして、こうなった(泣)」

ドアの外からハジメのウロウロしている足音が聴こえてくる。

トイレの順番を待っているわけではない。

「お兄ちゃん」と甘えて媚びてみせたハジメへの篭絡が、成功し過ぎて過保護になってしまっただけである。

ボロボロに傷付いた可哀想な妹を守ろうと燃えている所に、油を注ぐような事をすれば当然の結果だった。

恵里の自爆である。

 

「あああ、お前はチョロインかい?

あのバケモノがこんなにチョロかったとは」

自傷行為をやらかしていた恵里は、ある程度監視されるのは覚悟していた。

しかし、金魚のフンの様にいつも付いて歩かれ、トイレや風呂のドアの前で、中で自殺しようとしていないか心配でウロウロされては堪らない。

あくまで恵里の事が心配で心配で堪らなくて、純粋な好意でやっている事だけは良くわかるだけに、恵里も戸惑いもあって、ハジメに強く言えなかった。

剥き出しの好意を恵里に向ける者などほとんどいなかったので、どう対応したらいいかわからなかったのだ。

そもそも恵里の計画にとって、ハジメは必要不可欠であり、今更好感度を下げるなど出来るはずもなかった。

ハジメこそ対エヒト戦用の切り札であり、謂わば「それを捨てるなんてトンデモナイ」超重要アイテム、恵里が恥ずかしさを我慢すればいいだけである。

 

恵里は遠い目で呟いた。

「で、これ、ボクはいつまで我慢すればいいんだ?

最悪召還までとすると、後7年も?

お願い、勘弁して(泣)。

い、いや、大きくなれば、恥ずかしくなって止めるはず、多分、きっと、おそらく、メイビー。

でも、あの唯我独尊、オタクである事を隠さなかったお兄ちゃんが?

ああ、そうなったら、いいなあ」

 

頭がクラクラしてきて、壁に打ち付けたい衝動に駆られたが、必死に我慢した。

それを見られたら、更に過保護になるのが確実だからだ。

幸い両親が目が届く所では止めてくれるので、プライバシーは辛うじて確保されていた。

(アカン、この分では両親の方も、ボクを目立たないように監視しているよね。

かえすがえすも自傷行為は失敗だった。

もっともしたからこそ、同情されて引き取って貰えたのかも知れないけど。

やれやれ、記憶が薄れる前に、前回起きた事の記録を書き出しておかなければならないんだが、書いた物も寝ている間にチェックされていると考えるべきだね。

どうやって誤魔化そう?

そうだ、ここは逆に考えるんだ、隠そうとするからいけないんだ。

堂々と小説とでも言って書けばいいんじゃないか。

ウン、名案だね。

早速ノートをねだって、あっ、登場人物の名前どうしよう?

そのままじゃマズイし、ボクはエリザベスに・・・は露骨すぎるからあだ名のエリリンからリンにしときゃわからないだろ。

光輝君はライトとでもして、お兄ちゃんは無茶苦茶だからギルとでもしとけ。遠藤は影薄いからファントム、白崎は香り繋がりでファブリーズ、後は間違えないように分かりやすい名前にしとこ)

 

 

愁と菫は恵里のノートを前に、蒼白な顔で話し合っていた。

「ねえ、あなた、何なのコレ。

創作畑の一人として言わせてもらうけど、9歳の子供がコレを書いたなんてあり得ないわ」

「菫、たしかにあり得ない文章力だが、問題はそこじゃない。

何なんだ、この世界設定は?

救いも何も無い、勇者は皆を破滅に導く道化、国は種族間絶滅戦争で負けそうだし、神は世界を面白半分に滅ぼそうとする邪悪、主人公の女の子は邪神の下僕に成り下がり、平気で仲間を裏切り殺戮しようとする。

と言うか、最後あんな悲惨な死に方する主人公なんてアリか?」

「そうね、この女の子より裏切られて突き落とされた男の子の方が、よっぽど主人公ぽいわね。

最後勝利したらしい事が仄めかされているし」

「でも、物語の視点は女の子からのしか無いという事は、主人公としか考えられない」

「ね、ねえ、主人公って作者のこうなりたいという願望や憧れ、夢がある程度反映される物よね(汗)」

「「・・・・・(滝汗)」」

 

「ダメだ、これはもううちの手に負えない」

「ちょっと、今更放り出すつもり?!」

「そうじゃない、モチはモチ屋、こうゆう事の専門家を頼ろうと言う事、精神分析医にこれを見て貰おう」

 

 

一週間後、二人は脂汗をながす精神分析医の前の椅子に座り、恵里は屍鳥に運ばせた屍虫盗聴器で聴いていた。

「先日お預かりした作品は拝見しましたが、本当にお嬢さんが大人の手伝いも無く、これを一人で書いたと?」

「はい、家に来て数日ですぐに書き始め、私は二週間後に完成するまで内容は一切見ていませんわ」

「ウ~ム、まず異常な文章力ですが、説明がつけられない事はありません。

確かに、小学生とはとても思えない、最低でも高校生クラスの学力が無ければ書けない文章ですが、彼女は育児放棄され一人でいた時間が極めて長かったのです。

その時間をひたすら本を見る事に費やしていたとすれば、これだけの文章力もあり得ない事ではないでしょう。

無論、天才といえる程の才能有っての物でしょうが」

「そう言えば、高度な文章を書いたと思えば、初歩的なミスが有ったり、アンバランスな印象でしたが、独学故の弊害だったと考えれば、納得ですわ」

(悪かったな、ボクは記憶が薄れる前に急いで書かなきゃならなかったんだよ)

 

医師は汗を拭い、お茶を飲み、姿勢を正した。

「此処からが本題になります。

あの小説の世界は、お嬢さんがこの世界に抱いている想いを大きく反映していると思われます。

こうした想いは作家の処女作品には特に出やすいのです。

まずこの世界のエリコ神ですが、気まぐれで人々に幸せを与える事もありますが、面白半分にそれを取り上げ、最後には破滅させる存在。

これは彼女のこれまでの人生その物ではないでしょうか。

彼女にとり、神や運命とは、最初に幸せを与えておいてから、父親を奪い、優しいはずの母親を狂わせ、自分を凌辱し、殺そうとする物だったのです。(ま、まあそう言えない事もないかな)

そして勇者、これは彼女の周囲にいた綺麗事を言うけれど、何の助けの手も伸ばさなかった大人達、親戚や役所の象徴でしょう。(いや、光輝君は実在人物で、親戚でも、役所でもないだろ)

主人公の女の子、これは間違いなく彼女本人です。(うん、さすがにバレバレだね)

あの殺戮行為は、自分を虐げるこの悪しき世界への復讐心、無惨な最期は自分を罰したいという気持ちが表現されています。」

(どこをどうすれば、そうなるんだよ?

光輝君が欲しかっただけで、世界への復讐なんて考えた事もないよ。

ボクが自分を罰するためわざと負けただ?

何だよそれ、無茶苦茶だ、全然関係ないだろ!)

精神分析医は恵里のツッコミに気付くこと無く、続けた。

「最後に申し上げたいのは、今のお嬢さんの精神は極めて不安定な状態にあるという事です。

人間という物は、今日と同じ明日を望む生物です。

例えば、社会が不安定になるのは経済が落ち込む時もそうですが、大きく経済発展する時もそうなのです。

日本の高度成長期、アラブの春のエジプト、チェニジアなど急速な経済成長による社会変化に不安を抱く人々が動乱を引き起こします。

逆に貧しくても、ずっと貧しい状態が続くならば社会はそれなりに安定します。

潰れるとずっと言われている独裁国家が持ちこたえているのは、それが大きな原因なのです。

お嬢さんの人生はまるでジェットコースターのように浮き沈みが激しい。

そして、今又大きく変化しています。

たとえ、良い変化であっても、不安になるのは変わりません。

これを安定させるには、これ以上急激に変化しない、今日と変わらぬ明日が来ると信じられる環境を与える事しかありません」

(まあ、実害が無さそうなアドバイスだからいいけど、逆行知らないと無茶苦茶な結論出るな。

やっぱり情報は大事だね。

今後も盗聴励もう)

 

恵里は知らない、実害が出ることを。

両親が「環境の変化」を恐れ、ハジメの付きまといを止めなくなる事を。

そして、ブチキレた恵里がハジメをドツキ、風呂とトイレの前だけは強制的に止めさせる事を。

「お兄ちゃんのバカー!!」ドンッ

南雲家名物ドツキ漫才の誕生だった。

 

 

「恵里ちゃんやっと少しは本音を見せてくれるようになったわね。

あんなに必死にご機嫌取りばかりして、やっぱり知らない家は怖かったんだろうね。

少しだけ家族になれてきたのかな」

バレバレ

 




なお、愁は恵里ノートを新作ゲームの世界設定に使えないか検討中。
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